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そこはかとなく

そこはかとない記録
2024
09,11
※以前からその気はありましたが今回若干のカミュミロ要素が含まれています。地雷の方は申し訳ないですが、昔から他カプにカミュミロを含む活動をしているゆえご了承ください。

ーーーーー

 昼を過ぎた頃、発情期の終わりを確信したデスマスクはイタリアへ出掛けるためにシュラと交代で身支度をした。今年の誕生日プレゼントも着用済み衣服以外にはまだ用意されていない。行きたい店があるからそこで決めようと話していた。
 デスマスクが着替えた私服はやはり首元が開いていて黒革の首輪もよく目立つ。磨羯宮を出てからシュラが首輪をひと撫ですると、フルっと全身を震わせた。外でやるのは睨まれるが、もう文句一つ言われない。いつものやり取りに笑っていれば、ふとこちらに向けられる視線を感じた。
「うらめしそうに見てんじゃねぇよ、さっさと行け」
 シュラより先に気付いていたデスマスクが声を上げる。そこにいた私服のミロは不機嫌そうに顔を歪め、二人に背を向けた。
「カミュの所へ行くのか」
 階段を上るミロの背に向けてシュラは自分でも無意識に声を掛けた。「え?」と振り向いたのはデスマスクの方で、ミロはそのまま去って行く。結局ミロとは言葉を交わす事なく別れた。

 十二宮の出入り口へ向かいながらデスマスクはなぜミロを呼び止めようとしたのか聞いた。聖衣や鍛錬服なら教皇宮かもしれないが私服であれば宝瓶宮一択だろう。二人は昔から仲が良い。自分たちに似ているような気もするが言い争ったりする事も少ないゆえ、気の抜ける良い友達なのだろうと思える。暇なら会いにも行くだろう。
「お前は何も感じないのか?ミロはカミュの事が好きなのだろう」
 まさかシュラの方が自分に対して鈍感か?と突き付けてくるとは思ってもいなかった。思わず返す声が大きくなってしまう。
「そりゃあ、あいつら仲良いから会いに行ったりするのはあるだろう!当たり前過ぎて何で聞くんだって事だよ!」
「俺が言いたいのはαとαの恋愛だ。本人には言えないが…おそらくミロはお前を羨んでいるぞ」
「ハハッ!Ωを散々馬鹿にしたツケだろ!別にα同士で恋愛すれば良いじゃねぇか」
 珍しくデスマスクの受け止め方が雑だ。わざとそうしているかのように。
 言いたいことはそうではないと思いつつも、伝える術が浮かばなかったシュラはミロの話をそこで終わらせた。

 十二宮を出た二人はイタリアのフィレンツェまでテレポートし、デスマスクの案内で目当ての店へ向かった。
「結局お前のプレゼントまだだったからな、ここで買う」
 アクセサリー中心の雑貨屋に入ったデスマスクは既に下調べを終えているのか、真っ直ぐ目当てのコーナーへ歩いて行く。辿り着いたそこには様々な種類の革製品が並んでいた。
「しっくりきたわけじゃねぇんだけど、やっぱりこれにしたいと思って」
 そう言いながら手にして見せたのは、デスマスクの首輪と同じ黒革の細いアンクレット。
「お前は手を使う技だし、腕時計とかも絶対に着けねぇし、テーピング以外で手や腕に何かを着けるのは嫌だろうなと思ったんだ。それは脚でも同じだけどさ。靴下も滅多に履かねぇし。でもαでチョーカーやネックレスも変だしさぁ…」
 シュラはアンクレットを受け取り眺めた。装飾品は手足に関わらず煩わしいので普段から着けようと思わない。聖衣のヘッドパーツでさえ邪魔と感じるが、あれはコスモを高める防具だから着けることに慣れさせた。マントは着けていた方が格好良いとデスマスクが言うので最初だけ着けている節がある。
「アクセサリー着けないお前がさ、たまに一点さり気なく着けててしかもソレが恋人とお揃いっぽいとかさぁ…良いなぁって思うんだよぉ…」
 おそらくデスマスクは典型的な"恋人っぽいこと"に憧れがある。謙虚ぶって押せばシュラが折れる事も知っている。
「今日は誕生日だしさ、オネガイ叶えてくれないか?俺への物は要らねぇ、この願い叶えてくれるのが俺へのプレゼントってコト」
「…別にお前がそうしたければすぐ渡せば良かったものを…オネガイを演出する為にわざわざ今日連れてきたのか」
 一つ溜め息を吐いてから、シュラはデスマスクの肩を抱いて会計まで歩き出した。答えを告げないシュラに「え?いいの?オッケー?」と困惑の声が続く。店員にアンクレットを渡したシュラは、デスマスクの頬を人差し指で撫でてから「オッケー」と笑い、背中を押して会計任せた。それに釣られて笑ったデスマスクは滅多に見せない長財布を取り出し、半年遅れの誕生日プレゼントを購入した。
 左の足首に黒革のアンクレットを着けたシュラは思っていたより馴染んだため、これなら直ぐに慣れるだろうと足首を揺らしてみる。そして隣で満足そうな顔をしているデスマスクに一つ確認した。
「お前の分は買わなくて良いのか?」
「良いんだよ。同じ物を着けるよりもさり気なくお揃い、よく見るとお揃い、くらいが丁度良いんだって」
 そう言いながら自身の首輪を指でなぞった。シュラからのプレゼントは何でも嬉しいが、首輪を超えるものはもう無いかなと考えている。二個目三個目の首輪があっても初めて貰ったこればかりを着けてしまう気がした。だから、もういい。目当ての買い物を終えた二人はしばらく街の中を目的もなく歩いていく。

 イタリアもフィレンツェほどの観光都市に来るとαとΩのカップルや番をちらほら見掛ける。Ωの発現率が下がり希少種となった今、番を得られるαは一種の勝ち組とも言われる。ただ、そこに愛があれば良いのだが第三者の計らいにより無理矢理番にされるのは双方にとって悲惨でしかない。邪悪なサガの目論見を阻止した自分たちだからこそよくわかる。
 血筋を重んじる上流のαたちは、良い血統でありながらΩに生まれた者を血眼になって探しそこでくだらない争いが起きる事すらあった。そのくだらない小国家の争いに聖闘士が呼ばれ、暗殺を指示されたのでデスマスクは依頼人も含め五つくらいの家を全滅させてきた事があるらしい。突然支配者層を失った国は隣国に吸収されたり平民αが建て直そうと躍起になっていたりと新たな歴史が生まれ続けている。それはβだけになっても同じだろう。国は、人は、立ち上がりどうにかしていく。力が無ければ滅亡し、力が強ければ生き残る。αやΩがいなくてもどうにでもなる。それだけのことだ。
「Ωがいないわけでもないが、やはり首輪をしていると周りから見られやすいな」
「俺様見てから隣のお前見て、スッと足首見て納得されるの何か面白ぇな。ほぼ全員同じ視線辿ってやがる。いくら度胸あるαだろうと他人の番に手を出しても意味無いしな。お前も敵いそうにない面してるしよ」
 日も傾き始め夕食を食べに店へ向かう中、今日を振り返りながらシュラが呟いた。
「本当に俺がβの頃、誰にも奪われなくて良かった」
 時折触れ合う腕を捕らえ、そのまま手を繋ぐ。
「だから俺っぴ黄金Ωだし、雑魚αなんかに襲われても一撃死刑だわ」
 繋がれた手を握り返してデスマスクが笑う。
「でもまぁ…良かったわ、ほんと。俺、自分を守るのにすげぇ必死だったんだからな…」
 店に着いた扉の前、シュラは一度、強くデスマスクを抱き締め頬を擦り合わせた。そのまま軽くキスを交わしてから入店した二人は、夜遅くまで誕生日のディナーを楽しんだ。

 翌日、完全に発情期を抜けたデスマスクは磨羯宮で昼食を食べてからシュラと別れ、巨蟹宮へ向かって階段を下りていた。シュラから貰った着用済み衣服を左手に抱え足取り軽く下りていたが天蠍宮も半分まで進んだ頃、キュッと足を止めた。
「何だお前、暇なのか?αのくせに仕事が無いとか恥ずかしくねぇの?カミュに候補生の育成法とか教えてもらって仕事しろよ」
「無差別に殺戮を繰り返すだけの無能Ωには言われたくない」
 前から歩いて来た私服のミロを無視をして通過すれば良かったが、昨日シュラが気に掛けた事が引っ掛かった。ミロなんか気にしていないと鈍感なフリをしてしまったが、カミュとの間に友情を超えた気持ちがあるだろうという事はデスマスクも気付いている。以前から度々自分に視線を送るのはαとαの恋に躓いているからなのだろう。
 ミロと二人きりになっても喧嘩にしかならないということは理解していた。噛み合わないシュラとはまた違う。何となく、この男はデスマスクに似ているがアフロディーテとのように共感できるでもなく反発してしまう。それでもミロはシュラとの悲恋を成就させたデスマスクに期待している。デスマスクはミロの挑発に言い返すのを堪え、抱えていたシュラの衣服に鼻を寄せて気持ちを落ち着かせた。
「フン、そんなαの服とか匂いに頼らないと生きていけないΩなど…」
「惨めだよな?だから俺はΩを殺している」
 デスマスクの返しにミロは口をつぐむ。
「もちろんαもたぁーっくさん殺してきたぞ。昔より減ったとは言え聖域でさえこれだけ集まるほどいるからな。世界にはまだうじゃうじゃいる。俺は第二の性を終わらせる。αだから、Ωだから、βだからで苦しむ世界を終わらせる。その先は男と女かな?まぁそこまでやるのは神にでもならねぇと無理だろう」
「そんな…無駄なことを…」
「人生無駄なことばかりだろ。でもそれが思い出となり糧になるんだよ。無駄の無い人生送れる奴なんかいねぇだろ?神でさえ無駄なことばかりしやがって。Ωにされて、さっさと教皇ご指名のαと番にでもなりゃ無駄な時間も減らせただろうがそれじゃあ駄目だろ。俺は人格を持ったデスマスクで、シュラを好きになったんだ。でもあいつβだったんだよ。それを諦めろってさ、無理だろ?お前ならさっさと諦めつくのか?俺と番は嫌だっつってたくせに」
「…別にそういう意味で無駄と言ったわけではない」
「あー屁理屈言うな、面倒くせぇ。このやり取りがもう無駄なんだよ。でも無いより良いだろ?俺様の哲学が聞けてよぉ」
 そう言って再びシュラの匂いを嗅いでみせる。
「俺だってこんな犬みたいな事したくねぇわ。でもΩだから仕方ないだろ。性別も第二性も選べなかった。男だから女を好きになるに越した事はないがそれも叶わずシュラだったし。しかもあいつはずっと俺の事を拒否ってたから滅茶苦茶努力したんだよ俺は。お前は俺らの事が羨ましいのか知らないが、シュラがαにならなきゃ心中してたんだぞ?Ωだからシュラと結ばれたわけじゃねぇの。好きだから足掻きまくって頑張った結果が今なんだよ」
「……一気に喋りすぎだ。何も頭に入ってこない」
「お前またカミュの所へ行くのか?ずっと仲が良くて羨ましいわ。俺とシュラに比べたら恵まれてる。ただαとαが気に入らないのなら、どうしたいかちゃんと考えろ。お前はもうΩになりたくてもそれは無理だ。シュラみたいな変異は奇跡だからな。それでもカミュに噛まれたきゃ頼んでみるなり何かしろ。それで俺は昔死んだけどな。ん?何の話だ?まぁいいか。お前がΩに惑わされたくなければアイオリアのように副作用覚悟で抑制剤でも飲め。とにかく俺は全てに於いてちゃんと考えて自分のために行動している。羨む前にお前も考えろ」
 ぼんやり立ったままのミロを見たデスマスクは鼻で笑うと、シュラの服を抱き直して下へと去って行った。宮内が一気に静まり返る。
「……一方的に喋り倒して、アドバイスでもしたつもりか」
 低い声で呟いたミロは天蠍宮を抜けてから目の前に転がる小石を勢いよく蹴り飛ばした。
「自己中な奴…心中を考えるなど女神への忠誠も感じられない。俺だって考えてる。聖闘士を全うした上でカミュの支えになる術を。でもお前たちは聖域の事とか色々隠してるだろ…。真実がハッキリしないまま全てを捨ててカミュを選ぶなど、カミュが許すはずがない…」
 愛のため教皇にまで平気で刃向かい、世界の平和を履き違え自身の理想のために殺戮を繰り返す。なぜそこまでできる?そんな男がなぜ許されている?教皇は、神は、女神は…聖域に、いないのか…?カミュは信じている。女神のため、聖域のために尽力している。偽物が日本に現れた。それでもカミュは信じている。…俺よりも…女神を、弟子を…信じている…。
「羨ましいとか…何も知らないのはお互い様だ、クソ!」
 Ωのフェロモンがあればカミュは俺を見てくれるかもとか考えた事はある。弟子の事ばかり考えてないで俺のことで頭の中を満たしてくれるかもって。でもそれは都合の良い妄想で、自分が欲しいのはフェロモンだけ。Ω生活なんて御免だ。だからα同士の友情を超えられない事も理解している。お前たちのような生き方は憧れども俺は違う。カミュの負担にはなりたくない。支えたい。自分がカミュにできることとは…。

 巨蟹宮へ戻ったデスマスクは上の方でミロが発するコスモの高まりを感じ、ほくそ笑んだ。
(αである限り、いつかお前とも対峙する日が来るかもな。ちゃぁんとカミュと共に葬ってやるよ…)
 抱えて来たシュラの服をベッドに積み上げる。仕事後が終わってこの服の山に埋もれるのが至福のひと時なのだ。首輪を外し、聖衣を装着してすぐさま任務へ向かった。
 日が落ちた後、薄暗くなった宮内に怨念を抱えたαの魂がたくさん仲間入りをした。

ーつづくー

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2024
09,07
 季節で言えばまだ春であったが、夏の到来を感じさせる日差しの強い日。聖域を揺るがす一報が届いた。
「東の果て、日本に於いてアテナと偽る一派が射手座の黄金聖衣を所持している」
 八人の黄金聖闘士を前に教皇の声が宮内に響く。みな静かに聞き、動揺を見せる者はいなかった。
「黄金聖衣については本物で間違いないと確認済みだ。アテナと偽る一派については調査を続けている。そして今、聖域を離れている青銅聖闘士数名がそれに関わっている」
 その報せにカミュのコスモが僅かに揺らいだ。日本出身の弟子を聖闘士に育て上げたことはこの場にいる全員が知っている。デスマスクは例のグラード財団絡みか、と思い返していた。その日は報告だけを受け、今はまだ静観を続ける旨を聞き解散。足早に去って行くカミュをミロが追い掛けて行く。

「なぁ、鷲星座の女聖闘士は聖域にいるよな。あいつが育成していたガキはどうなった?死んでねぇよな?俺見てねぇし」
 帰り際、教皇宮の扉を出たところでデスマスクの隣へ来たシュラに問い掛ける。
「天馬星座の聖闘士になった。闘技場でやり合ったからな、あんなガキが勝つなどと一時期雑兵の間で噂になっていたが」
「へぇ。知らぬ間に聖闘士ってちゃんと育ってるんだ。で、そいつは今どこにいる?」
「そこまでは知らないが聖域で見ないな。気になるなら鷲星座にでも聞け」
「嫌だぁ〜。α女怖ぇし」
 わざとらしく怯えたフリをして見せれば「黄金のくせにつまらない事言うな」と冷たく返されてしまった。ゆっくりと階段を下りていく二人の隣を後から来たアイオリアとアルデバランが追い抜いて行く。シャカもとうに出て行った。アフロディーテはまだ教皇宮に残っているようだ。辺りから人の気配が消え、デスマスクは右手をシュラの腕に絡めた。
「んー…まぁ、やっぱ日本にいるのだろう。聖闘士になった奴らくらい責任を説いて聖域に軟禁すればいいものを…ほいほい修行だの何だので外に出すからこうなるんだ。俺たちにそんな自由はあったか?黄金だからという理由だけで優等生過ぎたな」
「ハハッ、確かに真実を知ってしまったおかげで俺たちとアフロディーテは他の誰よりも真面目だったかもしれん」
「笑えねぇよ。真面目にサガと聖域について考えてやってきた俺らが馬鹿みてぇ。日本にいる青銅がアテナを使って正義面。やる気無くすぜ。もう全員殺すしかねぇな」
 シュラが視線をデスマスクに遣ると、その表情は硬く真剣なものであった。――よくない。不満を和らげるつもりで腕に絡んだデスマスクの手を繋ぎ直し、シュラは軽い調子を崩さぬよう話しを続ける。
「クク…青銅に関しては全員殺して終わりだろう。問題はアテナ役だな」
「アテナも、でいいだろ。偽物なら女だろうと問答無用。本物ならば勝てるかわからねぇけど殺ってやる。今更考えるのも面倒くせぇ」
 階段が途切れる双魚宮前の広場でデスマスクが突然足を止めた。繋いでいた手が突っ張る。どうした、と聞く前にデスマスクが顔を上げ、その手を離す。
「なぁ…やはりアテナは特別か?もし寝返りたかったら俺を殺すか死んだ後にしてくれ」

 ――何を言った?立ち止まった二人の間を風が吹き抜ける。シュラは言葉を失いしばらく立ち尽くした後、次第に怒りが込み上げて離された手を再び強く掴んだ。

「いきなり何をっ…馬鹿にしているのか!」
「人の心は変わるからな」
「俺にさえまだそんな事…!わざとなのか?俺を狂わせるための!」
 真面目な顔をして呟くだけのデスマスクに苛立ちが募り、空いた方の手で顎を掴み瞳を覗き込む。星空に真っ黒な新月が映り込んだ。
「俺はお前に従うと言っただろ!やりたい事が、果たしたい願望があれば何でもサポートしてやる。アフロディーテだって殺してやる!アテナでさえも!一つだけ聞いてやれないのはな、お前が俺の死を望む事だ。いや、死んでやるさ。だがそれは俺がお前を殺してからになる!」
 一体どれだけ伝えればデスマスクの不安を癒し、この想いを届けることができるのだろう。硬い殻は斬り崩した。番になったというのに些細な事で機嫌を損ね、まだ試す行為を続ける。大好きなくせに突き放そうとする。どれだけ説いても、考えられる言葉を尽くしても、あんなに喜ばれても、全て心の奥底にある闇に吸い込まれて消えて行ってしまうようだ。
 しかしこの愛を忘れてしまうわけではない。降り積もっているはずで、ただその闇が俺の愛で満たされるにはきっとまだ途方もない。それをずっと、もう何十年何百年何千年も前から続けている気がする。埋めようと、早く埋めてやらないとと努力しているのに引き裂かれて、再会できたと思ったらやり直し。でもデスマスクは忘れていないし、俺の愛が欲しいと求めてくる。手放せば楽になれるかもしれないのにこいつからの愛だけが快感で心を奮わす。だから今度こそはと繰り返し続けて…
 シュラは強くデスマスクを掴んでいた両手を離し、抱き締めた。
「お前を、俺の中に閉じ込めてしまいたい…!」
 抱く腕に力を込めるが聖衣が邪魔をして遠く感じる。肌で抱きたい。カツカツと擦れる金属音が耳につく。
「…俺だって、わかんねぇよ…お前の事はすげぇ好きで念願の番にもなれたってのに、言えば怒るってわかってんのに言っちゃうんだよぉっ…!」
 低かったデスマスクの声が揺れ、震え、シュラの肩で喚く。
「ただの黄金Ωを超えて、αと一つになって、最強になってるはずなのによぉ!アテナが来たってぶっ殺せる自信もあんのに!お前のどうでもいい一言が引っ掛かって笑い飛ばす事すらできない弱さに腹が立つ…!」
 シュラはデスマスクを抱きながら「人であるのだからそれでいい」とか「完璧を目指さなくてもいい」とは言えなかった。強さを求めるがゆえ、それが許せないからもがいている。
「…すまん、俺もつい頭にきてしまった…お前は俺に対して素直に自分を見せているだけなのにな…」
 愛が伝わっていないわけではない。これはシュラにだからこそ漏れ出てしまう弱さ。シュラにだけ見せたくなる弱さ。
「俺がその欠けた穴を塞いでやるから、神を討ち、第二性を終わらせ、お前こそが正義となれ」
 抱き締めていた腕を解きデスマスクの顔を見つめた。番になってから何度この顔にキスをしただろう?満足なんてしない。どれだけ振り回されても途切れることを知らない愛おしさから、自然と唇を寄せてしまう。
「…ん…ぅ…」
 ねだるようにわざとらしく漏らす声も、デスマスクがシュラを好きだという気持ちの一つ。
「αになったところで俺も根本は変わらない…好意があってもお前の言動に苛立つ事はある。まぁ、昔から噛み合わない部分はあるよな。このままで良いんじゃないか?お前は俺にだけ弱さを出し切ってしまえばいい。そして強さだけを外に持ち出せ。番としても自然な形だと思うぞ。昔はずっと一人で耐えていたんだよな?弱さの綻びが俺を好きになった代償と思うのなら責任を持つ。我慢して強く見せるよりも、吐き出した方が強くなれるはずだ。但し限度がある。やり過ぎた時、きっと俺はお前を殺してしまう。それは理解できるな?」
 無言で頷くデスマスクの髪を撫でてキスを繰り返した。上へ向かう雑兵の足音が聞こえてもやめない。デスマスクも行為をとめない。二人とも夢中になっていたが、上から下りて来る足音がこちらへ向かってきた時デスマスクは唇を離そうとした。シュラはそれを逃さず、思わず牙を立てる。

「っ…!」
「あぁ…血が。君たち、人の宮の前で堂々とそれは…さすがに無視できないぞ」
 アフロディーテの呆れた声が響いてシュラも顔を上げた。唇には血が滲んでいる。噛まれた鈍い痛みと自身の血が付着するシュラの横顔を見てデスマスクは腹の底がぞわんと疼いた。
「せめて陰に入ってくれないかな…君たちのキスは爽やかなものではない。そのうち急な発情期だからとか言って外でおっ始めないでくれよ?ここはテレポートもできないしな、本当にそれだけは頼むから」
 唇に滲む血を舐めてから、それまで黙っていたシュラは何が気になったのか通り過ぎようとするアフロディーテに声を掛けた。
「帰りが遅かったな、教皇と話していたのか?」
「まぁ、ちょっとね。私もデスマスクの世界平和計画に乗っても良いかなって」
 曖昧な返事をして今度こそアフロディーテは宮内に消えて行く。教皇との会話を共有しないのは珍しい事だったが、信頼できる仲間であるため二人は特に気にしなかった。

 それからおよそ1ヶ月後、聖域を離れアンドロメダ島にて候補生を育成していた白銀聖闘士の訃報があった。黄泉比良坂で死の行進に加わる彼を見つけたデスマスクは、胸に残る傷を見て笑みが漏れた。
――あぁ、時は来たのか――
 音が揃わずやかましいラッパの不快音が頭の中に響き渡る。オメガバースに、終末を。

ーーー

 聖域に対する反乱因子の討伐が始まった数日後、デスマスクは23歳の誕生日を迎えた。今年の誕生日も発情期と重なり、磨羯宮でシュラと仲良く過ごしている。死面に溢れ返る巨蟹宮は私室の中まで怨念の声が響く事もあり、普段は気にしないデスマスクも敏感になる発情期の間は磨羯宮で過ごすようになっていた。今は発情期も三日目の朝。そろそろ憑き物が落ちるように体が軽くなり、明日にはまた仕事へ戻る事だろう。熱が落ち着いてきたデスマスクはシュラの胸の中で、夕方からの外出予定や最近の世間話などをしていた。

「しかしサガも随分と焦っているようだな。ケフェウス星座とかいうマイナーな奴を討たせるとは。そこに弟子がいなかったのは残念だった。案の定、日本組だ」
「アイオロスの遺品が発見されたうえ、餌にされているともなれば穏やかになれないのだろう。アフロディーテを向かわせたのも自身への忠誠心を試すためなのか。アフロにはあいつなりの考えがあって動いているようだが」
「今ならサガも隙が出そうだよな。まだ手を出すつもりは無ぇけど。それよりエッチ三昧ですっかり忘れていたが、俺様が頑張って調べた13年前の情報知りたいか?」
 胸の中から顔を出しニヤけた表情は、喋りたくてうずうずしているのがよくわかる。
「断ってもどうせ喋りたいんだろ。全部話せ」
 仰向けになったシュラは、まるで猫でも上に乗せるかのようにデスマスクを胸の上に乗せた。Ωとは言えデスマスクは小さくないし軽くもない。体格はシュラとほとんど変わらないが苦しいと感じる事はなく、もっちりした肌に潰される重みが好きだった。乗せられたデスマスクはシュラの顔を間近で眺めながら喋り始める。
「まずアテナと射手座聖衣を日本へ持ち去ったのがグラード財団総帥、城戸光政。もちろんα。すでに死んでいるが13年前ギリシャへの渡航歴が確認できた。プライベートジェットと船舶での移動。美術商なども経由せず、まさかのストレートで黄金聖衣が国外に流出していたとはな。聖衣を前にして勝手に持ち出したり細工を施すなど…普通の頭をしていたら国に届け出るなりするだろうが、やはりちょっとおかしい奴だったようだ。いくらαとは言え百人も腹違いの子ども作ってる時点で異次元、しかもそいつら全員を聖闘士候補生にぶち込むとかヤバ過ぎるだろ?そういうαが近くにいなくてホント良かったわ。サガもヤバけりゃ敵もヤバいってな。どいつもこいつも平和のためにとか言ってやらかす事が混沌過ぎる。人のこと言えねぇけどさ。で、もしかしてアイオロスが自力で日本まで行ったのかと思ったが、あいつはギリシャで死んでいた。シオン様までは確認できていたんだけどな。アイオロスを黄泉比良坂で見つけることが出来なかったのはアテナの目眩しだったかもしれん」
「その日本人がもしかしたらアイオロスをどこかに埋葬した可能性もあるのか」
「遺体が見つかっていないからな。俺もガキだったし死んでコスモが途絶えると難しかった。今なら僅かな燐光を視るとか試す手段は増えたのだが。あと日本で騒いでいる青銅のうち判明しているのはカミュの弟子、鷲星座の弟子、ケフェウス星座の弟子、デスクイーン島に行った奴も鳳凰星座の聖衣を手に入れサポートしているとか何とか…。それよりもだ、呑気なことに五老峰の老師の弟子までいるんだぜ?他五名」
「老師が弟子を…?」
「ずっと避けてたから見落としていた。ほーんと、んな事してる余裕あんならさ、先ず聖域どうにかできなかったのかよって話だよな。サガのこと丸投げしやがって。青銅にはアテナのみならず老師もいる。殺りがいあるだろ?」
 発情期のためにデスマスクと顔を合わせてから、彼はずっと上機嫌でいる。今もとても楽しそうに話しをする。何となくその理由はわかっていたが、あえて聞いてみた。
「フ…お前、この状況が楽しそうだな」
「当たり前だろ、やっと聖闘士殺しも解禁したんだぞ?お前はもうやらかしてるし、アフロディーテも殺った。次は俺の番だろう」
 顔をうっとりさせて待ち切れない様子だ。順番…でいけば確かにそうだろう。しかし清らかなサガはデスマスクの殺戮を憂いている。邪悪な方はΩの実力を見極めるために行かせるかもしれない。次は誰だ?日本にいる青銅全滅か?消息を経っている牡羊座の黄金か、五老峰の老師…。もしもデスマスクが外されてシュラにでも任務が振られれば、また一気に機嫌を損ねるのは想像に容易い。
「お前、もしも順番を飛ばされても暴れるなよ?」
「その保証は致しかねまーす」
「暴れるならばこうしてやる」
 シュラはデスマスクの腰を抱くと、ころんと転がって上下を入れ替えた。下敷きにしたデスマスクの首に顔を寄せ、首筋をはむはむと甘噛みしていく。震えるデスマスクの体から力が抜けていくのがよくわかる。
「ぁ…ん、ぁ、あ…もう…ずる、ずるぃっ…」
「ハハハ、まぁこれは冗談だが聖闘士殺しなんか焦らなくてもいい。一番近くにいるのだからな」
 肌に優しく牙を立てていくだけで、もはや話を聞いているのかわからないくらい表情が蕩けていく。話を有耶無耶にしたシュラは責任を持ってデスマスクを抱き癒した。

ーつづくー

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2024
09,02
 デスマスクはほとんど周期を乱れさせる事なく定期的に発情期を迎え、その度にシュラは三日ほどデスマスクを支え続けるという生活を繰り返した。発情期中でも体調が良ければ部屋を出る事もあったが、フェロモンに誘惑されるαはおらず聖域に於いても自由に過ごすことができた。番を得て体質が変わったことはもちろんあるものの、それよりも常にデスマスクの隣にいるシュラを怖れ、二人に近付こうとする者は黄金聖闘士を除きいなくなっていた。

「デスは昔から近付こうとする物好きな奴はいなかったけど、君の周りからもサッパリ人が消えてしまったね」
「βだからと甘く見ていた奴らが散っただけだろ」
 1月11日の朝、シュラが23歳を迎える前日にアフロディーテが磨羯宮を訪ねてきた。どうせ当日は二人で過ごすだろうからとフライングで祝いに来たらしい。しかも任務へ向かう道すがらと素っ気なく言う。特にプレゼントと言うような"物"はなく、シュラはいつも通り薔薇を三輪贈られた。すぐに行くからと告げられ磨羯宮と私室を繋ぐ扉の前で立ち話をしている。
「αなのは大前提で他の黄金とは候補生や雑兵たちも付き合っているじゃないか。第二性だけが問題ではないな。君が怖いんだよ。脱走者の処刑、デスマスクの分も理由付けて君がやっているのだろ?外でも放っておけば良いような悪者を退治しちゃってるみたいだし」
 二人が番になってから、任務中に無駄な殺しをする事が無かったシュラも小さな事件を起こすことが増えた。デスマスクのように周りを巻き込むような形ではなく、ちゃんと悪事を働いていた輩を通りすがりに成敗しているだけなので咎める事でもない。それでも任務以外は無関心を貫いてきたシュラの殺人が増えたことには違和感があった。
「生まれ持つことができた力を無駄にして、碌でもない事をする奴らに正義を教えてやってるだけだ」
「ふぅん、死を以って解ってくれるといいね。君がデスマスクを染め替える方かと思っていたけど、案外そうでもないんだな。惚れた相手にハマってしまうタイプか」
 好きな相手に尽くしたい気持ちというのはシュラにもあるだろうが、それでもデスマスクの方が尽くす側だと思っていた。奔放な闘い方に良い意味で影響を与えられるかと考えていたが…。
「俺のαはデスマスクの為にある」
「世界の平和ではないのだな」
「世界の平和のためでもあるぞ。あいつが望むαとΩの殲滅は」
「おっそろし…」
 支配しているのはどちらなのだろう。番なのだから共依存と言うのか。アフロディーテが言葉を失っていると、シュラの笑い声が小さく漏れた。
「クク…お前はどう思っている?第二性が平和の妨げになっているとは思わないか?」
「私は力関係こそハッキリしている方が良いと思うがな。βだって平凡面しているだけだろう。それに性差の問題なら男女すら無くしてこそだ」
「あぁ、できれば男女も無くなればいいな。好きになったやつくらい自由に愛させて欲しい」
「それは家族や血縁関係もあるぞ。何でも自由になれば良いというものでもないだろう?その先には混沌しかない」
 神々でさえも「自由」というものは制御できない。自由とは、全てのものが永久に果たせない秩序なのだ。
「だからこそ知恵や理性、肉体的差別を与え人を縛るのか。そこまでして世界を造り、何がしたいのだろうな。神同士でさえ争うというのに、人には平和を押しつけて。考えるほどわからなくなる。おそらくデスマスクはΩが判明する前から世界の存在について疑問を持っていたのだろう」
「それがαやΩの憎しみに?そんなに簡単な話だろうか」
「α、Ωを通してあいつが憎むのは神だ。簡単な話ではないから、俺も理解が追いつかないのかもな」
 ため息混じりに呟くシュラの姿を見て、このバカを心底惚れさせるデスマスクの魅力は何だろうと純粋に思った。アフロディーテ自身もデスマスクには好意的で、もしも本気でデスマスクが自分を選んでくれたのならば受け入れられたと思う。もちろん「αだから」だけではなく。しかしシュラの愛し方とは違うと言えた。自分はもっと表面的に友人のままデスマスクを愛して終わるだろう。シュラのように深いところまで杭を打ち付けて潜り込むような愛し方はきっとできない。他人の深部になんか触れたいとは思わない。殻の硬いデスマスクも同じタイプであるはずなのに、シュラには自ら晒しているのが容易くわかる。自分なら晒されても対応に困ってしまうがシュラはデスマスクの闇にすら愛おしさを感じている。懐が深いと言うかデスマスクバカと言うか。
「もしも、アテナが生存していて戻られるとしたらどうする?裏切るのか?」
「デスマスクに従う。それ以外はない。俺がアテナに命を捧げることができる可能性はデスマスクの待遇に依る」
「まぁ…そうだよな。聞いた私がバカだったよ」
 アフロディーテはシュラの肩を軽く叩き、明日はごゆっくり、と伝えて去って行った。

 発情期には高待遇で休みを受けているため誕生日程度では自動的に休みになるわけでもなく。翌日シュラは夕方までに仕事を終えて磨羯宮の自室に戻った。デスマスクは昼に出て夜までかかるらしい。会えるのは20時頃からか。巨蟹宮の方が外から近いのだからそちらで過ごそうかと提案したが、シュラの誕生日だから自分が磨羯宮へ行くと聞かなかった。食事はシュラが用意した。水に挿したアフロディーテの薔薇を食卓に置き、寝室と浴室を整え、他にも仕事に関してやる事はあったが何も考える気が起きず居間のソファーに沈み込んでデスマスクが来るのを待つ。番である安心感からか会えない日が続いても苦にはならなかった。デスマスクは必ず自分の元へ戻って来るという自信。来なければ自分が捕まえに行くだけだと、必ず見つけ出せるという自信。敵は全て殺せばいい。仮に自分たち以外に"運命"が存在しているとしても、サガと対面した時のように自分は何を犯してでもデスマスクを手放さない。それを彼も望んでいるという自信。死に別れても、必ず再会できるという自信。
(無敵だな…)
 一人ニヤリと笑いながらそう思った。
(どうしようもない時は、俺が殺してやる…)
 二人にとってほとんどの者は相手にならない。黄金以上の闘士、そして神との闘いに限るだろう。デスマスクが誰かに殺されることも今では許せないと思いながら、シュラは右手をかざして眺めた。

 ふ、と磨羯宮に侵入するコスモを感じソファーから身を起こす。扉に視線を移すと間もなく開き、小さな箱を手にしたデスマスクが笑いながら姿を現した。それを見たシュラの表情も柔らかく崩れていく。
「お待ちかねの俺様とケーキがやって来たぞ」
 ニコニコしたまま小箱を食卓に置き、ソファーにふんわり飛び込んでシュラの頭を抱いた。
「っあー…いい匂いだな、ほんと…。すき…」
 胸いっぱいにシュラの匂いを吸い込むと、頭を離し「おめでと」と呟いて軽いキスを何度も交わす。放っておくと食事を忘れてしまいそうだと感じたシュラはキスをしたままデスマスクを抱き上げて食卓まで移動した。
「せっかく用意したからな、先に済ませてしまうぞ」
 椅子に座らされたデスマスクは「ハイハイ」と軽い返事をしてフォークを手に取る。少し首を垂れれば、白い首を横切る黒い首輪と丸見えな噛み跡が露わになった。ちょっと苦しい、と言いながらもオフになれば必ず首輪を着けている。自身が与える物全てに価値があり、大事にする姿は見ていてとても気分が良かった。何でも与えたくなってしまう。軽く首筋を撫でると、ビクンと跳ねたデスマスクに「早く食え」と睨まれた。

「お前って何でも食うから正直どういうケーキが好きなのかわかんねぇんだけどさ、まぁ冬だしシンプルにチョコレートとフルーツでも買ってみたわけよ。俺の地元の良いお店のヤツ」
 食事を終えてから食卓の隅に置いていた小箱を開けると、ショートケーキが3個入っていた。
「さすがにホールはいらねぇよな、って。俺一個で良いしニ個お前の分」
「いや俺も一個で良かったんだが」
「でも食えるだろ?食っとけよ。誕生日なんだし」
 デスマスクはシュラに選ばせることなく真っ先に一つのケーキを取り出して自分の皿に乗せた。自分が食べたい物はハッキリしている。そういう性格なのは知っているし不満も無いのでシュラは残りの二個を皿に乗せて、あっという間に食べ終えた。「うまい?」と尋ねる声に頷けば、そうに決まってると笑ってデスマスクも最後の一口を口に含んだ。
「何だかんだでお前の誕生日ちゃんと祝うのも初めてだよな。だから奮発してお高いケーキ買ってきたんだけど」
「プレゼントはケーキだけか?」
「え?お前プレゼント欲しがっちゃう?何か新鮮」
 そう言いながらデスマスクはポケットに手を入れてゴソゴソしている。ケーキの箱以外を持って来ている感じは無かった。ポケットに入るサイズならあり得るが、デスマスクがプレゼントをポケットになんか入れるだろうか?
 やがてするりと引き抜いて見せた手には、何も見当たらなかった。
「プレゼントさ、考えたんだよ。絶対に何か渡したかったからな。でも良いのが思い付かなかった」
「俺はケーキだけで十分だ、気にしなくていい」
「でも少しは期待しただろ?…何かなぁ…どれもしっくりこなくて今日になっちまったよ。適当なのは渡せねぇって考え尽くした結果、自爆した」
 言い終えて食卓に突っ伏すデスマスクの髪に手を伸ばして撫でる。何でも器用にこなす奴なのに、行き詰まるほど自分の事を考えているのは嬉しい。
「何か持ってくるだろうと考えてはいたが、お前のこんな姿が見れるのは俺にとってサプライズだぞ」
「へー…うれぴー…」
「本当の事だ。冗談でも何でも適当な物を持ってくれば良かったのに、それができなかったほど俺に真剣なんだろ?どうでもいい奴ほど何でも渡せるもんな」
 髪を撫でていた手が耳へ、頬へと滑り込み、デスマスクの顔を上げさせる。本当は何か渡したかったのに、という悔しさを隠し切れない顔を見ると、シュラも釣られて困った笑顔を返した。
「何か良いものが閃いたら持って来い。来年まで待つなよ?俺たちには明日があるとは限らない」
「お前が死んでも黄泉比良坂で足止めして渡す…」
「ハハ、あの世へ持って行ける物は良いな。どこまで持っていられるか試してみたい」
「すぐ閻魔サマに没収されるだろうよ」
 エンマ?ハーデスじゃないのか、と笑いながらシュラは食事の後片付けを始める。長年の隠れ家生活が染み付いているのか聖域に戻ってからも発情期の有無に関わらず、私室で食事をする時はいつもシュラが担当していた。もちろん手の込んだ料理なんか作らない。デスマスクが当たり前のようにソファーで食事を待つから自然といつもシュラが台所に立った。それは誕生日であろうと変わらない。
「まぁ、最後まで手にしていたいのはお前だけどな…」
 食器を洗いながら溢した言葉に「知ってる」と小さく返ってきた。
「多分だけどそれはどうにかなるんじゃねぇ?俺らって強い運命で結ばれちゃってるっぽいし。サガすらそんな事言ってた」
「…サガが?」
 突然出てきた名前に手を止める。
「何かあいつ前世の記憶が残ってるらしいんだよな。俺らとアフロもいたんだってよ。戦争してて死んだらしい」
「戦争…?それは、雪の中でか?」
 真剣に食い付いてきたシュラが意外でデスマスクは思わず「ふぇ?」と間抜けな声が出てしまった。
「いや、俺は知らねぇからサガに聞いてくれ。まさかお前も前世の記憶が残ってるのか?」
「…わからない、がβの時によく夢を見たのだ。そう言えばαになってからは見ていないな…」
「へぇ…俺とお前の夢?そんなのβの時に見てたんだな。何も言わなかったくせに」
 少し拗ねた声で返される。よく見る夢ではあったがハッキリとデスマスクの姿を見たわけではない。ただいつも夜で、森の中で、雪が降ってきて、誰かを抱いていた。戦争、と聞いて何故か今それが思い出された。戦争の夢という意識は全く無かったのに。死んだのであればデスマスクを抱いていた?アフロディーテとは思えない。やはりデスマスクは殺された?…誰に…。

「しゅーらっ!」
 突然大きな声で呼ばれて意識を戻すと、隣に来ていたデスマスクがシュラの腰を抱く。
「…いきなり変な話して悪かった、忘れようぜ…」
 顔を寄せ、ペロっと唇を舐められる。デスマスクの舌先に薄っすらと血が滲んでいる。ドクンと胸が高鳴った。
「噛み締め過ぎだっつーの」
 いつの間にか剥き出していた牙や唇に滲む血をペロ、ペロ、と舐め取られてからキスを交わす。そのままデスマスクは隣に立ち、シンクに残った器を手に取るとシュラに代わって洗い始めた。
「ホラさっさと終わらせてベッド行くぞ!俺、ずっと我慢してんだから…」
 洗い物をしながら肩をシュラに寄せて何度か突く。意識を自分に向けさせるように。直ぐに洗い終えると勢いよくシュラの腕を引いて寝室へと向かった。

「もちろんシャワーは済ませてんだよな?」
 その言葉に返事をする間もなくシュラはベッドに押し倒され、上に乗っかったデスマスクはするりと上着を脱ぎ落とす。
「何かウズウズして噛みたければ俺を噛めよ、どこでもいいから。好きなだけ」
 覆い被さり、シュラの頭を柔らかく抱くとデスマスクのフェロモンが漂い始めた。"かつて"の事を思い出そうとしていたシュラの意識が徐々にデスマスクへ引き戻されていく。
「お前、俺のどこが好き?胸?指?太腿?腰?」
「…噛むのは…頸とは違う。傷も残るかもしれない…」
 誘惑に耐えて言い返したが、噛みたい衝動が沸き上がったのは事実だった。自分は今どんな顔をしているのだろう。デスマスクが焦る程に飢えた表情を見せているのだろうか。あの夢を思い出してから妙にドキドキする。噛みたい。もうデスマスクは番で自分のものなのに、たった今まで感じていた安心感は全て失われ強い不安が胸を打つ。誰が殺した…?噛みたい。誰かに傷付けられる前に…。噛みたい。誰かに奪われる前に…。噛みたい!誰かに殺される前に…!

「いっ…て…!!」
 顔を上げたシュラはデスマスクを押し除け左肩に牙を立てた。ゆっくり口を離すと白い肌にじわじわ血が浮き上がってくる。デスマスクの顔を見ると眉を寄せながらも笑っていた。
「っは、ぁっ…!」
 乗っていたデスマスクを引き倒し、今度はシュラが乗り上げると次は右胸の脇に噛み付く。再びデスマスクの顔を覗くと瞳に涙を溜めながらやはり笑っていた。
「い…いいから、続けろって…」
「気持ちいいのか」
「ん…もぅ…わかんねぇけど、いいんだよぉっ!…ぁっ、や…!」
 続けて腰に噛みついたあと、パンツを引き下ろして次々と牙を立てていった。痛みを訴える喘ぎ声は正直なのに笑顔で打ち消そうとする姿が健気で、1秒でも早く止めてやらなければならないと頭では思えど衝動が抑えられない。自分はデスマスクを殺す時は一振りの手刀で終わらせるものと思っていた。傷付け、解らせるようなこの行為は良くない。シュラを思って誘い続けるデスマスクも悪い。愛を繋ぐためのαの牙がΩを殺めてしまう。
 しかしそれも本来の姿なのだろう。たまたまシュラは手刀という手段を持っているだけなのだ。

「デス…これで気持ち悦くなっては、ダメだろう…」
 デスマスクの全身が赤く染まる頃、衝動が治ってきたシュラはシーツに散った体液に気付き指で掬って見せた。痛みと熱っぽさでぼんやりしているデスマスクには見えていないだろうが、自覚はあるようで恥ずかしそうに下唇を噛み締める。
「だって、お前がやる事だしっ…んっ…!」
 デスマスクが溢したものを舐めてから、ずっと触れずにいた下腹部へと指を挿し入れる。もうすっかり濡れていて、ようやく挿入ってきた指に悦んで吸いついてくるようだ。肌に滲む血を肩から順番に舐めていけばビクビクと震えて弱くイき続けている。
「酷いことをして済まない…お前のフェロモンのおかげで煽られはしたが意識して加減する事はできた。あとは少しづつ、俺のコスモでどこまで戻せるかわからないが…気持ち良いことしかしないから力を抜いて良いぞ」
「…たんじょうびだから…おおめにみてやる…」
 ゆっくり腕を伸ばしたデスマスクはシュラの首を引き寄せてキスを強請った。血の味がする舌を舐め合いながら腰を揺すって一番欲しいものを訴える。
「ゆびはもういい、早く脱いで肌で抱いて…。お前も噛みまくって、気持ち良くなってんだろ?ハードだっただけで前戯はもう終わってんだよ…」
 その言葉にシュラも服を脱ぎ捨ててデスマスクをいつものように内から優しく抱いた。擦れる肌にデスマスクの血がシュラにも移る。コスモを込めて外からも内からもデスマスクを包み込んだ。吐息混じりに「きもちいい…」と繰り返される言葉にはシュラも煽られて愛しさが募っていく。なぜ、この優しい愛だけを貫けられないのだろう。これも神が試す行為なのか。
 疲れ果ててデスマスクが瞼を閉じた頃、ようやく肌の赤みも引いていった。

 翌朝デスマスクが目覚めると傷は残っているが痛みは無く、体は清められ、血の滲んでいたシーツも全て綺麗に整えられたベッドの中にいた。体を起こそうとするとさすがに倦怠感がある。小さく溜め息を吐いてベッドに身を預けた。
 シュラの豹変には身の危険を感じつつも、自分を食い殺しかねない真っ黒な瞳に興奮して誘ってしまった。おそらくシュラは自身が暴走したと思っているだろうが、デスマスクが望んだ事でもあった。シュラがかなり気を遣って噛んでいたこともわかった。もっと強く噛めば良いのにと思っていたなんて絶対に言えない。口元をもっと血で濡らして…。その光景をデスマスクは知っている。何の記憶かわからない。でも知っている。それはとても嬉しい瞬間だったから。

 ギィっとドアが開き、戻って来たシュラと目が合った。ベッド脇に跪いてデスマスクの髪を指先で梳く。「大丈夫か」と聞かれて正直に「怠い」と呟けば、部屋を出て行ったシュラは朝食を手にして再び戻って来た。
「…食べさせてくれるとか?」
「そうしてほしければ、してやってもいい」
 少し考えたデスマスクは思い切って起き上がり、朝食を受け取ると枕元にある棚の上に置いた。
「まぁ、自分で食える。ただ俺っぴ寝起きすぐは食欲無ぇから後で」
「今日の任務は午後からだろう?それまで休んでいけ。俺も夕方からだから巨蟹宮まで送ってやる」
 そっと握られた手からシュラのコスモが流れ込んでくるのがわかる。傷を治そうとする癒しのものだが、番になってからは少し性欲も掻き立てられるのでできれば寝ている間だけにしてほしい…なんて言えず。
「…キスぐらいなら、俺が出て行くまでしても良いか?」
「ぐらい、ってなんだ。抱かれ足りないのか」
 半笑いで黙っていると、シュラの唇が頬に当たった。
「怠いと言う上こんな姿になっても懲りずに…かわいすぎる」
 朝食を食べ終えたら呼びに来い、と部屋を出て行くシュラの背中を眺め、ドアが閉まると同時にデスマスクは器に乗ったパンを手に取ってかじり始めた。寝起きすぐの飲み込み辛さは気にならなかった。

 シュラに噛まれた痕は聖衣を着けると脇から腕部分しか見えないはずだ。マントをして激しく動かなければ何となく隠せていると思う。が、目敏いアフロディーテには全く効果が無く、すれ違い際に腕を掴まれ確認されてしまった。教皇宮に行けば清らかなサガも目を細め、噛み痕を見る視線が痛い。二人とも特に何かを言うでもなく、静かに溜め息を漏らして終わった。

ーつづくー

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2024
08,26
星祭り10お疲れ様&ありがとうございました!(゚∀゚)ノ
とは言えペーパーラリーとかネップリとか一部はまだやっているので、よろしければご利用くださいませ。

本日から新学期=午前がフリーになるという事で、やっと時間が確保しやすくなりました。
今回は準備がバタバタでブログにもろくに現れずでしたが、ここから10月の大系に向けて全力を出すのでまたオメガバ話を投下しに来るだけになるかもしれません…余裕ができるのは10/27のイベント後ですね〜。でもそこからエルシド誕の準備が始まるのである(笑)

星祭りも次回は1年以上先になるとの事ですので、自分も星矢40周年に向け?漫画の新刊が準備できればと。「作りたい」詐欺ばかりなので(゚∀゚`)



桃と巨峰にオメガバ完成祈願…

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2024
08,24
おはようございます(゚∀゚)
星祭りの準備がギリギリ過ぎてアレですが順番にやっていきます…とりあえず目玉?はXに羅列しておきました。またpixivでも告知します。

●やること●
ペーパーラリー(booth無料DL)
2023〜2024年の山羊蟹誕チマ漫画再録本(booth無料DL・紙コピー本通販)
ネットワークプリントL版3種類
まだまとめていない落書き星祭り限定公開(pixiv)
オメガバ小説、書けてるところまで限定公開(pixiv)

●いつもやること●
既刊通販(booth)
過去のネタ集限定公開(pixiv)

前夜祭(今夜)は準備でいないと思います(´・ゝ・)
星祭り10はもしかしたら開幕顔を出すかも?(いつも寝ている)
日中も子が昼寝をしなくなったので店舗行けるかまだ不明です。夜21時以降は店舗に出てきたら終わりまでいます!

書き込みボードでも直接チャットでもオッケーなのでコメントあればどうぞ(゚∀゚)b
話しかけたいけどタイミングがわからない方は、事前に書き込みボードで"見掛けたら話しかけたい"旨を知らせていただければ、私が名前覚えてこちらから「こんにちは」とか適当に声かけてみます(笑)でも通信状況とかで上手くいかなかったらすみません…

お待ちしてます!

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2024
08,14

«寝かす»

結局、星祭り10に向けて新規絵を3枚描いております!シュラデスのみ。
夏の山羊蟹を熟考した結果、抜け落ちていた萌えを思い出しそれを描き出しました(・ゝ・)φ
間に合うかなぁ(゚∀゚`)とにかく時間が足りぬ。
ペーパーとpixivの山羊蟹誕生日ネタ再録本に使います(゚∀゚)b
イベントの時に(多分開始前に出せると思うけども)boothからDLしていただけたらと思います!
焦らすほど大したものではないですが(笑)せっかくなので進捗出さず。
当日お楽しみください(・ゝ・)ノ

それにしても今でもLCの新作エピソード出るとかすごいですね。人気あるならOVAの続きを作ってくれたら良いのにとも思うが…
春頃に「はたらく細胞」の再放送がやっていて、小野さん出てるからたまに「マニゴルド出とる」とか思いながら聞いていました(笑)キャラ的にも普通にマニゴルド声だったと思う(笑)途中から子がスポンジボブ観なくなったので細胞も観なくなったけども。

では引き続き、夜な夜な描き続けます…

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2024
08,08
 教皇宮に入った二人は教皇座に座るサガの前まで揃って出た。堂々と、これが番となった俺たちだという事を見せ付けてから静かに首を垂れてデスマスクが自ら番を得たことを報告する。
「発情期にαたちを惑わすこと無く聖闘士を全うできるようになるのは私も望んだ事である。本領を発揮して励んでほしい」
 仮面の奥のサガの表情は窺えないが、落ち着いたコスモと声色で返ってきた。邪悪な方は息を潜めているようだ。
「しかし教皇、俺の発情期が無くなったわけではありません。今まで通りその時期はシュラと休みを頂きますよ。聖域で」
「理解している。首輪ももう、必要無いな?」
 そう告げたサガは袖口から金の首輪を取り出して見せた。今までずっとあれを着けていたという感覚もすでに薄れて、自分の首元を彩るのは黒革の首輪しか考えられない。
「必要ありません。買っていただきありがとうございました。売るなり溶かすなりして聖域の財源に充ててください」
 二人が教皇宮から退室しようとした時、サガはシュラの方にも視線を送ったが二人は言葉を交わすことなく宮を出た。

「キリっとした顔で"話をつける!"って言っといてよ、結局お前何も喋らねぇし!」
 宮を出てすぐデスマスクは、ただの添え物と化していたシュラに不満をぶつける。つい先程まで強気でアフロディーテとピリピリていたというのにどうしたというのか。
「サガが落ち着いていたから余計な事を言う必要も無いかと思って」
「あー…余計なことばかり言う自覚はあるんだな。初めて知ったわ」
 嫌味を言ってもシュラは黙ったままでいる。多分、先程アフロディーテと張り合ってしまったからこそ、αの気をコントロールできなくなる事を怖れたのだろう。
「はぁ〜…サガも今のお前も情緒不安定な人って読めねぇなぁ〜」
 デスマスクは階段を降りながら長い溜め息を吐いてシュラに寄り添った。何となく、触れ合う手に緩く指を絡ませるとシュラの方から握り返してくる。
「突然発情期に聖域へ戻って騒動起こしたお前が言うことか。サガを見れば俺の苦労も少しはわかるだろ」
「そうだけど、あの時はお前の気を引きたいっていうか甘えがあったというか…」
「それで俺は黄金と争って負傷した」
「…ごめんって…」
 番になれて、もう落ち着いたからさ…とシュラの頬にキスをする。シュラも握っていた手を解くとデスマスクの腰を寄せて頬に返した。擦れ合う聖衣がカツ、カツ、と音を立てる。

 仲良く双魚宮を抜け宝瓶宮に入れば、行きには見掛けなかったカミュとミロが話をしていた。ミロはシュラとデスマスクの気配に振り向くなり「本当に番になってやがる…」と呟いた。
「うるせぇ、聞こえてるぞ」
 宮の真ん中を歩きながらデスマスクが吐き捨てる。
「番になったということは、お前たちヤったって事だよな?デスマスクを抱くとか信じられ…」
 言い終わる前に控えめな聖剣が宙を裂き、ミロとカミュをかすめてその奥の柱に鋭い傷を付けた。またもシュラに傷付けられ、宝瓶宮はいつか斬り崩されてしまうかもしれない。
「おいシュラ!危ねぇだろ!」
「お前みたいなガキには理解されなくて結構だ!」
 シュラは黙ったままで、ミロに答えたのはデスマスクだった。そう言われるなりミロは腕を組み顔を歪める。
「ふん、どうせお得意のフェロモンで無理矢理抱かせたのだろう」
「そんな考え方しかできねぇなんて、黄金αのくせに情けないな」
「ハァ?「おいミロ!止めろ!」
 レベルの低い喧嘩を眺めていたカミュが遂にミロを止めに入った。それを見て、いつでも繰り出せるとデスマスクの隣で聖剣を構えていたシュラも腕を解く。
「すまない、私たちαには恋愛事など無縁の事なのでな…お前たちの関係に羨ましさがあるのだと思う」
「ハァァ?!俺は羨ましくねぇよ!」
「止めてくれ、私から見てもみっともないぞ」
 デスマスクたちからはよく見えなかったが、カミュの冷めた視線を受けてミロは口をつぐみ顔を逸らした。
「シュラがαになったと聞いた時、驚きは無かった。αに匹敵する力は持っていたからな、それが当然とも思えた。番の事はよくわからないが、これからも二人の活躍に期待している」
 そう告げたカミュにデスマスクは手を振り、二人は磨羯宮へと向かった。

「くっそミロの奴、なめくさりやがって。未だにΩは美形とか女々しいとかいう幻想抱いてんじゃねぇよ!」
 シュラは私室へ入ってからも愚痴るデスマスクの髪を撫でて額にキスをした。二人とも聖衣を脱ぎ、上半身は裸のままでソファーに沈み込んでいる。
「俺はお前が好きだ。ただそれだけだが、それには肌も髪も瞳も内面も全てが含まれる。他人の気を引くほどの美貌など必要無い。俺がお前を好きでいるのだからそれでいいだろ?」
「俺だってそう思うけどよ、それが理解できてねぇミロに腹立つんだよ」
「クク…お前は賢くて可愛い。好きだよ、デス…」
 シュラの手のひらがデスマスクの胸を揉んで、親指が敏感な箇所を撫でていく。擽ったさに吐息を漏らしながら、するのか?と呟くと微笑み返された。聖域で抱かれるのは初めてだ。誰かに見られる事なんて無いのはわかっていても少し緊張する。シュラなりに、ミロの言葉に傷付いてないかとフォローしようとしているのだろう。発情期でなくても抱ける、お前が好きなのだと。一通り前戯を施されて蕩けたデスマスクはシュラに抱き上げられると寝室へ移動し、引き続きシュラの愛を存分に受け入れた。

ーーー

 翌日から二人は早速それぞれの仕事を与えられ、以前と同じく任務に励んだ。αに変異したシュラは自身の体力や技の技術に関してはβの頃との違いを感じなかったが、敵と対面した際に相手が怯むようになったのは実感した。その実感は日に日に増していき、αとしての力が着実に付いてきていることに満足した。得られる強さは全て取り込みたい。それがデスマスクを支える力となるのであれば喜んで受け入れる。早めに任務が終わった8月のある日、十二宮を上っていたシュラは巨蟹宮にデスマスクの気配を感じて会いに行くことにした。
 巨蟹宮の外にまで宮内を轟かす死面たちの声が漏れ出ている。番になる前はここまで聞こえていなかったが、最近また数を増やしたようだ。Ωが判明してからもデスマスクは粛清任務の手を緩める事はしなかった。時差があろうと時間を問わず任務に向かい、発情期の休暇分を取り戻すべく戦い続ける。シュラのように格闘を繰り広げるわけではないのだが、コスモの消費に関してはデスマスクの方が高いだろう。それが更に加速しているように感じる。私室の扉を開け、居間へ向かおうとしたシュラはデスマスクが浴室にいることに気付きそちらへ向かった。浴室の扉を開けてしまおうか考える間もなく、シャワーを終えたデスマスクがその扉を開けて現れた。
「ぅおいっ!ビビるじゃねぇか、来てたのかよ」
 シュラは洗面台の横に置かれていたタオルを手にして肩に掛けてやる。デスマスクを抱いた後にするのと同じように体を拭き始めれば、大人しく身を委ねてきた。
「今日は早帰りで来たのか?この後も暇ってこと?」
 久しぶりに会えたことが嬉しそうな声色が響く。
「あぁ、αになってから仕事が楽になった気がする。お前も少しは楽になったのか?」
「少しもなにも…」
 デスマスクは耐えられない笑みを溢しながらタオルをひるがえし、人差し指を立てた右腕を突き上げて見せた。
「見せてやれないのが残念で仕方ない程に、ヤバい」
 ヤバい、が良い意味でというのは一目瞭然だった。少しコスモを燃やしてみせたのだろうがそれだけではない。Ωであるのにαと同等の圧を感じる。
「これが番になる、という事なのかお前の精が凄いのかわからねぇけど、力の出方が全然違うんだよな。今の俺はお前より強いと思うぜ?エッチして中に出されても掻き出さなきゃ漏れてく感じあんま無ぇし、αの力をリアルに吸収してんのかな」
「仕様から考えると俺は与えることしかできないが、お前はαを受け入れたΩであるから…一体化したという意味で強化されてもおかしくない気はする」
「その辺のΩならば番との妊娠出産しか考えられなくなるだろうが俺は違うしな。俺は新しい世界を産んでやるぜ?」
 突然の壮大な言い草にシュラは笑ったが、デスマスクは何も言い返さなかった。真剣な瞳がシュラを見つめ続けていることに気付き、笑みを潜めて続きを促す。
「俺らが相手にする奴らは殆どがαだよな?まったく好都合だ、片っ端から葬っていける。そしてαの側にはΩがいる事も多い」
「…任務外の殺しもしているのか」
「そいつら番だったら片方だけ残すのは可哀想だろ?番じゃなかったら俺とお前の関係をぶち壊す"運命"が紛れ込んでいるかもしれん」
「運命?」
「知らねぇの?番関係ぶち壊してでも遺伝子レベルで惹かれ合ってしまうαとΩの存在」
「知ってはいるが、俺たちがソレではないのか?」
「正直わかんねぇじゃん。そう思いたくてもどんなんか知らないのだから。念には念を、だよ。お前を誰かに盗られるのだけは絶対に許せねぇし耐えられん。聖域の奴らは仕方ねぇから後回しだが、この世に存在するαとΩの全てを消したい。世界がβだけになったらどうなるんだろうな?どうせその中から優劣付けてくのだろうが、番はαとΩだけだとかフェロモンに惑わされて事件が起きるような世界が終わるならそれで良い」
 デスマスクは自身の願いが果たされた故に世の中の好き合うαとΩに対して友好的な考えを持っているとシュラは勝手に思い込んでいた。しかし現実はαへの嫌悪もΩに対する悔しさも何も変わっていなかった。突き詰めれば"怒りの根源は第二性を生んだ神にある"という事を思い返すと、何も変わらないのは当然の事だろう。
「なぁお前何でここに来た?オレサマの顔を見に来ただけか?」
 拭き終えた体を包むバスタオルの隙間から手が伸びて、シュラの服を小さく摘まむ。その様子を見て、最近デスマスクに服を与えていないなという事を思い出した。
「お前もこの後空いているのなら食事でもと」
「ふぅん…その前にさ、ヤる?お前って今でも一人の時は溜め込んでんの?それとも積極的にオレの事考えてくれちゃってる?」
「わざわざ一人で楽しむようなタイプではない。そこは変わらない」
「へー…ならば久しぶりにオレサマが色々頑張ってやろうかな。明日もデカい仕事入ってるからよ、たっぷり頂いておこうかなって」
 言い草からして"外食前に軽く"とはとてもいかなさそうだなと思いながらも、シュラはデスマスクの頬にキスをしてから自身も浴室へ汗を流しに入った。その場で脱いだ服をデスマスクに渡すと目を丸くして不思議そうに見ていたが、すぐに理解してニヤけ崩れていく顔が閉まる扉の向こうに見えた。

 寝室へ向かったシュラは先にベッドで待っていたデスマスクの首筋に触れ、噛み痕を確認する。番の証はしっかり残っている。デスマスクはシュラを咥えることに関してそこまで積極的ではなかったが、今日は違った。慣れない口使いながらも少しでもシュラから力を得ようと懸命に求め、吸い上げていく。飲み込む事が当然であるかのように躊躇なく体内へ取り込み、ニヤりと笑った。その唇にキスをして押し倒そうとすると、デスマスクは拒むように身を屈めて再びシュラを咥える。抜いてしまった熱をもう一度立派に、研ぎ澄ますように。そして自ら仰向けになれば「次はここ」と言わんばかりにシュラを下腹部まで導き、視線を合わせた。そこからはもうシュラの主導で、抱き揺すられるデスマスクの体は愛される悦びに熱を帯びていく。シュラのために絶え間なく濡れる体を差し出して、求める限りの愛情を体いっぱいに受け取った。

「…αってさ、どんだけシたら枯れるんだ?」
 当然、外食へ出掛けられる余裕など無い姿となったデスマスクがぼんやり呟いた。αに抱かれて力が漲るようになるのは直ぐではないようだ。
「さあな、Ωの発情期に耐えられる分はあるから生産回転が相当速いのだろう」
「貯めてる部分がデカいわけじゃねぇもんな…女αなんて特に。そこは意味不明だわ」
「男Ωの妊娠構造も昔に本を読んだが意味不明だった」
「理解するもんじゃねぇんだよ…番がどうとか説明読んでも、実際なってみないとわからんのと同じだ」
「まさに神の悪戯、か」
「ほんとムカつく」
 その言葉にシュラは眉を寄せて微笑んだ。デスマスクの髪を撫でてから指先で頬を擽る。第二性なんか関係なく普通に、平凡に愛し合って終われるのならばそれがいい。αの力がΩを補って殺戮の原動力に変わってしまうとは思ってもいなかった。デスマスクは強い。しかしどうあがいても神にはなれない。このまま突き進む先に何がある?
「考えても仕方ねぇんだ、やるしかない。俺は、やる…」
 シュラの心を読んだかのような呟きが低く響き、妙に胸を打った。迷いは、断たれる。

 翌朝、シュラはデスマスクを見送ってから昨日の報告をするために教皇宮へ向かった。しかし教皇座に姿は無く私室へ案内されたため、何となく状況を理解したシュラは溜め息を吐いてから扉を開けた。
「蟹座は番になってから絶好調のようだな、調子に乗っている様がよくわかる」
 ソファーに腰掛けているサガの髪は半分黒く染まっていた。話し方からも邪悪な方が出ているのは一目瞭然だ。
「アレでも抱き心地は良いものなのか?Ωであるのだからナカの具合は最高だろうがな」
「そのような話をする気はない。次の準備があるので失礼する」
 あからさまに呆れた顔をして見せたシュラは簡潔に報告を済ませ踵を返した。それでも背中から笑いを含んだ声が漏れ聞こえる。
「クク…お前も恐ろしいΩを番にしてしまったものだ。みるみるうちに巨蟹宮が死面で埋められていく。元からおかしい奴ではあったがあれで精神面は正常なのか?異常であってほしいともう一人の私が願う程だぞ?任務外で殺りすぎると私もフォローし切れないからな、お前がコントロールしてやれよ」
 Ωなのだからセックス漬けにでもしてやれば落ち着くだろう、という馬鹿な言葉を遮るように力強く扉を閉めた。パラパラと石埃が床へ落ちていく。

 暗殺はデスマスクだけがしている仕事ではない。巨蟹宮の怪異によりデスマスクだけがその行いを表面化させ周知されているが、シュラもアフロディーテも行っていることだ。指示をするのはもちろん教皇。聖域内の問題のみならず外交も絡み、聖域に仕事を頼む者は世界各国に散らばっている。
「異常だと思うのならなぜデスマスクに暗殺任務を与えるのだ…!」
 血を流さない積尸気冥界波は都合が良いのだろう。一人であればひっそりと病死扱いにもできる。シュラの暗殺は殺人事件にしかならない。だからこそ、時にデスマスクは従順さを放棄して気に入らない依頼の時には周りを巻き込み、わざと事件性を露見させているのではないかと思う時があった。理解できる者はほとんどいないのだろうが、それが彼なりの正義でもあるのだろうと。それとも本当に、ただαとΩの殲滅を遂行しているだけなのだろうか。
 自分はどうしたいかと言えば、決まっている。聖域よりも世界よりも番としてデスマスクの味方でいる。より強くなりたいと願うそれを叶えてやりたい。そのために人類が滅亡しても…構わない。二人きりになった世界を神に見せつけてやれるのならば、それはさぞ気分が良いものとなるだろう。

 磨羯宮へ戻ったシュラは昼食を食べてから次の任務へ向かった。暗殺を伴わない仕事であったが、偶然βに暴行を加えているαの二人組を見掛けて首を落とした。助けられたβはシュラを見るなり感謝も述べず逃げ去っていく。転がる首を眺めて、何も感じるものなどなくその場を立ち去った。

ーつづくー

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2024
08,02
 満足するまで抱いてもらっているというのにスッキリするのは数時間程度で、直ぐにシュラが恋しくなってしまう。発情期のピークが過ぎるまで二人は裸に上着やバスタオルを羽織るだけで生活した。さすがに居間で抱き合ったのはあの時だけで、それ以降はどちらかのベッドまで行くように努力している。
 6月24日、デスマスクが22歳を迎える朝。朝食を食べてからシュラに抱いてもらうと、体の疼きが一気に引いていくのを感じた。長年の経験からわかる、発情期が終わっていくサインだ。
「前まではピーク後もダラダラ続いていたが、今回一気に終わるかも…」
 シュラの愛情を体内に受け入れながらデスマスクは呟いた。αの精にはΩの心を落ち着かせる作用も含まれているのだろうか。狂ったように熱くなる体は精を与えられる度に癒されていき、やがて満たされる。好きで抱かれたい気持ちと、助けてほしくて精を求める気持ちが入り混じる。
「番を得た事で発情期の期間が短くなるのならそれに越した事はない。聖域でも暮らし易くなるだろう」
 キスをして、シュラがデスマスクの体から抜けようとした時、引き留めるように腕を掴んだ。
「なぁっ…発情期以外でも、普通に抱いて欲しいんだけど…」
 その訴えにシュラは顔をしかめる。何を言ってるんだ当たり前だろう、と思ってもデスマスクにはまだβだったシュラのイメージしかない。αになって数日しか経っていないのだ。
「これからはお前が抱かれたい時に言えばいいし、俺が抱きたい時もそうする。発情期だから抱いてやってるのではない。βのように拒否もしない。抱きたいから抱いているんだ、もう心配しなくていい」
 そう告げてデスマスクを抱き締め直し、心音が穏やかになるのを待つ。やがて「大丈夫」の合図にデスマスクがシュラの肩を押すと、ゆっくり体内から抜けて隣に寝転がった。銀髪を撫でれば幸せそうに目を細める。
「今日こそ調子が良ければ何か食べに行かないか?この前の続きでイタリアでも良いが」
「それは誕生日関係ある感じ?」
「ある」と即答するシュラの提案に、デスマスクは軽く微笑みながら「行きたい」と頷いた。

 初めて二人で誕生日を誕生日として過ごした。昼から少し贅沢なコース料理を食べて、デザートにティラミスを食べて、広場のベンチでぼんやりしてから海岸線を散歩する。聖闘士である事とか報われない不満だとかを忘れて、たまに街中で見掛ける幸せそうなαとΩの番として過ごせた気がした。
「お前の銀髪は目立つからかよく見られていたな」
「別に今更だし。でも多分俺よりお前の方を見てたんじゃねぇの?俺はそう感じた」
 丘の広場で夜景を眺めながら交わした言葉に「これって嫉妬か?」と二人で笑う。
「対抗心なんか残ってるもんなのか?こんなに好き合ってんのによぉ」
「ククッ…それとこれとは別なんだろう。俺の方が強いしな」
 サラッと言うシュラの言葉を聞き逃さなかった。
「αに昇格したからって自惚れんな!俺様が最強Ωだ、わかってんだろ!」
「可愛いは最強かもな」
「ヘンタイ!」
 番になって初めてシュラに拳を振ったが、やはり呆気なく手の平で受け止められてしまう。それどころか軽く足を払われて崩れた体を抱き止められた。どうだ?と見下ろしてニヤける顔はどんなに好きな奴でも腹立つ時は腹が立つ。デスマスクは瞬間移動を使いシュラの腕の中から消え、背後に立った。そして人差し指を背中に突き立てる。
「十二宮とかハンデ無ければ俺が最強なんだよ、巨蟹宮にある実績見てんだろ?」
「そうだな。ハンデも発情期も克服できたらな」
 降参、と両手を挙げるポーズをしているのがまた腹立つ。きっとシュラの顔は嫌な笑顔をしている。どうせΩはどれだけ足掻いても好いたαには敵わないのだ。体が、心が素直になってしまう。
 動きを止めたデスマスクが気になったシュラは振り向いて、何かを考え込んでしまっている姿を抱いた。
「…言い過ぎたか、すまない。番になったからには俺とお前は対立すべきではないだろう。これからは二人で一人の気持ちを持つ必要がある。お前の発情期は俺も背負う」
「やっぱ俺ってもう、一人で強くなるのは無理なんだな…」
「男と女は元々一つだったという考えがあるだろ?αとΩも同じだ。お前は俺を得て、欠けていたものを取り戻したと考える方が正しいと思うが。俺と共に、というのは抵抗あるか?」
 反射的に首を振った。シュラとの番関係はデスマスクが渇望したものであるから抵抗はない。それでも自分が持つ男の性が強さを求めてしまう。かつて黄金聖衣を勝ち取っても満たされなかった。上には上がいる。ここ数年はシュラと番になれれば他は何もいらないというくらい想っていたのに、手に入ったら別の欲望が湧き出てしまう。
「いつまでも枯れず向上心を持ち続けるのは良い事だと思うぞ。だからこそ黄金に相応しい。無理とか考えずαを超えようとする野心は持ち続ければ良い。お前は極上のΩなんだ、他の黄金αのフェロモンももう効かない。最強を諦める必要も無いと思う」
 シュラの言葉に無言で頷いた。番となった二人の力はきっと神に匹敵するはず。しばらく抱かれてから顔を上げたデスマスクは呟いた。
「クク…そうだな、今日という日に生まれ変わってやるぜ。俺たちは始まりであり終わりとなる」
「お前が望むように生きろ。αのくせに言うのもアレだが、俺はお前に従う」
 どちらからともなく顔を寄せてキスを交わした。シュラには…αには敵わないというのはもはや幻想で、自分はこうして手に入れたのだ。シュラと交わりαの力を注がれて番となった。それは愛だけではなく、もっと自分を、Ωを生まれ変わらせたはずだ。自分はのんびり暮らしていけるΩではない。選ばれし黄金聖闘士のΩであり、黄金のαと番った未知なる者。聖域を、世界を変える事もできるかもしれない。
「ふ、流石だな。頼もしい…」
 デスマスクから異様なコスモの高まりを感じたシュラは一言呟いて、もう一度頬にキスをした。

 誕生日から二日後の朝。二人は長年デスマスクの発情期を支えひっそりと過ごしてきた隠れ家の前に立ち眺めていた。
「なぁ…使いたい時にここ来ても良いんじゃねぇの?」
 シュラとの思い出が詰まる場所を手放すのが惜しくてデスマスクは訴えるが、シュラは最後まで首を縦に振らなかった。
「ケジメは必要だろう。ここは"教皇"の計らいで仕立て上げた場所だ。家が欲しいのならば金の首輪を捨てたように俺たちで新たに探すべきだな」
「それはわかるけどよぉ…」
 新しい家を手に入れてもそこに二人の思い出は無い。過去も手放したくないとするデスマスクの考えはシュラには理解し難かった。
「お前はβの俺に未練があるのか」
 シュラに見つめられ、視線の鋭さに一瞬息が止まる。違う、そういうわけではないのだが…。
「αになって数日だ。この家に残る思い出なんかβの俺しか居ない。どれだけお前に求められ、縋られても、応えることができなかった。苦しむお前を前に何もしてやれなかった。一線を超える度胸すら無かった。そんな俺しか居ない思い出を手放したくないというのは理解できないな」
「そんな事ばかりじゃ…」
「βだったからとは言え、俺はお前に酷いことばかりしてきたという事がαになってやっと解ってきたんだ。もっとお前の要求に応えてやるくらいできたはずなのに。大切にしてやりたいというのは言い訳でしかなかった。お前は俺のそういうところに惚れたのかもしれないが、同時に不満もあったからこそα性を求めたのだろう?それとも、今でもβに会いたいとか考えるのか?」
 デスマスクの首を横切る黒い首輪にシュラは人差し指を差し入れ、前から後ろへと撫でていく。返答によってはせっかく買ってくれた新しい首輪を斬ってしまいそうでデスマスクは焦った。首輪に手を当てて「βに会いたいんじゃない、やめてほしい」の意味で首を横に何度も振る。するりと指が抜かれると、その手はデスマスクを抱き寄せた。
「…すまない、意地悪をしたいわけではないのだが…多分、これがαなんだ。しばらくこういう事が続くかもしれない…」
「大丈夫、俺はお前が好きだから」
 デスマスクもシュラに腕を回して抱き返す。シュラも成人後にβからαへ変異した未知なる者なのだ。自分が理解してやらずに誰がシュラを理解できるというのか。
「悪いな!生まれ変わるってこの前宣言したんだしな。ここもスッパリ諦めるぜ!」
 気持ちを切り替え、そう笑うデスマスクにシュラも微笑み返した。結局αになってもデスマスクには無理をさせてばかりだなと感じたシュラは早く自身が完全なるαになれるよう気持ちを引き締め、デスマスクに手を引かれて聖域へテレポートした。

ーーー

 二人は並んで十二宮の階段を上っていく。巨蟹宮、磨羯宮へと続く道ですれ違う者たちが注目したのは、デスマスクではなくシュラの方だった。誰もがシュラを目にするなり萎縮し、通り過ぎるまで道の端で固まっている。そんなあからさまな態度の変化にデスマスクは噴き出した。
「お前のαオーラそんなヤべェのかよ?まぁ〜たアソコで二人縮んでやがる!」
「フン、あいつらもαだろうに情けない」
 笑いながら磨羯宮まで来ると二人とも黄金聖衣を装着して更に上を目指した。怖れなど無い。二人は教皇宮を目指して上り続けた。
「余裕そうで何よりだ」
 双魚宮へ入るなり薔薇が二輪足元に撃ち込まれ、足を止めた二人の前にアフロディーテが姿を現す。
「遂に番か…おかげで匂いは綺麗さっぱり感じなくなったな。薔薇の純粋な香りが楽しめて私も嬉しいぞ」
 デスマスクが答えようと少し踏み込むと、それを遮るようにシュラが前に出た。
「お前のおかげで誰も欠けること無くこいつの願いを叶えてやる事ができた。力になってくれたこと、感謝する」
「ふっ…だって、デスマスクは昔から君しか見てないのだもの。私が割り込む余地なんて最初から無かったさ」
 アフロディーテの言い草にデスマスクは声を上げようとするもシュラに被せられて止める。
「サガの様子は落ち着いているのか?」
「邪悪な方がやらかそうとした事に対して悔いているようだが、君たちの姿を見るとどうかな…負け惜しみくらい言いに出てくるかもね。でももうデスマスクに手出しをしても無駄だし、行けば良いのではないかな?」
「聖域へ戻るために話をつけておく必要はあるからな、行くことに迷いは無い」
「新婚報告だしね、君でさえ浮かれるのはわかるよ」
「茶化さないでくれ」
 デスマスクは二人が交互に話す様を眺めて自分も入り込むタイミングを伺っていたが、どうもシュラに阻まれる。何度かアフロディーテと視線は合ったがニヤりと笑われるだけだった。やっと番を得たのだから、また…
「昔のように私と…というわけにはいかなさそうだぞ?デスマスクよ」
 遂にアフロディーテがデスマスクの方へ言葉を掛けたが、途端に空気が張り詰めるのを感じる。
「…ほら、私に対してでさえこの緊張感だよ。感謝しているのか威嚇しているのかわからないよね。αの力がまだコントロールできていないのかな?」
 そう告げながらアフロディーテが一歩づつ下がっていく。シュラはその様子をじっと見つめてからデスマスクの手を取り側に引き寄せた。
「シュラ、お前…」
「…コントロールできていないのは認める。デスマスクに対してもそれは同じなのだ。もうしばらく二人には面倒をかけるかもしれないが、今に克服してみせる」
 張り詰めていた空気が次第に緩んでいくのを感じたアフロディーテは「君ならすぐに実現してくれるだろう」と笑い、二人を見送った。

「βからの変異とは言えαの力が弱いわけではない。純粋に聖戦への戦力となれば良いが…」
 デスマスクへの執着と愛の深さに自滅しかねない危うさもある。そうなれば聖域は二人の黄金を失ってしまう。
「せっかく結ばれたのだ、二人が思うように生きることを応援すべきかな」
 上へ向かう背中を眺めながら薔薇を一輪、宙へ放った。

ーつづくー

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2024
07,29
でっら眠いのですがどうしても祭りネタが描きたく、描いたっ!!



そりゃあ漫画がいいけど、とりあえず落書きで消化!(゚Д゚)
昨年も祭り行って祭りネタできたからトルネードポテトとかの山羊蟹描きたかったのですが、原稿真っ只中で断念。で、今年も全然余裕は無いけどやっぱ祭り行くと描きたくなるのですよ!山羊蟹を!(笑)
「夏の山羊蟹」本はいつか出したい(こういうことばかり言ってる)

前にも語ったのですが、うちのシュラは浴衣とか基本的に着ません。動き難いとかで嫌がりそう(笑)それをデスマスクも知っていて「着て欲しい」とか言わないのだけど、言えば言ったで着てくれるっていう(・ゝ・)温泉旅館とか。
まぁ、うちのシュラは武士ではなく騎士イメージでやっているので…洋風です。
デスマスクは中国や日本に造詣が深いということでキモノやマツリも好きかなぁと。そこでまた2人の趣味が違うわけです。
お互いの好みは合わないけど、でも合わせてくれる。違うけど、居心地が悪いわけではない。そんな絶妙な感じ。

ネタとしては逆にシュラが日本マニアでデスマスクが弟子をとる際に日本語をシュラから教わる→教えているうちにシュラとデスマスクが両片思いになる→すれ違いのすえハピエン…という話もストックにはあります(笑)
妄想できるだけ妄想したいのですよ…山羊蟹のね…(・ゝ・(゚∀゚)

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2024
07,26
仁くん人形のポーズ聖剣やんか!(゚Д゚)
ということで、6/30のブログタイトルを回収する絵がやっと描けました(X参照)
パソコンが病人隔離部屋に置いてあったため、久々に絵を描いた気分です。
やはり文字より描きたいですね〜!何かスッキリ。でもまだ描きたいものが山ほどある(゚∀゚`)
とりあえず、シュラの番と化した黒革首輪デスマスクも。



前髪もあるし誰おま感強めになってしまった…。
抱いてもらって眠ってスッキリしている朝。
「メシにする?オレにする?」を朝っぱらからやっている。
ちょっと苦しいけど、結局首輪はずっと着けたまま。

今月もう1回くらいオメガバ話更新したいけどギリ8月になるかな?
あっという間に星祭りの準備期間になってしまう(笑)
あと少しがなかなか進まないですねぇ(゚∀゚`)

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2024
07,24
 夜遅くまで抱き合い続けた二人は食事を摂るためシャワーを浴びたが、結局何も食べずデスマスクの部屋で共に眠ることにした。シュラがベッドへ先に行くとデスマスクは冷蔵庫の前でパチパチ音を立てながら水を飲んでいる。
「…抑制剤、飲むのか?」
 発情期の症状は抑えられているはずと不思議に思ったが、問い掛けに「あ、うん…」と言葉に詰まってから何かを飲み終えたデスマスクはベッドまで来てシュラの隣に並んだ。仰向けになったまま、ポツリと呟く。
「まぁ…避妊薬だ。相手がお前でも妊娠だけは勘弁だからな」
 βの頃のシュラはデスマスクの妊娠に関して敏感だったが、そんなことすっかり抜け落ちて行為に没頭してしまった。フェロモンのせいと言えばそうでもあるが、Ωに与えるのが当たり前のようにデスマスクを抱き、愛するΩに与えられる悦びを自身も感じて歯止めが利くことなど何もなかった。αに支配されたシュラはβの頃に懸念していた理由すら霞が掛かって、そう思った事もあったなとぼんやり思い返す。
「お前さ…まだ、自分が避妊薬飲むとか思えるか?」
「……」
「いや、俺が飲むからお前は飲まなくて良いんだけどよ…」
「負担ばかりかけてしまうな」
「それがΩだから仕方ねぇよ。お前の元気な愛情貰える方が嬉しいから気にすんな」
 笑顔を見せたデスマスクはシュラに抱き寄せられ、二人はそのまま眠りに落ちた。

 明け方、まだ薄暗い中で目覚めたデスマスクは隣で眠るシュラを見た後、自身の首筋に手を這わせ噛み痕も確認した。夢や幻ではない。シュラの匂いもわかる。目の前の黒髪をそっと撫でて、頬にも触れてみた。
 (かっこいいし…)
 改めて間近で見てみると整った顔が格好良く見える。この長くて豊富な黒い睫毛が切長な目を縁取るおかげで目力が増し、顔がぼやけずハッキリするのだろう。自分だって負けないくらいの顔立ちをしていると思うが、白銀の毛はどんなに豊富でも肌に溶け込みぼんやりしてしまう。裸になってもどこか幼く見えてしまうのはΩ故の男性退化のせいだけではない。別にむさ苦しく毛むくじゃらになりたいわけではないが。
 聖域にいる黄金や白銀聖闘士には派手な顔立ちの者が多いため、口数も少なくβであった黒髪のシュラはイメージだけで地味であると思われ印象に残りにくい。特別背が高いわけではない。ムキムキにデカいわけでもない。一般人と比べれば格別だが聖闘士の中では平凡な方だ。自分だってシュラが同じ歳の黄金同士でなければ全く眼中に無かった気がする。デスマスクがシュラに惚れたのは顔ではなかった。どちらかと言えば面食いで恋人は見た目も良いに越したことはないと思っていたが、デスマスクはシュラが自分の事を知ったうえで大切にしようとしてくれた姿勢に惚れた。裏切られるのは嫌いだ。本性を知って手のひらを返されるのも鬱陶しい。だから広く浅い付き合いしかしないし、自分に対して深入りしてこようものなら拒否もする。ずっとそうしてきたというのに、シュラにはもっと自分を知ってほしいと思ってしまった。裏切られても縋りたいくらいに。もう嫌いになんかなれそうもない。シュラ以外を好きになるなど考えられない。
 (お前も、それくらい好きになってくれた…?)
 触れた頬に軽くキスをして、もう一度黒髪を撫でた。そのままデスマスクが再び瞼を閉じた時、シュラが動いてデスマスクの首筋を撫でる。
「んっ…」
 噛み痕に触れられて思わず声が漏れてしまう。
「痛むか?」
 寝起きの少し掠れた声が心配そうに響いた。瞼を上げれば、ぼんやりした黒い瞳がデスマスクを見つめている。万全ではない顔が既にカッコいい。
「痛くねぇけど…なんか、性感帯になった…みたいな?」
「あぁ…」
 理解したのかしていないのか、気の無い返事を返しながらまた撫でてくるので、再熱しそうな体をギュッと硬くしてシュラの胸に擦り寄った。そうすると首筋を撫でていた手はするする背中にまわり今度はデスマスクを抱き寄せる。
「すまん、あれだけ抱いて足りないわけではないのだが…触れたくて」
「いっ…いいって。好きにしろ」
 まだ眠そうな声の通り、シュラはデスマスクを純粋に抱き締めて瞼を閉じた。しかし眠るわけではないらしい。
「昨夜はフェロモンもあってお前のこと以外考える余裕など無かったが、サガがここまで殴り込みに来る事もなく二人きりで過ごせて本当に良かった。アフロディーテのおかげだな」
「あぁ…サガも本気出せばここくらい探し当てられただろうにな。また途中で素に戻ったか」
「クク…都合の良い二重人格だ。強いのか弱いのかわからん」
「両方なんだろう。確実に強いし、でも弱いんだよ。サガに限った事じゃねぇ。俺らだってそういうもんだ。絶望に突き落とされる弱さがあってこそ、そこから這い上がる強さが際立つんだよ。昨日の事のようにな」
 デスマスクもシュラの背中に手を回し、誘惑を仕掛けてこない自然なαの香りを吸い込んだ。シュラが覚醒してくれたから今がある。
「ふ…強さ、か。昨日の俺がか?」
「正直あまり覚えてねぇけど、サガに向かってた意識を無理矢理引き千切ったコスモ?フェロモン?あれ何だったんだろうな。あの一瞬は何か凄かったぞ。まぁ俺様をぶん投げたよな、お前」
「あぁ…自分が喰われるような感覚だった。投げてすまない」
 ぶつけた箇所など覚えていないので頭からお尻までをさする。それだけでも発情期が明けていないデスマスクの体は疼き、身を捩る。
「別にっ…良いけどさ、そう言えば金の首輪も置いてきたままだ」
「まだ必要なのか?」
「…もう要らねぇけど…お前、首輪着けてるの好きそうだったろ」
「そんなつもりは無いがまぁ…欲しければ、買えばいい。今度は俺が買ってやる」
「お前が?」
「…番、なのだから。他のαの贈り物より俺のが良いだろう?」
 少し照れ臭そうに言う言葉が嬉しかった。噛み痕を隠す必要も無いし首輪にこだわりはないが、大好きなパートナーが買ってくれるのなら絶対に着ける。金じゃなくていい。細い革紐でいい。シュラが買ってくれるなら何でもいい。
「…うん、そうだな…そうだわ。お前の番だしお前が買え」
 嬉しさを出し過ぎないよう、少し素っ気なく返した。
「…生きて、番になれた…」
 不意に、シュラが低い声で呟く。
「絶対に離さない、もう誰にも渡さない。邪魔をする奴は全て殺してやる…」
 ぼんやりした黒い瞳に見つめられる。寝起きの目と変わらないはずなのに、何かが少し違う。現実と夢の境界も曖昧に歪んで全て闇に引き摺り込まれそうに感じる。番になったからだろうか?それに恐怖など感じる事はなく、身を委ねてしまいたくなる。
「へへ…お前の好きにしていいぜ…」
 キスを交わして、触れ合って、微睡むうちに外は明るくなり夜は明けた。

 二人はサガが探しに来ないのならデスマスクの発情期が終わるまで隠れ家で過ごす事に決めた。番になったのだから聖域に戻ってもフェロモンの影響はもう無いはずだが、初めての事なのでデスマスクの様子を見るためにも残る事にした。…表向きはそうであるが、心では共に二人だけの時間を少しでも長く持ちたい気持ちが強かった。
「動けるのならば買い物にでも出掛けるか?」
 朝食の後デスマスクがソファーで横になっていると片付けを終えたシュラが声を掛ける。
「ここから二人で出掛けた事は一度も無かったな」
 そんな当たり前の言葉を聞いてデスマスクは眉を寄せた。
「…それをすればここが何処なのかバレるんじゃねぇの」
「どうせここで過ごすのも今回が最後だろう。そして二度と戻る事もない。既にある程度察しがついているのではないのか?」
「本気出せばわかるが遠慮してんだよ。謎なら謎のままなのも良いじゃんって。そういう思い出。お前とのさ」
 そうデスマスクが答えてもシュラは考えるように立ち尽くしている。急にどうしたのか。
「何だよ、ネタバレしたいのなら言えばいいけど」
「いや…別にそれはどうでも良いのだが」
「いいんかい!なら何が不満なのだ?」
 シュラはソファーの前で屈み、デスマスクの首筋に触れた。当たり前のようにデスマスクの体は小さく跳ねてしまう。
「っ…お前、ホントそこ好きだなぁっ…」
「明後日、お前の誕生日だから買いに行きたいと思って」
 細い目を緩ませ満足そうな顔をして、噛み痕を何度も親指でさする。
「…首輪のこと?なら、その明後日で良くないか」
「何が起こるかわからないだろ。サガが来ないと決まったわけでもない。行ける時に行っておきたい」
「ん〜…この近くに良い店でもあるのか?」
「それは知らない」
 行きたい、買ってやりたいと思うのならそれくらい調べろよ!と思ったが、間違いなくシュラも舞い上がっているのだ。冷静そうに見えても長い付き合いだからそれくらいわかる。突然αになって番になって、色々とバグっている。
「だったらイタリアに行きつけのΩ専門店あるからそこでもいいだろ?ここのネタバレにもならねぇし、番ならαも一緒に入店できるし」
 何の不満も無い顔を見せたシュラは軽く頷き、すぐに立ち上がった。

 支度を整えた二人は隠れ家の玄関からデスマスクのテレポートによりイタリアまで旅立ち、そこで初めてシュラはデスマスクに誕生日プレゼントを購入した。シュラにいくつか選ばせた中からデスマスクが決めたのは細めで柔らかい黒革のベルト。噛み痕を隠す効果などもちろん無く、この首輪はパートナーから贈られた自分を彩る装飾品となる。
「聖衣の時はもう着けねぇし、こうして出掛ける時用だなぁ」
 店内でシュラに装着してもらったデスマスクは新しい首輪を撫でながら鏡で確認した。後ろに映り込むシュラの顔はとても満足気で、ずっと顔が緩んでいる。次第に恥ずかしくなったデスマスクはシュラの手を引いて店を出た。外へ出るなりシュラは顔を寄せてデスマスクの耳に軽くキスをする。人前だというのに何かのスイッチが入ってしまったようだ。βの時からは考えられないことをどんどんしてくる。
「そ、そんなに似合ってるか?コレ」
「とても」
 短い答えが耳元で低く響いていつまでもこだましているようだ。抱き寄せられて歩いていると触れ合う腕が熱く感じてくる。シュラの香りが近くて濃い。番ができて癒してもらえたために症状は軽くなっているが、デスマスクはまだ発情期の真っ只中である。せっかく二人で外出してイタリアまで来たのだから、もっとお勧めの店をシュラと周ろうと考えていたのだが…
「悪い…ついでに昼飯もこの辺でって思ってたけどさ…」
 ポツリと呟かれた言葉に立ち止まったシュラは、デスマスクの首輪を撫でながら顎に手を添え、顔を上げさせた。目元が緩んで赤みを帯びている。爽やかな香りがシュラを包み、増していく。
「やっぱ…夜だけじゃ、足りねぇ…みたい…」
 上げさせられた顔は求めるようにシュラを見つめ続け、伸びた手がシャツを握って急かすように軽く引いた。
「直ぐテレポ、するから、抱いて…」
 デスマスクの言葉が終わる前にシュラは人気の無い路地裏へ連れ込み、二人は瞬く間に隠れ家へと舞い戻った。

 シュラの部屋なら1階にあるというのに、そこまで持たなかった二人は玄関から最も近い居間のソファーへ沈み込んだ。自ら脱いで下半身を晒したデスマスクは、我慢できないからと前戯を求めずシュラを迎え入れた。
「はっ…ぁ…ごめ…おれ、こんな、おめがで…っ…」
「謝るな、何も悪くないっ、お前は俺を、欲しがっていればいいっ」
「ぅんっ…もっと、してぇっ…!しゅら、しゅらぁっ…」
 買ったばかりの黒い首輪が赤らんだ肌に張り付く。少し苦しそうで首元に手を持っていこうとするのをシュラは引き剥がし、苦しさなんか感じさせないくらい存分に快感を与え続けた。この黒い首輪姿をしばらく見ていたい。自分のものとなったデスマスクに熱く求められるだけでシュラの熱は冷める気がしない。
「ピークはいつも三日くらい、だったな…明後日の誕生日まで、好きなだけ、してやるから」
 潰れるくらいに抱き締めてキスをすれば従順に応えてくれる。揺れるデスマスクの脚がバランスを失ってソファーから床に落ちても、昼食を食べ損ねた二人は夕方までバテることなく愛し合った。

ーつづくー

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2024
07,19
何かあると作業できなくなるリスクを見越してアンソロ原稿の提出がかなり早かったのですが、嬉しくない事に見事、家族がコロナになるわ、発熱して発疹出るわ(手足口病ではなかった)、手術決まって片道車で1時間以上の総合病院へ通院だわのトリプルパンチと言うかサンドバッグと言うか(笑)もう自分だけ無傷なのでリポDやら飲んだりのドーピングで乗り越えました(゚∀゚)b
今年と来年、運勢悪いんだなぁ。マニ誕関係も少し早めに仕上がっていたから良かった。

体質的に副作用リスクのが高くてコロナの予防接種打ったこと無いから、絶対にかからんぞ!という自己暗示を掛けてやり過ごしています(笑)でもいい加減、ヤバいかもしれない。
皆さまも夏の疫病にはお気をつけて。と言うても、どうしようもないけど(゚∀゚`)

DDSATが発売から20周年を迎え、ジェナのイラスト描きたいが厳し過ぎる(゚∀゚`)ゲームキャラでトップクラスに好きなので。年内に描けたらいいなぁ。
ゲイル→シュラ、ジェナ→デスのコス絵も誰得ですがそのうち。

さてバタバタはまだ続くものの今日からオメガバ話の続きを始める(・ゝ・)キリッ
但し明日から夏休みなので夜の数時間しか時間が取れなくなるっていう(゚∀゚`)でも今月1回だけでも続きを更新しておきたい!(゚皿゚´)

寝る前も山羊蟹妄想する余地無く爆睡、のわりに3時位に目が覚めるという。でもまた妄想する余地無く爆睡(笑)1週間くらい誰もいない場所でダラっと創作したいですわ〜。

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2024
07,15
マニ誕モノは昨日pixivに投稿しておきました(゚∀゚)ノ
で、他に何か無いかとネタ帳のエルマニ文をあさり、既に書いた記憶の無い話が会話だけだったので色々と肉付けしてみました。ちょっと意味わかりにくい気もしますが、記念に。

最初は落書きでも追加で描こうかと思ったのですが、シュラデスと同じUSJネタか指輪物語のエルロンド卿ならぬエルシド卿…とか考え始めたら頭の中がエルシド卿で一杯になってしまったので断念(笑)
まぁ、機会があれば…裂け谷のエルフ王・エルシド卿(・ゝ・)

以下エルマニ文は毎度捏造の「教皇が教皇離れさせるためにエルシドにマニゴルドを引き取って欲しいと頼んだ」前提設定です。お見合いとか許嫁みたいなもの。
この設定も自分の中では「死ぬまでには成就しない(復活後に惹かれ合う)」と「タナトス戦直前に好意は確認できている」のパターンに分かれています。
今回は死ぬ前にそこそこ関係が進んでいるバージョンです。
ではどうぞー(゚∀゚)

ーーー

キスなどした事がない。したいと思った事もない。今、自分でも理解できない衝動のままマニゴルドの頬に触れている。
「……」
「……」
頬に触れて、様子を伺い静かなマニゴルドとしばらく見つめ合うと、何をするでもなく手を離した。離した途端、マニゴルドの顔が不満気に歪む。
「なんだぁ?お前いつも何なんだよ急に触るだけ触って」
「……すまない」
「何に謝ってんだよ、そういう訳わかんねぇのオレ嫌だから」
言葉を待つマニゴルドからそっと視線を外し、エルシドはその場から立ち去った。
「……ったく…全然先に進みゃしねぇ……」

〜双魚宮〜
「ハハッ、エルシドらしいな。そのまま目に浮かぶ」

エルシドとマニゴルドの仲についてはアルバフィカもよく知っていた。アルバフィカにも教皇から「マニゴルドと共に歩んでくれないか?」という話はあったのだ。しかし自身の体質や、恋愛対象としては見れそうも無いと早々に断っている。ユズリハにも勿論断られた教皇は可愛い弟子のため手堅くハスガードかエルシドに頼む事にした。悩んだ末に歳の近いエルシドに頼んでみたところ、エルシドはそれを勅命と受け止めてしまったのか断らなかったらしい。

「しかし意外なのはお前の方だ、もっとこうしろ!と捲し立てず、しおらしくエルシドのペースに合わせているとは」
「別にそんなつもりはねぇ!あいつがどうしたいかわかんねぇから…」
「お前はどうされたかったのだ?引き留めてエル様キスして欲しい〜とでも言ってみろ」
「んなっ…俺から言えるか!」
「おや、そういうキャラでは無かったか。うぶだな」
「うるせぇ!お前にはアルバちゃんキスしてぇ〜って言えてもだな、エルシドだぞ?!冗談通じないだろ!」
「冗談ではないからいいではないか」
「じょっ…!」
勢い付いていた言葉が喉に詰まりマニゴルドの顔が真っ赤になっていく。
「まぁまぁ…私はな、真面目にエルシドに向き合っているのが嬉しいのだ。若干面白いが」
マニゴルドというのは歳上であるはずなのに、どこか子どもっぽいせいか揶揄いがいがあると言うか何かこう、面白い。
「お前、自分からするのではなくエルシドの方からされたいのだろう?」
「!!」
窒息するのではないかというくらい顔が赤くなってからだんだん紫に変色していく。…本当に窒息するかもしれない。
「エルシドが誰かにキスをするなんて前代未聞だろう。された者の優越感は半端ないだろうな…」
「しょっ…ゴホッ!それ以上何も言うなぁ!言うんじゃねぇ!!」
「想像してしまうか?」
「だから言うなぁ!殺すぞ!!」
「……」
想像しただけでここまで取り乱すとは、文句を言う割に本当にエルシドにキスされた時には心肺停止してしまいそうで心配になってくる。

――その時、不意に2人がいる居間の扉が開かれ、背の高い影が現れた。

「へっ…?」
「おや…エルシドとは珍しい。何か用だろうか?」
アルバフィカが声を掛けるとエルシドはマニゴルドを見る。マニゴルドは目が合った瞬間に逸らしてしまった。
「…マニゴルドに用があって来た。連れて行っても良いか?」
「私は構わないが」
目を逸らしたままのマニゴルドからは同意を得ず、エルシドがグッと腕を掴んで引くとフラつきながらもマニゴルドは大人しく引き摺られて出て行った。部屋を出る間際、アルバフィカに戸惑う表情を向けたが何の助けも出してやれなかった。
「…強引さはあるのだけどな…マニゴルドも嫌ではないだろうし」

2人が双魚宮を出た頃、やっとマニゴルドは威勢を取り戻してエルシドに噛み付いた。
「用って何だよ、どこまで行くんだよ」
「どこでも良いのだが、磨羯宮まで来い」
「何しに」
「……もう一度」
「ん?」
「もう一度、やり直したい」
「……何を?」

何をするのか答えてもらえないまま磨羯宮に到着した2人は殺風景なエルシドの私室へ入った。
「……なぁ、何を…すんだよ…」
部屋の扉が閉まって、静かになっただけで急に胸が高鳴ってしまう。わからない素振りをしても何となくエルシドがやろうとしている事が伝わってきて、どうしよう?また不発に終わるのか?終わってほしい?進んで欲しい?わからない、恥ずかしい、早く何かしてくれ!
「っ?!」
エルシドの大きくて傷だらけの手がマニゴルドの頬に触れる。何度目だろう、こうして触れられるのは。
「…もう、謝らない」
エルシドの鋭い瞳がマニゴルドを貫く。逃げられない。心臓に聖剣を突き立てられたかのよう。
「お前が俺を変えた、こんな感情の揺れ…俺には必要の無いものであったというのに」

「必要など…無いと思っていた。この激情を知ってしまったからには、乗り越えねば道は開けない」
「なに…すんの…」
やっと絞り出した声に、エルシドは殺気を解いて微笑んで見せた。ほんの少し目元が緩んだだけだろうに、それだけでも自分への好意が強く伝わってくる。自分自身がそれを望んでいるから、そう感じるのだろうか。
頬を包む親指が唇をなぞって一瞬。
急に寄せられたエルシドの顔。唇が軽く触れ合って、多分、初めてだからエルシドも距離感がわからなくて、本当に一瞬の事で、何が起きたんだろう?キス、した?
「……した?」
心の声が思わず出てしまった俺を見て、エルシドははにかみながら「した」と答えた。
「?…マニゴルド?!」
不意にエルシドの手からマニゴルドの頬がすり抜けて、床にぺたんと座り込んでしまった。エルシドも屈み込んでマニゴルドの肩を抱く。
「まだ…嫌だったか?」
その問い掛けに首を振った。軽い、ほんの触れるだけのキスだったというのに問題はそこではなくて、エルシドにそうさせた高揚感が沸いてきて顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。エルシドはそんなマニゴルドの頬に再びキスをした。
「へ?ぇえっ?!」
「…そう、いちいち驚かないでくれ。俺もこんな感情…愛おしさを抱くのは初めてなんだ」
触れたい、ぎゅってしたい、可愛い、手放したくない。マニゴルドに愛おしさを感じるのは教皇も同じであろうに、それでも自ら手放し自立を望むのは愛おしさの質が違うのだろう。知ってしまった自分はもうマニゴルドを手放すなんて考えられない。幸せになって欲しいと願うよりも、自分の手で幸せにしてやりたい。
「教皇の願いを叶えてやるふりでも良い、お前が俺を心から受け入れられるようこれからも努力する」
「…何で、そんな真面目なんだよぉ…」
始まりは恋ではなかった。お互いに興味も無かった。進展なんか見込めない2人だったのに、エルシドは真面目にマニゴルドと向き合おうとした。話し合って教皇の提案など解消するつもりだったのに、惹かれてしまった。
「俺なんかに本気になって、馬鹿かよ」
「俺を本気にさせたのはお前の魅力だ」
いつ死ぬともわからない2人の関係はどこまで辿り着けるのだろう?今すぐ素直になればそんな不安も無くなるだろうに、できるくらいならとっくにしている。わかっていても限界はある。だから人は後悔するのだ。
「やっと、ここまでこれた。それだけでも俺は嬉しい。愛おしさを知るのは悪い事ではないな。守るために生きる糧となる」

エルシドの言葉を聞いたマニゴルドは自ら少しだけ体を寄せた。
それに気付いたエルシドは微笑んで、もう一度頬にキスをした。

ーおわりー

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2024
07,08
聖衣のホワイトだけで午前が終了(笑)
聖衣はやはり時間かかるね(゚∀゚`)でもエルマニ絵は完成しました。多分。
ついでに昨年描いてて、漫画と関係無い扉絵になったからどうしようと言っていた絵もトーン付けておきました。



何も考えずに描いただけあって、今見ても状況がわからん。
ので、今から絞り出します(・ゝ・)φ

2人は宿屋にいる。与えられた仕事が終わり、一晩泊まって帰るだけ。
何となく関係は出来上がっているが、マニゴルドはまだエルシドに素直になれていない。体の関係もまだ無い。エルシドが自分にどこまで本気なのかも読めていない。

なぜか明らかに元気の無いマニゴルドに何かできないか?と考えたエルシドはスキンシップを取ってみようと頑張ってみた結果、無駄に色気だけが出てしまい、別に手を出すつもりは無かったけれどマニゴルドに勘違いされてしまう。
しかしエルシドは訂正することも無く、まぁそれでも良いかと続行している状況…。

マニゴルドは元気が無かったわけではなく、エルシドと1泊する事にとてつもなく緊張していた(゚∀゚`)何も無ければ良いと思う一方で、何かして欲しいという期待もあって気持ち悪くなるレベルで緊張していた。

実際にエルシドがマニゴルドを抱くまではしないけど、好きじゃないと出来ないだろうなという愛し方まではしてくれる。それでもマニゴルドは教皇に「マニゴルドよろしく」言われているから優しくしてくれるだけとか疑っている。

デスマスクと同レベルの面倒くささである(マニゴルドが)

こんなところかなぁ?

さて、昨日は七夕でしたが、とても晴れた空だというのに自分の視力が落ちたのか星が全然見えなかったです(゚Д゚)何だ?田舎だからめちゃ見えるはずなのですが、全然見えなかったぞ!霞んでいたのか?何か不思議な空でございました。
もう少しマニ誕用のもの整理したらオメガバいこう(・ゝ・)φ

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2024
07,04
星祭り用の原稿は提出済みですが、急に思い立ってマニ誕も用意するかとエルマニ絵を1枚描いています(゚∀゚)φ

昨年、エルマニ漫画を描こうとしたら家庭内体調不良ループでエル誕に間に合わず筆を止めたわけですが、代わりのオメガバも全然終わらず(゚Д゚)今年のエル誕まで延期される見込みです。
で、同時に投稿しようと思っていたイベントペーパーのエルマニ+部下漫画を毎度星祭りの時だけ公開していたのですが(エルマニ養分を増やすため)いい加減レギュラー投稿しておこうと思いまして、イラストなら…と描いております。聖衣にしてしまったので、えらい時間がかかっている(笑)やっと人物のベタ終了!

というわけで、この絵が終わってからオメガバの続きにいきます。
マニ誕は新規絵1枚のみで他は再録。10枚くらいかな?そんなに無いか?
そんな感じで引き続きこもります(・ゝ・)φ
描きたいものが多すぎる!

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