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そこはかとなく

そこはかとない記録
2023
12,08
 第二の性の検査結果を聞いてから一年、三人の様子は以前と変わる事なく月日が流れていた。来年には年下の黄金聖闘士たちも12、3歳を迎えるため全員の検査結果が出ることになる。サガの提案ではその時まで何事もなければ三人も同じタイミングで再検査を受けようという話になっていた。

 ある日聖域からほとんど外に出ないシュラが珍しく最も近い下界のロドリオ村へ来た。外に出た目的は無かったが、とても気持ち良く晴れた日だったので何となく出掛けてみたくなり聖域を抜け出した。途中、巨蟹宮を通るがデスマスクも不在のようだった。村の中を一通り歩いたあと本屋の前で立ち止まる。目についたのは格闘雑誌などではなく、性問題についての最新情報がまとめられた本だった。
この一年間、ふと思い立っては聖域内の蔵書をあさりΩについての記述を探した。βやαについては興味が湧かなかった。聖域にある本は真面目な論文ばかりなうえ少し情報が古い。本屋にある発行されたばかりの本は専門誌と言うより大衆向けの砕けた内容であったが、それがリアルで新鮮に思えた。
少しパラパラめくるだけのつもりがつい5分10分と目を通してしまい、止まらない。タダ読みは申し訳ない…買うべきかと本を手にして振り返った時、思いもよらない人物と目が合った。
「まじ?」
シュラが手にしていた本を見て、直ぐ後ろにいたらしいデスマスクが目を丸くしていた。

 「お前全然気にしてねぇと思ってたんだけどよぉ…まぁそうだよな。βよりαの方が良いよな」
聖域への帰り道、本を買い終えたシュラを見て何を思ったのかデスマスクが気遣うように喋り出した。
「いやでもよ、気にすること無ぇって。お前次はα出るって」
デスマスクはシュラがβを気にして第二の性に関する本を買ったと思っているようだが、シュラの感心はΩにしか無かった。しかしそれを訂正することはしなかった。
「まぁもし本当にβだったとしても今の生活が変わるわけじゃねぇし、Ωみたいに悩む事は無ぇって」
ハハハっとデスマスクは笑う。デスマスクの様子は確かに以前と変わっていない。ただ、この1年の間にデスマスクは後ろ髪を切らなくなった。そういう髪型にしているだけだと思えれば良かったが、シュラはデスマスクが首を隠した意味に気付いてしまった気がしてその僅かな変化に何も言えなかった。
やはり、なんて繊細な奴なんだろう…と伸ばしたえりあしを眺め、心の奥底でまた何かが疼いては直ぐに消えた。

スッとデスマスクの視線が路面店のショーウィンドウを見る。何を気にしたのかとシュラもつられて見てみると、そこにはΩ用の保護首輪を着けたマネキンが立っていた。TVや雑誌でしか見たことのなかったΩの姿。それが例えマネキンであろうとも実際に目の当たりにするのは初めてだった。ここに展示されているという事はこの小さなロドリオ村にもΩがいるのだろうか。
「……おい、あんま見んなよ。買うのか?」
デスマスクに言われてシュラは引き戻された。
「……ハァ、ま、正直に言えばオレも気にしちまうんだよ。すげぇ悔しいけど……」
伏目がちに、素直にそんな事を告げられると普段と違う雰囲気に少し調子が狂う。
「…それは仕方ないだろう、俺たちの前では無理に振る舞う必要もない。来年には笑い話になるだろ?」
「そうなりゃいいけどな」
デスマスクにしては威勢の良くない返事だった。

ーつづくー

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