2024 |
07,24 |
夜遅くまで抱き合い続けた二人は食事を摂るためシャワーを浴びたが、結局何も食べずデスマスクの部屋で共に眠ることにした。シュラがベッドへ先に行くとデスマスクは冷蔵庫の前でパチパチ音を立てながら水を飲んでいる。
「…抑制剤、飲むのか?」
発情期の症状は抑えられているはずと不思議に思ったが、問い掛けに「あ、うん…」と言葉に詰まってから何かを飲み終えたデスマスクはベッドまで来てシュラの隣に並んだ。仰向けになったまま、ポツリと呟く。
「まぁ…避妊薬だ。相手がお前でも妊娠だけは勘弁だからな」
βの頃のシュラはデスマスクの妊娠に関して敏感だったが、そんなことすっかり抜け落ちて行為に没頭してしまった。フェロモンのせいと言えばそうでもあるが、Ωに与えるのが当たり前のようにデスマスクを抱き、愛するΩに与えられる悦びを自身も感じて歯止めが利くことなど何もなかった。αに支配されたシュラはβの頃に懸念していた理由すら霞が掛かって、そう思った事もあったなとぼんやり思い返す。
「お前さ…まだ、自分が避妊薬飲むとか思えるか?」
「……」
「いや、俺が飲むからお前は飲まなくて良いんだけどよ…」
「負担ばかりかけてしまうな」
「それがΩだから仕方ねぇよ。お前の元気な愛情貰える方が嬉しいから気にすんな」
笑顔を見せたデスマスクはシュラに抱き寄せられ、二人はそのまま眠りに落ちた。
明け方、まだ薄暗い中で目覚めたデスマスクは隣で眠るシュラを見た後、自身の首筋に手を這わせ噛み痕も確認した。夢や幻ではない。シュラの匂いもわかる。目の前の黒髪をそっと撫でて、頬にも触れてみた。
(かっこいいし…)
改めて間近で見てみると整った顔が格好良く見える。この長くて豊富な黒い睫毛が切長な目を縁取るおかげで目力が増し、顔がぼやけずハッキリするのだろう。自分だって負けないくらいの顔立ちをしていると思うが、白銀の毛はどんなに豊富でも肌に溶け込みぼんやりしてしまう。裸になってもどこか幼く見えてしまうのはΩ故の男性退化のせいだけではない。別にむさ苦しく毛むくじゃらになりたいわけではないが。
聖域にいる黄金や白銀聖闘士には派手な顔立ちの者が多いため、口数も少なくβであった黒髪のシュラはイメージだけで地味であると思われ印象に残りにくい。特別背が高いわけではない。ムキムキにデカいわけでもない。一般人と比べれば格別だが聖闘士の中では平凡な方だ。自分だってシュラが同じ歳の黄金同士でなければ全く眼中に無かった気がする。デスマスクがシュラに惚れたのは顔ではなかった。どちらかと言えば面食いで恋人は見た目も良いに越したことはないと思っていたが、デスマスクはシュラが自分の事を知ったうえで大切にしようとしてくれた姿勢に惚れた。裏切られるのは嫌いだ。本性を知って手のひらを返されるのも鬱陶しい。だから広く浅い付き合いしかしないし、自分に対して深入りしてこようものなら拒否もする。ずっとそうしてきたというのに、シュラにはもっと自分を知ってほしいと思ってしまった。裏切られても縋りたいくらいに。もう嫌いになんかなれそうもない。シュラ以外を好きになるなど考えられない。
聖域にいる黄金や白銀聖闘士には派手な顔立ちの者が多いため、口数も少なくβであった黒髪のシュラはイメージだけで地味であると思われ印象に残りにくい。特別背が高いわけではない。ムキムキにデカいわけでもない。一般人と比べれば格別だが聖闘士の中では平凡な方だ。自分だってシュラが同じ歳の黄金同士でなければ全く眼中に無かった気がする。デスマスクがシュラに惚れたのは顔ではなかった。どちらかと言えば面食いで恋人は見た目も良いに越したことはないと思っていたが、デスマスクはシュラが自分の事を知ったうえで大切にしようとしてくれた姿勢に惚れた。裏切られるのは嫌いだ。本性を知って手のひらを返されるのも鬱陶しい。だから広く浅い付き合いしかしないし、自分に対して深入りしてこようものなら拒否もする。ずっとそうしてきたというのに、シュラにはもっと自分を知ってほしいと思ってしまった。裏切られても縋りたいくらいに。もう嫌いになんかなれそうもない。シュラ以外を好きになるなど考えられない。
(お前も、それくらい好きになってくれた…?)
触れた頬に軽くキスをして、もう一度黒髪を撫でた。そのままデスマスクが再び瞼を閉じた時、シュラが動いてデスマスクの首筋を撫でる。
「んっ…」
噛み痕に触れられて思わず声が漏れてしまう。
「痛むか?」
寝起きの少し掠れた声が心配そうに響いた。瞼を上げれば、ぼんやりした黒い瞳がデスマスクを見つめている。万全ではない顔が既にカッコいい。
「痛くねぇけど…なんか、性感帯になった…みたいな?」
「あぁ…」
理解したのかしていないのか、気の無い返事を返しながらまた撫でてくるので、再熱しそうな体をギュッと硬くしてシュラの胸に擦り寄った。そうすると首筋を撫でていた手はするする背中にまわり今度はデスマスクを抱き寄せる。
「すまん、あれだけ抱いて足りないわけではないのだが…触れたくて」
「いっ…いいって。好きにしろ」
まだ眠そうな声の通り、シュラはデスマスクを純粋に抱き締めて瞼を閉じた。しかし眠るわけではないらしい。
「昨夜はフェロモンもあってお前のこと以外考える余裕など無かったが、サガがここまで殴り込みに来る事もなく二人きりで過ごせて本当に良かった。アフロディーテのおかげだな」
「あぁ…サガも本気出せばここくらい探し当てられただろうにな。また途中で素に戻ったか」
「クク…都合の良い二重人格だ。強いのか弱いのかわからん」
「両方なんだろう。確実に強いし、でも弱いんだよ。サガに限った事じゃねぇ。俺らだってそういうもんだ。絶望に突き落とされる弱さがあってこそ、そこから這い上がる強さが際立つんだよ。昨日の事のようにな」
デスマスクもシュラの背中に手を回し、誘惑を仕掛けてこない自然なαの香りを吸い込んだ。シュラが覚醒してくれたから今がある。
「ふ…強さ、か。昨日の俺がか?」
「正直あまり覚えてねぇけど、サガに向かってた意識を無理矢理引き千切ったコスモ?フェロモン?あれ何だったんだろうな。あの一瞬は何か凄かったぞ。まぁ俺様をぶん投げたよな、お前」
「あぁ…自分が喰われるような感覚だった。投げてすまない」
ぶつけた箇所など覚えていないので頭からお尻までをさする。それだけでも発情期が明けていないデスマスクの体は疼き、身を捩る。
「別にっ…良いけどさ、そう言えば金の首輪も置いてきたままだ」
「まだ必要なのか?」
「…もう要らねぇけど…お前、首輪着けてるの好きそうだったろ」
「そんなつもりは無いがまぁ…欲しければ、買えばいい。今度は俺が買ってやる」
「お前が?」
「…番、なのだから。他のαの贈り物より俺のが良いだろう?」
少し照れ臭そうに言う言葉が嬉しかった。噛み痕を隠す必要も無いし首輪にこだわりはないが、大好きなパートナーが買ってくれるのなら絶対に着ける。金じゃなくていい。細い革紐でいい。シュラが買ってくれるなら何でもいい。
「…うん、そうだな…そうだわ。お前の番だしお前が買え」
嬉しさを出し過ぎないよう、少し素っ気なく返した。
「…生きて、番になれた…」
不意に、シュラが低い声で呟く。
「絶対に離さない、もう誰にも渡さない。邪魔をする奴は全て殺してやる…」
ぼんやりした黒い瞳に見つめられる。寝起きの目と変わらないはずなのに、何かが少し違う。現実と夢の境界も曖昧に歪んで全て闇に引き摺り込まれそうに感じる。番になったからだろうか?それに恐怖など感じる事はなく、身を委ねてしまいたくなる。
「へへ…お前の好きにしていいぜ…」
キスを交わして、触れ合って、微睡むうちに外は明るくなり夜は明けた。
二人はサガが探しに来ないのならデスマスクの発情期が終わるまで隠れ家で過ごす事に決めた。番になったのだから聖域に戻ってもフェロモンの影響はもう無いはずだが、初めての事なのでデスマスクの様子を見るためにも残る事にした。…表向きはそうであるが、心では共に二人だけの時間を少しでも長く持ちたい気持ちが強かった。
「動けるのならば買い物にでも出掛けるか?」
朝食の後デスマスクがソファーで横になっていると片付けを終えたシュラが声を掛ける。
「ここから二人で出掛けた事は一度も無かったな」
そんな当たり前の言葉を聞いてデスマスクは眉を寄せた。
「…それをすればここが何処なのかバレるんじゃねぇの」
「どうせここで過ごすのも今回が最後だろう。そして二度と戻る事もない。既にある程度察しがついているのではないのか?」
「本気出せばわかるが遠慮してんだよ。謎なら謎のままなのも良いじゃんって。そういう思い出。お前とのさ」
そうデスマスクが答えてもシュラは考えるように立ち尽くしている。急にどうしたのか。
「何だよ、ネタバレしたいのなら言えばいいけど」
「いや…別にそれはどうでも良いのだが」
「いいんかい!なら何が不満なのだ?」
シュラはソファーの前で屈み、デスマスクの首筋に触れた。当たり前のようにデスマスクの体は小さく跳ねてしまう。
「っ…お前、ホントそこ好きだなぁっ…」
「明後日、お前の誕生日だから買いに行きたいと思って」
細い目を緩ませ満足そうな顔をして、噛み痕を何度も親指でさする。
「…首輪のこと?なら、その明後日で良くないか」
「何が起こるかわからないだろ。サガが来ないと決まったわけでもない。行ける時に行っておきたい」
「ん〜…この近くに良い店でもあるのか?」
「それは知らない」
行きたい、買ってやりたいと思うのならそれくらい調べろよ!と思ったが、間違いなくシュラも舞い上がっているのだ。冷静そうに見えても長い付き合いだからそれくらいわかる。突然αになって番になって、色々とバグっている。
「だったらイタリアに行きつけのΩ専門店あるからそこでもいいだろ?ここのネタバレにもならねぇし、番ならαも一緒に入店できるし」
何の不満も無い顔を見せたシュラは軽く頷き、すぐに立ち上がった。
支度を整えた二人は隠れ家の玄関からデスマスクのテレポートによりイタリアまで旅立ち、そこで初めてシュラはデスマスクに誕生日プレゼントを購入した。シュラにいくつか選ばせた中からデスマスクが決めたのは細めで柔らかい黒革のベルト。噛み痕を隠す効果などもちろん無く、この首輪はパートナーから贈られた自分を彩る装飾品となる。
「聖衣の時はもう着けねぇし、こうして出掛ける時用だなぁ」
店内でシュラに装着してもらったデスマスクは新しい首輪を撫でながら鏡で確認した。後ろに映り込むシュラの顔はとても満足気で、ずっと顔が緩んでいる。次第に恥ずかしくなったデスマスクはシュラの手を引いて店を出た。外へ出るなりシュラは顔を寄せてデスマスクの耳に軽くキスをする。人前だというのに何かのスイッチが入ってしまったようだ。βの時からは考えられないことをどんどんしてくる。
「そ、そんなに似合ってるか?コレ」
「とても」
短い答えが耳元で低く響いていつまでもこだましているようだ。抱き寄せられて歩いていると触れ合う腕が熱く感じてくる。シュラの香りが近くて濃い。番ができて癒してもらえたために症状は軽くなっているが、デスマスクはまだ発情期の真っ只中である。せっかく二人で外出してイタリアまで来たのだから、もっとお勧めの店をシュラと周ろうと考えていたのだが…
「悪い…ついでに昼飯もこの辺でって思ってたけどさ…」
ポツリと呟かれた言葉に立ち止まったシュラは、デスマスクの首輪を撫でながら顎に手を添え、顔を上げさせた。目元が緩んで赤みを帯びている。爽やかな香りがシュラを包み、増していく。
「やっぱ…夜だけじゃ、足りねぇ…みたい…」
上げさせられた顔は求めるようにシュラを見つめ続け、伸びた手がシャツを握って急かすように軽く引いた。
「直ぐテレポ、するから、抱いて…」
デスマスクの言葉が終わる前にシュラは人気の無い路地裏へ連れ込み、二人は瞬く間に隠れ家へと舞い戻った。
シュラの部屋なら1階にあるというのに、そこまで持たなかった二人は玄関から最も近い居間のソファーへ沈み込んだ。自ら脱いで下半身を晒したデスマスクは、我慢できないからと前戯を求めずシュラを迎え入れた。
シュラの部屋なら1階にあるというのに、そこまで持たなかった二人は玄関から最も近い居間のソファーへ沈み込んだ。自ら脱いで下半身を晒したデスマスクは、我慢できないからと前戯を求めずシュラを迎え入れた。
「はっ…ぁ…ごめ…おれ、こんな、おめがで…っ…」
「謝るな、何も悪くないっ、お前は俺を、欲しがっていればいいっ」
「ぅんっ…もっと、してぇっ…!しゅら、しゅらぁっ…」
買ったばかりの黒い首輪が赤らんだ肌に張り付く。少し苦しそうで首元に手を持っていこうとするのをシュラは引き剥がし、苦しさなんか感じさせないくらい存分に快感を与え続けた。この黒い首輪姿をしばらく見ていたい。自分のものとなったデスマスクに熱く求められるだけでシュラの熱は冷める気がしない。
「ピークはいつも三日くらい、だったな…明後日の誕生日まで、好きなだけ、してやるから」
潰れるくらいに抱き締めてキスをすれば従順に応えてくれる。揺れるデスマスクの脚がバランスを失ってソファーから床に落ちても、昼食を食べ損ねた二人は夕方までバテることなく愛し合った。
ーつづくー
ーつづくー
PR
カレンダー
最新記事
アーカイブ
ブログ内検索
アクセス解析