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そこはかとなく

そこはかとない記録
2024
01,14
センター終わった今出すか?という感じですが、星矢って意外と若いファン多いし山羊蟹ご贔屓さんにもみえるので1枚!



自分は大昔、推薦組だったんだけどセンター試験受ける条件があったので受けに行きましたとも。雪だったな…。高校受験の時も雪だった(笑)うちの地元3月でもたまに降ってくれるので(゚∀゚`)
あと少し頑張って春を迎えよう!(・ゝ・)人(゚∀゚)

このお守りを描くにあたり、山羊蟹宮司パロとかいう意味不明なものが生まれ落ちる…



どういう展開を見せるのか不明(笑)
お宮で水子供養してるのは珍しいな…辺りのシュラの疑問から始まってく感じ。
↑はお互い他人から始まる設定だけど、やはりここは幼馴染同士で仲良かったけど、ある時から疎遠になってしまうパターンの方がいいだろうか。→色々ラブコメあって復縁どころかもっと仲良し(恋愛成就)になる。そこから磨羯宮と巨蟹宮の縁結び守りがバカ売れする。

多分これは神主衣装萌え漫画みたいなものにしかならない気がする(笑)シュラがデスマスクの神主衣装を剥いていくのが一番のクライマックス…。あとシュラが神主衣装脱ぐと鍛え上げられた良い体が登場するのもクライマックス…。内容は宮司じゃなくてもいい話になりそうなので(笑)まぁパロってそういうものですかね…。

拍手のアイコンを変えてみましたが、ちょっと意味不明かもしれないのでどこかに「拍手」ってまた入れておこうと思います(笑)
明日から作業再開するぞぉ〜(∩゚∀゚)

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2024
01,11
なんと…前回の記事以降またも体調を崩し、インフルコロナ陰性でただの風邪による発熱が数日治らず(゚∀゚`)でもやっとほぼ回復。36.7から38.5まで跳ね上がったりアップダウン激しくて体温計壊れてるのではと思っていた…。

何を言いに来たのかといえば、明日のシュラ誕は何の提供もできません(・ゞ・)…

しかし、折角だしなぁ!!!>(゚Д゚)

という事で、昨年のシュラ誕(要するに1年前)にネタ出しして描いてない話を↓に貼り付けておきます。漫画にする前提の走り書きなので状況とか誰が喋ってるか全くわからないやつです。脳内妄想フル回転で補正をお願いします。漫画にできるかは不明…。ちょうど体調不良ネタだったので。
回復したら何かチマ漫画を描く気ではいますが、星祭りの準備もあるので山羊座期間終了後になるかも。

あ、急に思い立ってパラ銀west3の委託申し込みました。チラシも何も付けないのでほんとただの委託ですが西寄りの方はよろしければどうぞ。

では皆さまはハッピーなシュラ誕をお楽しみくださいませ!
私も寝ながら脳内山羊蟹劇場を満喫します(・ゝ・(゚∀゚)b
最近はデスマスクが積極的なのでシュラを独占するために後先考えずどこかへ連れ出す感じで。

(´・ゝ・)「お前の誕生日じゃないんだぞ。なぜ俺が旅費を出すんだ」
(゚∀゚`;)「そこはじっくり後払いするっぴ…」
(´・ゝ・)「それ"じっくり"してやるのも俺の方だろうが」
そぅら(´・ゝ・)σ≡σ(;´Д` )ぴっぴぃ…
「自分ばかり得して悦くなってズルけしからん」

何かこういう時ってスマホとかの画面も短時間しか見れないですよね。気持ち悪くなる(゚∀゚`)
よってこれも一度に書いているのではなく分割して書いております…風邪にはお気をつけて…

ーーー

「恋人同士じゃないんだけど完全に恋人同士も同然な山羊蟹」

1月12日、シュラの誕生日
珍しい事が起きた

「調子が悪いぃ〜?」
「あぁ…」
「確かに声ガッサガサだけど」
「熱がある感じはしないが喉が痛くて怠いから寝かせてくれ」
「……」

健康の擬人化かってくらい健康なシュラが体調を壊した

「……なぁ、何か欲しいもんとかある?」
「……」
「……もう寝てやがる……」

「……」

双魚宮
「シュラが体調不良?珍しいな、10年ぶり…いや20年ぶりくらいか?」
「それ俺らまだ出会ってねぇし」
「昔、サガが問題起こした後に過労でぶっ倒れたくらいだよな」
「あぁアレね」
「お前また毒入りのクソまずい薬作ってやれよ」
「でも今回は大人しく寝てるんだろ?」前は寝なかったから毒で寝させただけで
「いいじゃん、君が癒してやれば」
「俺が?」
「君だってできるだろ?コスモで」シュラはそういうの苦手だけど

コスモ…

磨羯宮
ドンドンドンドン!
「おーいシュラァ!」
「おいミロ!静かにしろ!」
「あ、デスマスク、シュラ出て来ないんだけどどこにいるかわかるか?」
「今日は調子悪くて寝てんだ、大声出すな!」
「え?シュラ調子悪いのか?大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、大したことねぇ」
「なぜお前にわかるのだ」
「はぁ?俺は朝会ってっから…」
「シュラが体調崩すなんてないじゃないか、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だって、て言うかお前ら何の用だよ」
「何の用って、誕生日だからプレゼント持ってきたのだが」
「あー、そうだな、俺が渡しといてやる」
「はぁ?何でお前に?自分で渡すし!」
「だから今は寝てるからやめてくれ」
「それはわかったけど、何でお前が仕切ってんの?お前ってシュラの何なんだよ?」
「……」
「おいミロ、2人の付き合いが長いのはわかってるだろ」
「俺やカミュと数年の違いだろ?俺だってずっと聖域にいるし!」
「そういう事ではなくて…すまん、出直す」
「あ、あぁ…そいつ任せた…」
「……」

私室の扉カチャ…
「あ…悪い…起こしたか…」
「いや…お前が来るのわかって目が覚めた」
「何だそのセンサー」
「ふっ…寝てる間に魂取られたらたまらんからな」
「……あぁ、そいういうやつ……」
「?」
「今誰か来てたのか?」
「お前誕生日じゃん?ミロとか来てたんだけど」
「そうか…通さなかったのか」
「……」
「寝てるかと、思って…通した方が良かったのか…?」
「どっちでも、お前に任せる」
「へ?俺に?」
「まぁ今あいつの騒々しいコスモ当てられると余計に疲れるだろうな」
「だよなぁ〜」
「……」
「……なぁ」
「ん?」
「俺の、コスモは…大丈夫なのか」
「あぁ」
「そうか…」
「はぁ…」
「怠そうだな。起きてなくていいぞ、俺行くし、今日は磨羯宮に寄るなって知らせてくる」
「悪いな…」
「アフロん所行ったけど薬作ってくれないんだってよ」
「あれはもう2度と見たくない…」
「何か欲しいものあるか」
「いい、また少し寝る」
「うん…じゃあな」
「あぁ…」

夕方、磨羯宮
……また来てしまった……
って、別にシュラ相手に遠慮する事なんて無ぇか…
扉カチャ
「……」
まだ寝てるのか?
……俺が来たら起きるんじゃねぇのかよ
ゴホッゴホ!
あー…咳に変わってきてる?完全に風邪じゃん
ゴホッゴホッ…ゴホッ
こんな咳いても起きないもんなんだな
「……」

ーコスモで癒せば?ー

できない事はない、寧ろこいつより得意分野だ
手をかざそうとする

ーあれが女神を守護する黄金聖闘士のコスモ?ー
ー何て歪なコスモなんだー
ー気持ち悪くなるー
ー殺しすぎるとああなるんだなー

止めて、手を引こうとする
「いい、続けろ…」

ドキ!

「楽にしてくれるんだろ?」
「おま、起きて…って!違ぇよ!殺さねぇよ!!」
「わかってるって、そうじゃなくて」

喉を指差して
「ここ、楽にしてくれるんだろ?」
「……できるか、わからない……」
「俺はもうずっと、殺しにしか使ってねぇし…」
「できるだろ、黄金聖闘士だぞ」
「……お前とは違う」
「同じだ」
「……」
「殺すくらい、俺もしている」
「お前のと俺のは「いいからやれ」
「……」
シュラの喉元に手を置く
瞼を閉じるシュラ

真っ暗じゃない、紫を落とした宵闇
やがて星は流れる
(月は)死へ、そして誕生へ
その生涯を照らし出しているのは…
落ちた星は蟹座(母)に還る
何も怖れるものはない
光は再び母(ここ)から生まれるのだ
それはピレネーの山奥で、昔よく見た…

「……ラ」
「……シュラ」
「……」
「……気持ち悪く…ないか?」
「……全然」
「って、泣いてんの?!何で?!」
「いや、ちょっと感動して」
「え?何が?」
「なんでもない」
「はぁ?やっぱ悪化してんじゃねぇの…」
「喉のイガイガは楽になったぞ、声が戻っただろ?」
「そう……か」

デスマスクの手を取って起き上がるシュラ
「お前はいつも考えすぎだ、賢いのも困ったもんだな」
「……」
「考え過ぎて、昔の俺みたいにぶっ倒れるなよ」
「いやお前のアレは逆に何も考えてなくてオーバーワークになったんだろ」
「酷いこと言うな」

「……ありがとう、コスモ、使ってくれて」
「……まぁ、お前なら万一殺しちまってもどうにかなるかなって」
「そういうのは全く無かった」
「静かで、心地良い涼しさを感じる中、輝いていた」

デスマスクを引き寄せて抱き締める
「……輝いていた……ちゃんと、お前は……」

ーお前は黄金聖闘士なんだよー

「……また泣いてんのか?まったく病人は涙もろいな」
「お前なんか紙で指切っただけで泣くだろ」
「俺様ビンカンだから痛いと自動的に涙が出ちゃうんですー」

「俺は、お前のコスモ嫌じゃない」
「……」
「お前を感じると全身が沸き立つんだ、嬉しくて目も覚めてしまう」
「……さすが黄金半殺しの変人だな」
「こうして抱いているのが心地良い」
「……」
「なぁ」
「ん?」
「俺ってお前にとって何なの?」
「……」
「…救い、かな」
「女神じゃねぇの」
「″俺たちの”女神はもういない」
「聖域は?」
「お前がいるから聖域を守っている」
「……」
「足りないか?」
「……」

デスマスクにキス

「……っ……」

「……何で、いつもこういう事俺にできんの……」
「嫌ならハッキリ言ってくれ」
「……」

もう一度キス

頬や首にもキス

ーだったらお前だって、救いとか濁すなよ…ハッキリ言えよ…ー
ーその言葉が俺にとって救いになるかもしんねぇのに…ー

「なぁ、知ってるか?俺といる時のお前のコスモ、いつもより澄んでて綺麗なんだ」

「……へぇ……」
「はぁ…お前が疎まれる理由がわからない。こんなにも献身的で愛おしい存在なのに……」

俺が支えてやれば、きっとこいつは光を失わない…
きっと、俺さえ…間違えなければ…

「今年の誕生日はお前にしか会ってないな。……今日はもう、帰らないでここにいてくれ」
「……」
「お前を愛したい」

返事は無かったが、デスマスクのコスモはたちまち蕩けていった

翌日

ドンドンドンドン!
「シュラー!!まだ寝てるのかー!」

バァン!

「だから声デケェんだよ!うるっせぇ!」
「ぅおっ!デスマスクッ…またお前かよ!ここに住んでんのか?!」
「俺もいる」
「あ、シュラ!治ったんだな!」
「こいつのおかげでな」
「え?デスマスク?お前らなんでそんな仲良いの」
「お前たちだって仲良いだろ?」
「え?カミュと?あ、そっかー」
ー納得した?ー
ー納得した…ー
「てか、せっかくの誕生日ずっと寝てたのか?残念だったな〜」
「そうでもないぞ、しっかり休めたしこいつのおかげで結果的には充実した1日だった」
「えー?そこ詳しく話してくれよ」
「ん〜…。秘密、かな」

愛に従順で与えれば与えるほどデスマスクは可愛いく輝いた
そんなお前の良さを伝えるべきなのに…
誰にも触れさせたくなくて、輝きを隠してしまうのは…俺のせいか…

ー終わりー

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2024
01,06
 2人が18歳の夏。スケジュール帳を眺めていたシュラは、何となくデスマスクの誕生日前後の発情期に異変が起きている…と警戒していた。今日もまた予定日直前のデスマスクを連れて隠れ家へ来ている。デスマスクは元気そうに夕食を食べて部屋へ戻って行った。始まるのは明日か明後日くらいか…。今回も巨蟹宮の私室へ侵入する者がいるだろうか。今はデスマスクの力も安定しているから侵入できないだろうが、明日明後日には…。
「アフロディーテにでも、頼めれば良いが…」
棘のある事を言いはするが、彼は変わらず自分たちの味方でいてくれる。しかし、信用できると思う心と、もしもアフロディーテも侵入者の一人であったら…と思う心がぶつかり合って決断が下せなかった。

 翌日からデスマスクは全く下りて来なくなった。発情期の始まりを察してスケジュール帳に記録を残しシュラが眠りに就いた、その夜明け前――。居間の方で物が倒れたりする音に目が覚めた。
まさか、下りてきているのか…?!
慌てて居間へ向かい電気を点けると、台所にある椅子が倒れ脇でデスマスクが横たわっている。机に置いていた鍋や小物も床に落ちていた。
「おいっ…デスマスク!」
駆け寄ってみると保護首輪以外、何も身に付けていない。荒い息を繰り返して腰を震わせている。
「どうしたんだ?!」
シュラが問い掛けても言葉にならない唸り声を上げるばかり。それまで触れるのを躊躇っていたが、シュラは堪らずデスマスクを抱き上げて顔を覗き込んだ。乾き始めの液体や汚れで、少しぬめる。
「やめろぉっ…!!」
顔を左右に振って拒絶しながら、太腿を擦り合わせて腰を捩った。右手を床に伸ばして何かを探るので見てみると、近くにΩ用の器具が転がっている。
…こいつ、挿れるのは嫌だと…。
ぬらりと長い器具が体内用である事はシュラが見てもわかる。少し品の無い雑誌であればよく広告が載っていた。眉をしかめながら腕を伸ばしてぬめつく器具を手に取ると、すぐさまデスマスクに奪い取られる。そのままシュラの腕の中で横になって、震えながら後ろ手に挿入を試みているようで…。
「…おい…やめろっ…俺の前だぞっ…!」
こんな事を晒すのはデスマスクのプライドが許さないだろと咄嗟に腕を掴んで体から離せば、シュラを見上げてボロっと大粒の涙を流した。
「へ、部屋に戻ろうっ」
暴れるデスマスク抱いて立ち上がり、急いで階段を上って部屋の中へ放り込みバァン!と扉を閉めた。中の様子は見ないように努めた。心臓がバクバクする。少ししてから、泣くような呻き声が聞こえてきて胸が締め付けられた。
「……辛い……」
苦しい表情のままシュラはそっとドアノブから手を離し、居間へ戻ろうと階段を下り始めた、が――
「っ?!」
半分を下りた時、部屋の扉がバンバン叩かれ、シュラが振り返ると再び部屋から出てきたデスマスクが階段を転げ落ちてきた。
「ぅわっ!!」
デスマスクを抱き止めるも、勢いのまま二人は階段の下まで落ちていく。
「デス…大丈夫か…」
下敷きになったシュラはデスマスクに押し潰されながらも声を絞り出した。肩を押して上体を起こそうとすると、腕を回されデスマスクに抱き締められてしまう。
……これは、よくない……
シュラの上で雑に腰を揺すっている。シュラは抱き締められながらも勢いをつけて起き上がり、デスマスクを抱えたまま座った。
「……デス、すまない…俺はαではない…」
言葉は届いているのだろうか、より強くしがみ付かれ間もなくデスマスクの腰が震えた。
「……デス……」
シュラは泣いているデスマスクの背中に腕を回し、乱れた髪を撫でてやる。シュラを抱き締めていた右手が離れ、デスマスクの手が二人の間に滑り込んできた。
「……でも、持っている……」
低い声で呟いたデスマスクはシュラの股を探っている。
「……できない、だめだ……」
「……挿れるだけで、いいっ……」
震えて、今にも溢れそうな涙が瞳に溜まっていくのを間近で見つめた。
「好きになった奴のために、我慢するんだ」
「お前が好きっ!!!」
再びぼろぼろと涙が零れ落ちていく。
「デス…「お前でいい!!」
「お前でいいから!!もう誰でもいい!!」
「それは、良くないんだっ…!」
遂にシュラのハーフパンツを乱暴に引き下げようとする腕を掴み、捻りながらゆっくりデスマスクを組み敷いた。
「いってぇっ!」
左手も掴み、デスマスクの上に座って動きを封じる。脚だけは元気で背中をガンガン蹴られた。
…どうする、どうすればいい?!
部屋へ戻してもまた出てくるだろう。鍵は内側からしか掛けられない。いっそ自分が家の外へ出てしまえばデスマスクを閉じ込める事は可能か…?!それともっ…器具を使って、こいつに擬似体験をさせるようにでもすれば、もしかしたら…。
そこまで考えて、シュラはふと緊急用の自己注射薬を持っている事を思い出した。
今の状況は…おそらく他人に襲いかかっているという事だから、緊急だよな…?!
注射薬のある自室まで抱き上げて連れて行こう、そう決めて視線を落とした時デスマスクが泣きながら声を震わせて「しゅら…」と呼んだ。
…一応、認識しているのか…?
「いつもシてくれんのに、ひでぇよぉっ…」
「……」
「おれ…オメガになったのに、ぜんぜんデきねぇからぁ?」
…いや、やはり意識は曖昧なのだろう…。
「しゅらぁ、頼むから…つづき、はやくぅっ」
聞いた事もない甘えた声、庇護欲を掻き立てられる姿。
「がまんできねぇよぉっ!」
「楽に、してやるからもう少しっ!」
シュラは唇を噛んでデスマスクを自室まで運んだ。ベッドに下ろして鞄を漁り注射薬を手に取る。これがどういう効果を発揮するのか解らない。効かない可能性もある。でも先ずはこれに縋るしかない!
「な、なんだよ…それっ…!」
ベッドから転がり下りてシュラの隣まで這ってきたデスマスクが注射薬を奪い取ろうとした。
「抑制剤だ、緊急用のっ!」
シュラが薬を持つ腕を天に伸ばせばデスマスクも腕を伸ばして取ろうとする。
「そんなんっ…使うのか?!おまえ…」
「…きっと、楽になると思う、邪魔しないでくれっ!」
軽く組み合ってバランスを崩したデスマスクが床に手を付いた瞬間、シュラは左腕でデスマスクを抱いて背中から覆い被さった。注射薬を持つ右手の指で器用にキャップを外し、デスマスクの右太腿に振り下ろす。
「おれっ…!そんなに、ひでぇ…?」
顔は見えないが、涙ながらに訴える声が酷く切なく響いて腕を止めてしまった。
「おまえは、こんなおれ、いやだから、薬つかう…」
「……」
「みっともなくて、けものみてぇだから、もどそうとする…?」
シュラは目を閉じて一息吐いてから針をデスマスクに突き刺した。
「ふ…ぅっ…」
痛みは感じないのか投薬中もデスマスクはシュラが抱く腕に両手を添えながら、発情期の熱に震え静かに泣くだけだった。

「…終わった、大丈夫か?」
注射を終えて力が抜けてきたデスマスクを仰向けにし、膝の上に抱き直して顔を見る。ぼんやりした目で「ひどい、おまえきらい…」と小さく呟いている。薬の影響かデスマスクの体がドクンドクンと強く脈打っているのが伝わってきた。
「αなら、こんなこと、しねぇのに…」
「…嫌なことしたな…暴れず、我慢してくれたんだな」
「おまえが、こんなおれ、いやっていうからぁっ…!」
また大粒の涙をぼろぼろ溢して泣き出してしまった。
「こんなずっと近くにいるのに、なんで抱いてくんねぇのぉおっ!べーたでもできるだろぉ!」
「…これが、俺の役割だからな。お前のフェロモンが効かないからそばにいられる」
「抱いてほしかったぁ!ぐちゃぐちゃになりたかったぁっ!!」
「駄目だ!!それは許さない!!」
「っ……」
デスマスクの言葉に荒らされた巨蟹宮の私室が思い出され声を荒げてしまい、慌てて息を整えた。
「いや……それは、俺がする事ではない…」
「してた!今までずっとしてただろぉっ!」
…一体どんな幻覚を見ていたんだ…シュラをαと間違えているでもないデスマスクの訴えに心の奥が疼く。
「おれ、やっとオメガになって、おまえとつがっ…っ!」
デスマスクが突然口元に手を当てた。泣き過ぎて…と思ったのも束の間、普段から血色の悪い顔色が黄緑色に変わっていく。
「っおい…デス…?」
「っ…ぁ…っ!」
少し体を揺すった途端にデスマスクは顔を背けて嘔吐した。
「お、い…大丈夫か?!」
慌てて体を支えながらうつ伏せに戻し背中をさする。昨日から何も食べていないからか出るものはほとんど無かったが、逆にそれが辛いようで首元を手で抑えていた。
これは…副作用か…?
しばらく嘔吐を繰り返してから、息を荒くして「いてぇ…いてぇっ…」と繰り返す。頭に手を持っていこうとする動きから頭痛がきているのかと思った。
「ば、ばくばくするっ…しんぞ…ぁ…しぬ、かもぉっ…!」
「お、落ち着け、大丈夫だ!」
そう言ったところでシュラも突然の急変に落ち着けなかった。ベッドの上にあるタオルケットで汚れたデスマスクの口元や手をぬぐい、ぎゅっと抱き締めた。意味は無かったが体が自然とそう動いた。抱き締めて、不安に陥っているデスマスクのナカに直接届けるつもりで「大丈夫だ」とコスモで語りかけて…
――そう、コスモ――
やがてシュラは自らのコスモを必死に燃やしてデスマスクの全身を包み込んだ。


――真夜中、眠ったままの誰かを抱いて森の奥へとゆっくり歩いていく。冷え切って澄んだ空気が頬に痛い。チラついていた雪の粒が大きくなっていく。二人はどこへ行くのだろう…その先は…闇と夜空が重なって…ほら、境目が…わからなくなっていく…――


 どれくらいそうしていたのだろうか。いつのまにか夜が明けて、光がカーテン越しに漏れている。腕の中のデスマスクは静かに眠っていた。
「……」
部屋の状態も酷いが先ずは自分たちをどうにかしたい…。苦手なコスモでの治癒を試みていたシュラの体も思うように力が入らず怠かったが、どうにかデスマスクを抱き上げてシャワー室へ向かった。居間のソファーにデスマスクを一度横たえ、様々な液体で濡れ汚れた自身の服をその場で脱ぎ捨てた。
デスマスクの首をすっぽり守る布製の保護首輪に手をかける。ゆっくりと、首輪の中に指を差し込むと硬い物に触れた。
…普段からデスマスクはこの下に金の首輪も着けているはずだ…。
それを確信して布製の首輪を外すと、デスマスクを守る黄金の首輪が輝いてシュラは安堵した。ここにαはいないのだから守る必要が無いと言えばそうなのだが。
それからやっとシャワー室でデスマスクの汚れた体を洗い流していったが、睡眠薬も含まれているのかというほど身じろぐことすら無かった。

白い体。髪も体毛も白く、Ωである影響かシュラの手のひらに収まってしまう攻めの象徴は退化し、か弱く幼いまま。胸や腹の筋肉は受けに相応しい柔らかさと形を持っている。確かに男であるはずなのに…男Ωの神秘さに見惚れてしまう。
デスマスクはきっと男Ωの中で最も魅力的に違いない…。
そんな事を考えながら、シュラはデスマスクの体に何度も優しく触れて洗い流した。女αにも両性的な身体特徴が出るそうだが、想像する気もなければ全く興味が湧かなかった。

ーつづくー

拍手

2024
01,06

«起床»

星祭り9を申し込みました(゚∀゚)b
特に新作は無いと思います…。エルマニ漫画とかオメガバ話がどこまで進んでるかなという所。
当初、オメガバ話が2023年内に書けるだろうとか思っていて修正1ヶ月あれば気まぐれ小説本くらい作れるか?とか考えていたものの…全く完成しなかった(笑)自分のダラダラ文字量を舐めていた(゚∀゚`)現時点でおおよそ話の半分くらいだと思います。どこで終わらせるかによりますが、冥界編までは入れない予定。番になって十二宮戦前までか、戦後までか。どうするかなぁ。

一応、シュラ誕はチマ漫画を少し描く予定でいます(・ゝ・)
「シュラがデスマスクの髪を結う」という謎のネタが出ましたが、誕生日関係無いしイマイチ話が盛り上がらない…というか、そこそこ長い話にしないと意味不明のままだなと保留。結論は「デスマスクはそのままで可愛い」が言いたいだけの話なのに(笑)練り直して使えそうならどこかでまた。

ーーー

新年からの震災で米と塩の配布で有名なあかつき印刷さんとスズトウシャドウ印刷さんも大変な状況ですね。どちらも自分が同人始めた頃には既にあった印刷所。持ち堪えていただきたい。

能登半島を一周した事があるのですが、見覚えのある場所がことごとく崩壊…いつかまた落ち着いた頃に訪ねる事ができたらと思います。羽咋(UFOのまち)に行ける日を待つ!(゚∀゚)ノ

家族が勤める会社へも応援要請が来て既に第3軍まで石川へ。ホワイトカラー、ブルーカラー関係無く県外から復旧支援で能登入りしてる人はかなり多いはず。うちも順番回って行く事になりますが、食事や宿泊環境は良くないと思う。まだ大きい余震も続く中、みな無事に復旧作業を終える事ができますように(´・ゝ・人(゚∀゚`)

今年もまたよろしくお願いいたします!

拍手

2023
12,31
もはや1年が秒で過ぎる感覚(・ゝ・)
シュラ誕からあっという間でしたが今年もお付き合いいただきありがとうございました!(・ゝ・(゚∀゚)ノ
今年はずーっと山羊蟹を描いていた気がします。12月も予定崩れたおかげで落書きではあれど描いたなぁ。他のキャラもっといるのになぁ…。

Xの方には真面目な山羊ハーレム絵を上げておきます(゚∀゚)b多分、次回ネップリに出します。シュラ誕は4コマが描けなければ併用って事で…(・ゞ・)
正月は休憩するので正月っぽいのは描かないと思いますが(描いても三が日以降)また来年もよろしければ山羊蟹を満喫していきましょう!

年越し関係無いですけども↓







全然1枚に収まらなかった(゚∀゚`)
リアルに考えると星矢始まった頃って少なくとも日本ではトランクスもボクサーパンツも一般的ではなかった記憶。うちの祖父なんて平成でもフンドシだった(笑)海外は日本より早いはずだけど聖闘士はやっぱブリーフ系が主流なんでしょうかね。

ーーー
以下、最後に全然関係ない話。

紅白のヨシキさん出場記事に使われてるアー写が本人筆頭にほぼ癖強くて噴くわい(゚Д゚)でも薔薇とかじゃないだけ良かった(笑)ちゃんと全員、顔写真で良かった…。
紅白に上城さん出していいのかわからんけど、出てしまうのなら是非滑り倒していただきたい。喋るなら絶対にボンジュール!くらい言ってほしい。ていうか歌うのか?歌ってしまうのか?あの歌声をお茶の間に響かせてしまうのか?ラレーヌ時代から訓練された人は逆に「下手じゃないと物足りない!」レベルに脳がやられてしまっていますが、ヴェルサイユから歌唱力を上げたとは言え一般にはやはりくどいと思うがよろしいのだろうか。

昔「蟹座だから聖闘士星矢はトラウマ」的な事を言っていましたが、デスマスク以上に個性が強いと断言できる。人生で2回もメジャーまで行ってから自分以外のバンドメンバー全員一斉脱退とかやらかす人、なかなかおらんと思う(笑)しかも憎めないから皆、結局戻ってきてくれるし(笑)プライベートヤバくても作曲センスがめちゃあって良い音源出すからファンは離れないし珍しく男性支持も厚い(笑)リアルタイムで観れる自信は全く無いですが、愛すべき上城さんのためだけに録画しておこうと思います(゚∀゚)b

悪役でもアフロディーテだったら何の文句も言わなかったと思うね…本人「薔薇の末裔」だし(笑)1999年3月26日渋谷で「ロマンス革命」だし(笑)もう、何もかも勝てる気がしない(笑)

真面目な話、ヒースさんもXではないけどリンクスのライブで観たことあるので残念でならないですね。残る者たちで末長く音楽を楽しんでいけたらと思います。

では、良いお年をお迎えくださいませ!
(・ゝ・)(∩゚∀゚)ξ゚、ゝ゚・ξ(・∀・)づ

拍手

2023
12,25
「誰おま」と言っておけば何描いても許されるわけではないぞ!と咎められるかもしれないと思う程度には、原作デスマスクから乖離している自覚はあります…(゚∀゚`)それはもう10年前から…
仕方ない。可愛く見えてしまうのだから(∩゚∀゚)



字が多い。
シュラが我慢する程デスマスクのアピールが激しくなるので、それを楽しみに頑張って我慢するシュラ。
良きクリスマスの夜を!ヽ(・ゝ・(゚∀゚`)ノ

拍手

2023
12,24
関係ない話ですがドッグシグナル(アニメ)の黒髪の主役の声がグリーンリバーライト氏っぽいなと思いながら聞いていたけど全然違う人だった(笑)それを知ると確かに違う…。自分の世代だとああいうクール系キャラの声は大抵緑川さんだったという刷り込み。いや、鬼宿はクールではないか…。

オメガバース話、いよいよ背景がとっ散らかってきたと思って年表やら前世で何があったのかを書き出しましたが、余計に風呂敷が広がるばかりであった…(゚∀゚`)でも折角だからとダラダラ書いてます。最後にまとめる時かなり修正しそう。

中高生時代に考えていた一次創作も話が膨大になり過ぎて挫折したのを思い出します(笑)とある1人のサブキャラに12人の護衛キャラがいる時点で挫折要素しかなかった…十二神将が好きで(メガテン経由)そうなってしまった。金子さんの絵、天部像まんまですがほんとカッコイイ(・ゝ・)

思えば十二神将ってアジア製黄金聖闘士ですね。薬師如来がアテナで。日光菩薩、月光菩薩は教皇と辰巳で良いのでは。いや星矢と邪武…。だとしたら適当だけど卯が蟹で酉が山羊とかになるのかな。十二時辰は子→丑まで2時間、火時計は羊→牛まで1時間の違いはあれど。
昔、奈良の薬師寺へ行った時に十二神将のブロマイド的な物が販売されていて結局買わなかったのですが、ほんと何故買わなかったのかと今でも思います…(゚∀゚`)いつか再訪できた時にまだ売っていたら絶対に買う(・ゝ・)b

というわけで聖夜。
(゚∀゚)「聖夜がオレを積極的にさせる…」




拍手

2023
12,24
 聖域に戻り教皇宮からの帰り道でシュラに「双魚宮へ寄るか?」と聞かれた。デスマスクが言ったことをいちいち覚えていて、アフロディーテに全身の傷を治してもらいたいか、という事だった。今なら俺が付いていてやれるからと。正直、デスマスク自身深い意味もなく言った事なので「いい」と断った。
「痕がなかなか消えないな…」
「俺っぴのお肌デリケートだからな。でも聖闘士の回復力半端ねぇの知ってるだろ?」
デスマスクの戦い方で流血沙汰になる事は少なかったが、格闘系のシュラは安易に血を流して帰ってくる。修行時代から数え切れない程の傷を負っているはずだが、そのほとんどは綺麗に治っていた。
「それは解るが、あまりαを刺激したくない。聖衣ではどうしても肌を露出してしまうだろ」
シュラはマントを外して、隠すようにデスマスクの肩へ掛けた。見えると言っても上腕だけ。そんなに警戒する?と思ったが、インナーでも着といてやるよと伝えた。
「ここから夏本番で暑くなるというのにな、私服も長袖生活か…」
「無理にとは言わないが、その方が良いと思うぞ」
「過保護…」
双魚宮を通過して磨羯宮が見えてきた時「巨蟹宮まで行く」と当たり前のようにシュラはデスマスクを送り届けた。

 それから半月くらい経ってようやく、デスマスクは薬の用量が増えたにも関わらず全く効かなかった旨を医師に相談した。結論から言えば"純粋ぶってないで突っ込め"。今回の問題は薬ではなく、体内を癒せば効果が伴ってくるだろうという事だった。別の種類の薬もあるが、それは今後現れるかもしれない症状のために今はまだ使わない方が良いという判断らしい。
余談として、例えば全身麻酔で眠ってしまえば意識を失う事はできるが、24時間体制で管理されなくてはならないし1日が限界だという。まぁ現実的ではない処置だ。だから突っ込めとのこと。
まだ17歳だし抵抗はあるだろうけど…と、Ω用品を開発している企業が製品紹介を兼ねて発行した"発情期の癒し方に関するやさしい解説ーΩ男性用ー"みたいな冊子を手渡された。発情期の乗り越え方に迷いがあるΩを、大丈夫だよ、恥ずかしいことじゃないよ、怖くないよ…と、その気にさせて誘導するパステルカラーの冊子。巻末には通販用の申込書付き。パラパラ捲って、逆に怖ぇわと引き出しに封印した。
個人差があるとは聞くが世の中のΩたちは皆これを経験しているのかと思うと、理性を失って自ら犯されに行ってしまうΩを責めるなんてとてもできないなと思った。ただ、αの恋人がいるΩには必要の無い悩みなのだろう…。
「好きな奴がαとか、そんな都合の良い環境の奴ばかりじゃねぇだろ…」
この数日後、シュラとすれ違った時に話をする機会があった。次はどうにかなりそうか?との問いに、考えがあるから気にすんな、と明るく答えておいた。
「あいつに負担をかけさせねぇためにも、俺が頑張るしかねぇな…」
次の発情期が来る前にデスマスクはイタリアにあるΩの専門店へ足を運び、以前脱衣所で見たシュラの体を思い出しながら買い物を済ませた。
 
 季節は秋も終わり冬に差し掛かる頃。あれからデスマスクは発情期になっても暴れ回っている様子はなく、以前と同じリズムに落ち着いていた。傷もすっかり消え去っていて増える事もない。薬の変更は無いようなので、他に解決策があったのだろうとシュラは思っていた。

 ある日の夕方…とは言え、もう日も沈み薄暗い聖域。仕事を終えたシュラが十二宮の階段を駆け下りていた。今、デスマスクは発情期の真っ只中だが症状は落ち着いてきたので日帰りで戻って来ている。読むつもりだった本を部屋に忘れてきた、と言うので帰り際に巨蟹宮の私室に向かい、扉を開けようとした。
――瞬間、思わずドアノブにかけた手が止まり、違和感を持つ。ゆっくり開けてみると誰も居ないようだったが、居間の扉を開けてシュラは息を飲んだ。
「なにが、起きた…?」
本や書類が部屋に散らばり、いつもはソファーの上に置いているクッションが床に転がっている。
発情期中はデスマスクの力が不安定となり黄金以外でも侵入できてしまうのかもしれない…。何かデスマスクに怨みでもある者の仕業か…?!
荒らされた物を拾い集めてからシュラは他の部屋へ向かった。浴室、洗面、トイレは問題なさそうだが、寝室は――。

開けた瞬間に鼻をつく、嫌な臭い。
言葉を失ってから答えに辿り着くまで時間はかからなかった。

―― ア ル ファ !! ――

腹の底から低い唸り声を轟かせたシュラは、ベッドのシーツを力任せに引き剥がした。すぐさま部屋のカーテンを引き、勢いよく窓を開ける。籠から引っ張り出され、散乱している衣類。一着の鍛錬着が汚されている事に気付き、これでもかと右手を振って刻み尽くした。
信じられない…!何者かがここへ侵入し、好き勝手に欲望を撒き散らしていくなど…!!誰だ?!黄金か?白銀か?名も知らぬ雑魚どもか?!
「αとは…こんな野蛮なものなのかっ…」
シュラはやるせなさに肩を落とした。Ωの発情期も自分はきっと、デスマスクだから優しく寄り添える事ができるのだろう。理解のない者からすればΩの衝動は動物的で軽蔑の対象に見られやすい。αと言えばまだ世界を支えられる突出した能力や力強さで憧れの対象に見られる事が多い。気高く、頼もしい存在。しかしΩのフェロモンに誘惑される本質はコレだ。αが引き起こす事件が報道されても人々は目を逸らす。"そこにΩがいなければ…"それで終わり。
「はぁ……」
アフロディーテから察するにαにはαの苦悩があるのはわかる。今回意図的に侵入したのでなければ、デスマスクの残した僅かな匂いに自制が利かなくなってしまったのかもしれない…。あいつのフェロモンは、いつから溢れ始めているのだろう…。
窓から初冬の冷たい風が吹き込んでくる。シュラの沸騰した怒りは急速に鎮まっていった。荒らされた衣類を集めながら汚されていないか確認する。念のため全て洗うしかない…と、部屋の隅に積み上げておいた。汚されたものは全て処分、鍛錬着は新品を用意…
「遅くなるな…」
デスマスクが夕食を待っている。続きは明日の朝一に行う事にして、シュラは部屋の窓を閉め再びカーテンも引いた。

 隠れ家に戻ると、シュラの気配を感じてデスマスクが部屋からヨタヨタ歩いて下りてくる。頼まれていた本を手渡せば「あんがとぅ」と言って軽く笑った。ソファーで横になって、シュラのご飯を待ちながら本をペラペラ捲っている。
このデスマスクをαの手に渡してしまうと…あの部屋のように滅茶苦茶にされてしまうのだろうか…。
シュラの心の奥がジリ、と痺れた。
"渡すものか…"
しかし、どれだけ拒否をしてもαに滅茶苦茶にされたいというのがΩの本能だというのなら、こいつにとっても悦びとなるのだろうか…。
"そうはさせない…"
ゆっくりとソファーに近付き、シュラは跪いた。「ん?」とデスマスクが顔から本を下ろす。今日は薄茶色の保護首輪を着けている。そっと手を伸ばして撫でた。「何だよ」とは言うもののデスマスクも止めはしない。シュラが何か大切なものに触れている感じが伝わってきたから。
「…αにでも変異したんか?」
適当に言って、再び本を顔まで上げそちらに視線を戻した。
「…とてもそんな気にはなれないな…」
デスマスクは"そうとは思えない事してるのだが…"と思いながらも、シュラが食事を作り始めるまで好きに触らせた。

 デスマスクの私室が荒らされているのを目撃してから次の発情期の時は何も起きていなかった。しかし、そのまた次の発情期には再び侵入され荒らされていた。シュラが部屋を綺麗に整えた後に何者かが侵入した様子は感じられない。やはり発情期の直前にフェロモンが漏れ出ているのか、侵入されているのは発情期開始直後だろうと予想した。張り込んでみたいものの、発情期のピークはデスマスクのそばを離れたくない…。私室への扉に鍵を付けてしまいたいが、黄金であれば呆気なく砕かれてしまいそうだ。それにこの出来事をシュラはまだデスマスクに話せないままでいた。神経質な面があるため、新品の鍛錬着やシーツに気付いていそうな気はするが…今のところデスマスクの方からシュラに確認される事は無かったため、わざわざ不安を煽ることは避けたかった。

ーつづくー

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2023
12,22
 酷いことをした…
デスマスクが去った居間でシュラは頭を抱えた。あんな八つ当たりをしてしまうなんて…まだ体も辛い時期だというのに…!聞きたいこともたくさんあったし、何よりもっと労ってやりたかった。ただ、αの名前が出て、その男を求めているんだと直感した瞬間にやはりΩはαを求めるのかと、どれだけそばで尽くしても「シュラしかいない」と言われても、βの事など何も残らないのかという苛立ちが抑えられなくなった。デスマスクはそういうつもりで言ったわけではない…そんなことわかっている。わかっていても「大変だから薬塗ってくれ」とか「お前がコスモで治せ」とか"真っ先に俺を頼ってくれれば…"など醜い自分が込み上げて抑えられない。βだからデスマスクは安心してくれる。βだからシュラを頼ってくれる。しかし、どれだけ「シュラしかいない」と直接縋られたとしても、いつかあいつはαの元へ行ってしまうのだ…!!

 後悔とデスマスクに対する抑えきれない強い想いに苛まれている最中、上から再びドン!と響いて揺れた。シュラが顔を上げる。Ωに苦しむデスマスクの悲鳴…それは早く目を覚ませと訴えかけてくるようでもあって…。
シュラの心の奥がザワザワと疼いて何かが深い底から手を伸ばし這い上がってくる。
あぁ…そうだ…もう気付いているだろ?
「オレは、デスマスクを…渡したくない…」
いや
「デスマスクを、渡さない…」
αに嫉妬など自分らしくない…その程度のことで揺らぐなど。βに居座って、息を潜めて捕えておくんだ。これは守るための檻。αたちから、そしてオレからも…。ずっとそうやってきたではないか。
なぜか?
オレは、デスマスクを…深く愛しているのだ…。
「今度こそ、間違えない…」
かつて、お前と交わした愛の深淵でその時を待ち続ける。必ず成し遂げてみせる、だからそれまでは…。
シュラはゆらりと立ち上がって家の外へ出た。星があまり見えない。振り返ると満月が夜を照らしている。その下、暗い二階の窓を見て愛おしいデスマスクを想った。
「なぁ、お前も覚えているのだろう?オレのことを…」
待ってほしい、今ではないんだ。それまでずっと守り続けるから、頑張って耐えてくれ。
「お前のαは、いつもそばにいる」
しばらく二階の窓を眺めていたシュラは、やがて何事も無かったかのように家の中へ戻って行った。

 次の日の夕方、デスマスクが部屋を出て行こうか迷っているとシュラが階段を上ってくる音がして身構えた。トン、トン、トン、と扉が叩かれたが開く気配はない。「デスマスク」と声が掛かる。返事はしなかった。しかしシュラは聞いているともわからないデスマスクに対して話し始める。
「昨日は酷い態度をとって悪かった…すまない。あの後も辛かっただろう?体は大丈夫か?もし、お前が嫌でなければ食事の準備をする。部屋まで持って来てもいい。よければまた、声を掛けてくれ」
それだけ伝えて下りて行った。
「……」
シュラの態度が悪かったのだから向こうが来て当然とは思うものの、まさか本当に来るとは思わなかった。部屋に入らない約束を免罪符に有耶無耶にされるかと思っていた。
…傷付いたけど、シュラには会いたい…。
なぜそう思えるのだろう…。じわじわと体が火照ってきた。

 ピークは終わっていて疼き方も落ち着いてきている。"少しだけ…"とベッドに横たわり、シャツの中に手を入れた。
「っ…」
傷が擦れて痛むので、シャツを捲り上げて口に咥える。近くに転がっている潤滑剤を胸に垂らし、傷に滲みたが構わず指を這わせた。瞼を閉じて、デスマスクに八つ当たりをした最低男を引き摺り出し、詫びろ、と言って胸を差し出してやる。あいつは指で触れるだろうか、唇を寄せてくれるだろうか…。
「イテッ…」
胸を引っ掻いた傷が痛んだ。リアルなあいつだときっと力加減も知らないだろうから、これくらい痛いのは覚悟しねぇとな…。するりと下着の中にも手を差し入れた。わざと手荒く刺激を与えてみる。
「イテ…ぜんっぜん、よくねぇよぉっ…」
文句を言えば、すまない、と言って今度はもどかしいくらい柔らかく触ってくる…そうに決まってる…
「ばか、そうじゃねぇっ…!」
もどかしさに腰が右へ左へ捩れてしまう。くそ、今日はいつもおれを満たす完璧なおまえじゃねぇのにっ…!すまない、すまないって、だんだん顔をニヤつかせてきて…
「もぉ、まじで、おまえのその顔、きらいっっ…っ!」
デスマスクの体がベッドの上で震えてて、沈んだ。
…だいきらいだ…。
一体、どれくらいあいつに傷付けられたら本当に嫌いになれるのだろう…。なんとなく、離れることはできても心からシュラを嫌いになることは想像できないな、とぼんやり思った。口から外れたシャツの裾はグショっと濡れてしまったので、ベッドからぬるりと滑り降りてチェストへ向かった。

 結局あの後デスマスクはシャワーに下りて、痴情の跡を洗い流してからシュラの前に姿を現した。シュラの顔を見て不貞腐れた表情を作り、ソファーにドカッと座って「メシ作れ」と言い放つ。横になろうとした時、机に置かれたままの傷薬が目に入った。デスマスクは少し考えてから「待て」とシュラの手を止めさせた。こちらを見るシュラに向けて傷薬を突きつける。
「ちょうど今、綺麗にしたところだからよ、お前が塗れ」
その言葉にシュラは驚いた。
「お前のコスモは治癒に不向きだろ?塗らせてやるから、やれ」
そう言いながらデスマスクは前開きのシャツを脱いで見せる。
「……まだ、完全に発情期は治ってないだろ…触れるのはよくない…」
「俺が良いって言ってんだよ!…ヤってきたばっかだし…」
シュラは明らかに困惑した表情でデスマスクを見るばかりで動かない。
「早くしろよ…俺の言うこと聞いてりゃ良いんだよっ…不安にさせんな!」
その訴えにシュラはやっとデスマスクの元へ来て屈んだ。指を解いて薬を受け取る。デスマスクはゆっくりとソファーの上で横になった。天井を見ているとシュラが手首を掴んで腕に薬を塗り始める。
「っ……!」
「痛むか…」
「ま、普通に滲みるぜ」
やはりこの男、力加減がわからないのか薬を塗り込む指が震えている気がする。思っていた以上に優しく触れられて、さっきのアレではないが…ちょっともどかしいと言うか、何か恥ずかしくなってきた。
「下はどうする」
「……して」
「脱いでくれないか」
クロップドパンツをするりと脱ぎ捨てて下着姿を晒した。太腿の内側やふくらはぎにも優しく触れられ、でも薬はピリピリ刺激してきて…。
「…ごめ、ちょっと…」
デスマスクは股を右手で覆い恥ずかしそうに下唇を噛んだ。あぁ…とシュラは頷いて
「素直な体だな、気にするな」
と作業を続けている。
…くっそ!余計に恥ずかしくなること言いやがって!
と思ったが、こうなる事を危惧したシュラに薬を塗れと強要した手前何も言えず、なぜかしおらしく「うん…」とか頷いてしまった。
なんなんだ…リアルは妄想を飛び越えてきやがったぞ…。
これに懲りて次の日からは自分で塗る事にした。

 散々だった発情期が終わり、聖域に帰る前夜。夕食の片付けも終わった頃デスマスクは今回自傷に至った事についてシュラに呼び止められた。デリケートな事なんですけど…とぼやきながらも納得してくれそうな上手い誤魔化し方が思いつかない。話したくない、と強く拒否すれば引き下がるだろうとは思うが、不満を抱えさせてまたいきなりキレられるのも嫌だ。
仕方ない…
とため息をつきながらシュラをソファーに座らせた。
「めちゃくちゃケツの穴に何か突っ込みたくなったが、絶対に突っ込みたくなかったから暴れ回った」
一発で伝わるようにどストレートに言ってやった。
「…嫌なのか?」
お前真剣に何を聞いていた?
「俺たった今"絶対に突っ込みたくなかった"つったよな?馬鹿か?」
「それは聞いたが、自傷する程の辛さに耐えてまでなぜしたくないのかと」
シュラは"そうか、そうだったんだな…"って繊細な部分をすんなり察してくれるような男ではなかった。まぁ概ね予想通りだ。
「初めての本番は好きな人と一緒に経験したいの…っていうピュアな心、お前に理解できるか?」
「そういうタイプだったのか」
悪気は無いのだろうがイラッとする。
「医師に相談して解決できそうならいいが、今後お前が傷付いていくのを見るのは辛いと思ってな…どうにかしてやりたいのだが」
そう真剣に俺を労る声と表情を見て、徐々に腹立たしさは消えていった。デスマスクもシュラの負担になるような事はしたくない。
「悪いな、俺ではお前にしてやれる事があまり無いんだ」
はにかんで笑ったシュラの顔がデスマスクの心に刺さった。
「そんな事ねぇよっ…。お前、この家準備して、家事や掃除して、俺のことずっと考えて…何か色々いっぱいやってるだろ?!」
「うん。それくらいしかできないな」
「そうではなくて!」
「デス、俺はお前の身の回りのことはしてやれるが、お前の体を癒してやる事はできない。そこだ」
「っ……」
Ωの発情期を癒す事はαにしかできない。βにはできない。どれだけそばでサポートをしても、βではΩの苦痛は取り除けない…。
「そんなことっ…」
発情期中、散々シュラを使って自身を癒してきた。辛い時、俺もずっとお前の事を考えてるんだよ。それが癒しなんだよ。でもお前の事すら考えさせてもらえなかった今回の発情期が辛くて、お前の事を思い出したくて…飛びそうになる意識を繋ごうとしていたらこんな事になって、しまった…。
「いや、悪い。そこまでは踏み込み過ぎだよな。気にしないでくれ。」
言葉が続かないデスマスクを気遣ってシュラが声を掛けた。少ししてシュラが立ち上がろうとした時、デスマスクが声を絞り出す。
「俺…は、発情期、二人で乗り越えてるつもりだから…」
「……」
「一人で耐えれるのは、お前がすぐ近くにいてくれるから…」
だから
「次も一緒に頑張って、ほしい…」
顔を上げてシュラに伝えた。デスマスクの真剣な顔に、シュラは優しく微笑んで応えてくれた。

ーつづくー

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2023
12,22
 初めての発情期から2年が経ち、デスマスクも17歳を迎えた6月下旬。11回目の発情期に備えて二人は隠れ家へ移動した。その3日後に発情期は始まったが、デスマスクは今までと違う疼きに身を捩った。鎮めようと肌に触れて疼きを逃そうとしても気休めすら感じられない。
「どう、した…?!」
抑制剤は事前に服用している。完全に効かないことはよくあったが、全く効いていないと思える程の強い疼きに恐怖を感じた。
やばい、あつい、どんどん熱くなる…。
お腹、あつい、おかしい…おかしい…こわいぃ…!!
必死に肌に触れても、吐き出しても、欲望が止まらない。甘くシュラを想おうとしても迫り来るΩの本能でかき消されてしまう。
あぁ、あぁぁ…ちがう、これじゃないぃ…。
しり…尻の中ぁ…なかからもっと奥をさわりたいぃ…!
今まではどうしても躊躇って肌に触れるだけに留まっていた。それでも発情期をやり過ごせていた。なのに今回は違う。苛む疼きが腹の奥から響いてきてとにかく直接触りたい。体内を癒すためのグッズも売ってはいるが、初めてはちゃんと好きになった人がいいとか純粋ぶってそれすら受け入れていなかった。
あぁ…これがΩか…黄金の俺でさえ、こんな気色悪い本能に支配されて…色狂いのバケモノみたいになっていくのか…っ!
こんな強い欲に支配されると、自分が何をしでかすかわからなくて怖い。自分を信用できない。
「は、あ…シュッ…ァ…!」
途切れる意識の隙間に見え隠れするシュラの幻を繋ごうと、デスマスクは自らの肌に爪を立てた。


――一緒にいるだけでは足りない、俺はお前と結ばれたい…男と男では…αとαでは駄目なんだよ…俺は、お前に噛まれたかった…――

そこは、森の中…山の中…?雪がチラついている。そうだな、俺も思う…結ばれなくとも、そばにいれるだけでいいと願っても、βとΩでは駄目だったのだと……


 一階の自室で瞑想にふけっていたシュラは、ドスン!という物音と揺れに目を開けた。上からの音だ。何か大きなものが倒れたような。それが2日間、度々起こった。デスマスクがベッドから落ちた?そんなに何度も…と疑問に思うが発情期の朦朧とした状態ならあり得なくもない。ただ、今までそんな事は無かったが。
窓から様子がわからないかと外に出て眺めてみたものの、しっかりカーテンが閉められていて何もわからなかった。どれだけ気になってもコスモの乱れを感じても、シュラが部屋の扉を開ける事はしなかった。中へ入るのはコスモが途切れた時だけだ…。体に関してはシュラが行ったところで何もしれやれない。βではΩの発情期は癒せない。シュラはため息をついて、鞄から出したスケジュール帳にデスマスクの様子を記録した。

 上からの物音が始まって3日目の夜、シュラがシャワーを浴びていると階段から転げ落ちるような音が響いて揺れた。慌てて泡を洗い落とし、体を拭いていると脱衣所の扉が少し開く。
「ここかぁ…」
隙間から、身を屈めているデスマスクが覗いてきた。
「お前っ開けるなよ!それより今落ちてきただろ!大丈夫なのか?」
ろくに整えず雑に服を着て、今行く、と大きく扉を開けた時。
「痛ぇよ、ぜってぇ骨折れたぜ」
そう言って廊下に座り込み、俺を見上げるデスマスクの姿に血の気が引いた。金の首輪にバスタオルを羽織っただけの姿、白い肌に血の滲む筋がいくつも散らばっている…。
「へへ…気持ち悪ぃ?…はやく、洗いてぇの…」
言葉を失うシュラを見て少し俯く。きっと、正常な判断ができるようになっていればこんな姿をシュラに晒すことはしなかっただろう。
「お前、まだ終わってないのか…?」
「んふふ…おれさ、すげぇ頑張ったんだよ…」
そう呟きながら這ってシャワー室の中へ向かおうとする。シュラは迷った。手を貸すべきか引くべきか。脱衣所にバサっと羽織っていたタオルを捨て、シャワー室の中で立ち上がろうとしていた。ついさっきまでシュラが使っていて、慌てていたから床に泡も残っていた、そこへ――
「ひぇっ……」
「くそっ!!」

――ドッ!!

足を滑らせたデスマスクを咄嗟に庇って抱き止めたシュラはそのまま体を床に打ち付けた。
「……わりぃ、濡れたな……」
もぞ、と起きようとするデスマスクの体にはほとんど力が入っていない。
「自分で、できるのか?」
デスマスクを支えながら上体を起こす。
「座ってなら、多分…。シャワー取ってくれよ」
シュラの上に乗ったままのデスマスクをゆっくり床に座らせ、シャワーヘッドを掴んで渡した。
「出る時も無理するなよ。呼べば出してやるから」
「あー、そうだな…。けど、別の部屋で待てよ?まだピーク過ぎただけだから、変な音…する、かも…」
「……わかった」
バタンとシャワー室を閉め、シュラは自室まで行って濡れた服を着替えた。洗濯かごへ持って行こうと部屋を出たが、脱衣所だったと気付いてやめた。そのまま居間のソファーへ静かに腰を下ろす。
…爪で引っ掻いたような傷がたくさん、どこかに打ち付けたような痣もあった…。
薬が効かなかったのか?副作用で暴れたのか?今回だけだろうか?これから毎回なんて、見てられない…。目を閉じ、額に手を当てて考える。戻ったら医師と相談させるにしても先ずは傷だ。少しでもコスモで癒やしてやりたいところだが、あの様子ではまだ触れない方が良いのだろう。
「薬…」
コスモ治癒が叶わなければせめて薬でもと箱から軟膏を探して用意したが、シャワー後にデスマスクから声がかかることはなかった。
「自力で戻っていったか…」
誰もいないシャワー室を確認して、寂しく思った。

 翌朝、階段から落とされていたバスタオルに滲む血を見てシュラは目を細めた。こういう汚れたものはいつも自分で洗っていたようで今回が初めてだ。現場を見られているからデスマスクもシュラに洗わせる事を気にしなかったのだろう。手洗いが必要だなとシャワー室に桶を置いて湯を張る。バスタオルを沈めようとする直前、突然の好奇心に抗う間もなくシュラは鼻にバスタオルを当てて匂いを嗅いでみた。
…何も、わからない…
湿った水の匂いとうっすら血の匂いがするような…ただそれだけ。Ωらしいものは感じない。デスマスクの匂いも。…元々そんなもの知らないが。今もこの家はΩのフェロモンに包まれているのだろう。全くわからない。αであればそれを感じる事ができた。デスマスクを感じることができた。…狂わされる程に…。シュラはαに対する嫉妬を抑え込むようにバスタオルを桶の中へ沈めた。

 その日の夕方、デスマスクは昨日に続き現れてシュラに夕食を要求した。Tシャツから出た腕や胸元の傷は隠す気も無く丸見えで、シュラは昨夜用意しておいた傷薬をデスマスクに渡した。
「傷の数すげぇあるから塗るの大変過ぎるのだが…」
「酷い部位だけでも塗っておけ」
ソファーに横たわり手に取った傷薬を指先でクルクル回しながら、デスマスクはぼんやり呟いた。
「アフロがいればなぁ…コスモでパァァァ〜って…」
瞬間、空気が変わった。
「…まだそんな事言う余裕あったんだな」
突然の冷めた物言いにデスマスクは顔を上げてシュラを見る。
「…どういうことだ」
「αとして警戒しているくせに」
声が低く短く鋭い。こちらを見ていない。
「でも俺、あいつのこと嫌いじゃねぇよ…そういうモンとは別って解るだろ?」
「……」
「…いい、もう喋るな、怠い。早く飯作れ!」
何故かピリついたシュラの気配にデスマスクは話を切り上げた。腹が立つと言うより、アフロディーテとの関係を勝手に壊された物言いが悲しかった。そういう事は理解してるはずなのに。お前とは変わらず何でも気軽に喋れると思っているのに…。

 デスマスクの体調に合わせて小皿にほんの少し盛られただけのリゾットは机の上に無言で置かれた。無駄に一から作らないぶん味はいいが、喉を通らない。発情期のせいではない。雰囲気が悪い。βのくせに、αとも違うシュラの圧力を意識してしまう。
…でも食べたい…
と思って数口の量をゆっくり食べ切った。カツーン!と音を立てて皿の上へスプーンを置く。聞こえているだろうが皿を下げに来る気配はない。シュラは自分の分ももうできているはずなのに、同じ机に来て食べようともしなかった。ずっと流し台で鍋とかを洗っている。せめて何か切っ掛けがあれば、重い空気を打開できたかもしれないが…。
このままテレポートをして消えたいと思ったけれど、体がまだ辛いので立ち上がって部屋を出た。シュラは一度もこちらを振り返ろうとしない。傷薬はわざと机に置いてきた。気付いても、あの様子ではわざわざデスマスクを追いかけてくることは無いだろう。

「俺、今発情期なんだぞ…」
部屋へ戻ったデスマスクは呟いてから口を固く結んだ。今だけは問答無用で優しくしてほしい。不安になることはしないでほしい。特に、今回は症状が重いのに…。ジリ…と腹の奥が疼く感じがして煩わしく、思い切りベッドを蹴った。その音を、シュラは歯を食いしばって聞いていた。

ーつづくー

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2023
12,17
生々しい表現は避けているつもりですが、もうpixiv掲載する時はR18にしておこう…。この先もやわ表現出てくるし…。小説のR基準も曖昧ですね。最終的にはレーベルの判断次第とか(笑)
変にリアルさを避けたせいでデスマスクのお花畑感が増した気がしないでもない。それはプラスに捉えておこうと思います(∩゚∀゚)ウフ
独身の時に「好きじゃない…」と言いながら本能に負けると「しゅらだいすき♡」を剥き出しにするデスマスク、誰おまの極みですが良いと思います…(・ゝ・)



なんか今なら成人向け落書きも描けそうだけど公開する場が無い(笑)ピクシブは落書きを1枚だけで出す気になれないしなぁ…Xは普通の絡みでも躊躇する。描き貯めるしかないか。

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2023
12,17
 発情期開始から12日目。初めての隠れ家生活を終えた二人は、聖域に戻るなり黄金聖闘士に復帰した。デスマスクが「テレポートして帰るから」と言えば、シュラは好きにしろと言って自分は走って来た。先に戻っていたデスマスクは巨蟹宮で荷物を下ろし聖衣に着替え、ちょうど上ってきたシュラと合流して磨羯宮を目指す。そこでシュラの着替えを待ち、二人揃って教皇宮へ報告に向かった。そしてそのまま二人揃ってアフロディーテに帰還を伝えると「帰ってこなくてもいいぞ」とニッコリ言われた。翌日からはお互い仕事が詰まっていたため、しばらく顔を合わせる日が無かった。

 隠れ家生活を終えてから、シュラはロドリオ村へ行く機会を伺っていた。スケジュール帳を買いたいと思って、それまでは忘れないように私室のカレンダーに大事な事を記入した。
何かといえば、デスマスクの発情期情報である。前回ほぼ突然始まったように思えたため、予め発情期の周期を把握しておきたいと思った。デスマスクに正確な記録をつけさせようかと思ったが、自分でやる方が絶対に早い。そうしてやっと到来した午後の休暇にシュラはカレンダーが大きめのシンプルな手帳を手に入れた。
帰宅してすぐ、私室のカレンダーに記入しておいた発情期の期間を書き写す。ピークの日、夕食を食べに来た日、昼食が食べれるようになった日…何を食べたか、どれくらい食べたか…。聖闘士としての任務報告書よりも細かくマメな情報量を一気に書き上げたシュラは、それを改めて見返してからガクッと頭を抱えた。
「…何をしているんだ、俺は…」
こんな事…好きじゃなければ絶対にしない…。
好きって何を?Ωの世話を?デスマスクを?
「…わからんな…」
Ωへの興味が尽きないことは認めた。そのΩがデスマスクでなくても自分はここまでするだろうか?
「…わからん…」
予定通り発情期が来るのであれば、次は秋。手帳をパタンと閉じ、滅多に使わない鞄の中に仕舞った。

発情期中は二人きりで過ごす分、聖域に戻ればデスマスクと会う機会が一気に減った。黄泉比良坂へもよく行くのかコスモが全く感じられない日も多い。巨蟹宮の死面が急に増えた気がする。あいつは発情期の不利な状況を抱えながらも聖闘士としての仕事量は減っていなかった。
…無理に動いて体に支障が出なければいいが…
そう気に掛けるのもΩだからだろ、と彼は機嫌を損ねそうなので思うだけに留めておく。
「はぁ…顔を合わせなくてもあいつのことばかり考えてしまうな…」
よく考えれば発情期中だってピークの数日は顔を合わせていない。それでもデスマスクに関する事ばかり考えていた気がするし、何かの流れでその事を本人にハッキリ伝えていたような…。

試しにアフロディーテの事を考えてみることにした。αとしての日常はどうだろうか。デスマスクと会話はできているだろうか?
「……」
一瞬でこれだ。一瞬で奴が存在をアピールしてくる。
「まぁ、周りから守れだの言われれば気にするのは仕方ないよな…」
やはりデスマスクに対する答えを有耶無耶にして、シュラは次の発情期前に買っておきたい物を紙に書き出し始めた。

 デスマスクの発情期はほぼ予定通りやってくる。間隔は80日。誤差が出る事を考えて予定日の2日前には隠れ家へ連れ出すようにした。「お前よくわかるな、αになってないだろうな?」と言われるので「日にちをメモしている」とだけ答え、手帳に細かく記録している事は伏せておいた。
また、シュラが16歳になった時には聖域を通さず個人的に再診断を受け「ちゃんとβだぞ」と結果をデスマスクに見せた。デスマスクを安心させるために行ったが、シュラ自身もデスマスクの事ばかり考えるのはαに変異しかけているのではないかと気にし始めていた。数値はα寄りになることも無く、安定してβだった。

 隠れ家へはデスマスクをテレポートで先に行かせていたところ、ある時「一緒に行こうぜ」と手を握られた。デスマスクも16歳になった夏だったか。驚く間もなく転送され、シュラが口を開く前に「β君、いつも来るの5秒遅ぇんだよ」と言って振り向きもせずさっさと自室に消えてしまった。それ以来、行きも帰りもテレポートで移動するように変わった。

移動初日は発情期が始まっていなくてもデスマスクは何も手伝わなかったが、発情期が終わって聖域に戻る前の2日ほどは自然とシュラと共に家事をするようになっていた。二人で一緒に行うというよりは分担して、洗濯や掃除以外に昼食の準備をデスマスクがする事もあった。…と言うのも、デスマスクは発情期が重い数日間の出来事は覚えていないことが多かったが、症状が軽くなってくるとぼんやりした中で何を思い、何をしていたのかはだいたい解っていた。

初めてシュラを利用して幸福感に溺れた日から、シュラの事を考えながら肌に触れる行為にハマってしまった。だからだんだんシュラに対して突っ張り続けるのが申し訳なく思うようになったのだ。
シュラのくせに妄想は出来が良い。はしたなくも女以外に色んな男も想像してみたが、どうしても見知った黒髪のドヤ顔男が強引に割り入ってきてアピールしてくる。俺が一番お前のことを想っているとか言ってめちゃくちゃ甘やかしてくれる。もちろんデスマスクの妄想だが。
やがて右手だけでは物足りなくなって、絶対に手を出すまいと思っていたΩ用の癒しグッズをつい買ってしまった。そのおかげで自力では生み出せない快感を知ってしまい、それこそシュラにも手伝ってもらえてる錯覚に陥ってしまう。
ただ間違ってはいけないのがこれは妄想のシュラだから良いのであって、実在するシュラに協力されると幻滅すると思う。俺のことしか考えてないあいつは間違いなく経験不足で鈍感で馬鹿で力だけは強いし、勢い余って首を落とされかねない。本気逝きしてしまう。所詮βのシュラはΩの癒しグッズにすら敵わないはずだ。だからその一線を越える気は全く無かった。
シュラに恋をしたわけではないのだ…。名前なんか呼ばない。妄想用。発情期発散にだけ使う都合の良い存在。顔と声と肉体美の使用料はテレポートと家事手伝い。これでいい。

 何も知らないシュラはデスマスクのテレポートと家事手伝いで素直に好感度を上げている事だろう…その想像通り、シュラはデスマスクの症状が軽くなってくるとたまに家を空けて出掛けるようになった。移動が速いのですぐに戻って来るが、どこかの町へ行ってドーナツだのシュークリームだのスナックを買って帰ってくる。美味そうだったからお前にも、とデスマスクのために買ってきた雰囲気を出す。デスマスクは甘いもの好きというわけではないが嫌いでもなく、素直に受け取って食べるのでシュラからの貢ぎ物は止まらない。もしかしたらシュラが食べたいだけかもしれないが。

 やがてシュラは発情期中の流れを把握すると、買い物だけではなく聖域に戻って日帰りで仕事をしてくるようになった。発情期のピークが過ぎると、朝食と洗濯を終わらせてから家を出ていく。夕方には戻り、夕食を準備してデスマスクと食べた。昼食もデスマスクの様子を見て作り置きしていく事がある。そこまでするのは発情期明けに待っている仕事の山を少しでも減らしておくためだった。自分に余裕があれば平常時でも万が一デスマスクに何か起きた時に対応できるかもしれない…。あいつは俺しか頼れないのだから…。そんな思いからの行動だった。

ーーー

 「シュラ!」
シュラが17歳を過ぎた春先、双魚宮を通る時にアフロディーテから声がかかった。
「デスマスクの発情期は把握しているよな?」
「あぁ」
「もう少し、早めに聖域を出るようにした方がいいと思う。デスマスクが発し始めるフェロモンが最近濃くなっている気がするんだ…」
シュラが通ることに気付いていなかったのか、慌てて私室の方から駆けて来て息を整える。
「君には判らないかもしれないけど、発情期前から微量のフェロモンが漏れ始める事は知識として知っているよな?」
「そのために2日早く連れ出している」
「3日…いや4日早くしても良い。絶対にサガもこの事は気付いているはずだ、話せばわかるだろう」
そろそろお世話ごっこは終わりだぞ、と言ってシュラの聖衣を指でトントン突く。年下の黄金たちも14歳くらいになり、皆αらしさが滲み始めたなというのは感じていた。デスマスクに向けられる視線、唯一そばに居るシュラに向けられる圧力、いよいよ聖域が猛獣の檻の中のように感じられシュラは気を張っていたところだったが、デスマスクにも変化が出ている事には気付けなかった。
「そう…か。わかった、ありがとう」
「私もデスマスクのためになる事をしてやりたいのだ。全部任せろと言われてもな、βにはできない、αだからこそできる事もあるのだよ」
βのようにべったりお世話してやれなくともな、と付け加えられて、シュラは毎回最後には素のアフロディーテの良さを台無しにしてくるな…と思った。

 アフロディーテの進言通りサガと相談し、次の発情期からは4日早く聖域を出ることになった。これでまた帰って来た時の仕事量が酷いことになるのか…と思い、どう処理していくか考えながら巨蟹宮へ向かう。急ぎではないが早めに伝えておきたいと思った。今、デスマスクのコスモは全く感じられない。おそらく黄泉比良坂へ潜っている。こういう場合いつ帰ってくるのか見当がつかなかったが、ちょうど自分は仕事が早く終わったので少し待ってみるつもりだった。私室の扉を開けて、真っ直ぐ居間へ向かいソファーに座って待つ。

 以前なら考えられなかったことだが、デスマスクとはお互い本人が不在でも私室の居間を自由に出入りする仲になっていた。仕事で都合が合わない事が降り積もり、ある時デスマスクが「待ってろ」とシュラの滞在を許したのが始まりだ。巨蟹宮の扉の前でシュラを待たせると「門番がいる」だの「黄金のくせにボディーガードとは手厚い」だの鬱陶しい雑音が耳に入る事があり、デスマスクはそれが嫌だった。Ωの自分が馬鹿にされているというより、βのシュラが馬鹿にされていると感じるようになった。デスマスク自身シュラの事は「βのくせに」と思いはするが、長い付き合いの中…Ωとβの関係になってからデスマスクが信用できる者はもうシュラしかいないと、心の奥で大切に思うように変わっていたのだ。
あいつはΩの召使いではない…。
シュラの献身をデスマスクは正しく受け取っていた。

 ふと、シュラは目の前の机の上に置かれた薬袋に気付き手に取った。抑制剤の用量が増えた気がする。フェロモンが濃くなった話と関係があるのだろうか。何かあった時に飲ませる薬が解るよう、シュラはそこまで管理していた。デスマスクも「見れば?」と教えてくれたし、錠剤の他に緊急用の自己注射薬もシュラが持っている。Ω用の他にα用のものもアフロディーテから渡されていた。薬袋から薬を出して見ようとした時、巨蟹宮の方からコスモの歪みを感じ、居間の扉の方を眺めていればやがて黄金聖衣を着たままデスマスクが入ってきた。
「早かったな」
「知らねぇよ、俺は結構長くアッチにいたぞ」
するりとマントを外し、目の前でパァン!と聖衣を脱いでパンドラボックスに収める。腰からつま先までの下半身を覆う白いアンダーウェアだけで、色白とは違う血色の悪い白肌を露わにした姿には金の首輪がよく目立つ。シュラは首輪の輝きに目を細め、スッと口元を手で隠した。デスマスクが嫌がる表情をしたのだろう。嫌がられる前に自己防衛をするようになっていた。
「用件は?」
服を着ないままデスマスクはシュラの前に座った。

「次の発情期から、4日前に出発する事になった」
「……そうか」
少し間を置いて、デスマスクはすんなり受け入れた。
「お前、自分でも何か変化があるとわかっているのか?」
「……まぁ、少しは」
歯切れが悪い。
「わかっているなら良いが…βの俺には解らないことが多い。αには解っても」
言いたくない事は言わなくてもいいと思っても、些細な事でも話してくれたら…というのがシュラの本音だった。そういう要求を嫌うのは知っているので、伝えることはしない。
「薬の用量も増えたんだな、効きが悪くなったのか?」
「…今は、まだ解らないがΩとして体の成熟が進んでいるとか何とか…」
そういうことか…発情期の始まりは妊娠可能のサインらしいが、体はまだ発展途上らしく男Ωは流産率も高いと聞く。それがおおよそ18歳くらいになれば体も整い、20歳頃が最適の状態になるとか。フェロモンの増加はΩの本能が強くなってきているのだろう。
「俺はこの前の再検査もβだった」
「また受けたのか」
「念のためにな。毎年受けるつもりだ」
「…好きにすれば」
繰り返す再検査がαになりたい願望などではなく、デスマスクと自分を安心させるためという事は理解されている。
「小僧だった奴らもαらしさが増してきている。言うまでもないと思うが、慎重に行動してくれよ」
「わかってるって」
「そんな格好、俺の前でだけだぞ」
指さされて言われると顔を逸らし、もじっと動いた。
「っ…当たり前だろ!βに見せたってしょうがねぇモンだろうよ!」
デスマスクは頭を掻きながら立ち上がって、服を着に部屋を出た。

 その日はデスマスクも報告書を書き上げれば自由だと言うので、隣でそれを待ってから二人で夕食を食べに出掛けた。話しながら付かず離れず二人が並んで歩く姿は、道行く町の人々からすれば幸せそうなαとΩのカップルに思われた。

ーつづくー

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2023
12,15
 隠れ家に来て4日目の夕方、シュラが居間で食事の準備をしているとギィ…と廊下の軋む音が聞こえた。居間のドアに目を向ければ、カチャ…と開く。
「大丈夫か…?」
手にしていた皿を机に置いてシュラはドアの元へ駆け寄った。開いたドアを手で押さえると、もたれ掛かってまだ怠そうなデスマスクを支える。
「どうした?少しは楽になったのか?」
デスマスクはぼんやりとしていたが、シュラの言葉に軽く頷いた。
「何か、食いたい…」
わかった、と返してシュラはデスマスクを支えながらソファーに座らせた。
「ここでなくても部屋まで持って行くがどうする?」
「ここでいい…」
「何が食べれる?」
「何があんだよ…」
聞かれて考えた。今ちょうど自分用にパスタを準備していた。炒めるだけなら肉も魚も出せる。ピザも食べるかと思って冷凍のものがある。ポテトのフライにパンもいくつか…
「食べれるっつってもほんの少しだけだから、一人前いらねぇ…」
シュラが答える前にデスマスクはそう言って、ずるずるとソファーの上で横になった。
「あぁ…ならパスタを少し食べるか?作っていたから直ぐに出せる。ソースはトマトだぞ」
「ん、それでいい」

デスマスクはまだ一度も洗濯物を出してこなかったが着替えはしているようだった。ここへ来た時には上げていた前髪もすっかり下りていて少し右寄りに寝癖がついている。横になりながら薄目を開けてぼうっとシュラの動きを眺めていた。
麺は茹でて…ソースは缶詰め…
気になっていた料理の腕前を確認する。缶詰めを温めるだけなら変な味になっている心配は無さそうだ。

「食べれなければ残せ、俺が食べる」
ほどなくしてソファー前の机に小皿に盛られたパスタと水が置かれた。デスマスクはのそっと起き上がってフォークを手に取る。身をかがめてパスタを巻き、ゆっくり口を開けてパクっと食べる。その間にシュラは追加で肉を焼き始めた。

 カツ、とフォークが皿に置かれる音が聞こえてデスマスクの様子を見る。
「足りなかったか?まだあるぞ」
一人前のうち四分の一ほど乗せてみたが皿の上は綺麗に無くなっていた。
「もういい」
「薬は飲んだのか?」
「来る前に飲んだ、効いてきたのかめちゃ眠ぃ…」
「部屋に戻れるか?」
ぼんやりするなら連れて行こうかとデスマスクの元へ来たが、なぜか再びソファーの上で横になってしまった。
「少し、休憩してから」
と告げて、また薄目がちになってシュラを眺めている。シュラは小さく唸ってからコンロに戻り、フライパンで焼いている肉を軽く混ぜてから皿に盛りつけた。ソファー前の机にパスタと焼き肉、パンを並べてやっとシュラの夕食が整う。どっちがメインだよ、と呟く声が聞こえてきた。

 食事を食べ終えるまでは起きているように見えたデスマスクだが、洗い物をしている間に眠ってしまった。おい…と小声で呼び掛ける程度では起きそうもない。抱き上げて部屋まで連れて行ってもいいが、今入ってもいい状態なのだろうか。このままソファーで寝かせようかとも思ったが窮屈だし床に転げ落ちるのも可哀想だ。
「仕方ない…」
俺がソファーで寝るか、とシュラはデスマスクをそっと抱き上げ、自分の部屋のベッドで寝かせることにした。

 シュラの部屋には冷房が無い。デスマスクのために彼の部屋にしか付けていない。窓を開けてデスマスクには薄手のタオルケットを掛けた。
吹き込む風に銀の髪が時おり揺れる。
ふと、シュラは吸い寄せられるようにスッとベッド脇でしゃがみ込み、その姿を眺めた。首をすっぽり覆ってしまう白い保護首輪が窮屈そうだ。手を伸ばし、そっと触れる。
…よく似合っているが、早く解放してやりたい…。
こちらを向いている顔へそのまま手を滑らせ、親指で頬を撫でる。
愛おしい…。やっと、二人になれたな…。
デスマスクの顎を軽く持ち上げ、シュラは顔を寄せると頬に軽くキスをした。デスマスクがフルッと震える。そのままもう少し這い上がって耳元にもキスを落とす。
「っ…」
くすぐったいのか寝返りをうってしまった。その姿を見てフっと笑ったシュラは今度はこちらに向けられた頸を首輪の上から撫でて、そこへ啄むように二回キスをした。
「夢のようだ…」
シュラはそう呟きながら立ち上がり、静かに部屋から出て行った。
そう、夢のようで…
シュラは自身がデスマスクにした事を覚えていなかった。

 発情期のピークが開けた日から毎日、夕方になるとデスマスクは1階まで来て夕飯を食べるようになった。シュラのベッドで寝かせた時は、翌朝見てみると一人で部屋に戻ったようで誰もいなかった。あの日から階段の下にパジャマやタオルが落とされている事が増え、知らぬ間にシャワー室も使うようになった。まだ薬は必要らしく夕食の前に飲んでくるそうだが、眠そうにしても食後は自分の部屋に必ず戻っている。

 隠れ家に来て7日目の夜。一人前を食べれるまでに戻ったデスマスクは、明日から昼も食べるとシュラに伝えた。そして食後すぐ部屋には戻らず「今は調子いいから」とソファーで横になってまたシュラの働きぶりを眺めている。
「なぁ」
デスマスクが声をかけた。
「何だ」
「お前毎日ここで何してんだ?」
三食食べて、洗濯掃除の家事一般をこなしているのはわかる。庭に出るくらいで遠くの町などに出掛けている感じはない。
数日前、起きたら見知らぬ部屋で驚いた。デスマスクの部屋の半分しかない狭さで、ベッド以外にクローゼットと小さな棚が一つあるだけ。まるで病室のような生活感の無い部屋。起き上がるとシュラが持っていた鞄が床の端に転がっていたのでもしやと思い、部屋を出たら居間のソファーでそいつが寝ていた。居間も含めて自分のテリトリーと思えば十分かもしれないが、それにしてもパッと見は本が数冊積んであったくらいで何も無い。実は料理が趣味とか言われて自作ケーキを見せられても反応に困るが、何をしているのかずっと気になっていたので聞いておきたかった。

シュラは「んー…」と唸るばかりでなかなか答えをくれなかった。まさか…"何もしていない"なんて事がこいつにありえるのか?返事を待ってドキドキしてしまう。
「何と言うか…」
ついに、口を開く。
「瞑想?をしている」
「……」
やばい、こいつ何もしてないのかもしれない。せめて「鍛錬」くらい答えてほしかった。
「おい何だその真顔は」
「俺っぴ元からこういうイケメンだぜ…」
自分から聞いておいてアレだが「瞑想」とか言われてどんな反応すれば良いんだよ。シャカのとは明らかに違うだろ。
「…それ、寝てるって事か?」
「寝るのと瞑想は違うぞ。自分と向き合ってるんだ」
怖ぇよ。今更何を言い出す?自己啓発?αになれなかった悔しさでこいつも想像以上にダメージを受けてるのか?ちょっと頭がおかしくなってないか心配になってきた。
「αの…」
あ、やっぱそういう話?
「αの、威嚇…ってお前わかるか?」
「威嚇?TVとかで聞いたことはあるが」
「それを使われると俺みたいなβは不利な状況になる。このコスモを以ってしても」
「あぁ、コスモとか関係無ぇよな。αのアレは…」
例えば、アフロディーテの誘惑フェロモンとか…。
「それを打開する術が無いか探っている」
「それで瞑想?」
「俺はβであるが、コスモのように内に秘めたαに匹敵する力が潜んでいないか探っているんだ」
αの力を探る?もしそれを見つけたらどうなるんだ?コスモのように覚醒させたら、αに変異してしまうのでは…。
「…お前もやっぱαになりてぇんだな」
「なりたいわけではない。そこにこだわりは無い。ただ、互角の力を持っていないと守りたいものも守れないだろう?」
そんな事を言うシュラに真っ直ぐ見つめられて、デスマスクは何だか恥ずかしくなり自然を装ってゆっくりソファーに顔を伏せた。
「アフロディーテに頼まれたんだ。何が何でもお前を守ってくれと。拳をぶつけてでもαの暴走を止めてくれとな」
「…そうか。どいつもこいつも俺なんかに振り回されてんのか」
「それだけお前は大切にされているって事じゃないのか。稀少なΩとしてではなく、蟹座のデスマスクを」
デスマスクの嫌味を覆えそうとするシュラの言い回しが鬱陶しい。
人を殺せば死面が巨蟹宮に張り付く。それは増える一方。過去の文献を見ても巨蟹宮にそういう特性があるわけではない。デスマスクが引き起こした現象だった。蟹座の能力も巨蟹宮もデスマスク自身も気味悪がられるだけ。だから巨蟹宮に従者はいないし、私室へは不必要に侵入されないよう結界を張った。
孤独を選択し続けるデスマスクを理解してくれた大人が一人いたが、仲間に殺されて死んだ。その殺した張本人はΩでも聖域で生活していけるよう特別待遇で環境を整えてくれたものの、腹の内はわからない。表裏が無く、気を許した一人の友人も異性となってから関係がおかしくなってしまった。今は想定していなかった運命で、苦手な幼馴染がただ一人、デスマスクのそばにいる。でもこいつだって本心からは…
「例えば、誰もがお前に興味が無くてどうでもいいと思っていたのなら、とっくにαに襲われているだろうな」
アフロディーテの誘惑を受けた事を思い出して胸が焼けた。でも油断しただけでそんな弱くねぇよ…Ωだからってそういう事ハッキリ言われるのは腹が立つ。
「…感謝しろって事か」
「そうだ、と言えばお前は感謝してくれるのか?」
「……」
嫌味とわかって嫌味で返してきた。しかし続けて喋るシュラの声が柔らかくなる。
「俺はお前に対してアレコレが苦手だと言いはするがな、今の生活は嫌ではない。楽しいと思うこともある」
「……」
「嫌じゃない。これがどう言うことかわかるな?後ろ向きに考えるなよ?俺に失礼だからな」
どういう事かって?結局、毎日ここで何してるのかと言えば、俺を守るためにどうすればいいかってのをずっと考えてたって事だよな?俺のためにより強くなろうとしてるって事だよな?で、それがお前は嫌じゃなくて楽しい。
…だから?俺っぴお前に大切にされて「宇宙的嬉ぴぃ♡」って喜べばいいのか?お前が好きなだけお金使ってΩの家作ってペットみたいなΩ人形のことばかり考えて楽しくなってって、頭おかしいだけだろ。自分で何言ってんのかわかってんのか?恥ずかし気もなく言いやがって。俺のことばかり考えてるって本人に言うとか馬鹿なのか?あぁ、こいつ鈍感馬鹿だったぜ。だからβ止まりなんだよ…。

 考え込んで何も言えずソファーに突っ伏していると、シュラは洗い物や片付けを終えてトイレへ行くため部屋を出た。その隙にブワッ!と起き上がったデスマスクはシュラの不在を確認し、音を立てず部屋から消え去って直ぐ上の自室へテレポートした。
「…まじで、馬鹿か…」
両手を自分の頬に当てる。抑制剤はもう効いているはずなのに顔が、体が火照ってくる。触れたい衝動はそこまで強くない。我慢できる。
でも…。
デスマスクは目を細めてベッドの上で丸くなった。
「あいつ、ずっと俺のこと考えてんのかよ…」
"嬉しい…"
どこからか頭の中でこだまする。右手を下着の中に差し込んだ。
「なんだよ、"当然"みたいに堂々と言ってきやがって…」
"嬉しい、嬉しい、嬉しい…"
と体の芯から込み上げてくるものは、"気持ちいい"よりも…"幸せ"…?
発情期を知ってから…いや聖闘士になってから初めてこんな感覚に包み込まれた。きっと、心から好きになれる相手と結ばれる時にはこんな風に思えるんだろう。それがαとΩであるならば、そんな幸福感の絶頂で番になるのだ…。
「βの、くせにぃっ…!」
αになってみろよ、αになってみせろよ、じゃないと俺は守れないぞ!俺の、俺のために…αになって…。って、あいつがもし、αになったら…どうなっちまうんだ?
「だめだ…怖ぇ…引き摺り、込まれるぅ…」
…あぁ…オレ…おかしく、なって…。Ωの、せいで…。
膨らみ続ける快感に負けたデスマスクは理性を手放し、思い描く愛の情景を思いきり頭いっぱいに広げた。相手はちゃんとおれのこと好きなやつがいい。αの本能じゃなくて、いつも、普段からおれのこと考えてくれて、おれと同じくらい…おれよりも強い愛と欲で、おれの全部を甘やかしてほしいよぉ…。
朦朧とするデスマスクはふにゃんと微笑みながら、処理をするのではなく初めてこの行為を"思い描く恋人"と共に心地よく楽しんだ。

 隠れ家に来て10日目になると、デスマスクはもう朝昼晩を自室から出て食べるようになっていた。抑制剤も2日前から飲んでいない。ソファーにドカっと座って待てば、シュラが焼いたパンと水を持ってくる。もう自分でできるくらい動けるのはわかっていると思うが、シュラはデスマスクに「自分でやれ」とは言ってこなかった。二人分の洗濯も掃除もやってくれる。他人と同じ屋根の下で過ごすのは修行時代ぶりだったが、部屋は違うし約束通りシュラの方からデスマスクを訪ねる事は無かった。シュラの生活音がうるさい事もなく、迷惑になるような趣味も無く、ただ自分が気が向いた時に1階へ行けばそこにいる。巨蟹宮と磨羯宮を思えばこの生活は距離が近いものだが、でも聖域にいる時とそう変わらないなと思った。
求められない…この事は普通なら不安に思う事なのだろうが、シュラがしているのは放置とは違う。デスマスクのことは常に気に掛けている。だからすぐ、何かあれば…食事だとか着替えが欲しいとかの要望に応えることができていた。都合の良い存在だな…とデスマスクは本心とは違う言葉で片付けた。

「もうさ、明日聖域に戻っていいぜ」
「発情期終わったのか」
「多分」
デスマスクが切り出した話にシュラは黙り込んでしまった。
「どうした?」
「いや、帰るはいいが…明後日でもいいか」
「俺は構わないがここにいてもやる事なんて無いだろ」
「やる事はないが日持ちしない食材は食べてしまいたい」
そんな事のために急いで聖域に戻ろうとせず、呑気にもう一日ここで過ごすというのか?一瞬呆れたが、シュラの真面目さが違う方向に発動したんだなと思った。
「たまに俺は来るつもりだが、数ヶ月家を空けるとなれば冷蔵庫は切っておきたい」
電気垂れ流しでも聖域の金だし…と思うが、それはシュラも解っていてのこの選択なのだろう。言うだけ無駄だ。
朝食を食べ終えたデスマスクは何も言わず部屋を出て行った。シュラが洗い物をしているとすぐにデスマスクが戻って来る。洗い終わった洗濯物をカゴに入れて持っていた。
「…外に出てみてぇから行ってくる。家の前なら良いだろ?」
あぁ、と返せばトコトコ歩いて出て行く。
気が利く奴…
シュラはデスマスクのそういうところは好きだな、と思った。さて、デスマスクは洗濯物を外へ持っていっただけなのか?干してくれているのか?気になって洗い物を一気に終わらせた。

 テレポートというのは、デスマスクの場合一度でも行ったことのある場所で通用する。もしくは地図などで正確な座標がわかれば、ほぼ間違いなく成功する。デスマスクは目の前に広がる森と隠れ家を交互に見渡した。
太陽の位置から察するに家は南向き。家の中にあった備品や食材の表記はほぼ英語。イタリアやスペインではなさそうだ。森の木は広葉樹が多い。季節はギリシャと同じで夏だろう。北半球で間違いないか。湿っぽさは感じられないので赤道からは離れているのか?ここに来てから一度も雨は降っていない。単に乾期なだけだろうか…。
ここがどこの国のどの辺りで地図で見ればどう、とわからなくても、実際に存在するこの場所がイメージできればいい。次回もここまで光速移動するのは嫌だと考えていたデスマスクは、テレポートを使うための下見に外へ出たのだった。
「あいつも一緒にテレポートしてやるべきか…」
考えながら、洗い上がったタオルを一つ手に取りバサっとはたいて広げる。木から木へロープを渡しただけの物干し場に引っ掛けて、ピンチが無い事に気付いた。
「めんど…」
どこにあるか聞きに戻ろうとした時、ちょうどシュラが一式持って家から出てきた。こちらを見て何かニヤっとしてるのが苛ついたから、やっぱ帰りも次来る時もこいつは走らせようと決めた。

ーつづくー

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2023
12,12
こんだけ描けたら普通に原稿できたやん…と思います(・ゝ・)
もういっそ先にオメガバース関係仕上げてしまおうかな。どのみちエル誕間に合わないだろうし。シュラ誕が潰れる可能性あるが…。





軽い気持ちで描き始めたのに段々シリアスじみてきて(笑)自分、どんだけしっとり好きなのか。ここまできたら、ちゃんとシュラに攻めていただきたい。
σ(・ゝ・)

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2023
12,12
 二人で過ごす隠れ家が完成しておよそ半月後、巨蟹宮から磨羯宮にいたシュラに対して「アレが来るかもしれない」とデスマスクがコスモを利用したテレパシーで語りかけた。シュラは「わかった、待ってろ」とだけ伝え、急いで教皇宮に向かい、たった今からの予定全てをキャンセルした。迷ったが双魚宮にも立ち寄り、アフロディーテに「聖域を頼む」と伝えると「私一人で十分だからさっさと行け」と素っ気なく追い出された。隠れ家には宿泊に必要な物は揃えてあるし、シュラ自身はデスマスクに異常がない限り外に出て動くこともできる。小さな鞄一つを持って、巨蟹宮へデスマスクを迎えに行った。

 巨蟹宮の私室の居間にデスマスクはいた。怠いのかソファーの上で横になっている。
「おい、大丈夫か?」
声をかけると顔を上げたデスマスクの瞳が潤んでいたが、泣いた感じではない。
「歩けるか?」
という問いかけにゆっくり起き上がった。思ったより発情期が始まってから時間が経っているかもしれない。
「薬は?」
「…飲んだ」
「あまり効いてないのか副作用なのか…」
Ωが確定してからデスマスクは医師から強めの薬を処方してもらったと言っていた。眠気が出たり、欲情を抑え込むため熱が上がり過ぎたりで発情期の症状と副作用は区別がつきにくいらしい…これもシュラが本で得た知識だ。どう見ても怠そうだが連れて行くしかない。Ωのフェロモンが出ている可能性を考えると私室から外に出るのは危険だが…デスマスクと自分の荷物を肩にかけてから本人を抱き上げようとした。
「…っ?!ちょお!待てよぉ!」
「あっ、暴れるな!」
デスマスクが手を突っぱねてシュラに抱き上げられるのを嫌がった。
「フェロモンが出ていたらゆっくり歩いて下りるのは危険だろ?!俺が一気に運ぶ!」
「そんなん嫌だぁ!」
言われて、面倒くさい!と急に腹立たしくなった。

「嫌とか言ってる場合じゃないだろ!!」

「っ…?!」
少し強めに声は張ったが、驚く程か?とシュラが不思議に思うくらいデスマスクは小さくなって身を固めている。
「…嫌なら、もっと早く教えてくれ…」
体勢を整えてデスマスクを抱き直し、十二宮を一気に駆け下りるため息を整えた。
「だって…お前に教えた時はこんなんじゃなかったんだよ…30分くらいで、一気にきて…」
「…そうか、まだよく判らないよな…怒鳴って悪かった」
私室の扉の前に立つと、触れていないのに自然と扉が開いた。
気が利く奴だな…
両手が塞がっているシュラのためにデスマスクがサイコキネシスで開けてくれたようだ。抱く腕に力を込めて、シュラは光の如く一気に聖域の外まで突っ切って行った。幸い途中でαに邪魔をされるような事は起きなかった。

 シュラの脚は光速を極めた者たちの中でも特に速い。
「このまま直行する」
聞こえやすいよう走るスピードを緩めてデスマスクに声をかけた。
「目隠しは…」
「あぁ…鞄の底にあるが足を止めるのは面倒だな…。目を閉じていてくれ」
「へ?…いい加減過ぎねぇ?…」
「信用しているぞ」
その声にデスマスクは少し考えるようにしてからハタッと瞼を閉じ、シュラの胸に顔を押し当てた。更に腕も背中に巻きついた。その様子にシュラは満足そうな顔をして、一刻も早く安心させるために再び光の速さで隠れ家まで駆け抜けて行った。

 光の筋は海の上までもを渡りどこかの島国へ。町外れの深い森の中に隠れ家はあった。日差しは強いが空気はカラッとしていて吹いてくる風も心地良い。小さな二階建ての家に入ってシュラはデスマスクをベッドの上に下ろした。
「もういいぞ」との声にデスマスクは目を開けて、そこから初めて見る部屋を眺めた。冷蔵庫や電子レンジに電気ポット…ホテルの一室のような、部屋から出なくてもそれなりに過ごせる環境が整っていた。シュラは壁にある冷房のスイッチを押しながら「ここは二階だが部屋を出てすぐにトイレと洗面もある」と説明した。
「俺は一階にいる。シャワーと台所は一階にしかないが、辛い時は二階だけでも過ごせるだろう」
前回、初めての発情期の時には巨蟹宮の私室で何を食べていたのか、どういった物があると良いのかを一通り聞いていたので日持ちするゼリーや食べやすいお菓子、飲料水などは既に買い置きされている。症状が重い時は体調不良の時と同じようで食欲が湧かないらしい。まだ一度しか経験は無いが、発情期のピークは2、3日でそれを過ぎれば食欲も徐々に戻ってくるとの事だった。
「余程の事が無い限り俺の方からこの部屋に入ることはしない。俺が洗ってもいい着替えは階段から落としてくれ。嫌なものは溜め込んでおけ。食事が摂れるようになれば準備してやるから教えてくれ。」
そう告げるとシュラはデスマスクに布団をかけて部屋を出て行った。

 Ωの発情期とは、受胎を熱望する体が種を求めて激しく疼くらしい。自らの存在を知らせるためにフェロモンを発し、生殖本能の強いαを誘う。Ωの本能を拒否する者は薬や道具などを使って鎮めてはぶり返し、また鎮めてはαを求めて熱くなる体に耐え続ける。耐えられなければαの匂いを探り、求めて、自ら彷徨い歩き、襲われに行ってしまうΩもいる。個人差があるとは言え、そのような極限状態を目撃されてしまうのはシュラ自身も絶対に嫌だと言い切れる。なので、症状の重い数日間だけでも一人で乗り越えられる環境を整えてやりたかった。
αを頼れば発情期の抑制剤を服用しなくても症状が軽くなると言われるが、まだ15歳である。デスマスクに勧めるには無理があった。避妊薬を使うとしても妊娠のリスクは排除できないし、何よりも発情期中αに頸を噛まれると"番"という、一生をそのαに捧げ解除のできない肉体関係が成立してしまう。フェロモンに誘惑されたαが見ず知らずのΩを噛んでしまい、取り返しがつかなくなるという事件が度々報道されていた。それを苦にして自殺してしまうΩもまた。ただ、その番関係もαとΩ双方に愛情があるのならば最高の幸せを得られるものであった。αからの愛情でΩの発情期も軽くなり、噛まれる事で頸から発せられるΩのフェロモンも、番となったαにだけ届くように体が作り変わる。見知らぬαを誘惑してしまう事も、される事も無くなる。正しい番関係は、愛するΩを他のαから守る唯一の方法だった。

 一階にある居間のソファーに腰掛けてシュラは考えた。いつかはデスマスクも番を受け入れる時が来るのだろうか。その前に聖戦が始まってしまうだろうか。今の体のまま戦いに出る事は…。発情期の最中に聖域が攻め込まれればデスマスクをここに残してシュラが戻るだけで済むが、戦闘中に発情期が始まってしまったらデスマスクを連れ出せる余裕なんてあるのだろうか。実際にサガはどこまで考えているのだろう?以前デスマスクと話した時は考えても答えの出ない先のことについて有耶無耶にしてしまった。前例の無いΩの黄金聖闘士…まさか、デスマスクを保護し続ける目的は戦力とは別に本気でα黄金との子どもを作らせるつもりでは…?秘密が守られているとはいえ、聖域外の連携している医師たちにもΩ黄金の存在は知られている。仮にデスマスクが黄金聖闘士を解任され聖域を出たとしても稀少な存在を手にしたい者が湧いてくるはずだ。
「…結局、あいつが安らげる事はもう無いのか…?」
いっそのこと、二人でずっと誰にも知られず暮らし続けていけたらとも思ったがそんな事を成し遂げるのは無理だとわかるし、そもそもデスマスクのためにそこまでする必要があるのかとシュラは我に返った。いつからか、デスマスクの事を考えてしまう。βだから頼むぞと、サガやアフロディーテから任されたためと言えばそうだが、それだけではない。Ω判定が出る前…出会った時からずっと、シュラは心の奥底でひっそりとデスマスクを見つめ続けていた。

 部屋からシュラが去った後、デスマスクは薬の影響もあってかそのまま眠りに落ちていた。ふと目が覚めると陽が傾いて薄暗くなってきている。トイレに行こうと部屋を出たら、下の階からシュラが台所で何かを作っているような音と匂いが漂ってきていた。あいつ、料理できるんだなとぼんやり思いながら部屋に戻り、冷蔵庫から水を出して抑制剤を飲む。また布団に潜り、いや、お湯を注ぐだけで完成する類のものかもしれないと考え直した。
一息ついて、ぼうっと部屋を見渡してみる。直接言ってくることは無かったが、シュラはデスマスクをベッドに下ろしてから部屋を出るまで「見てみろ凄いだろ」っていう自信に満ちた顔をずっとしていた。余裕が無くて何も返せなかったが、自信ありありで少し鬱陶しい感じがα由来のものでないと言うならば素でタチが悪いとしか思えない。
「あれでβなのか…」
自分でフェロモンが出ているのかどうかはわからない。何の動揺もしないシュラは当然感じられないようだ。今回初めて飲む抑制剤が効いてフェロモンが抑えられているのかすらわからなかったが、今のところ体に触れたい衝動は抑えられている。シュラに抱き上げられた時も平気だった。だからおそらくこの怠さは副作用が強く出ているのだろう。

 シュラは初めて会った時から苦手だと感じた。誰とも上辺は適当に付き合えるデスマスクでもシュラを前にすると声が詰まってしまうことが時々あった。アフロディーテもそれは知っていて、でも彼は「苦手というより…」と言葉を濁した。
Ω判定が出る前から、シュラの気配に油断すると自分を見失いそうな感覚に陥る時がある。全てを捨ててダメになってしまいそうな。悔しいけど、こいつはかなり力のあるαなんだろうなと思っていた。だから、どうしてもβという判定に納得がいかない。双魚宮で初めての判定結果に愚痴っていた時、シュラが先に帰った後でアフロディーテの意見も聞いた。アフロディーテはデスマスクが思うよりシュラはβっぽいと感じていた。また、デスマスクがΩだったからシュラにはαになってもらいたいのでは?とかおちょくってきた。
何だそれは、自分一人がΩというだけでもキツいというのに、シュラにはαになって欲しいってほんと、それ何なんだよ?「αであるはずだ」とは思うが「αになってほしい」はちょっと違う。デスマスクが仮にαだったとしても思わないだろう。むしろシュラがβで愉快なくらいだ。αになってほしい、だなんて。そんなの…そんな、求めるように乞うことなど…。認めたくなかった。

 改めて部屋を眺める。調子に乗った顔を見せられるのは腹が立つので本人に伝える気は無いが、この隠れ家はデスマスクの意見もしっかり取り入れた上でシュラの配慮が尽くされており、よくできている。蝋燭と薪で生活させられていた修行時代のボロ小屋とは比べ物にならない。町外れだろうしどうやって電線を繋いでいるのかとかガスがどうとか気になるが、聖域の裏技を使ってどうにかなってるのだろう。積み上げられたティッシュ箱の多さは生々し過ぎて笑えるが。
あれからまた何冊も雑誌を買って読んでいたのだろうか?Ωの事を知り尽くしているなと思った。一階がどういう作りになっているのかまだ見れないが、ピークが過ぎるまでシュラはこの下でひたすら鍛錬でもしながら過ごすのだろうか。あいつ暇な時は何をして過ごしているのだろう。長い付き合いなのによく知らなかった。庭はあるのか?窓の外は木しか見えなかったがどんな場所なのだろう。この部屋、忙しい合間を縫って作ったんだよな。サガに頼まれて、Ωになっちまった俺なんかのために。面倒くさいと思いながらも手を抜くこと知らねぇで、キッチリやったんだろうな。俺のこと…考えたりしながら準備したんかな…。今、お前と喋りたいかも…。あぁ…コレが終わるまで来てくれないのか…。別に…お前なら…来てくれても、いいんだけどな…。
 再び抑制剤の副作用からくる眠気に襲われたデスマスクは、うつらうつらとシュラの事を考えながら眠りに落ちた。

ーーー
 バサッバサッ
何かをはたくような音でデスマスクは目を覚ました。カーテンを閉めずに眠っていたので陽の光が差し込み、部屋の中は明るかった。
「朝、か…」
今度はパン、パンと聞こえてくる。ぼやんとしながらベッドから降りて、気になる音を探って窓の外を覗いた。外の景色は青い空と深い緑の森がひたすら広がっている。遠くは霞んで、境目が雲なのか海なのかよくわからなかった。またバサっと聞こえてすぐ下を見ると、家の前の狭い空間でシュラが洗濯物を干している。磨羯宮の私室に入る事は滅多に無かったし、シュラのこういう日常風景を見るのは新鮮だった。
洗濯も人並みにできるのか…
とぼうっと見つめていたら、不意にシュラがこちらを見上げて手を振ってきた。
「あ…」
思わず手を振り返したが、自分がした事が急に恥ずかしくなり、シャッ!!とカーテンを閉めてベッドに戻った。その直後、体が熱いと思って抑制剤を慌てて飲んだ。直ぐには効かない。
「くそっ…!」
熱い…突然火が点いたようにお腹がジンジンしてくる。早く効け!と、効果が出るまでの気休めにベッドの上で冷たい水を口の端から溢しながら何度も飲み込んだが、もうそういう問題ではなかった。
「あぁ…く、そぉ…っ!」
外から時折洗濯物をはたく音が聞こえる中、デスマスクは疼く体を捩らせながら下着の中に手を伸ばした。

 シュラは朝起きて洗濯機を回し、その間に朝食を摂った。全自動が買えるくらいのお金は支給されていたが、自分が使い慣れていた二層式の洗濯機を隠れ家にも買ったため途中で洗い終わった衣類を脱水機に移し替えて水を切る。そして朝食の片付けも終えてから外へ洗濯を干しに行くというのは修行時代から変わらない朝の生活習慣だった。
聖域に来て数年は洗濯や部屋の掃除を磨羯宮の従者に任せていた事もある。しかしサガが起こした事件以降、磨羯宮からは従者を払い一人で生活するようになった。アフロディーテも同じだったが、デスマスクだけは聖域に来て1ヶ月くらいで従者を払っていた。どちらかと言えば従者をこき使うタイプに思えたので当時は意外だったが、デスマスクについて知るほどそうなるのは当たり前のことかと納得した。
そんな事を考えながら外で洗濯物を干していると、背後にデスマスクのコスモを感じた。振り向けば窓からこちらを覗いていたので何気なく手を振ってみれば向こうも振り返してきた。直後、カーテンを閉められてしまったが、2、3日は全く姿を確認できないつもりだったので少し安心して笑みが溢れた。

 発情期の間、シュラがやる事は正直ほとんど無い。聖域内でやっていた事は事務処理より雑兵や聖闘士たちの監視、候補生への指導、逃亡者の処刑などで外に持ち出せる仕事は無かった。体を鍛える以外に趣味と言えるようなものも無い。いや、デスマスクのΩ判定が出てからはΩについて調べる事が趣味のようになってはいる。今はαからの威圧に対抗する術を学びたいと思っているが、自分が見た限りの本ではそれに関する記述がほとんど見られなかった。研究する価値がありそうなものだが、優秀なαの研究者であるほど追求するほどのものでは無い、αには敵わないのだから目を逸らしておけばいい、そんな感覚なのかもしれない。コスモをより研ぎ澄ませば凌げるだろうか?やはりコスモとは別の感覚を刺激するものなのだろうか。

 性の違い…世の中には生まれ持った男女の肉体と心の男女が噛み合わない者がいる。第二の性にもそういうものはあるのだろうか。単に、理想としていた性とは違う悔しさではなく、本来持って生まれるべきだった第二性の食い違いが。上辺の恋愛感情を超えてどうしても特定のβに惹かれるΩとか、βに惹かれるαがいてもおかしくないと思う。誤診断自体は実際に報告されているが、誤診ではなく、確かにβであるはずなのにαと互角の力を持つ者くらいいるのではないか?
例えばデスマスクだってαに匹敵する力を持っている。少なくとも聖闘士ではない並のαに比べれば遥かに強く優秀な能力を持って黄金聖衣を勝ち取った。確実に能力は高いはずなのに、なぜ遺伝子はΩが強いのか。なにか…別の強い力によって姿だけΩに歪められてしまった…そう言われた方が納得できる。それが神であるのか何なのかはもちろんわからないが。
シュラ自身もα並の力を持ちながらβに振り分けられた。たまたまと言えばそうだが、この状況…考えようによってはまるでデスマスクのためにβになったようにも思えないか?シュラがβでなければ誰がデスマスクの世話をしていたのだろう?一定の距離を保っていた二人がなぜここで交わった?それもαとΩではなく、βとΩとして。
自身の第二性に抑え付けられているだけで、αの力が眠っているとは考えられないか?夢のような話に過ぎないか?突然変異種やイレギュラーを起こす個体は必ず存在する。それが長い歴史においては進化の第一歩でもあるのだから。聖闘士たちが切り拓いてきた能力もそうだ。βが、αに対抗する術が自分の内側に隠されていないだろうか…。
シュラは自室のベッドの上で静かに目を閉じてみた。息を整え、自分の心に目を向けるつもりで。

 月のない空を、二つの星が強い光を放ちながら、追いかけるように長い尾を引いて流れていく景色が浮かんで、消えた。

ーつづくー
※ストックが無くなったので少し間があきます。

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