忍者ブログ

そこはかとなく

そこはかとない記録
2024
10,24
未だに読み方がナビオで合ってるのか不明ですけど、とりあえず新刊サンプルをナビオに上げておきました(・ゝ・)φ
一通りトーン貼りが終わり、影トーンいける!という事で影付けの途中ですが、どうにかサンプル部分まではできたので。



時間があったらもうちょい修正したいけど、ペーパー作るかどうかも悩ましい。エルシド様単品の下書きだけはしてあるんだよね(・ゝ・)
パロ絵ですけど、満を辞して「磨羯宮の主・エルシド卿」を(笑)LOTR。
そして反対には「ダース・シュラ」を描きたいのだが…。SWパロ。
ここにきて子が「胸が痛い」とか言うので予定が崩壊していく(゚∀゚`)仕方ないよねぇ。多分、筋肉痛だとは思うのだけど、ちょいちょい感染症もまた出てきてますので。

pixivにはまた後日サンプル出します。BOOTHも事前にサンプル出すか通販開始時に出すか迷い中。
ただ、この後発行予定のオメガバ本も購入を検討していただいている方はその時にまとめてで良いと思うんですよ(笑)待てる方は。
待てない方はペラ本で申し訳ないですがご利用くださいませ(゚∀゚)ノ

拍手

PR
2024
10,21
指のマメが親指の付け根、中指第一関節、小指第二関節のフルコースとなってまいりました(゚∀゚`)
多分、デジタルでも筆圧強いんでしょうね…早くブヨブヨから硬くなってほしい。



どうしてもベタ入れてないコマは薄っぺらくなってしまう(´・ゝ・)けどまぁ、仕方ない。

コピー本なので無くなってもしばらくは再版を繰り返しますが、将来的に何かしらのオフ本に再録することになると思います。その時修正も入れるので、今回購入してくれた方は100円引にするつもりですがその対応もイベント会場限定になるかもしれません。
通販も履歴でわかるけど返金方法がなぁ…PayPayとか?またその時考えます(゚∀゚)ノ

イベントの詳細はpixivをご確認くださいませ。
やはり今回、夜に予定が入ってきたので撤収が早めです。もっとギリギリまでいる事は可能ですが新幹線にトラブルが起きると困るので早めに(゚∀゚`)最近ちょいちょい停まりますからね…行楽シーズンで人手も多いでしょうし。
また予定の無い時にイベント参加できたらば、ゆっくり滞在したいです!

拍手

2024
10,14
秋にしてはまだ朝顔咲いているしツクツクボウシも鳴いているしな昨今ですが、やっとガチな祭りが終了!(∩゚∀゚)



引き続きひたすら原稿を描き続けます(・ゝ・)φ
残り5頁まできましたがギリギリですね。筆が遅いと言うか仕上げるのに手数が多いので、ペン入れ以降も時間がかかる。既に親指と中指のマメがやばい(笑)漫画描くのが久々だとすぐにマメができてしまう(゚∀゚`)
しかし普通絵では久しぶりの新作なので頑張ります。

自分、V系にあるまじき夏好きなので(毎年言ってる気がする)秋はそんなに惹かれないのですが、でも秋は行楽シーズンですしね。…これもよく、紅葉より新緑派と言っているけど(笑)
昨年、通販ついでに生絵(スケブ的な)のリクエストをいただいた時、やはりお弁当作りの山羊蟹を描いた気がします。
うちのデスマスク、基本的に料理はしないけど何故か弁当を作る描写だけ多い(笑)おそらくシュラは運転手やるからデスマスクは準備係っていう基本設定が無意識に出来上がっているせいではないかと。
全部冷凍食品でも、詰めれば立派な弁当になりますもんね…(´・ゝ・)
デスマスクが頑張って冷凍食品詰めたお弁当、食べたいですよね…(´・ゝ・)
蟹座のイメージ先行ですごい手作り弁当かましてくるかと思いきや、真面目に冷凍食品詰めて弁当仕上げるデスマスクを想像すると何か無性に可愛いと思えてしまうので、そんな感じです。
シュラに対する気持ちはすごくあるけど、方向性が違う、みたいな。
(・ゝ・)「作ってくれるのかと思った」
とか言うと
(゚皿゚´)「いちいち細々と作るわけねぇだろ!」
と反論しつつもちょっと傷ついちゃう面倒なデスマスク。
…だんだん、自分は何の話をしているのか…

まぁ普段デスマスクはシュラの料理を食べて甘やかされているということ。
思えばカレー漫画の時からずっとそれだなぁ。

拍手

2024
09,29

«萌兆»

スパークの新刊にオメガバ小説を!とやってきましたが、本編は出来そうなものの落書きにペン入れをして〜など、想定していた本の形にするには時間が足りなさそうなので急遽ペラコピー本にするべく描き始めました…(゚∀゚`)
オメガバ本は年内か新年に発行します。イベントないけど(笑)



こちら漫画で14頁くらいの予定です。製本すると表紙込み20頁本かと。多分まだネタも出してない新作。ネタ自体は数年前に書き出していたものを修正。
珍しく子ども時代の話です。サガご乱心ちょっと前の10歳(心の目で10歳と思って下さい)シュラ→デス。シリアスではなく、ほのぼの程度です。子どもゆえキスすらなし。

まだ田舎のガチ祭りも終わってなくて準備で時間削られますが、頑張ります(・ゝ・)φ
かわりにペーパー(エルマニ)は無理かもしれない…(゚∀゚`)

拍手

2024
09,24
「おい、何でコレがあるんだよ」
 シャワーを浴びてから居間に来たデスマスクは食卓に置いてある袋を見るなり声を上げて中身を確認した。ナポリで買ってきたことを伝えると沈黙し、無言で一つ摘んで口に入れる。
「…本物だな。地元とは言ったが俺、ナポリ生まれじゃねぇけども」
「たまたま行った先で見つけただけだ。出身地を割り出そうとしたわけではない」
「うん、でもまぁ…違うけど近いぜ。すげぇな、偶然って。さすが愛のチカラ」
 最近これを食べていなかったデスマスクはメイン料理そっちのけで美味いと喜んだ。シュラもまた食事を終えてから酒のつまみに彼の故郷の味を楽しむ。青銅も老師とムウも片付いたら、スペインに行ってお前の故郷を探し当ててやるとデスマスクは宣言した。隠すつもりなど無いが、面白そうなので自分もヒントになるような食べ物くらい用意しようと話に乗ればデスマスクはにっこり笑う。
「俺ももう一度シャワーを浴びてくる。寝室で待ってろ」
 片付けを終えたシュラはそう言い残して浴室へ向かった。

 待つ間にデスマスクは今夜もらう衣服を何にしようかと勝手にクローゼットを開けて物色する。番になってからよく持ち帰るので、昔は私服の数も少なかったのに今では10着くらい常備されている。どれも当たり障りの無い無味無臭なデザインばかりだ。いかにもデスマスクに与えるため常備していますという感じも滲み出ている。
「…これずっと置いてあるな…もう使ってないのか」
 今まで気にしてこなかったが服を退けた奥に、隠れ家へ行く時シュラが使用していた鞄がひっそりと置かれていた。シュラは普段、財布しか持たない。袋が必要な時には現地調達している。その感覚がデスマスクには合わなくて、一緒にいる時は自分の鞄にシュラの持ち物を入れる事もあった。
(…何か入ってる…?良い感じの私物だったら貰うか…)
 引き摺り出した鞄は少し重みがあり、何かが中で動く。ファスナーを開いて手にしたものは手帳だった。一冊だけではない。数冊入っている。
(あいつが手帳をつけているところなんか見たことないぞ…)
 手に取った手帳を開いて驚いた。下手な字がびっしりと書き詰められている。
「なっ…なんだコレは⁈」
 デスマスクには読めなかった。下手だからではない。ギリシャ語や英語ではなく、スペイン語で書かれたそれ。
(くっそ…わかんねぇ!スペイン語かじっておくべきだった!何が書いてあんだよ!)
 仕事のことだろうか。カレンダーにも白紙にもたくさん書き込まれている内容が気になって、どうにか読めないかと字列を睨む。
(ぴ…ぴあ…ん?ぱ、ぱすた…ぴざ…?これって料理のメニューか?なんでまた…)

「ぎゃびぃ⁈」
 真剣になっていると突然、手にしていた手帳が取り上げられて変な声があがってしまった。
「ククッ…おまえ、どこからそんな声が出るんだ」
 見上げたデスマスクと見下ろすシュラの視線がぶつかる。シュラは何も言わず手帳を近くの台に乗せた。取られたデスマスクは鞄に残る手帳を手に取るがそれも次々取られてしまう。
「…それ何だよ?何の記録?料理だけではないよな?」
 訝しむデスマスクの声に対しシュラは無表情で、手に残った手帳をパラパラと眺める。低い声で唸ってから手帳を閉じてデスマスクの隣にしゃがんだ。
「…これは、Ωが覚醒してからのお前の記録だ」
「…俺の…?」
「ハハ、今改めて見るとヤバいよな…βのくせにαばりの執念を感じる。任されたとは言えお前に関しての記録が仕事の範疇を超えている」
 改めてデスマスクに開いて見せたシュラは、何が書いてあるのかを指差しながら説明した。発情期中の様子、食事について、異変、薬のことなどはもちろん、聖域にいる時のデスマスクの状態までとにかく書けることは全て書き出していた。
「隠れ家もΩのお前を哀れんで準備したわけではない。快適に過ごせる場所を自分が用意してやれるという高揚感があった。最初から俺は、お前に関われる事が嬉しかったのだろうな…」
「あんな…気のない態度してたくせに?」
「騙していたわけではなく、お前に惹かれているという自覚が無かったんだ。βだったしな。しかし今これを見ると…」
 懐かしそうにページを捲り終えたシュラは手帳をデスマスクに差し出す。
「ずっと…心の奥底では好きだったのだろう…これはその証として十分だと思う。愛を綴る日記ではないが、お前が愛したβの俺が、お前を見続けた七年間の記録だ。持って行くか?」
 台に置いた残りの六冊もデスマスクに渡された。どれも書き込みが多くて、あの頃のシュラがこんなにも自分に目を向けていた事実に胸がギュッとなる。そこに好きの意識はまだ無かったとしても、互いを思う気持ちの熱に差が無かったのは嬉しい。デスマスクは心のどこかで自身のΩフェロモンがβのシュラですらジワジワと狂わせてしまったのではないかという思いがあった。そうじゃない、初めからシュラはデスマスクを見ていたのだ。
「要らなければ鞄に戻してくれ。ハハ、βの遺物だが捨てるのはさすがに勿体無くてな」
 そう話すシュラは笑っているが、どこか切ない表情をしている。殺したつもりでもふと湧き上がる己のβとαの葛藤は今でも解消されていないようだ。
「…読めねぇけど、スペイン語の練習兼ねて貰ってやる。番になりたくてαを強請ったが、もうβとかαとか関係無いからな?俺は今のお前ちゃんと好きだから」
 七冊の手帳をベッド脇の台に乗せたデスマスクは、両手を広げてシュラを受け止めベッドに押し倒された。
「お前が好きだから…お前がβでもαでも例えΩであっても俺はお前に抱かれたい…!」
「同じだ、俺もお前を抱きたい。性別が何であろうと愛して愛して満たしてやる!」
 首筋の噛み痕に唇を寄せ、舐めるだけでデスマスクは吐息を漏らして濡れていく。爽やかな甘い香りが部屋に満ちる。服を脱がせながら全身を唇でなぞり肌を重ねた。伝わる心音はいつも通り。体温もそう。不調なんて感じられない。
「青銅が片付いたらスペイン語を教えてやる。お前もイタリア語を教えてくれ」
 頷くデスマスクはもうシュラの熱に侵され、全てを捧げるままだ。
「聖域に残るαとΩも殲滅させたら、どちらかの国で暮らそう。ひっそりと、あの隠れ家のような家で」
 揺れながら、潤んだ瞳に満ちた涙がデスマスクの頬を伝っていく。
 夢のような事を望みながらも、きっと自分たちは再び悲劇に落ちていくのだろう。そう…望みながらも悲劇を選ぶ。αとΩの虐殺は理想の実現と並行して罰の到来を待つ時間稼ぎ。自分たちのことしか考えない二人は永久に裁かれ続ける。
 そこに気付いた今、第二の性に翻弄されてから初めて神を讃えれる気がした。

「終わったらまたお前のとこ行くから」
「あぁ、待ってる。聖衣の調子見ておけよ」
 夜が明ける前、デスマスクを巨蟹宮まで送ったシュラは私室前でキスをして別れた。日本のアテナたちはわざわざテレポートを使わず飛行機で聖域まで来るらしい。そして礼儀正しく9時過ぎに到着するという連絡まで受けたようだ。だが全てを信用するわけにもいかない。ここから長い待機が始まる。
 シュラが磨羯宮へ戻る途中、夜明け前にもかかわらず天秤宮でミロとすれ違った。
「クク…お前たちはこんな時くらい性欲を我慢できないのか?」
「明日の命もわからぬ聖闘士である限り、悔いは残したいくないのでな。求められれば愛してやるだけだ」
「聖闘士か…教皇に何を任されているか知らんが何事もやり過ぎは身を滅ぼすだろう」
「そんな事くらい理解している。お前も悔いなく生きろよ」
 手短に切り上げたシュラはそのまま天秤宮を抜けて階段を上って行った。
「だから、俺はお前たちとは違う…」
 ミロは舌打ちをして呟き、シュラが見えなくなってから自身も天蠍宮へと戻って行った。

 太陽が高く昇りつつある頃。シュラはデスマスクから貰ったアンクレットを寝室の引き出しに片付け聖衣に着替えた。磨羯宮の外に出ると、太陽の光に紛れているが時計台に灯りが見える。
「来たか…」
 晴れた空、雲がゆっくりと流れていく。肌寒い風がときおり吹くだけで辺りは静かだ。宮殿を支える柱にもたれかかり麓を眺めている最中、白羊宮の火が消えるのを見届けた。僅かに力を増したコスモの群れを感じる。
「やはり白銀では駄目だったか…任せたぞ、デスマスク…」
 磨羯宮からずっと下の巨蟹宮ではデスマスクがその時を楽しみに待っていた。

(ムウの奴…ノコノコと現れやがって…青銅を潰したら直ぐに殺してやる…!アルデバランはそれなりに闘ったようだが命など賭けることなく青銅たちを先に進めるとは…馬鹿め…殺せと言われていただろう?適当に言いくるめられたか、ただの力試しと勘違いしているのか…)
 青銅聖闘士たちが双児宮へ入った事を確認したデスマスクは巨蟹宮の中央で闇に紛れ、来るべき時を待った。外が晴れていれば灯りの乏しい宮内もそれなりに明るい。しかし巨蟹宮だけはデスマスクが聖域に来た時から太陽の光が宮内に届かず闇に沈んでいた。死面が通行人に何か危害を加える事はない。幽霊が出るわけでもない。ただただ気味の悪い巨蟹宮を通過する雑兵たちはみな一目散に走り抜けていく。
(…双児宮で何を手間取っている?悠長に作戦でも相談しているのか?)
 双児宮に邪なコスモが漂っているのはわかるがサガはそこにいない。まさか教皇宮にいるサガが双児宮を利用して青銅とやり合っているなど頭になかったデスマスクは、そこから動く気配を見せない敵に苛立ち始めた。今のところ聖衣を着ていても体調に問題はない。力も漲っている。ただ、聖衣の輝きは鈍っていた。それが一層デスマスクを巨蟹宮の闇に埋めている。
(あぁ…早く葬ってやりたい!)
 聖衣の輝きなど気にも止めず、床に張り付く死面を踏み付け待ち侘びた。

 昼過ぎ、点灯から三時間が経過し双児宮の火も消えるのを磨羯宮からシュラは見ていた。
――来るのか…――
 それまで動かなかったデスマスクのコスモに揺れを感じ、シュラは瞼を伏せて念じる。来るのならば、全て殺してしまえと。

「お前、黄金聖闘士のくせにΩかよ!でも番持ちか…助かったぜ…」
「老師を襲うだけではなくこんな非道なことまで…聖闘士として恥ずかしくないのか!」
 巨蟹宮の死面に気付いた青銅たちが何かを喚いている。現れたデスマスクの姿を見て悪態をついている。二人とも顔は知っていた。鷲星座の弟子、天馬星座。そして老師の弟子、龍星座の紫龍。いかにもαらしい彼らの言うことが安っぽくて、聞いてやる気も起きない。女神なら…もしも本当のアテナであればこの俺を見て何と言う?

――デスマスクだけは必ず倒すのです!――

 黄泉比良坂の地で確かに響いた声。現世にいるデスマスクへ向けられたものではなかったが、敏感な彼の頭には大きく響いた。
「クク…十三年間聖域を保ち続けた自らの聖闘士に対し愛のない言葉だ。紫龍の魂を戻す程の力…アテナであると認めたいが、それは却って傷付いてしまうな。それとも愛ゆえに俺を殺すという考えか?ならばシュラも共に殺してくれるのか?ハハッ!」
 シュラよ、神でさえ俺の深部には触れようとしない。やはりお前だけだぞ、お前だけが俺の心に触れ、俺はお前だけに触れることを許した…。俺にはもう、生涯お前だけだ…。
「紫龍よ、今度こそ確実に死の国へ送ってやろう!二度と戻れぬ深い闇の底へとな!」
 青銅を殺し、黄金を殺し、サガもアテナも殺してしまおう!
「力で抑え付ける者には力で対抗するしかできん!力を持つ者は勝者となり、その者の歩む道が正義となる!後世、そうした英雄たちが悪に転じて討たれるのは、より力を持つ者に敗れただけのこと。正義も負ければ悪となる。ならば力を持つ今こそ全て殺してしまえばいい!情けは自らを滅ぼす!」
 二度めの積尸気冥界波で紫龍は呆気なく冥界の入り口に落ちた。
「なんと呆気ない…」
 先程紫龍を助けたアテナのコスモには波がある。万全の状態ではないのだろう。今のうちに天馬星座も追い掛けて二人とも潰してやると考えたデスマスクは、魂が抜けて目の前に落ちている紫龍の体を蹴り上げた。
――……‼︎――
「……なんだ……」
――……‼︎……‼︎――
「……くそ……誰だ……」
 途端、アテナのものではない、コスモと言えるような強い力でもない囁きがデスマスクの周りで突然弾け始めた。
――……‼︎……‼︎……――
「あぁっ!くっそ!誰だ!鬱陶しい!」
 むしゃくしゃする。この、とても純粋で清らかな…祈りが…紫龍を案じる祈り…まだ目覚めてもいない…未熟な…Ωの、祈り…。
「くそ…穴へ落ちるまでこれが続くのか…!ならば一刻も早く紫龍を殺してくれるわ!」

「デス…⁈」
 突然消えたデスマスクのコスモに、シュラは伏せていた瞼を持ち上げ磨羯宮の入り口から麓を見つめた。
(黄泉比良坂へ向かったのか…?)
 死の予感は無い…。自分も感じたアテナと認められる小娘の力にデスマスクが本気になっていくのはわかった。アテナの補助がなければ青銅一人を倒すくらい容易いはずだが…。
「邪魔が多くて手こずっているようだな」
 突然掛けられた声に振り返ると、悠長に自宮を抜け出して来たアフロディーテが立っていた。
「お前…こんな時に何をしている!」
「まだまだ時間はあるだろう。十二番目の私はずっと待ちぼうけだ、夕食の支度まで済ませてしまったよ。カミュだって宝瓶宮を抜け出しているしな!」
 そう笑いながらシュラの隣に並び、巨蟹宮の方を見つめる。
「心配なら行くか?巨蟹宮へ。今なら私が磨羯宮に留まってやるぞ?」
「…断る。そういう事は嫌がる奴だ。デスマスクとしても、Ωとしても…。青銅一人に黄金二人は恥だ」
「そうだが女神付き青銅は反則ではないか?」
 少しの沈黙を置いてからシュラは呟く。
「もしも…アテナがデスマスクを殺すような事があれば俺が仇を討つだけだ」
「…で、後追いするのか」
 シュラの言葉に溜め息を吐いたアフロディーテは呆れたように言うが、それを消すように笑い声が重なる。
「フッ…デスマスクは死なない。そこまで考える必要などない。今に黄泉比良坂から戻り先へ向かったもう一人の青銅も討つだろう」
 死の予感は無かった。あちらへ向かっただけだ。だが、もしも黄泉比良坂でデスマスクが亡くなった時それはわかるのだろうか?コスモの届かぬ冥界の入り口から、それを知る術があるのだろうか?
「そうだな、待とうではないか。我々の血に塗れた正義を」
 二人はそこから動かず、巨蟹宮の方をじっと見つめデスマスクの帰還を待った。

ーつづくー

拍手

2024
09,20
今さらながら星祭りにてDLやネップリもしていただきありがとうございました!
普段は交流とかする余裕が無いのでメッセージやブログ拍手も励みになります。引き続き飽きもせず山羊蟹で邁進していきまっす(・ゝ・)b
山羊蟹はもはや学問(笑)攻究を目指す…。

しかし10/27のスパーク、募集SP拡大して使用館も増えたけど電車の混雑大丈夫なのだろうか。新幹線は良いけど、品川から展示場までの移動がどうかなぁ。ここまでくると買う専門の人がサークルチケット目当てでダミー参加も多そうな気がする(゚∀゚`)
星矢スペース自体は混雑してないと思いますが、そこへ至るまでの道に旬ジャンルがあると一般の方も来るの大変ですね。他ジャンル掛け持ちの方は一度に色々買えて良いと思いますけども。参加される方は混雑にお気を付けて(・ゝ・)ノ

オメガバ話も精を出して書いていますが、老化した脳内がとてもこんがらがっています。欲張って広げ過ぎた…考え直してカミュミロ部分全カットでも良いかもしれない…。でもこの2人ってシュラデスのミラーカプって感じなんですよね、自分の中では。そもそもミロとデスが受けとして似た感じなので。
シュラとカミュは攻めとしてちょっと違う。雰囲気は似てるけど中身が違う。シュラはクールではない(笑)なのでカミュミロはシュラデスのように共倒れはしない。

カミュと言うか水瓶勢はほんと割り切れると言うかアッサリした面がある。かつてのリアル我が師(笑)も水瓶座だったのですが、指導は上手かったと思う。ただ、突然いなくなった(笑)結局生き別れせず最後に挨拶できたから良かったですけども。
自分の中で当たり前すぎて、サガロス要素がある時は注意書き忘れてました…(゚∀゚`)

難産の連続でゆっくりですが、少しでもと書き進めている状態です。
ネタ文みたいにほぼセリフだとめちゃ早いですけど背景描写とか言い回し考えるのに時間かかりますね。
内容が意味不明だったら申し訳ない。昔から説明くさくて論文向きの文になってしまうタイプであるため、気軽に読むには重い感じになっている気がします。
そしてシュラも重いしデスマスクも重い(笑:愛が)
考え過ぎて書き手の熱量も重い(笑)もう1から100まで全部説明したい!(そういう重さ)

絶対に時間無いですけど、作れそうならオメガバ山羊蟹のレジュメ作ってペーパーにしたいです。
と言うか今すぐ作るべきかもしれない。この話は何が言いたいのかっ(゚Д゚)
「邪な聖闘士」という矛盾が2人の魅力なので、どう足掻いても自己中と言うかダメな感じは残したいです。デスマスクは悪の華ですから(笑)
身を滅ぼす愛の行方。いや、身を滅ぼされる愛の行方。
その結末を私の表現力で果たして書けるのかどうか…奮えますわ〜。

因みにブログに投下しているのは、万一データが飛んだ時のためでもあります。pixivのも非公開なだけで残してある(゚∀゚)bこれはもう全部消えたら二度と書けない(笑)

残り、12宮戦前夜(後編)、12宮戦、ちょい冥界挟んでのエンド!
間に合うか?スパーク!間に合わせたい!(゚皿゚´)ギギ…

拍手

2024
09,20
 老師暗殺の失敗から僅か数日後、好機は向こうからやって来た。聖域を守護する黄金聖闘士たちが教皇宮に呼ばれ集まっている。教皇の登場を待つ中、デスマスクだけはまだ来ていなかった。
「デスの奴はギリギリまで任務か?何だかんだ真面目だな」
 遅めに来たアフロディーテは辺りを見渡しながら、やはりシュラの隣に並んだ。第二の性が判明してからの三人は自然とシュラを挟んで両脇に二人が並ぶようになっている。老師を除く黄金十一人が揃っていた頃は十二宮順に整列していたものだが、十三年前の事件以降は不在者が多いゆえ次第にそれも崩れてしまった。その時点で今の聖域のだらしなさが現れているとも言えるだろう。
「アイオリアの奴、ずっと顔が強張っているがどうしたのだ?調子が悪いのか」
 教皇座の正面、中央。一人で不自然に仁王立ちしているアイオリアが気になる。
「俺も気になってお前が来る前に声を掛けてみたが、体調に問題は無さそうだった。抑制剤の副作用でも出ているかもしれないな…αらしさが剥き出しになっている」
 そういう事か、とアフロディーテが頷いたと同時に後ろの扉が開きデスマスクが入ってきた。全員が聖衣を装着している中、一人だけ鍛錬着のままでいる。
「おいおい…君さ、一応教皇の召集だぞ?形だけでも着てくるべきだろうに」
 アフロディーテの声掛けに無言のままデスマスクはシュラの隣に並んだ。離れたところでミロがカミュにヒソヒソと話をしている。シャカとアルデバランは全く気にしていない様子だった。アフロディーテがため息を吐く中、シュラはそっとデスマスクの尻に触れてみれば勢いよく叩かれたので、いつもの調子に安堵し姿勢を正した。教皇の登場だ。

「ご丁寧にも日本から偽りのアテナと青銅聖闘士たちが聖域に来る旨の親書が届いた」
 その言葉にカミュのコスモはもう揺れなかった。
「情けないことに今まで派遣してきた白銀聖闘士は成果が上げられなかったが、ここで全ての偽りを暴くために奴らを迎え入れようと思う。アテナを自称する者に真の力が宿っているのであれば、青銅とは言えこの十二宮を破ることができるはずである。偽りならばそれまで。安易にアテナを騙り世界を騒がせた裁きを下すのだ!」

ーーー

 双魚宮でアフロディーテと別れてからシュラはやっとデスマスクに聖衣を着ていない理由を尋ねた。
「さっきまで着ててそのまま来ようと思ったんだが、妙に暑苦しく感じて脱いできたんだ。今までどんな灼熱の中でもそういう苦しさを感じた事は無かったんだがな…俺の調子が悪いのかもしれん」
「俺が抱いても効果が無くなったのか?」
「いや…技とかコスモ自体は冴えているのだが…青銅を殺るチャンスが来たというのにタイミング悪ぃな、クソ!」
「所詮、青銅だ。また白銀の奴らが取りこぼしてもアルデバラン一人で十分だろう」
「あいつもヘマしたら俺が全部片付けるんだぞ?別にそれくらい良いけどよ、まぁ青銅くらい聖衣が無くてもどうにかなるだろうしな」
 召集に聖衣を着ていなくてもサガは何も言わなかった。老師暗殺を失敗してから「やはりΩは…」と言いたげにデスマスクを蔑む様子が感じられる。それを早く見返してやりたい。
「青銅を潰したら五老峰に行く。老師を始末してムウを探す」
「宮の位置が逆であれば俺が青銅を片付けられるのだがな…順番は仕方ない。全部任せたぞ」
「いいよ、全部殺ってやるよ。今度、青銅が来る前は全員聖域待機で暇になるだろ?その時また泊まるからよろしく」
 磨羯宮の私室前に到着し、二人はキスを交わして別れた。下りていくデスマスクの背が見えなくなるまで見送る。瞼を伏せ、ため息を吐いてから私室に入ろうとしたその時。
――不安かね?――
 思いも依らぬ人物から声が掛かった。
 頭に響く声に振り返ると、いつの間にかシャカがスラリと立っている。シャカとは連絡以外で個人的に会話をした事がない。話しかけられるのも初めてだ。
「…俺に何か用か」
「デスマスクのこと」
 彼の名が飛び出してシュラは眉をひそめる。少し考えてからシャカの前まで歩み出た。
「あいつがどうした」
「いつも先に行ってしまう。追い掛けられていたはずなのに、いつの間にか追い掛けていた。そんな事は輪廻転生の中に於いてよくある話である。順番を変える必要はない。流転を下手に弄ると取り返しがつかなくなる。今の自然なままでいい」
 唐突に始まった話は抑揚が無く、淡々と語られる。そのわりにシュラが口を挟むのは許されず、話は続いた。
「君たちにとっての悲劇はもはや悲劇に非ず。悲しみこそ二人を繋ぎ続ける縁。満たされ成就した先にあるのは解脱。解脱とは私のような者が目指す境地。まだ荒々しい魂の君たちに相応しい場所ではない。それこそが悲劇。君たちはもがき続けるべきだ。世の中を荒らし、人を殺め、地獄に堕ちても天に昇ってもなお追い掛け続けてきたそれを今も、これからも」
「…要するに幸せを望むな、ということか」
「君たちの場合、既に『幸せ』の輪にいると思うぞ、私の解釈では。やがて来る二人の解放と自由が『幸せ』と捉えるならば目指すが良い。君は『永遠』を何とする?」
 そこまで喋るとシャカはシュラの答えを待たずに歩き出し、磨羯宮を出て行ってしまった。
「……なんなんだ」
 シャカは個性の強い黄金聖闘士の中でもデスマスクとは別の意味で異質だった。人付き合いもせず、全てに於いてマイペースで余裕がある。でも自分は悪評高くとも個性的に生きているデスマスクの方が好きだなと思う。それは困難があるからこそ輝く部分もあるという事か。
「繰り返す悲劇が、幸せであると…?」
 …そんなことは精神論のレベルが高過ぎて共感できない…そう思いながらシュラは磨羯宮の私室へと戻って行った。

 以前、デスマスクは平和の究極とは"無"であろうと話していた。おそらくそれは現世の苦楽に依存する者にとって、魂の"死"と同義になるのだろう。性差を否定するデスマスクでもそこまでは望んでいなかった。シュラとの愛の成就が無に帰す終焉となってしまう。ならば…悲劇、不満、後悔がある限り二人は互いを追い掛け続ける事ができるということ。幸せな結末を迎えたいと願いながらも悲劇を繰り返す深淵が、ここにある――

 教皇の召集から間もなく、黄金聖闘士たちはアテナを名乗る一派を迎え討つため明日からの十二宮待機を言い渡された。
 早朝に任務を終えたシュラはこんな時にイタリアへ向かった。デスマスクが磨羯宮へ来るのは夕方以降になる。任務でもなくデートでもなく、一人気ままにイタリアを歩いてみたいと考えていたそれを急に思い立った。シチリアへ行くことは黙って過去を探る行為のようで気まずく、適当に海辺の街ナポリを選びゆっくり歩いていく。デスマスクの出身地は知らない。シチリアでないことは知っている。ミラノやフィレンツェなど各地へ連れて行かれたが、どこも満遍なく知っている感じであった。大きな街だがナポリに来た事はない。
「……?」
 建ち並ぶ店先に、なぜか見覚えのあるパッケージを見つけた。目の前まで行くとそれはいつぞやにデスマスクが食べていた揚げパンのパッケージ。
「ぜっぽりーに…」
 イタリア語もまだわからないが何となくは読める。確か地元の料理と言っていた、という事は…
 改めて、辺りの景色を見渡してみた。観光都市だけありここでもαとΩのカップルを見かける。βとβのカップルももちろん多い。シュラは空いていたベンチに腰掛け、足首に着けた黒革のアンクレットに触れた。

 今、ここにいる自分が聖闘士という宿命を背負い、Ωの番と共に命をかけて戦い抜いているということは誰も知らない。近く、青銅と戦い誰かが命を落としてもニュースになどならない。あそこにいるαとΩをデスマスクが殺しても、その名は絶対に知られない…。
 全て理解して生きているが、この地がデスマスクの故郷かもしれないと気付いた瞬間、無償に悔しく思えてきた。自分たちだけが必死過ぎるように思えて。こういう場所で生まれたとか、こういう名前だったとか、躊躇う必要のないことも秘して、それまでの人生を捨てる事が美徳であるかのような生き方が。自分を隠し続けるデスマスクの胸の内が、真実を見てほしいと訴えていたこと。そんな悔しさをこの機に及んで感じてしまう自分の弱さ…。

――早く、全てを片付けてしまおう――

 たとえ過酷な聖闘士であろうとも自分たちは合間を縫って恋人らしい余暇を過ごすことはできた。青銅を片付けた後にまた二人で時間を作ればいい。それすらも私欲に塗れた行為と神は咎めるかもしれないが。
 立ち上がったシュラはつまみにとゼッポリーニを一袋購入し、聖域へと戻った。

 その日の夕方、どうせなら磨羯宮へ向かう道のりも共に過ごしたいという気持ちが強く出たシュラは巨蟹宮でデスマスクの帰りを待っていた。寝室のベッドと居間のソファーにはシュラが与えてきた服が積み上がっている。会えない日はデスマスクがこの服に埋もれていると思うと愛おしくて仕方がない。私室にまで漏れ響く死面の呻き声の中、少しでも良い夢が見られる癒しになっていればと願った。
「ん?お迎え?お前そんなに暇だったのか」
 音も無く入って来たデスマスクは聖衣を着けておらずパンドラボックスを背負っている。
「聖衣持参か、珍しいな」
「あぁ…何かやっぱ具合が悪くてよ」
 テレポートを得意とするデスマスクは聖衣姿を見られる事はほぼ無いからと、着用して出て行くことが大半だった。
「大丈夫か?聖衣に血でも与えておくか?」
 冗談半分のつもりで言ったが「あぁ、そうか…」と低く呟く声。ずっと好調であったのに老師の件から急に勢いが落ちていて、青銅との戦いを前に不安が宿る。デスマスクの出る幕がなく終われば良いが。
「俺の血を使っても良いぞ」
「いや、いい。お前からは血よりももっとイイもの分けてもらわねぇとさ」
 ドスンと雑な音を立てて聖衣を置いたデスマスクは、にっこり笑いながらシュラに擦り寄ると頬へ軽くキスをした。
「早く磨羯宮に行こうぜ。シャワーもそっちでする。さすがにここもうるさくなってきたからなぁ」

 着替えを済ませ黒革の首輪を着けたデスマスクは、シュラに腕を絡めて磨羯宮へと向かった。陰鬱な巨蟹宮を抜けると晴れた空に夕焼けを覆い隠そうとする闇が綺麗なグラデーションを描いている。
「黄泉比良坂ってさ、こんな感じの色してんだよ」
 他愛のない話の途中で突然そんな事を言った。
「こんなクリアじゃなくてもっとドロっとしてるけどな。太陽が死んでいくような、闇から何かが這い出てくるような、不安を煽る色をしている。暗いわけではないんだよなぁ。何か気持ち悪い」
「…地上のみならずそんな場所までもずっと管理してるお前は偉いと思うぞ」
「ほんと何でこんなちゃんとやってんだろうな。黄泉比良坂も放っておけばいいのにさ。どうせ蟹座不在の時代は放置状態なんだし」
「ククッ…確かにもう行かなくて良いんじゃないか?今は現世から逃げたくなる事も無いだろう?」
「そうだよなぁ。青銅がちゃんと死んだか確認したら当分行くの止めるわ」
 数え切れないほど二人で上り下りしてきた十二宮の階段。今ではこんな会話も当たり前だが、黙って探り合いをしていた若い頃を思うと不器用だったなと苦笑いが漏れる。
 巨蟹宮から磨羯宮まで来れば空はもっと広くなった。まだうっすら明るさの残る夕闇に星の瞬きが灯り始めている。シュラが磨羯宮の前で振り返り空を見上げると、デスマスクもつられて星を眺めた。
「神話の影響なのか死んだら星になるとよく表現されるが、あんなに離れているのは嫌だな。しかも動けない」
「…ん?俺らが星になるってこと?」
 デスマスクの返しにシュラは頷いた。
「やだ…急にロマンチックになるなよ…なんて返せばいいんだ…」
「別にちょっと思っただけだ。死んだら黄泉比良坂へ行って地獄に落ちるのが真実なんだろ?」
「そうだけど、まぁ…人が何を思うかは勝手だ。それで死に対して楽な気持ちになれるのならな」
「だったら…俺は星よりもまたお前に会うための準備をする」
 声を潜めてデスマスクを見つめるシュラの背景、星が一つ流れていく。
「…どうやって?」
 見つめ返したシュラの瞳は真っ暗で体の芯がゾワりと震えた。
「一つはもう済ませた。お前の首の噛み痕。その体だけではなく、お前の魂に俺の傷を残す」
 その言葉にデスマスクはスッと首に手を当てる。
「そして忘れさせないほどの愛情を注ぎたい。他の奴らに誘惑されても受け付けられないようにな。死ぬまで注ぎ続けるから全部受け取れよ」
 伸びるシュラの手が頬に触れてからスルスルと首筋を辿る。押さえていた手を退けて噛み痕を指先で撫でられると体のあちこちがジンジン感じて切ない表情を作ってしまう。
「…もう受け取ってるって…体にも、心にも…」
「足りないだろ?もっとだ。俺が一生をかけても満足できないくらい貪欲なのは知っている」
 抱き寄せられて、唇を何度も啄み合った。
 すっかり闇に落ちた空で光の弱い星がいくつも流れていく。ここは暗いから目に映るが、街中にいれば全く気付かないだろう。人の苦悩、聖闘士の存在と同じく全てのことが目に見えるわけではない。星は毎日流れる。人の命は毎日潰えていく。誰にも知られずひっそりとどこへ落ちる?どこへ向かう?黄泉比良坂にある大きな穴の中か。深い闇のその先が地獄である事は知っているが、どうなっているかまでは知らない。――本当に、地獄なのだろうか?
「……ハ、ハハ……」
 キスの最中というのにデスマスクは込み上げくる衝動で笑いが漏れてしまった。シュラもそれを奇妙に思わず微笑んで見つめる。
「なんか…真理?見つけたかもしれん。俺が今までずっと見てきたこと、そう信じて来たことを覆すものがさ。お前を想って追いかけ続けるための道がな!」
 もう一度強く抱き締め合ってから、二人は磨羯宮の私室へ入って行った。

ーつづくー

拍手

2024
09,17
――老師暗殺、失敗――
 翌朝、疲れなど見せずコスモを漲らせて聖域を発ったデスマスクは老師を討つことができなかった。更にはずっと行方をくらましていた牡羊座の黄金聖闘士ムウが駆け付けて来たことにより、その場に居合わせた弟子の青銅聖闘士すら倒せず聖域に引き返してきたという。今のデスマスクは無謀な闘いだとしても引くことなど考えられない、そんな勢いを持っているはずなのに。
 夕暮れ時、薄暗い巨蟹宮の中でデスマスクは宮内に張り付く死面をひたすら殴り、踏み付けていた。
「酷いな…いつからこの状態なのだ?癇癪にも程があるだろう」
 離れた場所からデスマスクを眺めているシュラの隣にアフロディーテが並ぶ。
「まだ明るい頃からずっとだ。声を掛ける隙もない。気の済むまでと思っていたがその前にあいつが倒れそうだな…」
「意地でも誰かに傷を負わす男がまさか何の成果も上げられなかったとはね…あ、ムウの存在確認はデカいか。で、どうするのだ?番さん」
「そろそろ…殴り合いをしてでも止めてくる」
 シュラはゆっくり瞬きをしてからデスマスクの元へ歩き出した。隣まで来ても無言で死面を殴り続けるデスマスクの腕を掴む。動きは止めるがシュラの方を見ようとしない。
「思うところはあるだろうが、それくらいにしてくれないか」
 掴んだ腕は徐々に震え始めるとシュラの制止を振り切り背を向けた。
「おい、どこへ行く!」
 外へ向かい歩き始めたデスマスクを追い、再び腕を掴む。次は掴んだ手を強く振り落とされた。
「…もう一度、行く…」
「なに?」
「もう一度行って!ぶっ殺して来る!」
 声を張り上げ駆け出していく。巨蟹宮を抜けてからは浮遊し、滑るように下りていくデスマスクをシュラはすぐに捕まえた。テレポートが使えなければ足の速さでシュラには敵わない。両腕ごと背中から抱き締められて階段を転がり落ち、双児宮の手前にある岩にぶつかった。
「くっそ!離せ!行かせろ!俺はどうかしていた!今なら老師だけでも!青銅だけでも確実に殺せる!俺の言う事を聞けぇっ!」
「正気を保て!この状態では老師に勝てない!」
「お前がそんな事言うなァ!殺ってこいって送り出せよ!俺を止めるんじゃねぇぇえ!」
「っぐっ…!」
 サイコキネシスで辺りの石を浮遊させたデスマスクはそれをシュラにぶつけ始めた。頭であろうと構わずこぶし大の石が打ち付けられる。
(さすがにこれは、キツいな…)
 そう思えてきた頃、二人を追ってきたアフロディーテが数本の薔薇をデスマスクに撃ち込んでくれた。手加減された薔薇の矢はどれも聖衣に弾かれ落ちていくが気を逸らすには十分だ。
「シュラを殺す気か!止めろ!」
 アフロディーテの声にデスマスクが首を回した時、首筋のまだ赤みが残る噛み痕がシュラの目に映る。そして、
(これしか、ないのか…)
 歯軋りをしてから聖衣に阻まれた窮屈な隙間に顎を捻じ込んだ。昨日付けたばかりの噛み痕を目掛け、牙を立てて噛み付いた。

「……大丈夫か?君もだが、デスマスクのやつ……」
 シュラに首筋を噛まれたデスマスクは艶かしい声を上げながら全身の力が抜け落ちていった。抱く最中に愛情を込めて行うのとは違う、暴力的に首筋を噛む行為は無理矢理Ωを躾けるようで使いたくなかった。シュラの腕の中で目を見開いたまま、時折体を震わせている。当てられた石によって額から流れる血も気にせず、シュラは噛み痕を舐めてケアし続けた。
「お前のおかげで俺の傷は大したことない。デスマスクは…昨日も噛んだばかりだったんだ…」
「番がいないからよくわからないが…それをやり過ぎると死ぬとかあるのか?」
「俺にもわからない。しかし…今は良い気がしない…αの力で押さえつけてしまったようで…」
「仕方ないさ、αなのだし」
 アフロディーテはそう呟くと、そっとデスマスクの瞼に指を置いて閉じさせた。
「目覚めてまた暴れるようだったら来るけど…まぁそこまで分からず屋でも無いだろう」

 デスマスクを抱き上げて巨蟹宮まで戻る頃には日も落ちていた。アフロディーテに頭を下げ別れたシュラは、私室に入り自身の血を拭う。そしてデスマスクの聖衣も外してベッドに横たえた。何となく気付いていたが、シュラに噛まれた影響でデスマスクの体は意識がまばらでも発情を見せていた。
「…こんな体、嫌だよな…よく自我を保って頑張ってきた…」
 ベッドに乗り上げたシュラはデスマスクのアンダーウェアも脱がせて、露わになった熱を手のひらで包み込む。首に、胸にと唇を寄せて撫でていけば吐息が漏れ出る音が聞こえてくる。
「フフ、気持ち良いか?…もっと悦くしてやるから…」
 目覚めないデスマスクを癒したシュラは体も綺麗にしてから隣に寝転び、愛おしい番の顔を見つめ続けた。


――デスマスクよ、お前が来るのか。教皇の悪事も見抜けぬとは堕ちたものだな――
 そうさせたのはあなたです、老師。シオン様の死を知りながらもハーデスの監視を優先しこの場所に居座り続けて…前アテナに与えられた勅命とは言え、聖域のためになる事は何一つしてくれなかった。

――信じていたのだ、お前たちであれば乗り越えられると――
 クク…どうとでも言える。わたしたちのせいですか?放っておいても教皇を討伐すると期待していたと?出来が悪くて残念でしたね。あいにくわたしは本当に出来が悪く、自分自身と聖域の崩壊を食い止めるために必死だったんですよ。いや、女神もいないあんな場所、さっさと潰してしまった方が良かったのでしょうか。

――……Ω、なのか……――
 わかりますか?ハハ、安心してください。もうαを惑わすフェロモンは出ませんから。正真正銘、わたしの力であなたを討たせてもらう!

――……シュラと、番に……――
 …さすがですね。そこまでおわかりとは。アイオロスに聖剣を向けたあいつと今からあなたを死地へ送るわたしはお似合いでしょう。信頼できるのはシュラとアフロディーテのみ。今日まで我々は聖域と世界のために支え合い努めてきた。裏切り者はわたしたちではありません。老いているとは言え勝手に解釈を変えられては困ります。あなたこそが聖域の裏切り者なのだ!

「ぅぎゃぁぁあああああああっ!」
「デス⁈」
 自分が上げた声で目覚めたデスマスクは暗い部屋の中でも側にシュラがいる事を感じ取り、姿を探した。すぐ隣から声が掛かる。
「デス!」
「しゅらっ…あ、おれ、老師…殺った…?…っいて…」
 動かした首に痛みが走り、手で押さえて背を丸くした。起き上がったシュラは電気をつけてから、首を押さえる手に自身の手を添える。
「すまん、抱いていない状態で噛んでしまったんだ…まだ痛むよな…」
「いい…それより、老師…」
 シュラの心配をよそにデスマスクは老師のことを気にした。あれだけ苛立っていたことを忘れてしまったのか、思い出したくないのか…。教えろよ!と急かす声にシュラは静かに答えた。
「……お前は、引き返して来た。誰も殺していない…」
 何度も瞬きをしてじっとシュラの顔を見つめる姿に胸が苦しくなる。
――だめだ、壊れてしまう…――
 静かに起きあがろうとしたデスマスクを抱き締めて再びベッドに沈めた。
「はぁ?……うそ、だろ……なん、で……」
 ぽつりぽつりと絞り出される声が切ない。
「デス、お前は失敗していない。討つのは今ではないと判断して引き返してきたんだ。それは間違いではないし、また次がある」
「バカな…何で俺、そんなことしたんだ…?」
「老師との闘いにムウが割り込んできたのだろう?黄金二人を前にお前は勇気ある賢い判断をした」
「勇気?…勇気があるなら二人ともぶっ殺すだけだろ?!違う…違うんだよ…!あぁ…お前っ…お前が言うから…!お前が!αに殺られるなとか!引く事も考えろとか言うからぁっ!」
 身じろぎをしてもシュラの束縛は解けない。声だけ精一杯上げて抵抗した。
「そんなつもり、無かったのによぉっ…青銅と、黄金α二人を一気に殺せるチャンスだったのに!お前の声が俺の判断を鈍らせたんだよっ!どうしてくれる!」

 徐々に記憶が蘇ってくる。老師を討とうとした時、生意気な青銅に邪魔をされた。それは問題ではなかったが更なる邪魔が入ったのだ。牡羊座のムウ…教皇シオンの弟子でありデスマスクをも超えるサイコキネシスの使い手。老師もムウもシオンの死を知りながら聖域を投げ出したのが許せなかった。黄金のくせに面倒ごとからは逃げて悠々と隠れ続け、自分に都合が良くなれば正義面をして出てくる。α黄金でさえそういう狡い奴らがいるのだ。分かり合えるはずがない。苦労を重ねてきた自分たちの邪魔でしかない。二人まとめて殺すことしか考えられなかった。しかし…

「突然、聖衣が重く感じたんだ…力は漲っているのがわかるのに、それを締め付けられるような重圧を感じて…その時に『引け』という声が頭の中に響いた…お前が俺に何かしたのか…⁈」
「俺も昨日は別の任務に出ていた事くらい知っているだろ。それにそういう遠隔技は苦手だ。何もしていないが…αとして、番として俺の念がお前の中に残り過ぎていたのかもな…だがそれは弱さではない、黄金二人を相手にするのは危険なんだ。機を見て出直す方が賢明に決まっている。早まったお前にもしもの事があれば聖域も世界も終わりになってしまうのだぞ」
 シュラはデスマスクの髪を撫でて落ち着かせようとした。自分が必要、という言葉を聞いたデスマスクは抵抗を止め、体の力を抜いていく。重なる肌から感じる心音も次第に穏やかになっていった。
「クッ…次を勧めるならば、俺はまた行くぞ…お前は俺が老師を討つ事に不満は無いのだな…?」
「無い。正気でなければ止めもするが、普段通りのお前であれば送り出す」
 ふぅん、とデスマスクは目の前にあるシュラの首筋に鼻を寄せ匂いを嗅ぐ。
「今日はフェロモンとか使って有耶無耶にしねぇんだ?」
「……もう噛んでしまったしな。白状すれば意識の無い間に好き勝手させてもらった」
 シュラには時々、快感で誤魔化されてるなと思う時があった。きっとデスマスクを納得させる良い言葉が浮かばない時だろう。それに気付いていることを伝えれば困ったように笑ってはぐらかされる。
「αとΩを殲滅させるならば遅かれ早かれ聖闘士にも手を出すことになるのだ。一人や二人先に手を掛けても変わらん。ただ無理だけはしないでくれ」
「そういうの、いつも上手いこと言ってるつもりだろうが俺に全てを捧げたい気持ちと自分の考えの狭間でお前が無理してることはわかる。…別にそれは怒らねぇよ。だって俺ら元々考え方とか違う者同士だし。お前はαになり切れない元βだし…」
 でも…と呟きながらデスマスクはシュラの束縛からゆっくり腕を引き抜いて背中に回した。
「俺はさ、仲良くも無かったくせに仕事とは言えちゃんと向き合って考えてくれたお前を好きになったんだ。自分を正しく見ようとしてくれる姿勢が嬉しかった。大人でもそれができた奴なんかほとんどいなかったのに。いい加減に相手すれば良いのを真面目にやり切ってさ。お前としてはデキる自分を見せ付けたかっただけかもしれないが、その心を知っているからαになって変わっても俺は嫌いにならないし、お前にずっと好かれていたいと思えた」
 だから…
「俺はお前を手放したくない。そりゃあ一人でもやっていけるが、ここまで尽くしてくれるお前を知ってしまったんだ。今さら一人になりたくねぇよ…。なぁ、ここまできたら死ぬまで俺のために無理を通してほしい。知ってるんだぞ、お前がどれだけ迷っても最後には俺を選んでくれる事を」

 あぁ、非道な殺戮者のなんと可愛いことか…。シュラにしか曝け出さないこの姿、全身に噛みついて食べてしまいたいと思えるαの感情を揺さぶる。デスマスクの懇願に歓喜して思わず場にそぐわない笑いが漏れてしまった。
「ハハッ…あぁ、悪いな。俺のαが不安定である故に、いつまで経ってもお前を安心させてやれず。俺も精一杯尽くしているつもりだ。それが伝わっているのは嬉しい。確かにそれでいいのか考え込む事はあるが、お前に従うとずっと言っているだろう?俺は出来もしないことを口にする奴は嫌いなんだ。変わらないから安心してくれ。だからお前も宣言したからには世界を変えろ」
 今夜はもうデスマスクの体を弄んだというのにやはり声が聞きたいと思った。この殺戮者が懐くのは自分にだけ、という優越感を味わいたいと思った。思うだけではない、そんなことも簡単にできる。番にしたのだから。
 シュラが放つ香りがデスマスクを包み込んでいく。
「答えは出したぞ、はぐらかしは無しだから良いよな?やはり一度抱きたい。首が痛まないように気を付ける。…五老峰へはムウや青銅の動きを見て行けばいい。次こそ討てる。お前にも、聖闘士が…」
 コクンと頷いたデスマスクの顔はもう、穏やかを通り越えて蕩けている。支配しているのはどちらだろう。第二性を恨んでいながらすっかりαとΩを満喫してしまっているなど情けない。立派な理由を並べたところで結局は自分たちのことしか考えていないのだ。
「力を持つとは本当に、恐ろしいことだな」
 サガも自分たちも好き勝手に暴れて救いようがない。そして力があれば、全てに勝つ事ができれば正しい行いとなる。文句を言う奴は全滅しているのだから。いつまで勝ち続ける事ができる?今度こそ二人の願いは果たされる?
 威勢を失いあられもなく上がる声を楽しみながら目一杯デスマスクに愛を叩き込んだ。許される限りの時間、少しでも多くの愛を与えて彼の闇が埋まるようにと願って。

ーつづくー

拍手

2024
09,15
 デスマスクの誕生日から数ヶ月後、巨蟹宮を通過していたシュラはある一角を目にして足を止めた。宮内を埋め尽くす死面の数は本当に全てデスマスクの仕業なのかというほど急速に数を増やしている。老若男女張り付いているが、この一角には親子らしき女性と幼い子どもの死面が集まっていた。粛清ついでに数人巻き込んだだけ…とは思えない。
(第二の性は12歳頃にならないと判明しない。βかもしれない子どもまで…)
 デスマスクの理想に異論を唱えるつもりは無いが、理由があるのなら聞いてみたい。そう思って再び歩き出した時、上から下りて来るコスモを感じてシュラは巨蟹宮に留まった。しばらくすると前方の闇が次第に晴れ、黄金聖衣を輝かせながらデスマスクが戻って来る。
「おぅ、お前もちょうど終わり?俺が来るの待ってたのか?」
 シュラの姿を確認したデスマスクは嬉しそうに浮かび上がり、一気に目の前まで滑り込んで来た。

「何だぁ?こんな隅にいて死面の見学でもしてたのか?」
「なぜこんなにも子どもを殺したのかと思ってな…子どもはまだ第二性が決まっていないだろ?巻き込んだにしては数が多い」
 そう言いながら先程まで見ていた壁面に視線を遣る。意外な質問にポカンとしたデスマスクはつられて壁を確認した。
「あー…何かもう陥落寸前で弱者やΩしか残ってない町があったんだ。他国に難民として送り出してやってもそれが最善とは限らない。全ての難民が快く迎えられ援助が得られるわけではないからな。こいつらは俺の判断で全員殺した。その時一緒に隠れていたガキたちだろうな。侵攻してくるαの奴らに撃ち抜かれたり焼かれるよりはマシだろ。そいつらの声よく聞いてみろ、いきなり登場した俺への恨み言より世の中に文句を言っている」
「その侵攻してくる奴らの方を殺せば良かったんじゃないか?」
「依頼側だったしなぁ。女や子ども、Ωしかいないこと知っててそれなりに気が引けてたのだろう。α兵士だって人間でトラウマも抱え込む。士気が下がる。だからって聖闘士を利用すんなって話だよな。まぁ全滅を確認させてからそっちも全員殺したけどさ。結果的に人数多くてさすがに疲れたわ。まだ何か不満?」
「不満ではない。理由があれば知りたいと思ったんだ。ただの殺しだとしても今さら何も言わん」
 そう告げたシュラはデスマスクを真っ直ぐ見つめる事で意思の強さを示した。以前のように裏切りを疑われてはかなわない。熱い視線にデスマスクの笑みが溢れる。
「クク…有言実行で真面目だなぁ。正直、戦争行為は人類が滅亡しないと無くならない。戦争は金になる。αやΩを消したところでβがおっ始めるだけだが、そこにはもう興味無い。俺だってアテナ始め神々が何を以って"世界の平和"とするのかよくわからん。究極を言えば"無"になるしかないんじゃねぇのって。エッチする時とかそのまま一つになってしまいたいと思うだろ?俺も思うし、本当に溶け合ってそうなった瞬間はもの凄い快感だと思うんだよ。でもさ、その先どうなるのかって考えると、一つになって満たされて終わり…もう抱き合えないしキスもできないし飯食ったり出掛けたり…喧嘩だって。そういうのが無い世界はなんか、寂しいよな。今を知ってるだけにさ」
 そっとデスマスクの手がシュラの指を摘んだ。
「そこまでいかない世界ってなんだろうな。性別も無く…いや、性別は選べる…。生き繋ぐために両性因子を持っていて、成長過程で体が変異するとか?何かそういう生物が既にいるよな。人間も進化すればいけるんじゃねぇ?何千年がかりなら。その切っ掛けを俺は作っている。そうなっても人である限り喧嘩はするし嫉妬も消えないから戦争の有無は求めていない。強ければ生き残れる。愛の自由のためΩとして今の世界を終わらせ、始まりを生み出したい。お前と俺が何者であれ不自由なく暮らしていける世界を…それだけなんだよ…」
 眉を寄せ、摘んでいた指をギュッと握って引き寄せられた。しばらく考えるように黙り込んで悪戯に指を揉まれる。
「なぁ、そんなのよりずっと良い話があるんだ」
 そう言うとデスマスクは曇り顔を消して花が咲くような笑顔を見せた。その瞳を見つめれば、また星空に新月が浮かぶ。ーー突然、死面たちの唸り声が一斉に止まった。

「俺は明日、五老峰の老師を討伐しに行く」

 晴れやかな笑顔のまま、囁かれた声が辺りの空気を震わせて静まり返った宮内に広がっていく。のも束の間、途端にドッと再開された死面の唸り声にたった今の言葉が幻のように思える。
「ハハ…なんて顔してんだよ?…遂にきたぜ…前聖戦の生き残り、天秤座の黄金聖闘士…」
 楽しそうな声とは裏腹にデスマスクは震えていた。歓喜か?…まさか怯え?シュラを握る手に、より一層力が込もる。その震えを隠すようにもう片方の手を上に添えた。
「なぁ…お前は今夜、宮にいるのか?…いるなら…抱いて欲しいんだけど…」
「予定は無い。教皇への報告も直ぐに済ませてこよう。準備を終えたら磨羯宮に来い」
 両手で包む手を持ち上げて、震える指に唇を寄せた。少しのコスモを込めて。
 その様子を眺めていたデスマスクは大きく息を吐いてからシュラの首元に顔を寄せ、その匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
「はぁっ…ヨシ…直ぐ行くからな!教皇に変なこと聞いて無駄話してくるんじゃねぇぞ!」
 包まれていた手も勢いよく引き抜いき、そのまま私室へと駆けて行く。バァン!と扉が閉まる音を聞いてから、シュラも教皇宮へと駆け出した。

「気が立っているようだな、山羊座。もう蟹座から話を聞いたか」
 教皇座に座るサガの姿は毛先は金色だが、仮面の内側は真っ黒だろう。アテナと射手座聖衣の出現から清らかなサガの姿を見掛ける機会が減った。こういう時こそ自責に明け暮れ投げ出さず、悔いているのなら責任を取る行動をするべきだろうと思うのに。
「お前と番になっていなければΩのフェロモンを使い天秤座を仕留めるのも容易かっただろうが、まぁ今の蟹座であれば心配は無いだろう」
「…俺と番っていなければお前が奪おうとしていたくせに何を言う。デスマスクはフェロモンを使わずとも実力はある。番う前からずっとだ」
「殻を纏っていればな。殻が砕かれれば心は弱い。そうならないようにお前がメンテナンスしておけ。天秤座を討てば蟹座はより強くなれるだろう。お前たちには迷いを断ち強くなってもらわねばならん。聖域のために」
 ため息を吐いたシュラは立ち上がり、教皇に背を向けた。その瞬間、空気が変わったことに気付き振り返る。
「聖域の、ために…」
 俯く教皇の仮面。絞り出された弱々しい声は清らかなサガのものだった。シュラはグッと歯を食いしばり、二度と振り返らず扉を開け放ち磨羯宮まで駆け足で下りて行く。
(サガは俺たちに討たれたいと願っているのか?そうすれば一人だけ悪を背負い終われるとでも?もう手遅れだというのに!わざわざ老師まで討たせようとして、三人の罪を平等にさせるつもりか?どこまで勝手なことを繰り返せば気が済むのだ!)
 自分がアイオロスに聖剣を向けたことなど、とっくに割り切っていた。――悪いのはサガだ――昔、アフロディーテを盾にしてシュラの様子を見に来たデスマスクにもそう伝えた。色々と考えはするがいつまでも悩むタイプではない。仲間を手に掛けた事も偽りの英雄であり続ける事も気にしていない。デスマスクも知っているはずだが…アフロディーテが白銀聖闘士を討伐した事で、デスマスクが心の底で思い詰めていたものが呼び覚まされた、気がする。

 磨羯宮の私室へ戻れば既に彼は来ており、居間のソファーでクッションを抱き匂いを嗅いでいた。どういう事か今日は珍しく首輪を着けていない。
「やっぱお前の部屋最高に癒される。いや、お前が一番良いのは大前提でさ。はぁ…俺の部屋に持ち帰っても匂い消えるんだよなぁ」
 聖衣を脱ぎ、シャワーを浴びる前にシュラもソファーへ腰掛けた。クッションを横に置いたデスマスクはシュラの肌に擦り寄って匂いを嗅ぐ。自分ではわからないがαのシュラからは森の匂いがするらしい。それだけを聞くとかつて山奥で修行に励んでいた身としては土臭さの方が思い出されて良い匂いというイメージは湧かない。しかしデスマスクがここまで好んでくれるのは嬉しいので否定するような事は言わないでいる。
「夕食はどうする」
 上腕に頬を付けているデスマスクの髪を撫でて聞けば面倒そうな声が返ってきた。
「んー…早くベッドに行きたいから適当にレトルトのやつでいいぞ」
「いつも通りだな」
 立ち上がったシュラは棚からレトルトのリゾットを取り出して食卓の上に置くと、そのままシャワーを浴びに行った。普段は何もしないデスマスクでも自分の都合に合わせて準備をしてくれる時もある。何もしていなければ自分がするだけだが…
 欲望に負けているデスマスクは、きっちり食事の準備を終えて待っていた。

「……っ…ん…ぅ……」
 今夜はわりと大人しく抱かれている。シュラの背中に回した腕は強くしがみ付き、少しでも離れるのを嫌がるようだった。弱さを出せば良いと言ってもすんなり素直になるわけではない。本心を我慢する癖はデスマスクの個性でもある。強要せず流れに任せていつも通りに抱いた。
 黄金聖闘士であればみな五老峰の老師に会った事がある。シュラとアフロディーテはその通り会って挨拶を交わしただけだが、デスマスクは二人が老師に面会する以前から縁があった。シチリアでの師はデスマスクのサイコキネシスを鍛え上げ、黄泉比良坂への道を開く能力を覚醒させた。蟹座聖闘士を目指す者の最低条件がそれだ。そして晴れて蟹座聖衣を手に入れた者は五老峰の老師から積尸気冥界波の教えを受けるのである。天秤座の老師が積尸気冥界波を使えるわけではなかったが、実際に過去の蟹座聖闘士が放つコスモの動きを見てきている。それをデスマスクに伝えた。語り継がれる書物を見ただけでは理解し難い特異な技はその強大さから蟹座聖衣を得た実力と正義を持つ者しか会得できない。自制の効かない邪な者がこの技を得ると世界が滅亡しかねないからだ。
「はぁっ…キス、しろよ、もっと……」
「顎を上げて首を出せ」
「ん…あとで首、噛んで…もうろくしたジジイにも、わかるようにな…っ…」
 デスマスクが老師を討つのはシュラがアイオロスを討つ事に匹敵する。アフロディーテが思い入れの無い白銀を討つのとは違う。それをおそらくサガも理解して、勅命を下した。
「ぅっ…ぐ…急に、ハヤ…っ…きもち、いい…?」
「イイ、さいこうだっ…何度でも、抱けるっ…!」
 耳元で快感を伝えれば、しがみ付く腕も体の内も嬉しい悲鳴を上げるように力が入りシュラを更に煽る。
「ぁ、あっ…やば…っ…しゅ…っ…ぁ…!」
「デス、抱き足りないっ…必ず、戻って来い!生きて、戻って来いっ…!」
「しゅらぁっ!…ころすっ…ころす!ぜったい、ろうしころしっ…ぐぅっ…!」
 首輪を着けてこなかった意味がわかった。噛まれたい、そう願うほどの不安。
 快感の波に押されるままデスマスクの顎を押さえ付けたシュラは番の証に重ねて牙を立てた。

「ゃだ…も…はぃらねぇ、よぉ…」
「吸収、できるんだろ?明日に備えてどんどん取り込め」
「それは…そうぃうイメージ、ってだけで…じっさい、どうかは…」
 力が抜け、デスマスクが虚ろになってもシュラは抱くのを止めず、噛み痕を舐めながら精を注ぎ続けた。受け止めきれなくてシーツを濡らし続ける体液はもう、どちらのものなのかわからない。ここまで無理をさせるのは初めてだ。
「五老峰へは腹の中のオレと行け、絶対に殺られるな。俺以外のαに殺されるのは許さない。…場合によっては引く事も考えろよ…」
 最後に小さく呟かれた言葉が妙に頭に響く中、デスマスクは瞼を閉じた。

ーつづくー

拍手

2024
09,11
※以前からその気はありましたが今回若干のカミュミロ要素が含まれています。地雷の方は申し訳ないですが、昔から他カプにカミュミロを含む活動をしているゆえご了承ください。

ーーーーー

 昼を過ぎた頃、発情期の終わりを確信したデスマスクはイタリアへ出掛けるためにシュラと交代で身支度をした。今年の誕生日プレゼントも着用済み衣服以外にはまだ用意されていない。行きたい店があるからそこで決めようと話していた。
 デスマスクが着替えた私服はやはり首元が開いていて黒革の首輪もよく目立つ。磨羯宮を出てからシュラが首輪をひと撫ですると、フルっと全身を震わせた。外でやるのは睨まれるが、もう文句一つ言われない。いつものやり取りに笑っていれば、ふとこちらに向けられる視線を感じた。
「うらめしそうに見てんじゃねぇよ、さっさと行け」
 シュラより先に気付いていたデスマスクが声を上げる。そこにいた私服のミロは不機嫌そうに顔を歪め、二人に背を向けた。
「カミュの所へ行くのか」
 階段を上るミロの背に向けてシュラは自分でも無意識に声を掛けた。「え?」と振り向いたのはデスマスクの方で、ミロはそのまま去って行く。結局ミロとは言葉を交わす事なく別れた。

 十二宮の出入り口へ向かいながらデスマスクはなぜミロを呼び止めようとしたのか聞いた。聖衣や鍛錬服なら教皇宮かもしれないが私服であれば宝瓶宮一択だろう。二人は昔から仲が良い。自分たちに似ているような気もするが言い争ったりする事も少ないゆえ、気の抜ける良い友達なのだろうと思える。暇なら会いにも行くだろう。
「お前は何も感じないのか?ミロはカミュの事が好きなのだろう」
 まさかシュラの方が自分に対して鈍感か?と突き付けてくるとは思ってもいなかった。思わず返す声が大きくなってしまう。
「そりゃあ、あいつら仲良いから会いに行ったりするのはあるだろう!当たり前過ぎて何で聞くんだって事だよ!」
「俺が言いたいのはαとαの恋愛だ。本人には言えないが…おそらくミロはお前を羨んでいるぞ」
「ハハッ!Ωを散々馬鹿にしたツケだろ!別にα同士で恋愛すれば良いじゃねぇか」
 珍しくデスマスクの受け止め方が雑だ。わざとそうしているかのように。
 言いたいことはそうではないと思いつつも、伝える術が浮かばなかったシュラはミロの話をそこで終わらせた。

 十二宮を出た二人はイタリアのフィレンツェまでテレポートし、デスマスクの案内で目当ての店へ向かった。
「結局お前のプレゼントまだだったからな、ここで買う」
 アクセサリー中心の雑貨屋に入ったデスマスクは既に下調べを終えているのか、真っ直ぐ目当てのコーナーへ歩いて行く。辿り着いたそこには様々な種類の革製品が並んでいた。
「しっくりきたわけじゃねぇんだけど、やっぱりこれにしたいと思って」
 そう言いながら手にして見せたのは、デスマスクの首輪と同じ黒革の細いアンクレット。
「お前は手を使う技だし、腕時計とかも絶対に着けねぇし、テーピング以外で手や腕に何かを着けるのは嫌だろうなと思ったんだ。それは脚でも同じだけどさ。靴下も滅多に履かねぇし。でもαでチョーカーやネックレスも変だしさぁ…」
 シュラはアンクレットを受け取り眺めた。装飾品は手足に関わらず煩わしいので普段から着けようと思わない。聖衣のヘッドパーツでさえ邪魔と感じるが、あれはコスモを高める防具だから着けることに慣れさせた。マントは着けていた方が格好良いとデスマスクが言うので最初だけ着けている節がある。
「アクセサリー着けないお前がさ、たまに一点さり気なく着けててしかもソレが恋人とお揃いっぽいとかさぁ…良いなぁって思うんだよぉ…」
 おそらくデスマスクは典型的な"恋人っぽいこと"に憧れがある。謙虚ぶって押せばシュラが折れる事も知っている。
「今日は誕生日だしさ、オネガイ叶えてくれないか?俺への物は要らねぇ、この願い叶えてくれるのが俺へのプレゼントってコト」
「…別にお前がそうしたければすぐ渡せば良かったものを…オネガイを演出する為にわざわざ今日連れてきたのか」
 一つ溜め息を吐いてから、シュラはデスマスクの肩を抱いて会計まで歩き出した。答えを告げないシュラに「え?いいの?オッケー?」と困惑の声が続く。店員にアンクレットを渡したシュラは、デスマスクの頬を人差し指で撫でてから「オッケー」と笑い、背中を押して会計任せた。それに釣られて笑ったデスマスクは滅多に見せない長財布を取り出し、半年遅れの誕生日プレゼントを購入した。
 左の足首に黒革のアンクレットを着けたシュラは思っていたより馴染んだため、これなら直ぐに慣れるだろうと足首を揺らしてみる。そして隣で満足そうな顔をしているデスマスクに一つ確認した。
「お前の分は買わなくて良いのか?」
「良いんだよ。同じ物を着けるよりもさり気なくお揃い、よく見るとお揃い、くらいが丁度良いんだって」
 そう言いながら自身の首輪を指でなぞった。シュラからのプレゼントは何でも嬉しいが、首輪を超えるものはもう無いかなと考えている。二個目三個目の首輪があっても初めて貰ったこればかりを着けてしまう気がした。だから、もういい。目当ての買い物を終えた二人はしばらく街の中を目的もなく歩いていく。

 イタリアもフィレンツェほどの観光都市に来るとαとΩのカップルや番をちらほら見掛ける。Ωの発現率が下がり希少種となった今、番を得られるαは一種の勝ち組とも言われる。ただ、そこに愛があれば良いのだが第三者の計らいにより無理矢理番にされるのは双方にとって悲惨でしかない。邪悪なサガの目論見を阻止した自分たちだからこそよくわかる。
 血筋を重んじる上流のαたちは、良い血統でありながらΩに生まれた者を血眼になって探しそこでくだらない争いが起きる事すらあった。そのくだらない小国家の争いに聖闘士が呼ばれ、暗殺を指示されたのでデスマスクは依頼人も含め五つくらいの家を全滅させてきた事があるらしい。突然支配者層を失った国は隣国に吸収されたり平民αが建て直そうと躍起になっていたりと新たな歴史が生まれ続けている。それはβだけになっても同じだろう。国は、人は、立ち上がりどうにかしていく。力が無ければ滅亡し、力が強ければ生き残る。αやΩがいなくてもどうにでもなる。それだけのことだ。
「Ωがいないわけでもないが、やはり首輪をしていると周りから見られやすいな」
「俺様見てから隣のお前見て、スッと足首見て納得されるの何か面白ぇな。ほぼ全員同じ視線辿ってやがる。いくら度胸あるαだろうと他人の番に手を出しても意味無いしな。お前も敵いそうにない面してるしよ」
 日も傾き始め夕食を食べに店へ向かう中、今日を振り返りながらシュラが呟いた。
「本当に俺がβの頃、誰にも奪われなくて良かった」
 時折触れ合う腕を捕らえ、そのまま手を繋ぐ。
「だから俺っぴ黄金Ωだし、雑魚αなんかに襲われても一撃死刑だわ」
 繋がれた手を握り返してデスマスクが笑う。
「でもまぁ…良かったわ、ほんと。俺、自分を守るのにすげぇ必死だったんだからな…」
 店に着いた扉の前、シュラは一度、強くデスマスクを抱き締め頬を擦り合わせた。そのまま軽くキスを交わしてから入店した二人は、夜遅くまで誕生日のディナーを楽しんだ。

 翌日、完全に発情期を抜けたデスマスクは磨羯宮で昼食を食べてからシュラと別れ、巨蟹宮へ向かって階段を下りていた。シュラから貰った着用済み衣服を左手に抱え足取り軽く下りていたが天蠍宮も半分まで進んだ頃、キュッと足を止めた。
「何だお前、暇なのか?αのくせに仕事が無いとか恥ずかしくねぇの?カミュに候補生の育成法とか教えてもらって仕事しろよ」
「無差別に殺戮を繰り返すだけの無能Ωには言われたくない」
 前から歩いて来た私服のミロを無視をして通過すれば良かったが、昨日シュラが気に掛けた事が引っ掛かった。ミロなんか気にしていないと鈍感なフリをしてしまったが、カミュとの間に友情を超えた気持ちがあるだろうという事はデスマスクも気付いている。以前から度々自分に視線を送るのはαとαの恋に躓いているからなのだろう。
 ミロと二人きりになっても喧嘩にしかならないということは理解していた。噛み合わないシュラとはまた違う。何となく、この男はデスマスクに似ているがアフロディーテとのように共感できるでもなく反発してしまう。それでもミロはシュラとの悲恋を成就させたデスマスクに期待している。デスマスクはミロの挑発に言い返すのを堪え、抱えていたシュラの衣服に鼻を寄せて気持ちを落ち着かせた。
「フン、そんなαの服とか匂いに頼らないと生きていけないΩなど…」
「惨めだよな?だから俺はΩを殺している」
 デスマスクの返しにミロは口をつぐむ。
「もちろんαもたぁーっくさん殺してきたぞ。昔より減ったとは言え聖域でさえこれだけ集まるほどいるからな。世界にはまだうじゃうじゃいる。俺は第二の性を終わらせる。αだから、Ωだから、βだからで苦しむ世界を終わらせる。その先は男と女かな?まぁそこまでやるのは神にでもならねぇと無理だろう」
「そんな…無駄なことを…」
「人生無駄なことばかりだろ。でもそれが思い出となり糧になるんだよ。無駄の無い人生送れる奴なんかいねぇだろ?神でさえ無駄なことばかりしやがって。Ωにされて、さっさと教皇ご指名のαと番にでもなりゃ無駄な時間も減らせただろうがそれじゃあ駄目だろ。俺は人格を持ったデスマスクで、シュラを好きになったんだ。でもあいつβだったんだよ。それを諦めろってさ、無理だろ?お前ならさっさと諦めつくのか?俺と番は嫌だっつってたくせに」
「…別にそういう意味で無駄と言ったわけではない」
「あー屁理屈言うな、面倒くせぇ。このやり取りがもう無駄なんだよ。でも無いより良いだろ?俺様の哲学が聞けてよぉ」
 そう言って再びシュラの匂いを嗅いでみせる。
「俺だってこんな犬みたいな事したくねぇわ。でもΩだから仕方ないだろ。性別も第二性も選べなかった。男だから女を好きになるに越した事はないがそれも叶わずシュラだったし。しかもあいつはずっと俺の事を拒否ってたから滅茶苦茶努力したんだよ俺は。お前は俺らの事が羨ましいのか知らないが、シュラがαにならなきゃ心中してたんだぞ?Ωだからシュラと結ばれたわけじゃねぇの。好きだから足掻きまくって頑張った結果が今なんだよ」
「……一気に喋りすぎだ。何も頭に入ってこない」
「お前またカミュの所へ行くのか?ずっと仲が良くて羨ましいわ。俺とシュラに比べたら恵まれてる。ただαとαが気に入らないのなら、どうしたいかちゃんと考えろ。お前はもうΩになりたくてもそれは無理だ。シュラみたいな変異は奇跡だからな。それでもカミュに噛まれたきゃ頼んでみるなり何かしろ。それで俺は昔死んだけどな。ん?何の話だ?まぁいいか。お前がΩに惑わされたくなければアイオリアのように副作用覚悟で抑制剤でも飲め。とにかく俺は全てに於いてちゃんと考えて自分のために行動している。羨む前にお前も考えろ」
 ぼんやり立ったままのミロを見たデスマスクは鼻で笑うと、シュラの服を抱き直して下へと去って行った。宮内が一気に静まり返る。
「……一方的に喋り倒して、アドバイスでもしたつもりか」
 低い声で呟いたミロは天蠍宮を抜けてから目の前に転がる小石を勢いよく蹴り飛ばした。
「自己中な奴…心中を考えるなど女神への忠誠も感じられない。俺だって考えてる。聖闘士を全うした上でカミュの支えになる術を。でもお前たちは聖域の事とか色々隠してるだろ…。真実がハッキリしないまま全てを捨ててカミュを選ぶなど、カミュが許すはずがない…」
 愛のため教皇にまで平気で刃向かい、世界の平和を履き違え自身の理想のために殺戮を繰り返す。なぜそこまでできる?そんな男がなぜ許されている?教皇は、神は、女神は…聖域に、いないのか…?カミュは信じている。女神のため、聖域のために尽力している。偽物が日本に現れた。それでもカミュは信じている。…俺よりも…女神を、弟子を…信じている…。
「羨ましいとか…何も知らないのはお互い様だ、クソ!」
 Ωのフェロモンがあればカミュは俺を見てくれるかもとか考えた事はある。弟子の事ばかり考えてないで俺のことで頭の中を満たしてくれるかもって。でもそれは都合の良い妄想で、自分が欲しいのはフェロモンだけ。Ω生活なんて御免だ。だからα同士の友情を超えられない事も理解している。お前たちのような生き方は憧れども俺は違う。カミュの負担にはなりたくない。支えたい。自分がカミュにできることとは…。

 巨蟹宮へ戻ったデスマスクは上の方でミロが発するコスモの高まりを感じ、ほくそ笑んだ。
(αである限り、いつかお前とも対峙する日が来るかもな。ちゃぁんとカミュと共に葬ってやるよ…)
 抱えて来たシュラの服をベッドに積み上げる。仕事後が終わってこの服の山に埋もれるのが至福のひと時なのだ。首輪を外し、聖衣を装着してすぐさま任務へ向かった。
 日が落ちた後、薄暗くなった宮内に怨念を抱えたαの魂がたくさん仲間入りをした。

ーつづくー

拍手

2024
09,07
 季節で言えばまだ春であったが、夏の到来を感じさせる日差しの強い日。聖域を揺るがす一報が届いた。
「東の果て、日本に於いてアテナと偽る一派が射手座の黄金聖衣を所持している」
 八人の黄金聖闘士を前に教皇の声が宮内に響く。みな静かに聞き、動揺を見せる者はいなかった。
「黄金聖衣については本物で間違いないと確認済みだ。アテナと偽る一派については調査を続けている。そして今、聖域を離れている青銅聖闘士数名がそれに関わっている」
 その報せにカミュのコスモが僅かに揺らいだ。日本出身の弟子を聖闘士に育て上げたことはこの場にいる全員が知っている。デスマスクは例のグラード財団絡みか、と思い返していた。その日は報告だけを受け、今はまだ静観を続ける旨を聞き解散。足早に去って行くカミュをミロが追い掛けて行く。

「なぁ、鷲星座の女聖闘士は聖域にいるよな。あいつが育成していたガキはどうなった?死んでねぇよな?俺見てねぇし」
 帰り際、教皇宮の扉を出たところでデスマスクの隣へ来たシュラに問い掛ける。
「天馬星座の聖闘士になった。闘技場でやり合ったからな、あんなガキが勝つなどと一時期雑兵の間で噂になっていたが」
「へぇ。知らぬ間に聖闘士ってちゃんと育ってるんだ。で、そいつは今どこにいる?」
「そこまでは知らないが聖域で見ないな。気になるなら鷲星座にでも聞け」
「嫌だぁ〜。α女怖ぇし」
 わざとらしく怯えたフリをして見せれば「黄金のくせにつまらない事言うな」と冷たく返されてしまった。ゆっくりと階段を下りていく二人の隣を後から来たアイオリアとアルデバランが追い抜いて行く。シャカもとうに出て行った。アフロディーテはまだ教皇宮に残っているようだ。辺りから人の気配が消え、デスマスクは右手をシュラの腕に絡めた。
「んー…まぁ、やっぱ日本にいるのだろう。聖闘士になった奴らくらい責任を説いて聖域に軟禁すればいいものを…ほいほい修行だの何だので外に出すからこうなるんだ。俺たちにそんな自由はあったか?黄金だからという理由だけで優等生過ぎたな」
「ハハッ、確かに真実を知ってしまったおかげで俺たちとアフロディーテは他の誰よりも真面目だったかもしれん」
「笑えねぇよ。真面目にサガと聖域について考えてやってきた俺らが馬鹿みてぇ。日本にいる青銅がアテナを使って正義面。やる気無くすぜ。もう全員殺すしかねぇな」
 シュラが視線をデスマスクに遣ると、その表情は硬く真剣なものであった。――よくない。不満を和らげるつもりで腕に絡んだデスマスクの手を繋ぎ直し、シュラは軽い調子を崩さぬよう話しを続ける。
「クク…青銅に関しては全員殺して終わりだろう。問題はアテナ役だな」
「アテナも、でいいだろ。偽物なら女だろうと問答無用。本物ならば勝てるかわからねぇけど殺ってやる。今更考えるのも面倒くせぇ」
 階段が途切れる双魚宮前の広場でデスマスクが突然足を止めた。繋いでいた手が突っ張る。どうした、と聞く前にデスマスクが顔を上げ、その手を離す。
「なぁ…やはりアテナは特別か?もし寝返りたかったら俺を殺すか死んだ後にしてくれ」

 ――何を言った?立ち止まった二人の間を風が吹き抜ける。シュラは言葉を失いしばらく立ち尽くした後、次第に怒りが込み上げて離された手を再び強く掴んだ。

「いきなり何をっ…馬鹿にしているのか!」
「人の心は変わるからな」
「俺にさえまだそんな事…!わざとなのか?俺を狂わせるための!」
 真面目な顔をして呟くだけのデスマスクに苛立ちが募り、空いた方の手で顎を掴み瞳を覗き込む。星空に真っ黒な新月が映り込んだ。
「俺はお前に従うと言っただろ!やりたい事が、果たしたい願望があれば何でもサポートしてやる。アフロディーテだって殺してやる!アテナでさえも!一つだけ聞いてやれないのはな、お前が俺の死を望む事だ。いや、死んでやるさ。だがそれは俺がお前を殺してからになる!」
 一体どれだけ伝えればデスマスクの不安を癒し、この想いを届けることができるのだろう。硬い殻は斬り崩した。番になったというのに些細な事で機嫌を損ね、まだ試す行為を続ける。大好きなくせに突き放そうとする。どれだけ説いても、考えられる言葉を尽くしても、あんなに喜ばれても、全て心の奥底にある闇に吸い込まれて消えて行ってしまうようだ。
 しかしこの愛を忘れてしまうわけではない。降り積もっているはずで、ただその闇が俺の愛で満たされるにはきっとまだ途方もない。それをずっと、もう何十年何百年何千年も前から続けている気がする。埋めようと、早く埋めてやらないとと努力しているのに引き裂かれて、再会できたと思ったらやり直し。でもデスマスクは忘れていないし、俺の愛が欲しいと求めてくる。手放せば楽になれるかもしれないのにこいつからの愛だけが快感で心を奮わす。だから今度こそはと繰り返し続けて…
 シュラは強くデスマスクを掴んでいた両手を離し、抱き締めた。
「お前を、俺の中に閉じ込めてしまいたい…!」
 抱く腕に力を込めるが聖衣が邪魔をして遠く感じる。肌で抱きたい。カツカツと擦れる金属音が耳につく。
「…俺だって、わかんねぇよ…お前の事はすげぇ好きで念願の番にもなれたってのに、言えば怒るってわかってんのに言っちゃうんだよぉっ…!」
 低かったデスマスクの声が揺れ、震え、シュラの肩で喚く。
「ただの黄金Ωを超えて、αと一つになって、最強になってるはずなのによぉ!アテナが来たってぶっ殺せる自信もあんのに!お前のどうでもいい一言が引っ掛かって笑い飛ばす事すらできない弱さに腹が立つ…!」
 シュラはデスマスクを抱きながら「人であるのだからそれでいい」とか「完璧を目指さなくてもいい」とは言えなかった。強さを求めるがゆえ、それが許せないからもがいている。
「…すまん、俺もつい頭にきてしまった…お前は俺に対して素直に自分を見せているだけなのにな…」
 愛が伝わっていないわけではない。これはシュラにだからこそ漏れ出てしまう弱さ。シュラにだけ見せたくなる弱さ。
「俺がその欠けた穴を塞いでやるから、神を討ち、第二性を終わらせ、お前こそが正義となれ」
 抱き締めていた腕を解きデスマスクの顔を見つめた。番になってから何度この顔にキスをしただろう?満足なんてしない。どれだけ振り回されても途切れることを知らない愛おしさから、自然と唇を寄せてしまう。
「…ん…ぅ…」
 ねだるようにわざとらしく漏らす声も、デスマスクがシュラを好きだという気持ちの一つ。
「αになったところで俺も根本は変わらない…好意があってもお前の言動に苛立つ事はある。まぁ、昔から噛み合わない部分はあるよな。このままで良いんじゃないか?お前は俺にだけ弱さを出し切ってしまえばいい。そして強さだけを外に持ち出せ。番としても自然な形だと思うぞ。昔はずっと一人で耐えていたんだよな?弱さの綻びが俺を好きになった代償と思うのなら責任を持つ。我慢して強く見せるよりも、吐き出した方が強くなれるはずだ。但し限度がある。やり過ぎた時、きっと俺はお前を殺してしまう。それは理解できるな?」
 無言で頷くデスマスクの髪を撫でてキスを繰り返した。上へ向かう雑兵の足音が聞こえてもやめない。デスマスクも行為をとめない。二人とも夢中になっていたが、上から下りて来る足音がこちらへ向かってきた時デスマスクは唇を離そうとした。シュラはそれを逃さず、思わず牙を立てる。

「っ…!」
「あぁ…血が。君たち、人の宮の前で堂々とそれは…さすがに無視できないぞ」
 アフロディーテの呆れた声が響いてシュラも顔を上げた。唇には血が滲んでいる。噛まれた鈍い痛みと自身の血が付着するシュラの横顔を見てデスマスクは腹の底がぞわんと疼いた。
「せめて陰に入ってくれないかな…君たちのキスは爽やかなものではない。そのうち急な発情期だからとか言って外でおっ始めないでくれよ?ここはテレポートもできないしな、本当にそれだけは頼むから」
 唇に滲む血を舐めてから、それまで黙っていたシュラは何が気になったのか通り過ぎようとするアフロディーテに声を掛けた。
「帰りが遅かったな、教皇と話していたのか?」
「まぁ、ちょっとね。私もデスマスクの世界平和計画に乗っても良いかなって」
 曖昧な返事をして今度こそアフロディーテは宮内に消えて行く。教皇との会話を共有しないのは珍しい事だったが、信頼できる仲間であるため二人は特に気にしなかった。

 それからおよそ1ヶ月後、聖域を離れアンドロメダ島にて候補生を育成していた白銀聖闘士の訃報があった。黄泉比良坂で死の行進に加わる彼を見つけたデスマスクは、胸に残る傷を見て笑みが漏れた。
――あぁ、時は来たのか――
 音が揃わずやかましいラッパの不快音が頭の中に響き渡る。オメガバースに、終末を。

ーーー

 聖域に対する反乱因子の討伐が始まった数日後、デスマスクは23歳の誕生日を迎えた。今年の誕生日も発情期と重なり、磨羯宮でシュラと仲良く過ごしている。死面に溢れ返る巨蟹宮は私室の中まで怨念の声が響く事もあり、普段は気にしないデスマスクも敏感になる発情期の間は磨羯宮で過ごすようになっていた。今は発情期も三日目の朝。そろそろ憑き物が落ちるように体が軽くなり、明日にはまた仕事へ戻る事だろう。熱が落ち着いてきたデスマスクはシュラの胸の中で、夕方からの外出予定や最近の世間話などをしていた。

「しかしサガも随分と焦っているようだな。ケフェウス星座とかいうマイナーな奴を討たせるとは。そこに弟子がいなかったのは残念だった。案の定、日本組だ」
「アイオロスの遺品が発見されたうえ、餌にされているともなれば穏やかになれないのだろう。アフロディーテを向かわせたのも自身への忠誠心を試すためなのか。アフロにはあいつなりの考えがあって動いているようだが」
「今ならサガも隙が出そうだよな。まだ手を出すつもりは無ぇけど。それよりエッチ三昧ですっかり忘れていたが、俺様が頑張って調べた13年前の情報知りたいか?」
 胸の中から顔を出しニヤけた表情は、喋りたくてうずうずしているのがよくわかる。
「断ってもどうせ喋りたいんだろ。全部話せ」
 仰向けになったシュラは、まるで猫でも上に乗せるかのようにデスマスクを胸の上に乗せた。Ωとは言えデスマスクは小さくないし軽くもない。体格はシュラとほとんど変わらないが苦しいと感じる事はなく、もっちりした肌に潰される重みが好きだった。乗せられたデスマスクはシュラの顔を間近で眺めながら喋り始める。
「まずアテナと射手座聖衣を日本へ持ち去ったのがグラード財団総帥、城戸光政。もちろんα。すでに死んでいるが13年前ギリシャへの渡航歴が確認できた。プライベートジェットと船舶での移動。美術商なども経由せず、まさかのストレートで黄金聖衣が国外に流出していたとはな。聖衣を前にして勝手に持ち出したり細工を施すなど…普通の頭をしていたら国に届け出るなりするだろうが、やはりちょっとおかしい奴だったようだ。いくらαとは言え百人も腹違いの子ども作ってる時点で異次元、しかもそいつら全員を聖闘士候補生にぶち込むとかヤバ過ぎるだろ?そういうαが近くにいなくてホント良かったわ。サガもヤバけりゃ敵もヤバいってな。どいつもこいつも平和のためにとか言ってやらかす事が混沌過ぎる。人のこと言えねぇけどさ。で、もしかしてアイオロスが自力で日本まで行ったのかと思ったが、あいつはギリシャで死んでいた。シオン様までは確認できていたんだけどな。アイオロスを黄泉比良坂で見つけることが出来なかったのはアテナの目眩しだったかもしれん」
「その日本人がもしかしたらアイオロスをどこかに埋葬した可能性もあるのか」
「遺体が見つかっていないからな。俺もガキだったし死んでコスモが途絶えると難しかった。今なら僅かな燐光を視るとか試す手段は増えたのだが。あと日本で騒いでいる青銅のうち判明しているのはカミュの弟子、鷲星座の弟子、ケフェウス星座の弟子、デスクイーン島に行った奴も鳳凰星座の聖衣を手に入れサポートしているとか何とか…。それよりもだ、呑気なことに五老峰の老師の弟子までいるんだぜ?他五名」
「老師が弟子を…?」
「ずっと避けてたから見落としていた。ほーんと、んな事してる余裕あんならさ、先ず聖域どうにかできなかったのかよって話だよな。サガのこと丸投げしやがって。青銅にはアテナのみならず老師もいる。殺りがいあるだろ?」
 発情期のためにデスマスクと顔を合わせてから、彼はずっと上機嫌でいる。今もとても楽しそうに話しをする。何となくその理由はわかっていたが、あえて聞いてみた。
「フ…お前、この状況が楽しそうだな」
「当たり前だろ、やっと聖闘士殺しも解禁したんだぞ?お前はもうやらかしてるし、アフロディーテも殺った。次は俺の番だろう」
 顔をうっとりさせて待ち切れない様子だ。順番…でいけば確かにそうだろう。しかし清らかなサガはデスマスクの殺戮を憂いている。邪悪な方はΩの実力を見極めるために行かせるかもしれない。次は誰だ?日本にいる青銅全滅か?消息を経っている牡羊座の黄金か、五老峰の老師…。もしもデスマスクが外されてシュラにでも任務が振られれば、また一気に機嫌を損ねるのは想像に容易い。
「お前、もしも順番を飛ばされても暴れるなよ?」
「その保証は致しかねまーす」
「暴れるならばこうしてやる」
 シュラはデスマスクの腰を抱くと、ころんと転がって上下を入れ替えた。下敷きにしたデスマスクの首に顔を寄せ、首筋をはむはむと甘噛みしていく。震えるデスマスクの体から力が抜けていくのがよくわかる。
「ぁ…ん、ぁ、あ…もう…ずる、ずるぃっ…」
「ハハハ、まぁこれは冗談だが聖闘士殺しなんか焦らなくてもいい。一番近くにいるのだからな」
 肌に優しく牙を立てていくだけで、もはや話を聞いているのかわからないくらい表情が蕩けていく。話を有耶無耶にしたシュラは責任を持ってデスマスクを抱き癒した。

ーつづくー

拍手

2024
09,02
 デスマスクはほとんど周期を乱れさせる事なく定期的に発情期を迎え、その度にシュラは三日ほどデスマスクを支え続けるという生活を繰り返した。発情期中でも体調が良ければ部屋を出る事もあったが、フェロモンに誘惑されるαはおらず聖域に於いても自由に過ごすことができた。番を得て体質が変わったことはもちろんあるものの、それよりも常にデスマスクの隣にいるシュラを怖れ、二人に近付こうとする者は黄金聖闘士を除きいなくなっていた。

「デスは昔から近付こうとする物好きな奴はいなかったけど、君の周りからもサッパリ人が消えてしまったね」
「βだからと甘く見ていた奴らが散っただけだろ」
 1月11日の朝、シュラが23歳を迎える前日にアフロディーテが磨羯宮を訪ねてきた。どうせ当日は二人で過ごすだろうからとフライングで祝いに来たらしい。しかも任務へ向かう道すがらと素っ気なく言う。特にプレゼントと言うような"物"はなく、シュラはいつも通り薔薇を三輪贈られた。すぐに行くからと告げられ磨羯宮と私室を繋ぐ扉の前で立ち話をしている。
「αなのは大前提で他の黄金とは候補生や雑兵たちも付き合っているじゃないか。第二性だけが問題ではないな。君が怖いんだよ。脱走者の処刑、デスマスクの分も理由付けて君がやっているのだろ?外でも放っておけば良いような悪者を退治しちゃってるみたいだし」
 二人が番になってから、任務中に無駄な殺しをする事が無かったシュラも小さな事件を起こすことが増えた。デスマスクのように周りを巻き込むような形ではなく、ちゃんと悪事を働いていた輩を通りすがりに成敗しているだけなので咎める事でもない。それでも任務以外は無関心を貫いてきたシュラの殺人が増えたことには違和感があった。
「生まれ持つことができた力を無駄にして、碌でもない事をする奴らに正義を教えてやってるだけだ」
「ふぅん、死を以って解ってくれるといいね。君がデスマスクを染め替える方かと思っていたけど、案外そうでもないんだな。惚れた相手にハマってしまうタイプか」
 好きな相手に尽くしたい気持ちというのはシュラにもあるだろうが、それでもデスマスクの方が尽くす側だと思っていた。奔放な闘い方に良い意味で影響を与えられるかと考えていたが…。
「俺のαはデスマスクの為にある」
「世界の平和ではないのだな」
「世界の平和のためでもあるぞ。あいつが望むαとΩの殲滅は」
「おっそろし…」
 支配しているのはどちらなのだろう。番なのだから共依存と言うのか。アフロディーテが言葉を失っていると、シュラの笑い声が小さく漏れた。
「クク…お前はどう思っている?第二性が平和の妨げになっているとは思わないか?」
「私は力関係こそハッキリしている方が良いと思うがな。βだって平凡面しているだけだろう。それに性差の問題なら男女すら無くしてこそだ」
「あぁ、できれば男女も無くなればいいな。好きになったやつくらい自由に愛させて欲しい」
「それは家族や血縁関係もあるぞ。何でも自由になれば良いというものでもないだろう?その先には混沌しかない」
 神々でさえも「自由」というものは制御できない。自由とは、全てのものが永久に果たせない秩序なのだ。
「だからこそ知恵や理性、肉体的差別を与え人を縛るのか。そこまでして世界を造り、何がしたいのだろうな。神同士でさえ争うというのに、人には平和を押しつけて。考えるほどわからなくなる。おそらくデスマスクはΩが判明する前から世界の存在について疑問を持っていたのだろう」
「それがαやΩの憎しみに?そんなに簡単な話だろうか」
「α、Ωを通してあいつが憎むのは神だ。簡単な話ではないから、俺も理解が追いつかないのかもな」
 ため息混じりに呟くシュラの姿を見て、このバカを心底惚れさせるデスマスクの魅力は何だろうと純粋に思った。アフロディーテ自身もデスマスクには好意的で、もしも本気でデスマスクが自分を選んでくれたのならば受け入れられたと思う。もちろん「αだから」だけではなく。しかしシュラの愛し方とは違うと言えた。自分はもっと表面的に友人のままデスマスクを愛して終わるだろう。シュラのように深いところまで杭を打ち付けて潜り込むような愛し方はきっとできない。他人の深部になんか触れたいとは思わない。殻の硬いデスマスクも同じタイプであるはずなのに、シュラには自ら晒しているのが容易くわかる。自分なら晒されても対応に困ってしまうがシュラはデスマスクの闇にすら愛おしさを感じている。懐が深いと言うかデスマスクバカと言うか。
「もしも、アテナが生存していて戻られるとしたらどうする?裏切るのか?」
「デスマスクに従う。それ以外はない。俺がアテナに命を捧げることができる可能性はデスマスクの待遇に依る」
「まぁ…そうだよな。聞いた私がバカだったよ」
 アフロディーテはシュラの肩を軽く叩き、明日はごゆっくり、と伝えて去って行った。

 発情期には高待遇で休みを受けているため誕生日程度では自動的に休みになるわけでもなく。翌日シュラは夕方までに仕事を終えて磨羯宮の自室に戻った。デスマスクは昼に出て夜までかかるらしい。会えるのは20時頃からか。巨蟹宮の方が外から近いのだからそちらで過ごそうかと提案したが、シュラの誕生日だから自分が磨羯宮へ行くと聞かなかった。食事はシュラが用意した。水に挿したアフロディーテの薔薇を食卓に置き、寝室と浴室を整え、他にも仕事に関してやる事はあったが何も考える気が起きず居間のソファーに沈み込んでデスマスクが来るのを待つ。番である安心感からか会えない日が続いても苦にはならなかった。デスマスクは必ず自分の元へ戻って来るという自信。来なければ自分が捕まえに行くだけだと、必ず見つけ出せるという自信。敵は全て殺せばいい。仮に自分たち以外に"運命"が存在しているとしても、サガと対面した時のように自分は何を犯してでもデスマスクを手放さない。それを彼も望んでいるという自信。死に別れても、必ず再会できるという自信。
(無敵だな…)
 一人ニヤリと笑いながらそう思った。
(どうしようもない時は、俺が殺してやる…)
 二人にとってほとんどの者は相手にならない。黄金以上の闘士、そして神との闘いに限るだろう。デスマスクが誰かに殺されることも今では許せないと思いながら、シュラは右手をかざして眺めた。

 ふ、と磨羯宮に侵入するコスモを感じソファーから身を起こす。扉に視線を移すと間もなく開き、小さな箱を手にしたデスマスクが笑いながら姿を現した。それを見たシュラの表情も柔らかく崩れていく。
「お待ちかねの俺様とケーキがやって来たぞ」
 ニコニコしたまま小箱を食卓に置き、ソファーにふんわり飛び込んでシュラの頭を抱いた。
「っあー…いい匂いだな、ほんと…。すき…」
 胸いっぱいにシュラの匂いを吸い込むと、頭を離し「おめでと」と呟いて軽いキスを何度も交わす。放っておくと食事を忘れてしまいそうだと感じたシュラはキスをしたままデスマスクを抱き上げて食卓まで移動した。
「せっかく用意したからな、先に済ませてしまうぞ」
 椅子に座らされたデスマスクは「ハイハイ」と軽い返事をしてフォークを手に取る。少し首を垂れれば、白い首を横切る黒い首輪と丸見えな噛み跡が露わになった。ちょっと苦しい、と言いながらもオフになれば必ず首輪を着けている。自身が与える物全てに価値があり、大事にする姿は見ていてとても気分が良かった。何でも与えたくなってしまう。軽く首筋を撫でると、ビクンと跳ねたデスマスクに「早く食え」と睨まれた。

「お前って何でも食うから正直どういうケーキが好きなのかわかんねぇんだけどさ、まぁ冬だしシンプルにチョコレートとフルーツでも買ってみたわけよ。俺の地元の良いお店のヤツ」
 食事を終えてから食卓の隅に置いていた小箱を開けると、ショートケーキが3個入っていた。
「さすがにホールはいらねぇよな、って。俺一個で良いしニ個お前の分」
「いや俺も一個で良かったんだが」
「でも食えるだろ?食っとけよ。誕生日なんだし」
 デスマスクはシュラに選ばせることなく真っ先に一つのケーキを取り出して自分の皿に乗せた。自分が食べたい物はハッキリしている。そういう性格なのは知っているし不満も無いのでシュラは残りの二個を皿に乗せて、あっという間に食べ終えた。「うまい?」と尋ねる声に頷けば、そうに決まってると笑ってデスマスクも最後の一口を口に含んだ。
「何だかんだでお前の誕生日ちゃんと祝うのも初めてだよな。だから奮発してお高いケーキ買ってきたんだけど」
「プレゼントはケーキだけか?」
「え?お前プレゼント欲しがっちゃう?何か新鮮」
 そう言いながらデスマスクはポケットに手を入れてゴソゴソしている。ケーキの箱以外を持って来ている感じは無かった。ポケットに入るサイズならあり得るが、デスマスクがプレゼントをポケットになんか入れるだろうか?
 やがてするりと引き抜いて見せた手には、何も見当たらなかった。
「プレゼントさ、考えたんだよ。絶対に何か渡したかったからな。でも良いのが思い付かなかった」
「俺はケーキだけで十分だ、気にしなくていい」
「でも少しは期待しただろ?…何かなぁ…どれもしっくりこなくて今日になっちまったよ。適当なのは渡せねぇって考え尽くした結果、自爆した」
 言い終えて食卓に突っ伏すデスマスクの髪に手を伸ばして撫でる。何でも器用にこなす奴なのに、行き詰まるほど自分の事を考えているのは嬉しい。
「何か持ってくるだろうと考えてはいたが、お前のこんな姿が見れるのは俺にとってサプライズだぞ」
「へー…うれぴー…」
「本当の事だ。冗談でも何でも適当な物を持ってくれば良かったのに、それができなかったほど俺に真剣なんだろ?どうでもいい奴ほど何でも渡せるもんな」
 髪を撫でていた手が耳へ、頬へと滑り込み、デスマスクの顔を上げさせる。本当は何か渡したかったのに、という悔しさを隠し切れない顔を見ると、シュラも釣られて困った笑顔を返した。
「何か良いものが閃いたら持って来い。来年まで待つなよ?俺たちには明日があるとは限らない」
「お前が死んでも黄泉比良坂で足止めして渡す…」
「ハハ、あの世へ持って行ける物は良いな。どこまで持っていられるか試してみたい」
「すぐ閻魔サマに没収されるだろうよ」
 エンマ?ハーデスじゃないのか、と笑いながらシュラは食事の後片付けを始める。長年の隠れ家生活が染み付いているのか聖域に戻ってからも発情期の有無に関わらず、私室で食事をする時はいつもシュラが担当していた。もちろん手の込んだ料理なんか作らない。デスマスクが当たり前のようにソファーで食事を待つから自然といつもシュラが台所に立った。それは誕生日であろうと変わらない。
「まぁ、最後まで手にしていたいのはお前だけどな…」
 食器を洗いながら溢した言葉に「知ってる」と小さく返ってきた。
「多分だけどそれはどうにかなるんじゃねぇ?俺らって強い運命で結ばれちゃってるっぽいし。サガすらそんな事言ってた」
「…サガが?」
 突然出てきた名前に手を止める。
「何かあいつ前世の記憶が残ってるらしいんだよな。俺らとアフロもいたんだってよ。戦争してて死んだらしい」
「戦争…?それは、雪の中でか?」
 真剣に食い付いてきたシュラが意外でデスマスクは思わず「ふぇ?」と間抜けな声が出てしまった。
「いや、俺は知らねぇからサガに聞いてくれ。まさかお前も前世の記憶が残ってるのか?」
「…わからない、がβの時によく夢を見たのだ。そう言えばαになってからは見ていないな…」
「へぇ…俺とお前の夢?そんなのβの時に見てたんだな。何も言わなかったくせに」
 少し拗ねた声で返される。よく見る夢ではあったがハッキリとデスマスクの姿を見たわけではない。ただいつも夜で、森の中で、雪が降ってきて、誰かを抱いていた。戦争、と聞いて何故か今それが思い出された。戦争の夢という意識は全く無かったのに。死んだのであればデスマスクを抱いていた?アフロディーテとは思えない。やはりデスマスクは殺された?…誰に…。

「しゅーらっ!」
 突然大きな声で呼ばれて意識を戻すと、隣に来ていたデスマスクがシュラの腰を抱く。
「…いきなり変な話して悪かった、忘れようぜ…」
 顔を寄せ、ペロっと唇を舐められる。デスマスクの舌先に薄っすらと血が滲んでいる。ドクンと胸が高鳴った。
「噛み締め過ぎだっつーの」
 いつの間にか剥き出していた牙や唇に滲む血をペロ、ペロ、と舐め取られてからキスを交わす。そのままデスマスクは隣に立ち、シンクに残った器を手に取るとシュラに代わって洗い始めた。
「ホラさっさと終わらせてベッド行くぞ!俺、ずっと我慢してんだから…」
 洗い物をしながら肩をシュラに寄せて何度か突く。意識を自分に向けさせるように。直ぐに洗い終えると勢いよくシュラの腕を引いて寝室へと向かった。

「もちろんシャワーは済ませてんだよな?」
 その言葉に返事をする間もなくシュラはベッドに押し倒され、上に乗っかったデスマスクはするりと上着を脱ぎ落とす。
「何かウズウズして噛みたければ俺を噛めよ、どこでもいいから。好きなだけ」
 覆い被さり、シュラの頭を柔らかく抱くとデスマスクのフェロモンが漂い始めた。"かつて"の事を思い出そうとしていたシュラの意識が徐々にデスマスクへ引き戻されていく。
「お前、俺のどこが好き?胸?指?太腿?腰?」
「…噛むのは…頸とは違う。傷も残るかもしれない…」
 誘惑に耐えて言い返したが、噛みたい衝動が沸き上がったのは事実だった。自分は今どんな顔をしているのだろう。デスマスクが焦る程に飢えた表情を見せているのだろうか。あの夢を思い出してから妙にドキドキする。噛みたい。もうデスマスクは番で自分のものなのに、たった今まで感じていた安心感は全て失われ強い不安が胸を打つ。誰が殺した…?噛みたい。誰かに傷付けられる前に…。噛みたい。誰かに奪われる前に…。噛みたい!誰かに殺される前に…!

「いっ…て…!!」
 顔を上げたシュラはデスマスクを押し除け左肩に牙を立てた。ゆっくり口を離すと白い肌にじわじわ血が浮き上がってくる。デスマスクの顔を見ると眉を寄せながらも笑っていた。
「っは、ぁっ…!」
 乗っていたデスマスクを引き倒し、今度はシュラが乗り上げると次は右胸の脇に噛み付く。再びデスマスクの顔を覗くと瞳に涙を溜めながらやはり笑っていた。
「い…いいから、続けろって…」
「気持ちいいのか」
「ん…もぅ…わかんねぇけど、いいんだよぉっ!…ぁっ、や…!」
 続けて腰に噛みついたあと、パンツを引き下ろして次々と牙を立てていった。痛みを訴える喘ぎ声は正直なのに笑顔で打ち消そうとする姿が健気で、1秒でも早く止めてやらなければならないと頭では思えど衝動が抑えられない。自分はデスマスクを殺す時は一振りの手刀で終わらせるものと思っていた。傷付け、解らせるようなこの行為は良くない。シュラを思って誘い続けるデスマスクも悪い。愛を繋ぐためのαの牙がΩを殺めてしまう。
 しかしそれも本来の姿なのだろう。たまたまシュラは手刀という手段を持っているだけなのだ。

「デス…これで気持ち悦くなっては、ダメだろう…」
 デスマスクの全身が赤く染まる頃、衝動が治ってきたシュラはシーツに散った体液に気付き指で掬って見せた。痛みと熱っぽさでぼんやりしているデスマスクには見えていないだろうが、自覚はあるようで恥ずかしそうに下唇を噛み締める。
「だって、お前がやる事だしっ…んっ…!」
 デスマスクが溢したものを舐めてから、ずっと触れずにいた下腹部へと指を挿し入れる。もうすっかり濡れていて、ようやく挿入ってきた指に悦んで吸いついてくるようだ。肌に滲む血を肩から順番に舐めていけばビクビクと震えて弱くイき続けている。
「酷いことをして済まない…お前のフェロモンのおかげで煽られはしたが意識して加減する事はできた。あとは少しづつ、俺のコスモでどこまで戻せるかわからないが…気持ち良いことしかしないから力を抜いて良いぞ」
「…たんじょうびだから…おおめにみてやる…」
 ゆっくり腕を伸ばしたデスマスクはシュラの首を引き寄せてキスを強請った。血の味がする舌を舐め合いながら腰を揺すって一番欲しいものを訴える。
「ゆびはもういい、早く脱いで肌で抱いて…。お前も噛みまくって、気持ち良くなってんだろ?ハードだっただけで前戯はもう終わってんだよ…」
 その言葉にシュラも服を脱ぎ捨ててデスマスクをいつものように内から優しく抱いた。擦れる肌にデスマスクの血がシュラにも移る。コスモを込めて外からも内からもデスマスクを包み込んだ。吐息混じりに「きもちいい…」と繰り返される言葉にはシュラも煽られて愛しさが募っていく。なぜ、この優しい愛だけを貫けられないのだろう。これも神が試す行為なのか。
 疲れ果ててデスマスクが瞼を閉じた頃、ようやく肌の赤みも引いていった。

 翌朝デスマスクが目覚めると傷は残っているが痛みは無く、体は清められ、血の滲んでいたシーツも全て綺麗に整えられたベッドの中にいた。体を起こそうとするとさすがに倦怠感がある。小さく溜め息を吐いてベッドに身を預けた。
 シュラの豹変には身の危険を感じつつも、自分を食い殺しかねない真っ黒な瞳に興奮して誘ってしまった。おそらくシュラは自身が暴走したと思っているだろうが、デスマスクが望んだ事でもあった。シュラがかなり気を遣って噛んでいたこともわかった。もっと強く噛めば良いのにと思っていたなんて絶対に言えない。口元をもっと血で濡らして…。その光景をデスマスクは知っている。何の記憶かわからない。でも知っている。それはとても嬉しい瞬間だったから。

 ギィっとドアが開き、戻って来たシュラと目が合った。ベッド脇に跪いてデスマスクの髪を指先で梳く。「大丈夫か」と聞かれて正直に「怠い」と呟けば、部屋を出て行ったシュラは朝食を手にして再び戻って来た。
「…食べさせてくれるとか?」
「そうしてほしければ、してやってもいい」
 少し考えたデスマスクは思い切って起き上がり、朝食を受け取ると枕元にある棚の上に置いた。
「まぁ、自分で食える。ただ俺っぴ寝起きすぐは食欲無ぇから後で」
「今日の任務は午後からだろう?それまで休んでいけ。俺も夕方からだから巨蟹宮まで送ってやる」
 そっと握られた手からシュラのコスモが流れ込んでくるのがわかる。傷を治そうとする癒しのものだが、番になってからは少し性欲も掻き立てられるのでできれば寝ている間だけにしてほしい…なんて言えず。
「…キスぐらいなら、俺が出て行くまでしても良いか?」
「ぐらい、ってなんだ。抱かれ足りないのか」
 半笑いで黙っていると、シュラの唇が頬に当たった。
「怠いと言う上こんな姿になっても懲りずに…かわいすぎる」
 朝食を食べ終えたら呼びに来い、と部屋を出て行くシュラの背中を眺め、ドアが閉まると同時にデスマスクは器に乗ったパンを手に取ってかじり始めた。寝起きすぐの飲み込み辛さは気にならなかった。

 シュラに噛まれた痕は聖衣を着けると脇から腕部分しか見えないはずだ。マントをして激しく動かなければ何となく隠せていると思う。が、目敏いアフロディーテには全く効果が無く、すれ違い際に腕を掴まれ確認されてしまった。教皇宮に行けば清らかなサガも目を細め、噛み痕を見る視線が痛い。二人とも特に何かを言うでもなく、静かに溜め息を漏らして終わった。

ーつづくー

拍手

2024
08,26
星祭り10お疲れ様&ありがとうございました!(゚∀゚)ノ
とは言えペーパーラリーとかネップリとか一部はまだやっているので、よろしければご利用くださいませ。

本日から新学期=午前がフリーになるという事で、やっと時間が確保しやすくなりました。
今回は準備がバタバタでブログにもろくに現れずでしたが、ここから10月の大系に向けて全力を出すのでまたオメガバ話を投下しに来るだけになるかもしれません…余裕ができるのは10/27のイベント後ですね〜。でもそこからエルシド誕の準備が始まるのである(笑)

星祭りも次回は1年以上先になるとの事ですので、自分も星矢40周年に向け?漫画の新刊が準備できればと。「作りたい」詐欺ばかりなので(゚∀゚`)



桃と巨峰にオメガバ完成祈願…

拍手

2024
08,24
おはようございます(゚∀゚)
星祭りの準備がギリギリ過ぎてアレですが順番にやっていきます…とりあえず目玉?はXに羅列しておきました。またpixivでも告知します。

●やること●
ペーパーラリー(booth無料DL)
2023〜2024年の山羊蟹誕チマ漫画再録本(booth無料DL・紙コピー本通販)
ネットワークプリントL版3種類
まだまとめていない落書き星祭り限定公開(pixiv)
オメガバ小説、書けてるところまで限定公開(pixiv)

●いつもやること●
既刊通販(booth)
過去のネタ集限定公開(pixiv)

前夜祭(今夜)は準備でいないと思います(´・ゝ・)
星祭り10はもしかしたら開幕顔を出すかも?(いつも寝ている)
日中も子が昼寝をしなくなったので店舗行けるかまだ不明です。夜21時以降は店舗に出てきたら終わりまでいます!

書き込みボードでも直接チャットでもオッケーなのでコメントあればどうぞ(゚∀゚)b
話しかけたいけどタイミングがわからない方は、事前に書き込みボードで"見掛けたら話しかけたい"旨を知らせていただければ、私が名前覚えてこちらから「こんにちは」とか適当に声かけてみます(笑)でも通信状況とかで上手くいかなかったらすみません…

お待ちしてます!

拍手

2024
08,14

«寝かす»

結局、星祭り10に向けて新規絵を3枚描いております!シュラデスのみ。
夏の山羊蟹を熟考した結果、抜け落ちていた萌えを思い出しそれを描き出しました(・ゝ・)φ
間に合うかなぁ(゚∀゚`)とにかく時間が足りぬ。
ペーパーとpixivの山羊蟹誕生日ネタ再録本に使います(゚∀゚)b
イベントの時に(多分開始前に出せると思うけども)boothからDLしていただけたらと思います!
焦らすほど大したものではないですが(笑)せっかくなので進捗出さず。
当日お楽しみください(・ゝ・)ノ

それにしても今でもLCの新作エピソード出るとかすごいですね。人気あるならOVAの続きを作ってくれたら良いのにとも思うが…
春頃に「はたらく細胞」の再放送がやっていて、小野さん出てるからたまに「マニゴルド出とる」とか思いながら聞いていました(笑)キャラ的にも普通にマニゴルド声だったと思う(笑)途中から子がスポンジボブ観なくなったので細胞も観なくなったけども。

では引き続き、夜な夜な描き続けます…

拍手

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8]


« 前のページ:: 次のページ »
カレンダー
05 2025/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
最新記事
アーカイブ
ブログ内検索
アクセス解析

Powered by Ninja.blog * TemplateDesign by TMP
忍者ブログ[PR]