2023 |
12,15 |
隠れ家に来て4日目の夕方、シュラが居間で食事の準備をしているとギィ…と廊下の軋む音が聞こえた。居間のドアに目を向ければ、カチャ…と開く。
「大丈夫か…?」
手にしていた皿を机に置いてシュラはドアの元へ駆け寄った。開いたドアを手で押さえると、もたれ掛かってまだ怠そうなデスマスクを支える。
「どうした?少しは楽になったのか?」
デスマスクはぼんやりとしていたが、シュラの言葉に軽く頷いた。
「何か、食いたい…」
わかった、と返してシュラはデスマスクを支えながらソファーに座らせた。
「ここでなくても部屋まで持って行くがどうする?」
「ここでいい…」
「何が食べれる?」
「何があんだよ…」
聞かれて考えた。今ちょうど自分用にパスタを準備していた。炒めるだけなら肉も魚も出せる。ピザも食べるかと思って冷凍のものがある。ポテトのフライにパンもいくつか…
「食べれるっつってもほんの少しだけだから、一人前いらねぇ…」
シュラが答える前にデスマスクはそう言って、ずるずるとソファーの上で横になった。
「あぁ…ならパスタを少し食べるか?作っていたから直ぐに出せる。ソースはトマトだぞ」
「ん、それでいい」
デスマスクはまだ一度も洗濯物を出してこなかったが着替えはしているようだった。ここへ来た時には上げていた前髪もすっかり下りていて少し右寄りに寝癖がついている。横になりながら薄目を開けてぼうっとシュラの動きを眺めていた。
麺は茹でて…ソースは缶詰め…
気になっていた料理の腕前を確認する。缶詰めを温めるだけなら変な味になっている心配は無さそうだ。
「食べれなければ残せ、俺が食べる」
ほどなくしてソファー前の机に小皿に盛られたパスタと水が置かれた。デスマスクはのそっと起き上がってフォークを手に取る。身をかがめてパスタを巻き、ゆっくり口を開けてパクっと食べる。その間にシュラは追加で肉を焼き始めた。
「大丈夫か…?」
手にしていた皿を机に置いてシュラはドアの元へ駆け寄った。開いたドアを手で押さえると、もたれ掛かってまだ怠そうなデスマスクを支える。
「どうした?少しは楽になったのか?」
デスマスクはぼんやりとしていたが、シュラの言葉に軽く頷いた。
「何か、食いたい…」
わかった、と返してシュラはデスマスクを支えながらソファーに座らせた。
「ここでなくても部屋まで持って行くがどうする?」
「ここでいい…」
「何が食べれる?」
「何があんだよ…」
聞かれて考えた。今ちょうど自分用にパスタを準備していた。炒めるだけなら肉も魚も出せる。ピザも食べるかと思って冷凍のものがある。ポテトのフライにパンもいくつか…
「食べれるっつってもほんの少しだけだから、一人前いらねぇ…」
シュラが答える前にデスマスクはそう言って、ずるずるとソファーの上で横になった。
「あぁ…ならパスタを少し食べるか?作っていたから直ぐに出せる。ソースはトマトだぞ」
「ん、それでいい」
デスマスクはまだ一度も洗濯物を出してこなかったが着替えはしているようだった。ここへ来た時には上げていた前髪もすっかり下りていて少し右寄りに寝癖がついている。横になりながら薄目を開けてぼうっとシュラの動きを眺めていた。
麺は茹でて…ソースは缶詰め…
気になっていた料理の腕前を確認する。缶詰めを温めるだけなら変な味になっている心配は無さそうだ。
「食べれなければ残せ、俺が食べる」
ほどなくしてソファー前の机に小皿に盛られたパスタと水が置かれた。デスマスクはのそっと起き上がってフォークを手に取る。身をかがめてパスタを巻き、ゆっくり口を開けてパクっと食べる。その間にシュラは追加で肉を焼き始めた。
カツ、とフォークが皿に置かれる音が聞こえてデスマスクの様子を見る。
「足りなかったか?まだあるぞ」
一人前のうち四分の一ほど乗せてみたが皿の上は綺麗に無くなっていた。
「もういい」
「薬は飲んだのか?」
「来る前に飲んだ、効いてきたのかめちゃ眠ぃ…」
「部屋に戻れるか?」
ぼんやりするなら連れて行こうかとデスマスクの元へ来たが、なぜか再びソファーの上で横になってしまった。
「少し、休憩してから」
と告げて、また薄目がちになってシュラを眺めている。シュラは小さく唸ってからコンロに戻り、フライパンで焼いている肉を軽く混ぜてから皿に盛りつけた。ソファー前の机にパスタと焼き肉、パンを並べてやっとシュラの夕食が整う。どっちがメインだよ、と呟く声が聞こえてきた。
「足りなかったか?まだあるぞ」
一人前のうち四分の一ほど乗せてみたが皿の上は綺麗に無くなっていた。
「もういい」
「薬は飲んだのか?」
「来る前に飲んだ、効いてきたのかめちゃ眠ぃ…」
「部屋に戻れるか?」
ぼんやりするなら連れて行こうかとデスマスクの元へ来たが、なぜか再びソファーの上で横になってしまった。
「少し、休憩してから」
と告げて、また薄目がちになってシュラを眺めている。シュラは小さく唸ってからコンロに戻り、フライパンで焼いている肉を軽く混ぜてから皿に盛りつけた。ソファー前の机にパスタと焼き肉、パンを並べてやっとシュラの夕食が整う。どっちがメインだよ、と呟く声が聞こえてきた。
食事を食べ終えるまでは起きているように見えたデスマスクだが、洗い物をしている間に眠ってしまった。おい…と小声で呼び掛ける程度では起きそうもない。抱き上げて部屋まで連れて行ってもいいが、今入ってもいい状態なのだろうか。このままソファーで寝かせようかとも思ったが窮屈だし床に転げ落ちるのも可哀想だ。
「仕方ない…」
俺がソファーで寝るか、とシュラはデスマスクをそっと抱き上げ、自分の部屋のベッドで寝かせることにした。
「仕方ない…」
俺がソファーで寝るか、とシュラはデスマスクをそっと抱き上げ、自分の部屋のベッドで寝かせることにした。
シュラの部屋には冷房が無い。デスマスクのために彼の部屋にしか付けていない。窓を開けてデスマスクには薄手のタオルケットを掛けた。
吹き込む風に銀の髪が時おり揺れる。
ふと、シュラは吸い寄せられるようにスッとベッド脇でしゃがみ込み、その姿を眺めた。首をすっぽり覆ってしまう白い保護首輪が窮屈そうだ。手を伸ばし、そっと触れる。
…よく似合っているが、早く解放してやりたい…。
こちらを向いている顔へそのまま手を滑らせ、親指で頬を撫でる。
愛おしい…。やっと、二人になれたな…。
デスマスクの顎を軽く持ち上げ、シュラは顔を寄せると頬に軽くキスをした。デスマスクがフルッと震える。そのままもう少し這い上がって耳元にもキスを落とす。
「っ…」
くすぐったいのか寝返りをうってしまった。その姿を見てフっと笑ったシュラは今度はこちらに向けられた頸を首輪の上から撫でて、そこへ啄むように二回キスをした。
「夢のようだ…」
シュラはそう呟きながら立ち上がり、静かに部屋から出て行った。
そう、夢のようで…
シュラは自身がデスマスクにした事を覚えていなかった。
吹き込む風に銀の髪が時おり揺れる。
ふと、シュラは吸い寄せられるようにスッとベッド脇でしゃがみ込み、その姿を眺めた。首をすっぽり覆ってしまう白い保護首輪が窮屈そうだ。手を伸ばし、そっと触れる。
…よく似合っているが、早く解放してやりたい…。
こちらを向いている顔へそのまま手を滑らせ、親指で頬を撫でる。
愛おしい…。やっと、二人になれたな…。
デスマスクの顎を軽く持ち上げ、シュラは顔を寄せると頬に軽くキスをした。デスマスクがフルッと震える。そのままもう少し這い上がって耳元にもキスを落とす。
「っ…」
くすぐったいのか寝返りをうってしまった。その姿を見てフっと笑ったシュラは今度はこちらに向けられた頸を首輪の上から撫でて、そこへ啄むように二回キスをした。
「夢のようだ…」
シュラはそう呟きながら立ち上がり、静かに部屋から出て行った。
そう、夢のようで…
シュラは自身がデスマスクにした事を覚えていなかった。
発情期のピークが開けた日から毎日、夕方になるとデスマスクは1階まで来て夕飯を食べるようになった。シュラのベッドで寝かせた時は、翌朝見てみると一人で部屋に戻ったようで誰もいなかった。あの日から階段の下にパジャマやタオルが落とされている事が増え、知らぬ間にシャワー室も使うようになった。まだ薬は必要らしく夕食の前に飲んでくるそうだが、眠そうにしても食後は自分の部屋に必ず戻っている。
隠れ家に来て7日目の夜。一人前を食べれるまでに戻ったデスマスクは、明日から昼も食べるとシュラに伝えた。そして食後すぐ部屋には戻らず「今は調子いいから」とソファーで横になってまたシュラの働きぶりを眺めている。
「なぁ」
デスマスクが声をかけた。
「何だ」
「お前毎日ここで何してんだ?」
三食食べて、洗濯掃除の家事一般をこなしているのはわかる。庭に出るくらいで遠くの町などに出掛けている感じはない。
数日前、起きたら見知らぬ部屋で驚いた。デスマスクの部屋の半分しかない狭さで、ベッド以外にクローゼットと小さな棚が一つあるだけ。まるで病室のような生活感の無い部屋。起き上がるとシュラが持っていた鞄が床の端に転がっていたのでもしやと思い、部屋を出たら居間のソファーでそいつが寝ていた。居間も含めて自分のテリトリーと思えば十分かもしれないが、それにしてもパッと見は本が数冊積んであったくらいで何も無い。実は料理が趣味とか言われて自作ケーキを見せられても反応に困るが、何をしているのかずっと気になっていたので聞いておきたかった。
シュラは「んー…」と唸るばかりでなかなか答えをくれなかった。まさか…"何もしていない"なんて事がこいつにありえるのか?返事を待ってドキドキしてしまう。
「何と言うか…」
ついに、口を開く。
「瞑想?をしている」
「……」
やばい、こいつ何もしてないのかもしれない。せめて「鍛錬」くらい答えてほしかった。
「おい何だその真顔は」
「俺っぴ元からこういうイケメンだぜ…」
自分から聞いておいてアレだが「瞑想」とか言われてどんな反応すれば良いんだよ。シャカのとは明らかに違うだろ。
「…それ、寝てるって事か?」
「寝るのと瞑想は違うぞ。自分と向き合ってるんだ」
怖ぇよ。今更何を言い出す?自己啓発?αになれなかった悔しさでこいつも想像以上にダメージを受けてるのか?ちょっと頭がおかしくなってないか心配になってきた。
「αの…」
あ、やっぱそういう話?
「αの、威嚇…ってお前わかるか?」
「威嚇?TVとかで聞いたことはあるが」
「それを使われると俺みたいなβは不利な状況になる。このコスモを以ってしても」
「あぁ、コスモとか関係無ぇよな。αのアレは…」
例えば、アフロディーテの誘惑フェロモンとか…。
「それを打開する術が無いか探っている」
「それで瞑想?」
「俺はβであるが、コスモのように内に秘めたαに匹敵する力が潜んでいないか探っているんだ」
αの力を探る?もしそれを見つけたらどうなるんだ?コスモのように覚醒させたら、αに変異してしまうのでは…。
「…お前もやっぱαになりてぇんだな」
「なりたいわけではない。そこにこだわりは無い。ただ、互角の力を持っていないと守りたいものも守れないだろう?」
そんな事を言うシュラに真っ直ぐ見つめられて、デスマスクは何だか恥ずかしくなり自然を装ってゆっくりソファーに顔を伏せた。
「アフロディーテに頼まれたんだ。何が何でもお前を守ってくれと。拳をぶつけてでもαの暴走を止めてくれとな」
「…そうか。どいつもこいつも俺なんかに振り回されてんのか」
「それだけお前は大切にされているって事じゃないのか。稀少なΩとしてではなく、蟹座のデスマスクを」
デスマスクの嫌味を覆えそうとするシュラの言い回しが鬱陶しい。
人を殺せば死面が巨蟹宮に張り付く。それは増える一方。過去の文献を見ても巨蟹宮にそういう特性があるわけではない。デスマスクが引き起こした現象だった。蟹座の能力も巨蟹宮もデスマスク自身も気味悪がられるだけ。だから巨蟹宮に従者はいないし、私室へは不必要に侵入されないよう結界を張った。
孤独を選択し続けるデスマスクを理解してくれた大人が一人いたが、仲間に殺されて死んだ。その殺した張本人はΩでも聖域で生活していけるよう特別待遇で環境を整えてくれたものの、腹の内はわからない。表裏が無く、気を許した一人の友人も異性となってから関係がおかしくなってしまった。今は想定していなかった運命で、苦手な幼馴染がただ一人、デスマスクのそばにいる。でもこいつだって本心からは…
「例えば、誰もがお前に興味が無くてどうでもいいと思っていたのなら、とっくにαに襲われているだろうな」
アフロディーテの誘惑を受けた事を思い出して胸が焼けた。でも油断しただけでそんな弱くねぇよ…Ωだからってそういう事ハッキリ言われるのは腹が立つ。
「…感謝しろって事か」
「そうだ、と言えばお前は感謝してくれるのか?」
「……」
嫌味とわかって嫌味で返してきた。しかし続けて喋るシュラの声が柔らかくなる。
「俺はお前に対してアレコレが苦手だと言いはするがな、今の生活は嫌ではない。楽しいと思うこともある」
「……」
「嫌じゃない。これがどう言うことかわかるな?後ろ向きに考えるなよ?俺に失礼だからな」
どういう事かって?結局、毎日ここで何してるのかと言えば、俺を守るためにどうすればいいかってのをずっと考えてたって事だよな?俺のためにより強くなろうとしてるって事だよな?で、それがお前は嫌じゃなくて楽しい。
…だから?俺っぴお前に大切にされて「宇宙的嬉ぴぃ♡」って喜べばいいのか?お前が好きなだけお金使ってΩの家作ってペットみたいなΩ人形のことばかり考えて楽しくなってって、頭おかしいだけだろ。自分で何言ってんのかわかってんのか?恥ずかし気もなく言いやがって。俺のことばかり考えてるって本人に言うとか馬鹿なのか?あぁ、こいつ鈍感馬鹿だったぜ。だからβ止まりなんだよ…。
「なぁ」
デスマスクが声をかけた。
「何だ」
「お前毎日ここで何してんだ?」
三食食べて、洗濯掃除の家事一般をこなしているのはわかる。庭に出るくらいで遠くの町などに出掛けている感じはない。
数日前、起きたら見知らぬ部屋で驚いた。デスマスクの部屋の半分しかない狭さで、ベッド以外にクローゼットと小さな棚が一つあるだけ。まるで病室のような生活感の無い部屋。起き上がるとシュラが持っていた鞄が床の端に転がっていたのでもしやと思い、部屋を出たら居間のソファーでそいつが寝ていた。居間も含めて自分のテリトリーと思えば十分かもしれないが、それにしてもパッと見は本が数冊積んであったくらいで何も無い。実は料理が趣味とか言われて自作ケーキを見せられても反応に困るが、何をしているのかずっと気になっていたので聞いておきたかった。
シュラは「んー…」と唸るばかりでなかなか答えをくれなかった。まさか…"何もしていない"なんて事がこいつにありえるのか?返事を待ってドキドキしてしまう。
「何と言うか…」
ついに、口を開く。
「瞑想?をしている」
「……」
やばい、こいつ何もしてないのかもしれない。せめて「鍛錬」くらい答えてほしかった。
「おい何だその真顔は」
「俺っぴ元からこういうイケメンだぜ…」
自分から聞いておいてアレだが「瞑想」とか言われてどんな反応すれば良いんだよ。シャカのとは明らかに違うだろ。
「…それ、寝てるって事か?」
「寝るのと瞑想は違うぞ。自分と向き合ってるんだ」
怖ぇよ。今更何を言い出す?自己啓発?αになれなかった悔しさでこいつも想像以上にダメージを受けてるのか?ちょっと頭がおかしくなってないか心配になってきた。
「αの…」
あ、やっぱそういう話?
「αの、威嚇…ってお前わかるか?」
「威嚇?TVとかで聞いたことはあるが」
「それを使われると俺みたいなβは不利な状況になる。このコスモを以ってしても」
「あぁ、コスモとか関係無ぇよな。αのアレは…」
例えば、アフロディーテの誘惑フェロモンとか…。
「それを打開する術が無いか探っている」
「それで瞑想?」
「俺はβであるが、コスモのように内に秘めたαに匹敵する力が潜んでいないか探っているんだ」
αの力を探る?もしそれを見つけたらどうなるんだ?コスモのように覚醒させたら、αに変異してしまうのでは…。
「…お前もやっぱαになりてぇんだな」
「なりたいわけではない。そこにこだわりは無い。ただ、互角の力を持っていないと守りたいものも守れないだろう?」
そんな事を言うシュラに真っ直ぐ見つめられて、デスマスクは何だか恥ずかしくなり自然を装ってゆっくりソファーに顔を伏せた。
「アフロディーテに頼まれたんだ。何が何でもお前を守ってくれと。拳をぶつけてでもαの暴走を止めてくれとな」
「…そうか。どいつもこいつも俺なんかに振り回されてんのか」
「それだけお前は大切にされているって事じゃないのか。稀少なΩとしてではなく、蟹座のデスマスクを」
デスマスクの嫌味を覆えそうとするシュラの言い回しが鬱陶しい。
人を殺せば死面が巨蟹宮に張り付く。それは増える一方。過去の文献を見ても巨蟹宮にそういう特性があるわけではない。デスマスクが引き起こした現象だった。蟹座の能力も巨蟹宮もデスマスク自身も気味悪がられるだけ。だから巨蟹宮に従者はいないし、私室へは不必要に侵入されないよう結界を張った。
孤独を選択し続けるデスマスクを理解してくれた大人が一人いたが、仲間に殺されて死んだ。その殺した張本人はΩでも聖域で生活していけるよう特別待遇で環境を整えてくれたものの、腹の内はわからない。表裏が無く、気を許した一人の友人も異性となってから関係がおかしくなってしまった。今は想定していなかった運命で、苦手な幼馴染がただ一人、デスマスクのそばにいる。でもこいつだって本心からは…
「例えば、誰もがお前に興味が無くてどうでもいいと思っていたのなら、とっくにαに襲われているだろうな」
アフロディーテの誘惑を受けた事を思い出して胸が焼けた。でも油断しただけでそんな弱くねぇよ…Ωだからってそういう事ハッキリ言われるのは腹が立つ。
「…感謝しろって事か」
「そうだ、と言えばお前は感謝してくれるのか?」
「……」
嫌味とわかって嫌味で返してきた。しかし続けて喋るシュラの声が柔らかくなる。
「俺はお前に対してアレコレが苦手だと言いはするがな、今の生活は嫌ではない。楽しいと思うこともある」
「……」
「嫌じゃない。これがどう言うことかわかるな?後ろ向きに考えるなよ?俺に失礼だからな」
どういう事かって?結局、毎日ここで何してるのかと言えば、俺を守るためにどうすればいいかってのをずっと考えてたって事だよな?俺のためにより強くなろうとしてるって事だよな?で、それがお前は嫌じゃなくて楽しい。
…だから?俺っぴお前に大切にされて「宇宙的嬉ぴぃ♡」って喜べばいいのか?お前が好きなだけお金使ってΩの家作ってペットみたいなΩ人形のことばかり考えて楽しくなってって、頭おかしいだけだろ。自分で何言ってんのかわかってんのか?恥ずかし気もなく言いやがって。俺のことばかり考えてるって本人に言うとか馬鹿なのか?あぁ、こいつ鈍感馬鹿だったぜ。だからβ止まりなんだよ…。
考え込んで何も言えずソファーに突っ伏していると、シュラは洗い物や片付けを終えてトイレへ行くため部屋を出た。その隙にブワッ!と起き上がったデスマスクはシュラの不在を確認し、音を立てず部屋から消え去って直ぐ上の自室へテレポートした。
「…まじで、馬鹿か…」
両手を自分の頬に当てる。抑制剤はもう効いているはずなのに顔が、体が火照ってくる。触れたい衝動はそこまで強くない。我慢できる。
でも…。
デスマスクは目を細めてベッドの上で丸くなった。
「あいつ、ずっと俺のこと考えてんのかよ…」
"嬉しい…"
どこからか頭の中でこだまする。右手を下着の中に差し込んだ。
「なんだよ、"当然"みたいに堂々と言ってきやがって…」
"嬉しい、嬉しい、嬉しい…"
と体の芯から込み上げてくるものは、"気持ちいい"よりも…"幸せ"…?
発情期を知ってから…いや聖闘士になってから初めてこんな感覚に包み込まれた。きっと、心から好きになれる相手と結ばれる時にはこんな風に思えるんだろう。それがαとΩであるならば、そんな幸福感の絶頂で番になるのだ…。
「βの、くせにぃっ…!」
αになってみろよ、αになってみせろよ、じゃないと俺は守れないぞ!俺の、俺のために…αになって…。って、あいつがもし、αになったら…どうなっちまうんだ?
「だめだ…怖ぇ…引き摺り、込まれるぅ…」
…あぁ…オレ…おかしく、なって…。Ωの、せいで…。
膨らみ続ける快感に負けたデスマスクは理性を手放し、思い描く愛の情景を思いきり頭いっぱいに広げた。相手はちゃんとおれのこと好きなやつがいい。αの本能じゃなくて、いつも、普段からおれのこと考えてくれて、おれと同じくらい…おれよりも強い愛と欲で、おれの全部を甘やかしてほしいよぉ…。
朦朧とするデスマスクはふにゃんと微笑みながら、処理をするのではなく初めてこの行為を"思い描く恋人"と共に心地よく楽しんだ。
「…まじで、馬鹿か…」
両手を自分の頬に当てる。抑制剤はもう効いているはずなのに顔が、体が火照ってくる。触れたい衝動はそこまで強くない。我慢できる。
でも…。
デスマスクは目を細めてベッドの上で丸くなった。
「あいつ、ずっと俺のこと考えてんのかよ…」
"嬉しい…"
どこからか頭の中でこだまする。右手を下着の中に差し込んだ。
「なんだよ、"当然"みたいに堂々と言ってきやがって…」
"嬉しい、嬉しい、嬉しい…"
と体の芯から込み上げてくるものは、"気持ちいい"よりも…"幸せ"…?
発情期を知ってから…いや聖闘士になってから初めてこんな感覚に包み込まれた。きっと、心から好きになれる相手と結ばれる時にはこんな風に思えるんだろう。それがαとΩであるならば、そんな幸福感の絶頂で番になるのだ…。
「βの、くせにぃっ…!」
αになってみろよ、αになってみせろよ、じゃないと俺は守れないぞ!俺の、俺のために…αになって…。って、あいつがもし、αになったら…どうなっちまうんだ?
「だめだ…怖ぇ…引き摺り、込まれるぅ…」
…あぁ…オレ…おかしく、なって…。Ωの、せいで…。
膨らみ続ける快感に負けたデスマスクは理性を手放し、思い描く愛の情景を思いきり頭いっぱいに広げた。相手はちゃんとおれのこと好きなやつがいい。αの本能じゃなくて、いつも、普段からおれのこと考えてくれて、おれと同じくらい…おれよりも強い愛と欲で、おれの全部を甘やかしてほしいよぉ…。
朦朧とするデスマスクはふにゃんと微笑みながら、処理をするのではなく初めてこの行為を"思い描く恋人"と共に心地よく楽しんだ。
隠れ家に来て10日目になると、デスマスクはもう朝昼晩を自室から出て食べるようになっていた。抑制剤も2日前から飲んでいない。ソファーにドカっと座って待てば、シュラが焼いたパンと水を持ってくる。もう自分でできるくらい動けるのはわかっていると思うが、シュラはデスマスクに「自分でやれ」とは言ってこなかった。二人分の洗濯も掃除もやってくれる。他人と同じ屋根の下で過ごすのは修行時代ぶりだったが、部屋は違うし約束通りシュラの方からデスマスクを訪ねる事は無かった。シュラの生活音がうるさい事もなく、迷惑になるような趣味も無く、ただ自分が気が向いた時に1階へ行けばそこにいる。巨蟹宮と磨羯宮を思えばこの生活は距離が近いものだが、でも聖域にいる時とそう変わらないなと思った。
求められない…この事は普通なら不安に思う事なのだろうが、シュラがしているのは放置とは違う。デスマスクのことは常に気に掛けている。だからすぐ、何かあれば…食事だとか着替えが欲しいとかの要望に応えることができていた。都合の良い存在だな…とデスマスクは本心とは違う言葉で片付けた。
求められない…この事は普通なら不安に思う事なのだろうが、シュラがしているのは放置とは違う。デスマスクのことは常に気に掛けている。だからすぐ、何かあれば…食事だとか着替えが欲しいとかの要望に応えることができていた。都合の良い存在だな…とデスマスクは本心とは違う言葉で片付けた。
「もうさ、明日聖域に戻っていいぜ」
「発情期終わったのか」
「多分」
デスマスクが切り出した話にシュラは黙り込んでしまった。
「どうした?」
「いや、帰るはいいが…明後日でもいいか」
「俺は構わないがここにいてもやる事なんて無いだろ」
「やる事はないが日持ちしない食材は食べてしまいたい」
そんな事のために急いで聖域に戻ろうとせず、呑気にもう一日ここで過ごすというのか?一瞬呆れたが、シュラの真面目さが違う方向に発動したんだなと思った。
「たまに俺は来るつもりだが、数ヶ月家を空けるとなれば冷蔵庫は切っておきたい」
電気垂れ流しでも聖域の金だし…と思うが、それはシュラも解っていてのこの選択なのだろう。言うだけ無駄だ。
朝食を食べ終えたデスマスクは何も言わず部屋を出て行った。シュラが洗い物をしているとすぐにデスマスクが戻って来る。洗い終わった洗濯物をカゴに入れて持っていた。
「…外に出てみてぇから行ってくる。家の前なら良いだろ?」
あぁ、と返せばトコトコ歩いて出て行く。
気が利く奴…
シュラはデスマスクのそういうところは好きだな、と思った。さて、デスマスクは洗濯物を外へ持っていっただけなのか?干してくれているのか?気になって洗い物を一気に終わらせた。
「発情期終わったのか」
「多分」
デスマスクが切り出した話にシュラは黙り込んでしまった。
「どうした?」
「いや、帰るはいいが…明後日でもいいか」
「俺は構わないがここにいてもやる事なんて無いだろ」
「やる事はないが日持ちしない食材は食べてしまいたい」
そんな事のために急いで聖域に戻ろうとせず、呑気にもう一日ここで過ごすというのか?一瞬呆れたが、シュラの真面目さが違う方向に発動したんだなと思った。
「たまに俺は来るつもりだが、数ヶ月家を空けるとなれば冷蔵庫は切っておきたい」
電気垂れ流しでも聖域の金だし…と思うが、それはシュラも解っていてのこの選択なのだろう。言うだけ無駄だ。
朝食を食べ終えたデスマスクは何も言わず部屋を出て行った。シュラが洗い物をしているとすぐにデスマスクが戻って来る。洗い終わった洗濯物をカゴに入れて持っていた。
「…外に出てみてぇから行ってくる。家の前なら良いだろ?」
あぁ、と返せばトコトコ歩いて出て行く。
気が利く奴…
シュラはデスマスクのそういうところは好きだな、と思った。さて、デスマスクは洗濯物を外へ持っていっただけなのか?干してくれているのか?気になって洗い物を一気に終わらせた。
テレポートというのは、デスマスクの場合一度でも行ったことのある場所で通用する。もしくは地図などで正確な座標がわかれば、ほぼ間違いなく成功する。デスマスクは目の前に広がる森と隠れ家を交互に見渡した。
太陽の位置から察するに家は南向き。家の中にあった備品や食材の表記はほぼ英語。イタリアやスペインではなさそうだ。森の木は広葉樹が多い。季節はギリシャと同じで夏だろう。北半球で間違いないか。湿っぽさは感じられないので赤道からは離れているのか?ここに来てから一度も雨は降っていない。単に乾期なだけだろうか…。
ここがどこの国のどの辺りで地図で見ればどう、とわからなくても、実際に存在するこの場所がイメージできればいい。次回もここまで光速移動するのは嫌だと考えていたデスマスクは、テレポートを使うための下見に外へ出たのだった。
「あいつも一緒にテレポートしてやるべきか…」
考えながら、洗い上がったタオルを一つ手に取りバサっとはたいて広げる。木から木へロープを渡しただけの物干し場に引っ掛けて、ピンチが無い事に気付いた。
「めんど…」
どこにあるか聞きに戻ろうとした時、ちょうどシュラが一式持って家から出てきた。こちらを見て何かニヤっとしてるのが苛ついたから、やっぱ帰りも次来る時もこいつは走らせようと決めた。
ーつづくー
太陽の位置から察するに家は南向き。家の中にあった備品や食材の表記はほぼ英語。イタリアやスペインではなさそうだ。森の木は広葉樹が多い。季節はギリシャと同じで夏だろう。北半球で間違いないか。湿っぽさは感じられないので赤道からは離れているのか?ここに来てから一度も雨は降っていない。単に乾期なだけだろうか…。
ここがどこの国のどの辺りで地図で見ればどう、とわからなくても、実際に存在するこの場所がイメージできればいい。次回もここまで光速移動するのは嫌だと考えていたデスマスクは、テレポートを使うための下見に外へ出たのだった。
「あいつも一緒にテレポートしてやるべきか…」
考えながら、洗い上がったタオルを一つ手に取りバサっとはたいて広げる。木から木へロープを渡しただけの物干し場に引っ掛けて、ピンチが無い事に気付いた。
「めんど…」
どこにあるか聞きに戻ろうとした時、ちょうどシュラが一式持って家から出てきた。こちらを見て何かニヤっとしてるのが苛ついたから、やっぱ帰りも次来る時もこいつは走らせようと決めた。
ーつづくー
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