2023 |
12,10 |
七月に入り年下の黄金聖闘士たちの検査結果も出揃った。当然のように全員αだった。デスマスクの発情期も終わり、現在十二宮の守護についている黄金聖闘士八人が教皇宮に集う。教皇に成りすましているサガが起こした事件の一部始終はシュラ、デスマスク、アフロディーテの三人しか知らない。年下の黄金聖闘士たちが知る真実はムウ、サガの行方不明と反逆者アイオロスの死であり、三人が知る真実とは異なっていた。彼らにとってサガは聖域に存在していない。
七人の黄金聖闘士が並ぶ中、デスマスクだけがまだ来ていなかった。
まさか来ないつもりか…とシュラが視線を教皇宮の扉へ向けた時、馴染みのあるコスモが感じられ扉が開いた。全員の視線がデスマスクに集まる。普段は注目される事を嫌う奴がこのタイミングとは…わざと遅れて来たかとシュラは考えながらこちらへ向かってくるデスマスクを眺めていた。
…いつもと違う。
伸ばしていた後ろ髪を以前のように短く切り、パカリと左右に開かれた蟹座聖衣の首元に黄金の首輪が見える。それに気付いたシュラは体の芯がゾクっと震えた。サっと視線を逸らしたついでに隣にいたアフロディーテを見ると、彼はうっとりした顔でデスマスクの首元をずっと見ている。
「綺麗な首輪を着けているな、とても似合っているよ…」
一人言なのかシュラに語りかけたのか判断できなかったが、αは本当にΩの首輪姿を喜ぶものなのか…と、βでありながら以前デスマスクに自分が言い放った言葉を思い出してなんだか恥ずかしくなった。
デスマスクは自身がΩである事をあえて堂々と見せつけに来たようだったが、年下の黄金聖闘士たちにはまだαらしさが芽生えていないようでデスマスクのΩ姿に執着するような感じはみられなかった。ただアフロディーテだけが俺を挟んで隣にいるデスマスクをずっと見つめていた。
まさか来ないつもりか…とシュラが視線を教皇宮の扉へ向けた時、馴染みのあるコスモが感じられ扉が開いた。全員の視線がデスマスクに集まる。普段は注目される事を嫌う奴がこのタイミングとは…わざと遅れて来たかとシュラは考えながらこちらへ向かってくるデスマスクを眺めていた。
…いつもと違う。
伸ばしていた後ろ髪を以前のように短く切り、パカリと左右に開かれた蟹座聖衣の首元に黄金の首輪が見える。それに気付いたシュラは体の芯がゾクっと震えた。サっと視線を逸らしたついでに隣にいたアフロディーテを見ると、彼はうっとりした顔でデスマスクの首元をずっと見ている。
「綺麗な首輪を着けているな、とても似合っているよ…」
一人言なのかシュラに語りかけたのか判断できなかったが、αは本当にΩの首輪姿を喜ぶものなのか…と、βでありながら以前デスマスクに自分が言い放った言葉を思い出してなんだか恥ずかしくなった。
デスマスクは自身がΩである事をあえて堂々と見せつけに来たようだったが、年下の黄金聖闘士たちにはまだαらしさが芽生えていないようでデスマスクのΩ姿に執着するような感じはみられなかった。ただアフロディーテだけが俺を挟んで隣にいるデスマスクをずっと見つめていた。
会議の内容は黄金聖闘士全員の検査結果、サガからシュラに相談されていた通りデスマスクの発情期に合わせて二人が聖域を離れる事についての説明と理解を求めるものだった。
すでに不在の多い十二宮ではあるが、最強クラスの黄金聖闘士かつαの遺伝子を持つ者たちからすればただ自分一人がいれば十分だ、という最高峰の自信を持つ者しかいなかった。守護が減って大丈夫かと聖域の心配をするようなのは、案外現実的なデスマスクくらいしかいなかったという話だ。
すでに不在の多い十二宮ではあるが、最強クラスの黄金聖闘士かつαの遺伝子を持つ者たちからすればただ自分一人がいれば十分だ、という最高峰の自信を持つ者しかいなかった。守護が減って大丈夫かと聖域の心配をするようなのは、案外現実的なデスマスクくらいしかいなかったという話だ。
教皇宮での会議が終わり、聖衣を脱いでからいつもの三人で双魚宮の居間に集まった。シュラの隣にデスマスク、机を挟んで向こう側にアフロディーテが座った。
「これでお前も心置きなく聖域を出れるだろう」
どこか不貞腐れているデスマスクにシュラが言った。
「そういう問題じゃねぇよ、あいつらの考えが浅いだけだ」
他の黄金たちの自信たっぷっりな姿は「それでこそ黄金!」と讃えるべきだろうが、今のデスマスクからすると「Ωそしてβのシュラも不要!」と言われた気分にしかならない。
「大丈夫だ、何が起きてもこの双魚宮だけは突破できないからな」
フフ…と自信満々に笑いながらお茶を啜る姿が美しすぎておぞましい。
「それにしてもその首輪の金は本物か?よく手に入れたな」
アフロディーテはデスマスクの首輪に触れたそうに手を伸ばしたが、そのまま机の上の菓子を摘んで食べた。
「サガがΩとしての生活に必要な物があれば何でも買ってやるっつったんだ。ちょうど誕生日もあったし」
「それは大金を叩かせたな!」
「あの黄金聖衣じゃ首元ガラ空きだしよ、普通の首輪着けてたらダサくなるだろ?」
そうだな〜と同意しながらアフロディーテは目を細めてシュラに視線を向けた。
「付き人はシュラで大丈夫なのか?物足りなくない?」
「仕方ねぇだろ、こいつしかいねぇんだから」
「ほんとラッキーだなシュラは。私がαでなければデスに付いて行けたのに…」
アフロディーテの探るような視線にシュラは少し息苦しさを感じた。子どもの頃のような純粋で悪戯っぽいものではない、刺すような抑え付けてくるような威圧感が潜んでいる。
「シュラって本当にβなのかい?」
シュラは何か答えようとしたが、息が詰まってすぐに声が出せなかった。コスモの圧とは違う、これがβとαの違いなのか…?
「「 シュラ 」」
「!!」
二人同時に声を掛けられた瞬間、金縛りが解けたかのように体が軽くなった。隣のデスマスクを見ると少し心配そうな顔をしてシュラを見ている。
「どうした?お前、一つ残ってるケーキ気になってるなら遠慮せず食えばいいぞ」
「はぁ?」
思ってもいないデスマスクの言葉にもっと気が抜けた。
「ずっと見てんじゃん」
デスマスクが残っていたケーキの皿を取ってシュラの目の前に置く。シュラが見ていたのはアフロディーテだった気がするがこの際まぁそういう事でもいい。それなら、とケーキに手を付けるのを見てアフロディーテはフフ、と笑い再びお茶を一口啜った。
「これでお前も心置きなく聖域を出れるだろう」
どこか不貞腐れているデスマスクにシュラが言った。
「そういう問題じゃねぇよ、あいつらの考えが浅いだけだ」
他の黄金たちの自信たっぷっりな姿は「それでこそ黄金!」と讃えるべきだろうが、今のデスマスクからすると「Ωそしてβのシュラも不要!」と言われた気分にしかならない。
「大丈夫だ、何が起きてもこの双魚宮だけは突破できないからな」
フフ…と自信満々に笑いながらお茶を啜る姿が美しすぎておぞましい。
「それにしてもその首輪の金は本物か?よく手に入れたな」
アフロディーテはデスマスクの首輪に触れたそうに手を伸ばしたが、そのまま机の上の菓子を摘んで食べた。
「サガがΩとしての生活に必要な物があれば何でも買ってやるっつったんだ。ちょうど誕生日もあったし」
「それは大金を叩かせたな!」
「あの黄金聖衣じゃ首元ガラ空きだしよ、普通の首輪着けてたらダサくなるだろ?」
そうだな〜と同意しながらアフロディーテは目を細めてシュラに視線を向けた。
「付き人はシュラで大丈夫なのか?物足りなくない?」
「仕方ねぇだろ、こいつしかいねぇんだから」
「ほんとラッキーだなシュラは。私がαでなければデスに付いて行けたのに…」
アフロディーテの探るような視線にシュラは少し息苦しさを感じた。子どもの頃のような純粋で悪戯っぽいものではない、刺すような抑え付けてくるような威圧感が潜んでいる。
「シュラって本当にβなのかい?」
シュラは何か答えようとしたが、息が詰まってすぐに声が出せなかった。コスモの圧とは違う、これがβとαの違いなのか…?
「「 シュラ 」」
「!!」
二人同時に声を掛けられた瞬間、金縛りが解けたかのように体が軽くなった。隣のデスマスクを見ると少し心配そうな顔をしてシュラを見ている。
「どうした?お前、一つ残ってるケーキ気になってるなら遠慮せず食えばいいぞ」
「はぁ?」
思ってもいないデスマスクの言葉にもっと気が抜けた。
「ずっと見てんじゃん」
デスマスクが残っていたケーキの皿を取ってシュラの目の前に置く。シュラが見ていたのはアフロディーテだった気がするがこの際まぁそういう事でもいい。それなら、とケーキに手を付けるのを見てアフロディーテはフフ、と笑い再びお茶を一口啜った。
今日も先に双魚宮を出ようとシュラは声をかけた。再検査結果が出てからデスマスクとアフロディーテが会うのは初めてだ。二人で話したい事もあるだろうと思って帰る旨を告げると「俺も行く」とデスマスクが立ち上がった。
「良いのか?」
「何が?」
「二人で話したいこととかあるだろう」
「別にそんな無ぇよ」
アフロディーテを見ると微笑んで手を振っている。
「君は鈍感だな、そういうところはβらしい。気付いてやれよ」
気付く?何を…。
「もうさ、君しかいないんだからしっかりしたまえ」
ため息混じりに言うアフロディーテの表情は、寂しさの混じる微笑みに変わっていた。
「良いのか?」
「何が?」
「二人で話したいこととかあるだろう」
「別にそんな無ぇよ」
アフロディーテを見ると微笑んで手を振っている。
「君は鈍感だな、そういうところはβらしい。気付いてやれよ」
気付く?何を…。
「もうさ、君しかいないんだからしっかりしたまえ」
ため息混じりに言うアフロディーテの表情は、寂しさの混じる微笑みに変わっていた。
デスマスクは軽い足取りで十二宮を下りて行く。それを眺めながら、もしかしてあいつはアフロディーテと二人になる事を警戒したのか?とシュラは考えを巡らせていた。
Ωがαを警戒するというのは理解できるが、あれほど仲良く見えたのに性差は何年もかけて築き上げてきた信頼関係をこんなにも簡単に崩してしまうのかと。形は違うが、かつてのアイオロスとサガの悲劇と重なり悲しく残念に思えてならなかった。そして今デスマスクが安心できる相手は俺しかないのかと自然に思った瞬間、また心の底で何かがムズムズと疼いた。
前を歩くデスマスクの金の首輪が太陽の光を受けてキラキラと輝いている。綺麗だ、Ωという一つの性別に呆気なく振り回される可哀想な男…一番の友人を奪われ、興味も無かった俺を頼るしかないのか。こいつはもう、聖域では一人で生きていけない…
「何考えて笑ってんだよ、お前のそういうとこが亡者より怖くて嫌だ」
いつの間にか磨羯宮の手前で立ち止まっていたデスマスクが左手を首に添えて振り向いていた。
笑っていた?
シュラはそんなつもりなかったが、たった今まで何を考えていたのか思い出せなかった。首輪が輝くのが綺麗で…それを見ていて…そんな事を正直に話してもαじみた事言うなとまた気持ち悪がられるだけなのでやめた。
Ωがαを警戒するというのは理解できるが、あれほど仲良く見えたのに性差は何年もかけて築き上げてきた信頼関係をこんなにも簡単に崩してしまうのかと。形は違うが、かつてのアイオロスとサガの悲劇と重なり悲しく残念に思えてならなかった。そして今デスマスクが安心できる相手は俺しかないのかと自然に思った瞬間、また心の底で何かがムズムズと疼いた。
前を歩くデスマスクの金の首輪が太陽の光を受けてキラキラと輝いている。綺麗だ、Ωという一つの性別に呆気なく振り回される可哀想な男…一番の友人を奪われ、興味も無かった俺を頼るしかないのか。こいつはもう、聖域では一人で生きていけない…
「何考えて笑ってんだよ、お前のそういうとこが亡者より怖くて嫌だ」
いつの間にか磨羯宮の手前で立ち止まっていたデスマスクが左手を首に添えて振り向いていた。
笑っていた?
シュラはそんなつもりなかったが、たった今まで何を考えていたのか思い出せなかった。首輪が輝くのが綺麗で…それを見ていて…そんな事を正直に話してもαじみた事言うなとまた気持ち悪がられるだけなのでやめた。
磨羯宮の中、このまま別れてもいいが念のため巨蟹宮まで送って行った方が良いか確認する。「好きにしろ」と拒否はされていない。少し考えてから今日もついて行くことにした。
「そういえば俺をどこへ連れて行くか決めたのか?」
人馬宮が見えた頃デスマスクが尋ねてきた。
「一応は」
「どこ?」
「言えない」
へ?じゃあどうやって連れて行くんだ?とデスマスクは立ち止まってシュラを見る。
「お前に目隠しして光速移動」
冗談で言ったわけではないが、マジで?嘘だろ…とドン引きしている。
「αの誘惑に負ける可能性も考えて、お前も正確な場所は知らない方がいいと思っている」
「αに尋問されて押し掛けられるかもってか?」
「黄金ならば容易いだろう、用心に越した事はない。サガもそう言っていた」
デスマスクの発情期対策は想像以上に厳重警戒だった。シュラ自身もそこまでするかと思ったが医師団たちとサガが相談した結果の判断だ。実際に先ほど双魚宮でアフロディーテから受けた重圧もコスモではなくαとしてのものだろう。油断していたとはいえβのシュラであの様だったのだからデスマスクが受けたらひとたまりも無いと思う。αの威圧を思い出したシュラはアレに耐えられるくらいの対策をしておかないと守り切れないなと焦りを感じた。
「まぁ…お前はそれだけ大切にされていると素直に思っておけ」
「Ωを思い通りに動かせるα様のご慈悲ってとこか」
デスマスクはちょうど足元にあった小石を一つ蹴る。
「俺はお前のそういう嫌味たらしい後ろ向きな発言が嫌だ」
シュラはついさっき、笑ってて怖いとか嫌とか言われたお返しのつもりは無かったが反撃するような事を口にしてしまった。
「…別に、お前に好かれたいとか思ってねぇから良いんだよっ!」
突然、ふわりと浮き上がったデスマスクはそのまま滑るように一気に下り始める。
「おいっ!」
結局、巨蟹宮まで走らされた挙句デスマスクは挨拶も無くスイーッと私室の扉の中へ滑り込み、バタン!と閉めた。死面の唸り声と、シュラの荒い息だけが響く。
まったく、少し気に障っただけですぐこうだ。
「…面倒な奴…」
そう呟くと扉の中から"ドン!!"と叩かれた。聞いてたのか…。
そのまま部屋の奥の居間にでも直行したのかと思いきや、扉のすぐ裏で俺の様子を探っているのかと思うとやはり面倒だがちょっと可愛い。そう思った今、ニヤっと笑った自分を自覚したシュラはこれがデスマスクの嫌いな笑いか…と自分の口元に手を当ててみた。
発情期の周期にも個人差はあるが、平均的には2〜3ヶ月に1度。これから年に4〜5回は二人で過ごす事になるのだから、デスマスクに好かれる必要は無いが嫌われるのは避けた方が過ごしやすい。二人の隠れ家を快適なものにするにはどうすればいいか…。それを考えるため、シュラはロドリオ村の本屋へ向かった。
ーつづくー
人馬宮が見えた頃デスマスクが尋ねてきた。
「一応は」
「どこ?」
「言えない」
へ?じゃあどうやって連れて行くんだ?とデスマスクは立ち止まってシュラを見る。
「お前に目隠しして光速移動」
冗談で言ったわけではないが、マジで?嘘だろ…とドン引きしている。
「αの誘惑に負ける可能性も考えて、お前も正確な場所は知らない方がいいと思っている」
「αに尋問されて押し掛けられるかもってか?」
「黄金ならば容易いだろう、用心に越した事はない。サガもそう言っていた」
デスマスクの発情期対策は想像以上に厳重警戒だった。シュラ自身もそこまでするかと思ったが医師団たちとサガが相談した結果の判断だ。実際に先ほど双魚宮でアフロディーテから受けた重圧もコスモではなくαとしてのものだろう。油断していたとはいえβのシュラであの様だったのだからデスマスクが受けたらひとたまりも無いと思う。αの威圧を思い出したシュラはアレに耐えられるくらいの対策をしておかないと守り切れないなと焦りを感じた。
「まぁ…お前はそれだけ大切にされていると素直に思っておけ」
「Ωを思い通りに動かせるα様のご慈悲ってとこか」
デスマスクはちょうど足元にあった小石を一つ蹴る。
「俺はお前のそういう嫌味たらしい後ろ向きな発言が嫌だ」
シュラはついさっき、笑ってて怖いとか嫌とか言われたお返しのつもりは無かったが反撃するような事を口にしてしまった。
「…別に、お前に好かれたいとか思ってねぇから良いんだよっ!」
突然、ふわりと浮き上がったデスマスクはそのまま滑るように一気に下り始める。
「おいっ!」
結局、巨蟹宮まで走らされた挙句デスマスクは挨拶も無くスイーッと私室の扉の中へ滑り込み、バタン!と閉めた。死面の唸り声と、シュラの荒い息だけが響く。
まったく、少し気に障っただけですぐこうだ。
「…面倒な奴…」
そう呟くと扉の中から"ドン!!"と叩かれた。聞いてたのか…。
そのまま部屋の奥の居間にでも直行したのかと思いきや、扉のすぐ裏で俺の様子を探っているのかと思うとやはり面倒だがちょっと可愛い。そう思った今、ニヤっと笑った自分を自覚したシュラはこれがデスマスクの嫌いな笑いか…と自分の口元に手を当ててみた。
発情期の周期にも個人差はあるが、平均的には2〜3ヶ月に1度。これから年に4〜5回は二人で過ごす事になるのだから、デスマスクに好かれる必要は無いが嫌われるのは避けた方が過ごしやすい。二人の隠れ家を快適なものにするにはどうすればいいか…。それを考えるため、シュラはロドリオ村の本屋へ向かった。
ーつづくー
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