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そこはかとなく

そこはかとない記録
2024
01,06
 2人が18歳の夏。スケジュール帳を眺めていたシュラは、何となくデスマスクの誕生日前後の発情期に異変が起きている…と警戒していた。今日もまた予定日直前のデスマスクを連れて隠れ家へ来ている。デスマスクは元気そうに夕食を食べて部屋へ戻って行った。始まるのは明日か明後日くらいか…。今回も巨蟹宮の私室へ侵入する者がいるだろうか。今はデスマスクの力も安定しているから侵入できないだろうが、明日明後日には…。
「アフロディーテにでも、頼めれば良いが…」
棘のある事を言いはするが、彼は変わらず自分たちの味方でいてくれる。しかし、信用できると思う心と、もしもアフロディーテも侵入者の一人であったら…と思う心がぶつかり合って決断が下せなかった。

 翌日からデスマスクは全く下りて来なくなった。発情期の始まりを察してスケジュール帳に記録を残しシュラが眠りに就いた、その夜明け前――。居間の方で物が倒れたりする音に目が覚めた。
まさか、下りてきているのか…?!
慌てて居間へ向かい電気を点けると、台所にある椅子が倒れ脇でデスマスクが横たわっている。机に置いていた鍋や小物も床に落ちていた。
「おいっ…デスマスク!」
駆け寄ってみると保護首輪以外、何も身に付けていない。荒い息を繰り返して腰を震わせている。
「どうしたんだ?!」
シュラが問い掛けても言葉にならない唸り声を上げるばかり。それまで触れるのを躊躇っていたが、シュラは堪らずデスマスクを抱き上げて顔を覗き込んだ。乾き始めの液体や汚れで、少しぬめる。
「やめろぉっ…!!」
顔を左右に振って拒絶しながら、太腿を擦り合わせて腰を捩った。右手を床に伸ばして何かを探るので見てみると、近くにΩ用の器具が転がっている。
…こいつ、挿れるのは嫌だと…。
ぬらりと長い器具が体内用である事はシュラが見てもわかる。少し品の無い雑誌であればよく広告が載っていた。眉をしかめながら腕を伸ばしてぬめつく器具を手に取ると、すぐさまデスマスクに奪い取られる。そのままシュラの腕の中で横になって、震えながら後ろ手に挿入を試みているようで…。
「…おい…やめろっ…俺の前だぞっ…!」
こんな事を晒すのはデスマスクのプライドが許さないだろと咄嗟に腕を掴んで体から離せば、シュラを見上げてボロっと大粒の涙を流した。
「へ、部屋に戻ろうっ」
暴れるデスマスク抱いて立ち上がり、急いで階段を上って部屋の中へ放り込みバァン!と扉を閉めた。中の様子は見ないように努めた。心臓がバクバクする。少ししてから、泣くような呻き声が聞こえてきて胸が締め付けられた。
「……辛い……」
苦しい表情のままシュラはそっとドアノブから手を離し、居間へ戻ろうと階段を下り始めた、が――
「っ?!」
半分を下りた時、部屋の扉がバンバン叩かれ、シュラが振り返ると再び部屋から出てきたデスマスクが階段を転げ落ちてきた。
「ぅわっ!!」
デスマスクを抱き止めるも、勢いのまま二人は階段の下まで落ちていく。
「デス…大丈夫か…」
下敷きになったシュラはデスマスクに押し潰されながらも声を絞り出した。肩を押して上体を起こそうとすると、腕を回されデスマスクに抱き締められてしまう。
……これは、よくない……
シュラの上で雑に腰を揺すっている。シュラは抱き締められながらも勢いをつけて起き上がり、デスマスクを抱えたまま座った。
「……デス、すまない…俺はαではない…」
言葉は届いているのだろうか、より強くしがみ付かれ間もなくデスマスクの腰が震えた。
「……デス……」
シュラは泣いているデスマスクの背中に腕を回し、乱れた髪を撫でてやる。シュラを抱き締めていた右手が離れ、デスマスクの手が二人の間に滑り込んできた。
「……でも、持っている……」
低い声で呟いたデスマスクはシュラの股を探っている。
「……できない、だめだ……」
「……挿れるだけで、いいっ……」
震えて、今にも溢れそうな涙が瞳に溜まっていくのを間近で見つめた。
「好きになった奴のために、我慢するんだ」
「お前が好きっ!!!」
再びぼろぼろと涙が零れ落ちていく。
「デス…「お前でいい!!」
「お前でいいから!!もう誰でもいい!!」
「それは、良くないんだっ…!」
遂にシュラのハーフパンツを乱暴に引き下げようとする腕を掴み、捻りながらゆっくりデスマスクを組み敷いた。
「いってぇっ!」
左手も掴み、デスマスクの上に座って動きを封じる。脚だけは元気で背中をガンガン蹴られた。
…どうする、どうすればいい?!
部屋へ戻してもまた出てくるだろう。鍵は内側からしか掛けられない。いっそ自分が家の外へ出てしまえばデスマスクを閉じ込める事は可能か…?!それともっ…器具を使って、こいつに擬似体験をさせるようにでもすれば、もしかしたら…。
そこまで考えて、シュラはふと緊急用の自己注射薬を持っている事を思い出した。
今の状況は…おそらく他人に襲いかかっているという事だから、緊急だよな…?!
注射薬のある自室まで抱き上げて連れて行こう、そう決めて視線を落とした時デスマスクが泣きながら声を震わせて「しゅら…」と呼んだ。
…一応、認識しているのか…?
「いつもシてくれんのに、ひでぇよぉっ…」
「……」
「おれ…オメガになったのに、ぜんぜんデきねぇからぁ?」
…いや、やはり意識は曖昧なのだろう…。
「しゅらぁ、頼むから…つづき、はやくぅっ」
聞いた事もない甘えた声、庇護欲を掻き立てられる姿。
「がまんできねぇよぉっ!」
「楽に、してやるからもう少しっ!」
シュラは唇を噛んでデスマスクを自室まで運んだ。ベッドに下ろして鞄を漁り注射薬を手に取る。これがどういう効果を発揮するのか解らない。効かない可能性もある。でも先ずはこれに縋るしかない!
「な、なんだよ…それっ…!」
ベッドから転がり下りてシュラの隣まで這ってきたデスマスクが注射薬を奪い取ろうとした。
「抑制剤だ、緊急用のっ!」
シュラが薬を持つ腕を天に伸ばせばデスマスクも腕を伸ばして取ろうとする。
「そんなんっ…使うのか?!おまえ…」
「…きっと、楽になると思う、邪魔しないでくれっ!」
軽く組み合ってバランスを崩したデスマスクが床に手を付いた瞬間、シュラは左腕でデスマスクを抱いて背中から覆い被さった。注射薬を持つ右手の指で器用にキャップを外し、デスマスクの右太腿に振り下ろす。
「おれっ…!そんなに、ひでぇ…?」
顔は見えないが、涙ながらに訴える声が酷く切なく響いて腕を止めてしまった。
「おまえは、こんなおれ、いやだから、薬つかう…」
「……」
「みっともなくて、けものみてぇだから、もどそうとする…?」
シュラは目を閉じて一息吐いてから針をデスマスクに突き刺した。
「ふ…ぅっ…」
痛みは感じないのか投薬中もデスマスクはシュラが抱く腕に両手を添えながら、発情期の熱に震え静かに泣くだけだった。

「…終わった、大丈夫か?」
注射を終えて力が抜けてきたデスマスクを仰向けにし、膝の上に抱き直して顔を見る。ぼんやりした目で「ひどい、おまえきらい…」と小さく呟いている。薬の影響かデスマスクの体がドクンドクンと強く脈打っているのが伝わってきた。
「αなら、こんなこと、しねぇのに…」
「…嫌なことしたな…暴れず、我慢してくれたんだな」
「おまえが、こんなおれ、いやっていうからぁっ…!」
また大粒の涙をぼろぼろ溢して泣き出してしまった。
「こんなずっと近くにいるのに、なんで抱いてくんねぇのぉおっ!べーたでもできるだろぉ!」
「…これが、俺の役割だからな。お前のフェロモンが効かないからそばにいられる」
「抱いてほしかったぁ!ぐちゃぐちゃになりたかったぁっ!!」
「駄目だ!!それは許さない!!」
「っ……」
デスマスクの言葉に荒らされた巨蟹宮の私室が思い出され声を荒げてしまい、慌てて息を整えた。
「いや……それは、俺がする事ではない…」
「してた!今までずっとしてただろぉっ!」
…一体どんな幻覚を見ていたんだ…シュラをαと間違えているでもないデスマスクの訴えに心の奥が疼く。
「おれ、やっとオメガになって、おまえとつがっ…っ!」
デスマスクが突然口元に手を当てた。泣き過ぎて…と思ったのも束の間、普段から血色の悪い顔色が黄緑色に変わっていく。
「っおい…デス…?」
「っ…ぁ…っ!」
少し体を揺すった途端にデスマスクは顔を背けて嘔吐した。
「お、い…大丈夫か?!」
慌てて体を支えながらうつ伏せに戻し背中をさする。昨日から何も食べていないからか出るものはほとんど無かったが、逆にそれが辛いようで首元を手で抑えていた。
これは…副作用か…?
しばらく嘔吐を繰り返してから、息を荒くして「いてぇ…いてぇっ…」と繰り返す。頭に手を持っていこうとする動きから頭痛がきているのかと思った。
「ば、ばくばくするっ…しんぞ…ぁ…しぬ、かもぉっ…!」
「お、落ち着け、大丈夫だ!」
そう言ったところでシュラも突然の急変に落ち着けなかった。ベッドの上にあるタオルケットで汚れたデスマスクの口元や手をぬぐい、ぎゅっと抱き締めた。意味は無かったが体が自然とそう動いた。抱き締めて、不安に陥っているデスマスクのナカに直接届けるつもりで「大丈夫だ」とコスモで語りかけて…
――そう、コスモ――
やがてシュラは自らのコスモを必死に燃やしてデスマスクの全身を包み込んだ。


――真夜中、眠ったままの誰かを抱いて森の奥へとゆっくり歩いていく。冷え切って澄んだ空気が頬に痛い。チラついていた雪の粒が大きくなっていく。二人はどこへ行くのだろう…その先は…闇と夜空が重なって…ほら、境目が…わからなくなっていく…――


 どれくらいそうしていたのだろうか。いつのまにか夜が明けて、光がカーテン越しに漏れている。腕の中のデスマスクは静かに眠っていた。
「……」
部屋の状態も酷いが先ずは自分たちをどうにかしたい…。苦手なコスモでの治癒を試みていたシュラの体も思うように力が入らず怠かったが、どうにかデスマスクを抱き上げてシャワー室へ向かった。居間のソファーにデスマスクを一度横たえ、様々な液体で濡れ汚れた自身の服をその場で脱ぎ捨てた。
デスマスクの首をすっぽり守る布製の保護首輪に手をかける。ゆっくりと、首輪の中に指を差し込むと硬い物に触れた。
…普段からデスマスクはこの下に金の首輪も着けているはずだ…。
それを確信して布製の首輪を外すと、デスマスクを守る黄金の首輪が輝いてシュラは安堵した。ここにαはいないのだから守る必要が無いと言えばそうなのだが。
それからやっとシャワー室でデスマスクの汚れた体を洗い流していったが、睡眠薬も含まれているのかというほど身じろぐことすら無かった。

白い体。髪も体毛も白く、Ωである影響かシュラの手のひらに収まってしまう攻めの象徴は退化し、か弱く幼いまま。胸や腹の筋肉は受けに相応しい柔らかさと形を持っている。確かに男であるはずなのに…男Ωの神秘さに見惚れてしまう。
デスマスクはきっと男Ωの中で最も魅力的に違いない…。
そんな事を考えながら、シュラはデスマスクの体に何度も優しく触れて洗い流した。女αにも両性的な身体特徴が出るそうだが、想像する気もなければ全く興味が湧かなかった。

ーつづくー

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