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そこはかとなく

そこはかとない記録
2024
05,04
 冥界に最も近い黄泉比良坂に聖闘士が滞在するのはコスモの消費が激しく限界も早い。既にエイトセンシズまで目覚めていそうな乙女座のシャカであっても例外ではないだろう。長く耐えられる力は強さよりも素性なのだ。聖闘士の中でも異質な能力を与えられた蟹座のみ、肉体のままでの耐性を得ていた。

――今日も途切れず死んでいくなぁ。10年以上見ているが人類滅亡しねぇのが不思議だぜ――

 デスマスクは始末した者たちを確認するために黄泉比良坂まで来ていた。10年以上ここの管理をしていれば自分だけではなく他の聖闘士が殺しただろう者たちも何となくわかる。特に黄金に殺された者は自分が死んだ事に気付いていないパターンがあった。一瞬の出来事で苦しみを感じる間も無く死ぬのだろう。デスマスクの技こそそうだが、ここ数年はシュラも腕を上げたのかそういう死者をよく見かける。認識できていない者たちは死の行進に疑問を持ち離れてしまうので「お前は死んだから戻れ」と促すのだ。初めは素直に移動しないが、だいたい外で供養が行われる頃には自然と列へ戻って死んでいく。それでも納得できず怨みがましい者や、遺体が見つからないだとかで供養されない者は黄泉比良坂の地に留まり続け、デスマスクを見つければどうにかしろと縋って来るのだ。
 死んでしまえば第二性など関係無いが、αよりもΩであった者が多いと感じた。それは巨蟹宮に張り付く死面たちも同じだった。番関係にあったαとの別れには魂だけとなっても耐えられないというのか。首輪を着けたデスマスクを見つけては「お前なら理解できるだろ」と言わんばかりに迫って来る。魂ですら未練がましく朽ちていけば醜くなるもので、そんなお前の姿を番が見たら逃げ出すだろうと思った。死ねば番関係など解除され自由となる。こんな所でゴネていないで死を超えていく方が先が開けると思うのだが、そう判断し切れるような冷静さも失い醜態を晒し続けるのだろう。いっそサガくらいの欲望や深い愛を秘めていれば未練を糧に先へ進めそうだが、そこまでの強さも持っていないから中途半端なのだ。

――死んでもαやΩ性に振り回されるなど…神は最悪なものを生み出してくれたな――

 浮遊しているデスマスクを掴もうと真下で亡者が積み上がっている。デスマスクはわざわざ地に降りると、憂さ晴らしに亡者のかたまりを蹴散らし、それでも向かって来る者は蒼い焔で焼き消した。彷徨い続ける者たちを処理できないことは無い。ただ蟹座であっても非常に疲れる行為なので気まぐれでしか行わない。

――…帰るか…――

 現世では醜い闘争が目に入り、あの世でもそれは変わらない。守護する巨蟹宮に帰っても死面が恨み言を叫び続けている。それでもって自分はΩ。好きでもない癒しにもならないαとの番を迫られ、聖戦が始まれば命懸けで十二宮を護らなくてはならない。
 アテナはいない。サガのために?世界のために?平和なんか聖戦が無くても既に乱れている。護る理由なんか無いだろう。ただ自分が負けることは許せないというプライドの為だけに巨蟹宮を死守することになりそうだ。こんな状況、誰かに嘆いても理解できないだろうしわざわざ言うつもりもない。我ながらよく精神状態が保つなと感心する。いや、発情期でそこそこ発散されるからこそ保つのか。そこまで考えられているとしたら自分を蟹座の黄金聖闘士かつΩに貶めた神は本当に最悪な存在だ。

 黄泉比良坂から巨蟹宮へ戻り、私室への扉を開けてデスマスクは止まった。直ぐに扉を閉め、足早に居間へと向かう。
「…こんな夜に急ぎの用事か…?」
 明かりが漏れる居間の扉を開けるとシュラがソファーに座り待っていた。ただシュラの姿を見ただけなのに一気に心のモヤが解れていく。表情筋も力が抜けて垂れた。
「どうしたんだ?」
 振り向いたシュラは緩んだデスマスクとは逆に硬い表情のまま立ち上がるとデスマスクの前まで来て左手を軽く握り取り、低く小さな声で呟く。
「サガが動き出すかもしれない、気を付けろ」
 今更…と思うが余裕の無さそうなシュラの姿に緩んだ心が再び強張っていくようだ。
「…何か、あったのか」
 声を落として聞き返すデスマスクの耳元に顔が寄せられる。
「お前を番にしようとしている。遂に本音を吐いてきた」
「あぁ…」
 あえて伝えていなかったがデスマスクは知っている。動揺も見せず黙っている様子にシュラは苛立ち、握っていた手に力を込めた。
「幻覚を仕込まれるかもしれない!知っているだろ?サガが使う…!」
「知っている。しかし俺を操りたいのならαのフェロモンだけで十分だろう」
「お前に情けをかけてやるつもりらしい。せめて好きな相手と番う幻の中で生きれるようにと」
「ククッ…フェロモンの届かない場所で死なれちゃあ困るって事か。とことん俺に失礼だな」
 握られた手はそのまま、デスマスクは片手でマントを引き抜くと手を使わず聖衣を一瞬で外し、全て床に落とした。アンダーウェアと金の首輪だけが肌に残る。シュラの手を引いて二人並んでソファーに座った。
「…それって俺がお前のこと好きだってバレてんのか?」
「確信はしていないようだが疑っている」
「はぁ…お前と番う幻かぁ…。夢のようだな…」
 そう軽く微笑んで呟く言葉が本気ではないと理解できてもシュラの不満は増した。さらに強く手を握り込んでしまい「痛っ!」と漏らしたデスマスクが振り払う。それでもシュラは再びデスマスクの手を捕えて握り締めた。
「な…何だよ、強引だなっ」
 シュラの方から迫られる事に慣れていなくて胸が高鳴った。ぶつかった黒い瞳の奥、デスマスクを捕えて引き摺り込もうとする深淵がそこに。
「あ…」

 ――待て…――

 真剣なシュラの顔が寄る。キス?!と思い切って瞼を閉じたデスマスクの唇に触れたのは、自分より硬めの髪の毛だった。期待外れの感触に何が起こったのかと確認すれば、シュラの頭は首元に埋まり首輪にキスをしているようだ。

「…落ち着いているな、嫌ではないのか」
「はぁ?…んなの、嫌に決まってんだろっ!」
 知っているはずなのになぜそんな事を言う?一瞬のときめきが苛立ちに掻き消される。
「それ聞いてグズグズ泣けって思ってるのか?嫌だ、助けてって言ってほしかったのかよ?辛くてもそんな見苦しいことしねぇよ!」
 顔を埋めるシュラを一度引き剥がしたが、直ぐに両手が伸びて抱き締められた。
「すまない、嫌なことを言ってしまって」
――気持ちが抑えられないんだ…――
 そんなにも余裕の無いことを言われてしまうとこちらも戸惑ってしまう。いつもみたいにお前だけは落ち着いていてくれよ。引っ張られてしまう。
「…いや、大丈夫だデスマスク…俺が、できる限りのことはするから…」
 大丈夫じゃねぇだろ。何ができる?αの最高峰相手にβのお前が。最悪死ぬぞ?…いや、死ぬつもりなのか?
「…俺が脳みそやられたら、お前が方をつけてくれるのか?」
「そういうつもりではないが…可能性はあるな…」
 その可能性しか無ぇよ。シュラに愛される幻を見ながらシュラに殺られるなんて、どう見えるのか。サガがシュラに見えて、シュラはシュラのまま?それともサガに入れ替わる?わからないがその時になればどうでもいい事だな。迎えに来てくれるのがシュラって事を忘れても、殺してもらえば番も解除され思い出すだろ。あの世で。
「…まぁ、アイオロスの時より殺しの腕は上がったようだし殺るなら綺麗に頼むぞ。ただ斬り口でお前の仕業とモロバレだな」
「ククッ…愛が無いとは言え、番を殺されたサガの暴走を止められる自信まではさすがに無い」
「お前の場合、もう"止める理由が無い"じゃねぇの。自殺の手間が省けてラッキーくらい思いそうで何か嫌だぜ…」
 苛立ちも次第に消え、抱き締め続けるシュラの背中にゆっくり腕を回した。
――来るのか、ついに――
  聖闘士として最悪の最後が。神のために、世界のために死ぬのではない。何かの役に立つわけでもない。きっと聖域もめちゃくちゃになる。アフロディーテには最後まで苦労をかけるばかりだ。ただ愛を貫くだけの事が俺たちには許されない。

「…Ωでなければ、何もかも違っただろうに…」
 何も考えず呟いてしまった言葉にシュラはデスマスクを見つめ、軽く笑った。
「Ωでなければお前が俺なんかを好きになる事も無かっただろうな」
「……そうか……」
 それはシュラもαであれば自分を愛さなかった、とも言えるか…。Ωという価値が無ければ見向きもされない存在だったかもしれない。α同士で愛してもらえるほどの魅力が自分にはきっと無かっただろう。第二性が判明する前までの関係を思えば間違いなくそうだ。そう考えるとαであったとしても自分は無力な存在のように思えた。
「俺がお前の世話をする事も無く、つまらない日々をそう自覚しないまま過ごしていただろう」
「弟子くらい育成していたかもな」
「ハハッ、弟子か。カミュのように教皇の正体を知らなければ気楽だが、知っていて育成するのは罪深い」
 Ωでなければ、せめてシュラがαであれば…。何度も未練がましく考えては手に入らない現実に一人で落ち込んだ。ついに口から溢れてしまったが、シュラになら…シュラとなら、弱音を共有するのは苦ではないかもしれない。家族ですら招かない境地にまで自分はシュラを受け入れて、また自分の事も受け止めて欲しいと望むほど心を許してしまうとは。そんな存在が自分にできてしまうなんて昔はとても考えられなかった。
「…Ωで、良かった…のか?」
「Ωでなければどうなっていたか、なんて結局はわからないからな」
 腕に力がこもって、デスマスクの頭はシュラの胸元へ引き寄せられる。
「俺はお前のことを正しく知ることができた。その点はβで良かったと思っている。俺がαであればこうはなれなかった。お前を避け続けて何も知る事ができなかっただろう。お前が最初からαであった俺を番に選んでいたとも思えない。お前はαの俺を望みはするが、お前が好きなのはβの俺だろ?」
「……」
「α化を願うお前の望みは叶えてやれなかったが、これで良かったと思っている。αに比べ力が劣るとは言え"絶対に負ける"など考えてくれるな。黄金の意地を見せてやる」
――それは、どんな結末だろう――
 もしもシュラが耐え抜いたら、デスマスクに魔拳が向けられるのを防げたら、サガが番を諦めたら。今のままでいられるのか?フェロモンは?このまま聖戦が始まったら?アテナが生きていたら?

「デスマスク、俺は仲間を半殺しにしたような奴だぞ?大丈夫だ。…ククッ…すまん、これしか言えないな…」
「サガをも半殺しにしてやるって?ハハッ!冗談に聞こえねぇよ」
「大丈夫だ、番にはなれないが…俺たちは一人ではない」
「そうか、だったら…大丈夫だな」
 何が、なんて考えない。今更子どもみたいなやり取り。
 ハッキリ言って欲しいのは変わらないがちゃんとわかる。シュラが愛を注ぐのは誰であるか。サガに奪われるかもと知って居ても立っても居られなかったくらいだ。ここまでされて愛が無いなんて考えられないし、否定されてもそれこそ信じられない。わかる、お前の気持ちが。
「番になれなくても、俺たちはβとΩで良かったんだ。それで良かったってことにしてくれ」
 シュラとしても自分がαではない事に悔しさが全く無いわけではないのだろう。デスマスクを抱く手に込もる力強さからも感じられる。Ωを愛してしまった以上、αという存在は切り離せないのだから。
「なぁ、俺もさ、お前がその時居なくても一人でも最後まで足掻いてやる。大丈夫だって。黄金の意地は俺にもあるぞ」
「あぁ。最後は俺が全部どうにかするから、お前らしく暴れてくれ」

 そのままシュラは巨蟹宮に泊まり、翌朝磨羯宮へ戻って行った。あれだけ切羽詰まって押し掛けて来たというのに夜はやはりソファーで一人寝てデスマスクに触れる事はしなかった。聖域では下手に触れてフェロモンが漏れてしまう可能性を危惧したかもしれない。
「このまま、キス止まりで死ぬのか…」
 しかも一回きり。シュラがβであったからこそ好きになれたのは確かだ。αになったらどう違う?シュラはどう変わる?シュラになら…部屋を荒らされても今は許せるし、逆に自分の着衣などに嫉妬しそうだ。そんなものではなく進んで自身を捧げられる。我慢しないで貪るならこの体にしろ、って。
「あの場所なら…」
 季節は春。予定通りであれば4月の終わり頃に再び発情期は来る。サガがすぐに動かなければ、二人きりになれるチャンスはある。どうしても肉体関係が諦め切れないのもΩのせいだろうか。
――もう一回だけ、最後に…――
 諦めの悪い自分に嫌気が差しつつも"それがオレだし"と開き直り、デスマスクも巨蟹宮を出て任務に向かった。

ーーー

「3ヶ月とはあっという間だな」
 4月の終わり、シュラはデスマスクの発情期に備え聖域を離れる旨を教皇宮まで報告に来ていた。サガ自身がデスマスクを狙っていると聞いてから警戒し続けているが、邪悪なサガは姿を現さず息を潜めている。デスマスクに確認をしても特に襲われそうな雰囲気は出されていないとの事だった。
「今回もデスマスクの事を頼むぞ。お前に発情期の世話を任せてからもう7年になるのか。長く付き合わせてすまない」
「…構いません。同い年の仲間ですし、デスマスクとしても気を遣わず過ごせるようです」
「そうだな。お前には気を許している。可能であればαと番になれない本心…気になっている相手がいるのか聞いてみてほしい」
「……」
「デスマスクのこれからのためにな。任せたぞ。そのために行かせるようなものだ、今回は」
 素早く顔を上げたシュラは教皇座から見下ろす仮面の奥を睨み付けた。軽くニヤけた口元に覗く鋭い犬歯。隠された瞳が紅く光ったのを確認したシュラは、小さく舌打ちをしてから頭も下げず教皇宮を退室した。

 磨羯宮で鞄を手に取り足早に巨蟹宮へ向かう。急いでデスマスクの元へ行けば食卓で椅子に座り、のんびり間食を食べている最中だった。
「早いな、まだ時間ではないだろ」
「…なるべく早く出たいと思って来たのだ…が、まぁいい。それを食べてくれ」
「…ならばお前も食べるか?早く無くなる」
「お前が食べたくて食べているのだろ?」
 何を食べているのか近くに寄って見てみれば、たまにデスマスクが食べている小さなパンだった。丸めたドーナツみたいな形のものが5〜6個紙袋の中に入っている。貰う気など無かったがデスマスクが一つ摘んで差し出したのでそのまま受け取って食べてみた。中はもっちりしているが意外と皮はカリカリだ。
「…パン…?」
「揚げパンだな。ピザ生地だけど」
「この緑色は海苔か」
「お前でもちゃんと味わかるんだな。これオレの地元ではポピュラーなやつ」
 へぇ…と呟いて飲み込んでしまうともう一つ手渡しながら「シチリアでなく生まれた方な」と付け加えられた。シチリアで生まれたわけじゃない、とは以前聞いた事がある。本土出身か。今更だが生まれ故郷も知らない事に気付いた。自らヒントをくれたのだから、聞けば教えてくれるだろうか。
 手渡された揚げパンを眺め、どうすればコレの正体がわかるのかぼんやり考えているシュラを引き戻すようにデスマスクが声を掛ける。

「またサガにでもおちょくられて急いでいたのか?」
「ん?……まぁ……」
 改めて言われてしまうと自身の短気さが未熟で恥ずかしい。デスマスクの事に関して少し不穏な空気を見せられただけでこれだ。サガに遊ばれていると言われても仕方ない。
「いや、いいよ。不安を抱えるより安心していたいしな」
 そう言って食べ終えたデスマスクは紙袋を折り畳んでから捻り潰し、ゴミ箱へ放った。水筒の水を飲むとシュラにも「飲め」と手渡す。受け取ったシュラが一口二口飲む間にソファーに置いてある荷物を取りに行って準備が整った。鞄の口を開け「入れろ」という仕草をするので、手にしていた水筒を中に収める。
「じゃあ早く安全な場所へ行こうぜ」
 準備万端になって出発を待つ姿が妙に可愛く見える。これが遊びの旅行とかであれば最高なのだろうに…。もう、そんな余裕など無い。シュラも鞄を持ってデスマスクの先を歩き、隠れ家へ向けて出発した。

 デスマスクの発情期は隠れ家に到着した3日後に始まった。ピークもおよそ3日。4日目の夕方になるといつも通り部屋から下りてきてシャワー室へ向かう音が聞こえる。その音を居間で聞いていたシュラは今夜から食事も摂るだろうと準備を始めた。出すものは何でも食べてくれるが、発情期明け最初の食事はペンネかリゾットが最も食べやすそうだと学んだ。さすがイタリアはパスタの種類も豊富で粒状のものまである。それをリゾットのようにしたものも喉通りが良いようだ。

 棚の中を覗いて何を作ってやろうか考えていると居間の扉が開く音が聞こえる。足音がソファーへ向かわずシュラのすぐ後ろまでやって来た。
「今日から食べるだろう?今から準備する。待っていてくれ」
 一番早く作ってやれそうなレトルトのリゾットを手に取って立ち上がったシュラは、デスマスクの姿を見て動きを止めた。
「…何かあったのか?服は?」
 デスマスクは裸にバスタオルを羽織っただけでぼんやり立っている。シュラは手に取ったレトルトの箱を置き、部屋へ戻そうとデスマスクの背中を押した。
「まだ辛いのか?着替えないのなら部屋へ戻ろう」
 シュラに押され居間を出て、階段もゆっくり上っていく。特に抵抗など無くデスマスクは誘導されるまま自室へ向かった。今回はまだ抜けていないのかもしれない…部屋に着いて扉を開けた。そっと背中を押してデスマスクを滑り込ませ、閉めようと扉に手を掛ける。
――途端――
 突然振り返ったデスマスクは勢いよく扉を開け、驚いた顔のシュラの服を掴み部屋の中へ一気に引き摺り込んだ。
「っぅぐ!」
 勢い余ってシュラは床に叩き付けられ、デスマスクがその上に跨がり覆い被さる。
「っおい!こらっ…何をする!」
 デスマスクの力は万全ではないためシュラの抵抗で呆気なく上から落とされ床に転がった。
「薬が効かないのか?落ち着「本当に抱けねぇの?!」
 上体を起こしたデスマスクが這ってシュラに擦り寄る。バスタオルも外れて床に落ち、うっすら桃色に染まる白い裸が絡み付く。
「αのモノにはならない、あとは死ぬか生きるか…もう抱かない理由無いよな?何でしてくれねぇの?発情期が癒えないだけでβに抱かれる事に問題は無ぇよ?」
「…お前は、妊娠してしまうかもしれないだろ…βでも気になるんだ…」
「Ωの避妊薬がある。お前だってゴムとかすればいい」
 デスマスクの手がシュラの太腿から胸元へと滑る。もう一度ゆっくりシュラを押し倒して上に乗り上げた。
「指だけでも、入れてみろよ…」
 左手を掴んで誘導し、尻を撫でさせる。少し首を傾げてシュラの表情の変化を読もうとしているようだ。そのまま指先を谷へ向かわせようとするもシュラは肉を掴んで抵抗した。男らしく肉薄そうに見えるが、Ωの特徴がそうさせるのかもっちりして柔らかい。
「…んぅっ…」
 まだ残る発情期の名残りか、掴まれた刺激にデスマスクは腰を捩った。シュラは空いていた右手でも尻を掴み、軽く揉んでみせる。
「ちょっ…とぉっ!」
「これくらいなら、してやる」
 ただ両手で尻を揉んでやるだけでもデスマスクは掴んでいた手を離し、力が抜けてシュラの胸に肩を落とした。逃れたいのか求めているのか不規則に腰が揺れ、涙混じりの喘ぎ声も漏れていく。
「ちがっ…ち、ちがぅうっ…」
 胸の上でシュラの服を握りしめ、腰が揺れると頬が擦れる。次第に脚の力も抜けていき掲げていた臀部も崩れ落ちた。
「っ?!ひゃぁっ」
 悪戯に指を一本、谷へ滑り込ませて撫でればそれだけでピクンと腰が跳ねて左右に揺れる。想像を超える反応にシュラは思わず動きを止めた。

「すまん…理解しているつもりだったが、かなり敏感になるんだな…」
「っうっ…ぅぅっ…くっそ…くそぉっ…!遊びじゃねぇんだよぉっ…ゃあっ…!」
「あ…すまん、遊びではないのだが…」
 びくびくと震える体を気遣うつもりで触れていた手をサッと離し、胸元に埋まる頭を撫でるとデスマスクは怒ってシュラの手を掴み再び尻に触れさせる。
「中途半端にすんなっ!せめてイかせろっ!あぁ…もぉっ…!」
 もどかしい!と、シュラに腰を擦り付け始めた。派手に悦がる腰つきも何故か"芋虫みたいで可愛い"とか思ってしまい、こんな状況だというのに性欲よりも愛おしさが増すばかり。気持ちいいのか、そうかそうか…と先ほどよりも優しく丁寧に尻を揉んで可愛がれば、我慢できない!とばかりに硬く小さな攻めの象徴を押し付けてきた。
「もぉっ…なんでだよぉっ…!」
 ポロポロと涙を落としながらデスマスクは体を震わせ、快感を解放する。シュラは尻から手を這い上がらせて、震える体を抱き締めた。そして一息吐くが…
「っ…!…おい…デス、掴むな」
 胸の上で恨めしそうにシュラを睨み付ける瞳。荒い息を吐きながらデスマスクはシュラの股を片手で掴んだ。
「おまえ…本気で枯れてんのか…?」
 全く反応していないわけではないが、勃っているとも言えないシュラに対して不満を露わにする。自分はまだまだ足りないと言えるくらいなのに。声が震えてしまう。
「抱けねぇのって…オレに勃たねぇってこと…?」
「いや…違う、これはたまたまで…。俺はちゃんとお前で抜いたことがある。そういう欲はある」
「え?あんの…?」
「…あぁ…ある。だからお前に魅力が無いとかそういう心配はしなくていい…」
 そこまで告げるとデスマスクは体の力を抜いて全体重をシュラに預けてきた。自分とほぼ同じ体格で重いはずだが、押し潰される圧力と速く打つ心音が愛おしく苦痛にならない。

「ほんとお前…変な奴…全然思い通りにならねぇよぉ…」
「ククッ…俺をどうにかしようとするのは無理だろ。聖闘士の能力からしても俺とお前は違い過ぎる。俺から見たらお前も変な奴だぞ」
「エッチしたいとか思わねぇの?βでも性欲無いわけじゃねぇだろ…」
「今のお前を見るとちょっと怖いな…嫌ではなくて、少し触れただけでここまで敏感だと本番に耐えられないのではないかと心配になる」
 背中をさするように撫でただけでピクンと震える。デスマスクはそんな体を誤魔化すように身じろぎし、顔を反対に向き直し笑ってみせた。
「ハッ!黄金相手に何言ってんだ。そんなヤワじゃねぇよ…発情期で何日も発散し続けるってのを何年も繰り返してんだぞ…」
「知っているが、それでもお前を壊してしまいそうで怖い。βだからそう思うのかもな。それを打ち消して抱けるほどの性欲も含めてのαとΩなのだろう」
 そう思うとαとΩがお互いにフェロモンを持っているというのも納得する。媚薬、麻薬のように理性を飛ばす事ができるようになっているのだろう。傷付け合っても際限なく気付けない、気付かない。だから深く首筋を噛んでもお互い耐えられるのだ。
「お前になら壊されてもいいってくらい好きなんだから…遠慮すんなよ…」
「俺が良くない。大事にさせろ。玩具だろうと何だろうと好きなものは大事にするだろ。Ωの本能が良いようにされていいと望んでも俺はしてやらないからな」
「それは優しいようで逆に俺に対してのドSになっているのだぞ」
「知らん」

 Ωらしい言葉に、自分はαとは違うという気持ちが出て少し強く言い返してしまった。不貞腐れた顔のままデスマスクはそれ以上何も言わず、黙って瞼を閉じてしまう。しばらく抱き続けているとやがて寝息が聞こえてきたため汚れを拭い、抱き上げてベッドに戻した。シーツの上には以前シュラが渡した鍛錬着が置いてある。眺めていると眠っているデスマスクの手がゆるゆる這って、それを掴み抱き込んでいった。
――起きてるのか?…無意識…?――
 抱き込んで丸くなるデスマスクを見ていると期待に応えてやれない自分への悔しさが込み上げてくる。βの穏やかな愛情では満足させてやれない。ずっとデスマスクは我慢している。それでも…αになるのは怖いし、なれるわけでもない…。
 ベッド脇にしゃがみ、着ている上着を脱いでデスマスクの手元に置いてみる。しばらくするとそれも掴んでスルスルと抱き込んでいった。そして嬉しそうに微笑んでいるのだ。
「…デスマスク…」
 落ちていたバスタオルを掴み体に掛けて、髪を撫でる。
「…好きだ。ずっと、愛している…」
――ずっと…――
「デスマスクッ…」
――好きだ、好きなんだよ…離したくない!聖域に戻したくないっ…!――

 それでも逃げる事をせず正面から突破してやるという気持ちは黄金聖闘士の性か、βからくるαに対しての従順さと真面目さと挑戦心か。
――見せてやるからな、俺の気持ちを――

「愛している…」
 シュラはもう一度呟くと、軽く微笑んで部屋を出た。

ーつづくー

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