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そこはかとなく

そこはかとない記録
2024
08,08
 教皇宮に入った二人は教皇座に座るサガの前まで揃って出た。堂々と、これが番となった俺たちだという事を見せ付けてから静かに首を垂れてデスマスクが自ら番を得たことを報告する。
「発情期にαたちを惑わすこと無く聖闘士を全うできるようになるのは私も望んだ事である。本領を発揮して励んでほしい」
 仮面の奥のサガの表情は窺えないが、落ち着いたコスモと声色で返ってきた。邪悪な方は息を潜めているようだ。
「しかし教皇、俺の発情期が無くなったわけではありません。今まで通りその時期はシュラと休みを頂きますよ。聖域で」
「理解している。首輪ももう、必要無いな?」
 そう告げたサガは袖口から金の首輪を取り出して見せた。今までずっとあれを着けていたという感覚もすでに薄れて、自分の首元を彩るのは黒革の首輪しか考えられない。
「必要ありません。買っていただきありがとうございました。売るなり溶かすなりして聖域の財源に充ててください」
 二人が教皇宮から退室しようとした時、サガはシュラの方にも視線を送ったが二人は言葉を交わすことなく宮を出た。

「キリっとした顔で"話をつける!"って言っといてよ、結局お前何も喋らねぇし!」
 宮を出てすぐデスマスクは、ただの添え物と化していたシュラに不満をぶつける。つい先程まで強気でアフロディーテとピリピリていたというのにどうしたというのか。
「サガが落ち着いていたから余計な事を言う必要も無いかと思って」
「あー…余計なことばかり言う自覚はあるんだな。初めて知ったわ」
 嫌味を言ってもシュラは黙ったままでいる。多分、先程アフロディーテと張り合ってしまったからこそ、αの気をコントロールできなくなる事を怖れたのだろう。
「はぁ〜…サガも今のお前も情緒不安定な人って読めねぇなぁ〜」
 デスマスクは階段を降りながら長い溜め息を吐いてシュラに寄り添った。何となく、触れ合う手に緩く指を絡ませるとシュラの方から握り返してくる。
「突然発情期に聖域へ戻って騒動起こしたお前が言うことか。サガを見れば俺の苦労も少しはわかるだろ」
「そうだけど、あの時はお前の気を引きたいっていうか甘えがあったというか…」
「それで俺は黄金と争って負傷した」
「…ごめんって…」
 番になれて、もう落ち着いたからさ…とシュラの頬にキスをする。シュラも握っていた手を解くとデスマスクの腰を寄せて頬に返した。擦れ合う聖衣がカツ、カツ、と音を立てる。

 仲良く双魚宮を抜け宝瓶宮に入れば、行きには見掛けなかったカミュとミロが話をしていた。ミロはシュラとデスマスクの気配に振り向くなり「本当に番になってやがる…」と呟いた。
「うるせぇ、聞こえてるぞ」
 宮の真ん中を歩きながらデスマスクが吐き捨てる。
「番になったということは、お前たちヤったって事だよな?デスマスクを抱くとか信じられ…」
 言い終わる前に控えめな聖剣が宙を裂き、ミロとカミュをかすめてその奥の柱に鋭い傷を付けた。またもシュラに傷付けられ、宝瓶宮はいつか斬り崩されてしまうかもしれない。
「おいシュラ!危ねぇだろ!」
「お前みたいなガキには理解されなくて結構だ!」
 シュラは黙ったままで、ミロに答えたのはデスマスクだった。そう言われるなりミロは腕を組み顔を歪める。
「ふん、どうせお得意のフェロモンで無理矢理抱かせたのだろう」
「そんな考え方しかできねぇなんて、黄金αのくせに情けないな」
「ハァ?「おいミロ!止めろ!」
 レベルの低い喧嘩を眺めていたカミュが遂にミロを止めに入った。それを見て、いつでも繰り出せるとデスマスクの隣で聖剣を構えていたシュラも腕を解く。
「すまない、私たちαには恋愛事など無縁の事なのでな…お前たちの関係に羨ましさがあるのだと思う」
「ハァァ?!俺は羨ましくねぇよ!」
「止めてくれ、私から見てもみっともないぞ」
 デスマスクたちからはよく見えなかったが、カミュの冷めた視線を受けてミロは口をつぐみ顔を逸らした。
「シュラがαになったと聞いた時、驚きは無かった。αに匹敵する力は持っていたからな、それが当然とも思えた。番の事はよくわからないが、これからも二人の活躍に期待している」
 そう告げたカミュにデスマスクは手を振り、二人は磨羯宮へと向かった。

「くっそミロの奴、なめくさりやがって。未だにΩは美形とか女々しいとかいう幻想抱いてんじゃねぇよ!」
 シュラは私室へ入ってからも愚痴るデスマスクの髪を撫でて額にキスをした。二人とも聖衣を脱ぎ、上半身は裸のままでソファーに沈み込んでいる。
「俺はお前が好きだ。ただそれだけだが、それには肌も髪も瞳も内面も全てが含まれる。他人の気を引くほどの美貌など必要無い。俺がお前を好きでいるのだからそれでいいだろ?」
「俺だってそう思うけどよ、それが理解できてねぇミロに腹立つんだよ」
「クク…お前は賢くて可愛い。好きだよ、デス…」
 シュラの手のひらがデスマスクの胸を揉んで、親指が敏感な箇所を撫でていく。擽ったさに吐息を漏らしながら、するのか?と呟くと微笑み返された。聖域で抱かれるのは初めてだ。誰かに見られる事なんて無いのはわかっていても少し緊張する。シュラなりに、ミロの言葉に傷付いてないかとフォローしようとしているのだろう。発情期でなくても抱ける、お前が好きなのだと。一通り前戯を施されて蕩けたデスマスクはシュラに抱き上げられると寝室へ移動し、引き続きシュラの愛を存分に受け入れた。

ーーー

 翌日から二人は早速それぞれの仕事を与えられ、以前と同じく任務に励んだ。αに変異したシュラは自身の体力や技の技術に関してはβの頃との違いを感じなかったが、敵と対面した際に相手が怯むようになったのは実感した。その実感は日に日に増していき、αとしての力が着実に付いてきていることに満足した。得られる強さは全て取り込みたい。それがデスマスクを支える力となるのであれば喜んで受け入れる。早めに任務が終わった8月のある日、十二宮を上っていたシュラは巨蟹宮にデスマスクの気配を感じて会いに行くことにした。
 巨蟹宮の外にまで宮内を轟かす死面たちの声が漏れ出ている。番になる前はここまで聞こえていなかったが、最近また数を増やしたようだ。Ωが判明してからもデスマスクは粛清任務の手を緩める事はしなかった。時差があろうと時間を問わず任務に向かい、発情期の休暇分を取り戻すべく戦い続ける。シュラのように格闘を繰り広げるわけではないのだが、コスモの消費に関してはデスマスクの方が高いだろう。それが更に加速しているように感じる。私室の扉を開け、居間へ向かおうとしたシュラはデスマスクが浴室にいることに気付きそちらへ向かった。浴室の扉を開けてしまおうか考える間もなく、シャワーを終えたデスマスクがその扉を開けて現れた。
「ぅおいっ!ビビるじゃねぇか、来てたのかよ」
 シュラは洗面台の横に置かれていたタオルを手にして肩に掛けてやる。デスマスクを抱いた後にするのと同じように体を拭き始めれば、大人しく身を委ねてきた。
「今日は早帰りで来たのか?この後も暇ってこと?」
 久しぶりに会えたことが嬉しそうな声色が響く。
「あぁ、αになってから仕事が楽になった気がする。お前も少しは楽になったのか?」
「少しもなにも…」
 デスマスクは耐えられない笑みを溢しながらタオルをひるがえし、人差し指を立てた右腕を突き上げて見せた。
「見せてやれないのが残念で仕方ない程に、ヤバい」
 ヤバい、が良い意味でというのは一目瞭然だった。少しコスモを燃やしてみせたのだろうがそれだけではない。Ωであるのにαと同等の圧を感じる。
「これが番になる、という事なのかお前の精が凄いのかわからねぇけど、力の出方が全然違うんだよな。今の俺はお前より強いと思うぜ?エッチして中に出されても掻き出さなきゃ漏れてく感じあんま無ぇし、αの力をリアルに吸収してんのかな」
「仕様から考えると俺は与えることしかできないが、お前はαを受け入れたΩであるから…一体化したという意味で強化されてもおかしくない気はする」
「その辺のΩならば番との妊娠出産しか考えられなくなるだろうが俺は違うしな。俺は新しい世界を産んでやるぜ?」
 突然の壮大な言い草にシュラは笑ったが、デスマスクは何も言い返さなかった。真剣な瞳がシュラを見つめ続けていることに気付き、笑みを潜めて続きを促す。
「俺らが相手にする奴らは殆どがαだよな?まったく好都合だ、片っ端から葬っていける。そしてαの側にはΩがいる事も多い」
「…任務外の殺しもしているのか」
「そいつら番だったら片方だけ残すのは可哀想だろ?番じゃなかったら俺とお前の関係をぶち壊す"運命"が紛れ込んでいるかもしれん」
「運命?」
「知らねぇの?番関係ぶち壊してでも遺伝子レベルで惹かれ合ってしまうαとΩの存在」
「知ってはいるが、俺たちがソレではないのか?」
「正直わかんねぇじゃん。そう思いたくてもどんなんか知らないのだから。念には念を、だよ。お前を誰かに盗られるのだけは絶対に許せねぇし耐えられん。聖域の奴らは仕方ねぇから後回しだが、この世に存在するαとΩの全てを消したい。世界がβだけになったらどうなるんだろうな?どうせその中から優劣付けてくのだろうが、番はαとΩだけだとかフェロモンに惑わされて事件が起きるような世界が終わるならそれで良い」
 デスマスクは自身の願いが果たされた故に世の中の好き合うαとΩに対して友好的な考えを持っているとシュラは勝手に思い込んでいた。しかし現実はαへの嫌悪もΩに対する悔しさも何も変わっていなかった。突き詰めれば"怒りの根源は第二性を生んだ神にある"という事を思い返すと、何も変わらないのは当然の事だろう。
「なぁお前何でここに来た?オレサマの顔を見に来ただけか?」
 拭き終えた体を包むバスタオルの隙間から手が伸びて、シュラの服を小さく摘まむ。その様子を見て、最近デスマスクに服を与えていないなという事を思い出した。
「お前もこの後空いているのなら食事でもと」
「ふぅん…その前にさ、ヤる?お前って今でも一人の時は溜め込んでんの?それとも積極的にオレの事考えてくれちゃってる?」
「わざわざ一人で楽しむようなタイプではない。そこは変わらない」
「へー…ならば久しぶりにオレサマが色々頑張ってやろうかな。明日もデカい仕事入ってるからよ、たっぷり頂いておこうかなって」
 言い草からして"外食前に軽く"とはとてもいかなさそうだなと思いながらも、シュラはデスマスクの頬にキスをしてから自身も浴室へ汗を流しに入った。その場で脱いだ服をデスマスクに渡すと目を丸くして不思議そうに見ていたが、すぐに理解してニヤけ崩れていく顔が閉まる扉の向こうに見えた。

 寝室へ向かったシュラは先にベッドで待っていたデスマスクの首筋に触れ、噛み痕を確認する。番の証はしっかり残っている。デスマスクはシュラを咥えることに関してそこまで積極的ではなかったが、今日は違った。慣れない口使いながらも少しでもシュラから力を得ようと懸命に求め、吸い上げていく。飲み込む事が当然であるかのように躊躇なく体内へ取り込み、ニヤりと笑った。その唇にキスをして押し倒そうとすると、デスマスクは拒むように身を屈めて再びシュラを咥える。抜いてしまった熱をもう一度立派に、研ぎ澄ますように。そして自ら仰向けになれば「次はここ」と言わんばかりにシュラを下腹部まで導き、視線を合わせた。そこからはもうシュラの主導で、抱き揺すられるデスマスクの体は愛される悦びに熱を帯びていく。シュラのために絶え間なく濡れる体を差し出して、求める限りの愛情を体いっぱいに受け取った。

「…αってさ、どんだけシたら枯れるんだ?」
 当然、外食へ出掛けられる余裕など無い姿となったデスマスクがぼんやり呟いた。αに抱かれて力が漲るようになるのは直ぐではないようだ。
「さあな、Ωの発情期に耐えられる分はあるから生産回転が相当速いのだろう」
「貯めてる部分がデカいわけじゃねぇもんな…女αなんて特に。そこは意味不明だわ」
「男Ωの妊娠構造も昔に本を読んだが意味不明だった」
「理解するもんじゃねぇんだよ…番がどうとか説明読んでも、実際なってみないとわからんのと同じだ」
「まさに神の悪戯、か」
「ほんとムカつく」
 その言葉にシュラは眉を寄せて微笑んだ。デスマスクの髪を撫でてから指先で頬を擽る。第二性なんか関係なく普通に、平凡に愛し合って終われるのならばそれがいい。αの力がΩを補って殺戮の原動力に変わってしまうとは思ってもいなかった。デスマスクは強い。しかしどうあがいても神にはなれない。このまま突き進む先に何がある?
「考えても仕方ねぇんだ、やるしかない。俺は、やる…」
 シュラの心を読んだかのような呟きが低く響き、妙に胸を打った。迷いは、断たれる。

 翌朝、シュラはデスマスクを見送ってから昨日の報告をするために教皇宮へ向かった。しかし教皇座に姿は無く私室へ案内されたため、何となく状況を理解したシュラは溜め息を吐いてから扉を開けた。
「蟹座は番になってから絶好調のようだな、調子に乗っている様がよくわかる」
 ソファーに腰掛けているサガの髪は半分黒く染まっていた。話し方からも邪悪な方が出ているのは一目瞭然だ。
「アレでも抱き心地は良いものなのか?Ωであるのだからナカの具合は最高だろうがな」
「そのような話をする気はない。次の準備があるので失礼する」
 あからさまに呆れた顔をして見せたシュラは簡潔に報告を済ませ踵を返した。それでも背中から笑いを含んだ声が漏れ聞こえる。
「クク…お前も恐ろしいΩを番にしてしまったものだ。みるみるうちに巨蟹宮が死面で埋められていく。元からおかしい奴ではあったがあれで精神面は正常なのか?異常であってほしいともう一人の私が願う程だぞ?任務外で殺りすぎると私もフォローし切れないからな、お前がコントロールしてやれよ」
 Ωなのだからセックス漬けにでもしてやれば落ち着くだろう、という馬鹿な言葉を遮るように力強く扉を閉めた。パラパラと石埃が床へ落ちていく。

 暗殺はデスマスクだけがしている仕事ではない。巨蟹宮の怪異によりデスマスクだけがその行いを表面化させ周知されているが、シュラもアフロディーテも行っていることだ。指示をするのはもちろん教皇。聖域内の問題のみならず外交も絡み、聖域に仕事を頼む者は世界各国に散らばっている。
「異常だと思うのならなぜデスマスクに暗殺任務を与えるのだ…!」
 血を流さない積尸気冥界波は都合が良いのだろう。一人であればひっそりと病死扱いにもできる。シュラの暗殺は殺人事件にしかならない。だからこそ、時にデスマスクは従順さを放棄して気に入らない依頼の時には周りを巻き込み、わざと事件性を露見させているのではないかと思う時があった。理解できる者はほとんどいないのだろうが、それが彼なりの正義でもあるのだろうと。それとも本当に、ただαとΩの殲滅を遂行しているだけなのだろうか。
 自分はどうしたいかと言えば、決まっている。聖域よりも世界よりも番としてデスマスクの味方でいる。より強くなりたいと願うそれを叶えてやりたい。そのために人類が滅亡しても…構わない。二人きりになった世界を神に見せつけてやれるのならば、それはさぞ気分が良いものとなるだろう。

 磨羯宮へ戻ったシュラは昼食を食べてから次の任務へ向かった。暗殺を伴わない仕事であったが、偶然βに暴行を加えているαの二人組を見掛けて首を落とした。助けられたβはシュラを見るなり感謝も述べず逃げ去っていく。転がる首を眺めて、何も感じるものなどなくその場を立ち去った。

ーつづくー

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