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そこはかとなく

そこはかとない記録
2022
11,13

«引き糸»

前のPCがいきなり壊れた時に救出したデータを探してUSBを漁ったところ、2013年8月18日のスパコミ大阪で配布したチラシの文が残ってました(゚∀゚)b
出したの覚えてたけど内容覚えてなくて、チラシも残ってないし…という状況だったので見つかってスッキリ。今と文の書き方が違って変な感じですね。10年前だしなぁ。

あとこのタイトル、本当はこの文章用じゃないと思う…。何か内容合ってないし、この頃考えてたネタに「婚活と言うか良縁求めてデスマスクがシュラ誘って日本各地の縁結び神社巡りをする」というのがあってそっち用のタイトルだったんじゃないかなぁ…で、オチは「縁結び神社の旅を繰り返すうちに2人が結ばれてしまった」というベタな感じのやつ(笑)
お守り買ったり、おみくじに一喜一憂したり、やけに丁寧にお参りするデスマスクを見てるうちにだんだん「こいつ可愛いな」と思えてきて最初は乗り気じゃなかったけど旅に誘われるのが待ち遠しくなるシュラ。ある日、都合がつかなくて断ったらデスマスクがアフロと出かけて何か悔しいシュラ。
デスマスクはデスマスクで、シュラって素っ気ないけど何で俺に付き合ってくれるんだろ、とか途中で急に思い始めて何か気になっていく。ずっと縁結びのお守りなんて興味無しで手にしなかったのに、ある日いきなりシュラも一緒に購入して「え?何で?その気になった?好きな奴でもできた?」と悶々し始める。何で俺こんなモヤモヤすんの?先を越されたくないから?
名物みたいだし、と縁結びのおしるこをシュラが注文して、半分お前にやるとか言われて、きっとこいつは何も考えてないんだろうけど何で俺に半分寄越したの…とか意識しちゃう蟹。

京都に行ってバス待ちしてる時にワーっと思いついた話ですが、とても長くなりそうで手が出せなかった(笑)いい感じに胸キュンラブになりそうなのにね…いつか描けるかな…?

というわけで、前置きがどえらい長くなりましたが…昔のスパコミ配布を残しておきます(゚∀゚)ノ

ーーーーーー

『引き糸』 シュラ×デスマスク

「俺たちもそろそろイイ歳だし、身を固める準備を始めてもいいと思うわけよ」

世俗とはかけ離れたギリシャの聖域にて、俺たちはひっそりと暮らしていた。世界の平和を守るため、アテナ神に仕える闘士として生まれ名も捨て、暮らしている。世界の平和を守るためにしていることのほとんどは人助けやボランティアなんかではなく、争いや暴動をいち早く鎮めるための殺戮にすぎないのだが。
アテナ神殿へと続く道を守るため、天上の黄道十二宮になぞらえられ守護を置く十二の宮。そこを守護するのはアテナ神に仕える闘士の中でも最高位に就く十二人の黄金聖闘士であった。

「で、具体的にどうするんだ?」

十二宮のうち第十宮にあたる磨羯宮の居住区にて、主である山羊座のシュラが俺の呟きに気のない返事を返してきた。歳が同じシュラとは、聖域に来た頃からの付き合いだ。特に気が合うわけではないものの、付き合いの長さや聖域での事件を共に乗り越えてきた仲であった。色々と気兼ねなく話せる数少ない相手の一人である。ここ最近は勅命も少なく、居間でテーブルを挟み、何をするでもなく二人で近状を話していた。

俺たちは神に仕え世界の平和を守る闘士である。自分たちの両親や一般世間に暮らす人々のように、誰かと恋愛をして支え合ったり伴侶を得て家庭を築くなどという生き方は、名を捨てたと同時に捨ててきた。俺も聖闘士なのだ。この宮の主と同じ黄金聖闘士、蟹座のデスマスクという名の。死ぬつもりなんてないが、いつ死ぬともわからない。身を固める準備などと呟いたところで果たされないこととはわかっていたのだが…少し前まで立て続けに下された勅命に、少し疲れが出てしまったのかもしれない。

シュラは疲れないのだろうか?…疲れないだろうな、疲れたとしてもそれを見せるような男ではない。彼が持つ秘儀、エクスカリバーのように鋭く研ぎ澄まされた空気を纏い、俺とそんなに変わらないはずなのに姿勢が良くてすらりと高い身長。俺より瞳なんか小さいはずなのに、切れ長で睫毛も豊富だから顔立ちがはっきりしている。そして黒髪が全体を引き締めていた。
あぁ…聖闘士なんかじゃなかったらどうせモテモテなんだろうなぁ。カッコいいなぁ…悔しいけど。
そんなことを考えながらずっと呆けていた俺に、シュラは怪訝な顔を向ける。

「おい…疲れているのか?」

あぁ、何で分かってしまうんだろうなぁ、この男は。

「…暇なら帰って寝たらどうだ」
「あ?…ああ、別に疲れてはいないが…」

思い出したかのようにテーブルに置いていたカップを手に取り口元に運んだ。残っていたコーヒーの残りを確認するため一瞬視線を落とした時、飲もうとしていた手が止まる。年齢のわりに不自然な白銀髪、色素が抜け落ちたかのような病的に白い肌、瞳はシュラよりか大きいはずなのに睫毛が少なく薄いせいで冴えない目元。何よりどうしてこうなったのか、赤い瞳。そんな俺の姿がカップの中で揺れていた。

生まれた時、俺の容姿はもっと違った。白金髪に健康的な肌、睫毛は元々少なかったかもしれないがキラリと銀の星色をした瞳が輝いていた。それらは黄金聖闘士の資格を得て聖域に入った間もない頃、鍛錬の途中に起きた事故により失われてしまったわけだが。こんな俺は聖闘士ではなくてもモテることはないだろう。容姿だけの話ではなく、自分の内面に対して色々と自信を失っているからだ。俺が誇れるのは黄金聖闘士に上り詰めることができた圧倒的な力だけなのだ。

打ち消すようにコーヒーを飲み込んだ。カップを再びテーブルに戻すと、ずっと俺を見ていたシュラと目が合う。

「あー…話の途中だったな…」
「お前が振ったくせにな。まぁ、よくあることだが」

少し沈んだ気持ちを正してシュラに向き合うと、いつもの口ぶりでお喋りを再開する。

「俺さ、こんな見た目だろ?ナンパとか努力してとかで伴侶見付けたりするのって結構無謀なことだと思うんだよ」
「見た目の問題なんて最初だけだろ。結局はお互いの努力でどうにかなると思うが」
「その最初のきっかけすら掴めなかったら何も始まらないだろうよ~!」

言いながらソファの背もたれに上体をドカッと預けた。同じようにシュラも伸びた背筋をソファの背に預け、沈み込む。

「…今更恋人が欲しくなってきたのか」

「…別に…」

切れ長でハッキリした視線が真っすぐ俺を定めている。

「そりゃぁ、本気で家庭持ちたいとか思ってねーよ…」

何もかも捨てて、ここにきた。この世に生まれて数年しか経っていないような子供だったが、何も知らず聖闘士になる道を選んだわけではない。生まれた家、家族、故郷、そして世間一般的なその先に見える未来、全てを捨てて未知の世界へと俺は進んだんだ。

「まぁ…なれるものならなってみるのも面白いんじゃないか?」
「ん?」
「家庭持ちの黄金聖闘士、第一号にでも」

ふ、とシュラは視線を外し軽く笑った。

「…なったところで何処に住むんだよ。十二宮は無理だろ」
「無理だな」

「じゃあやっぱり無理だ」
「一緒に住む必要があるのか?」

「お前なぁ…一緒に住まなかったら結婚する意味無いだろ!」
「フッ…そうか!」

それでは無理だな!と笑い合う。そうだ、俺は子孫を残したいという意味で伴侶を得たいわけではない。結局はそう…誰かに寄り添っていてほしいのだろう。

「寂しいのか?」

少し笑みを残した顔のシュラが再び俺を真っすぐ見ていた。

「寂しい?…の、かもな…」

斜め上に視線を泳がせながら自然とこぼれた言葉にシュラは少し沈黙した。どうしたんだ?とシュラに目をやると、シュラは沈めていた身体を起こして俺の膝に手を伸ばし、バシッと軽く叩いた。

「…お前…かなり疲れているだろう?やはり今日はもう宮に戻れ。そして寝ろ」
「何だよ帰れ帰れってー」

「素直すぎる。気持ち悪い」
「はあ?お前、気持ち悪いは無いだろ!」

俺も上体を起こすと、膝に乗るシュラの手をペッぺ!と引っぺがす。確かにあんなこと考えるくらいなのだから、疲れているのだろうけれども。

…そう、疲れている。

疲れているんだ。

確かに俺は自分の宮に帰って休みを取ればいい。
だけど、疲れているんだ…

ふ、とシュラと目が合う。

「疲れ過ぎて戻れないというのなら、そこで寝ろ」

いつもよりほんの少しだけ、柔らかい声が響いた。

返事の代わりに俺は再びソファへ沈み込む。シュラはそんな俺を見て軽く笑みを浮かべると、飲み干したカップを手に取り流し場へ片付けに行った。

軽く瞼を閉じる。意識しなくても感じるシュラの気配。

このまま俺が本当に眠ったとしても、シュラは俺を置いてどこかへ出かけるなんてこともなく、近くも無く、遠くも無く、その気配を俺の傍に残してくれるのだろう。お互い、この聖域に来た頃からの長い付き合いだ。言葉にしなくても通じてしまう何かが出来上がっていたりする。恥ずかしいことに。ああ、カッコいいのにもったいないな、こんな俺のために。

ふと、何か柔らかいものが俺にかけられた。瞼を開けて何されたか目の当たりにすると、俺だってそれこそ気持ち悪いから目撃しようとはしない。

この男の前で伴侶が欲しいだの話してしまう理由に、俺はずっと気付かないふりをし続けている。

ーおわりー

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