2022 |
10,29 |
何もしなくてもいいって言ったにもかかわらず、昼頃起きてリビングに行けばそれは豪勢な手料理が並んでいた。
「……半端ねぇ愛情……」
呟きながらソファに腰を下ろすと、エプロンも着けず久々に見る鍛錬着を濡らしたシュラが更に一皿持って来る。
「お前コレ朝から1人でやってんの?」
「もちろん」
「はぁ…良い旦那様になれるだろうに、もったいねぇな」
隣に座るかと思いきやまだ何かあるらしく、皿を置いてキッチンへ戻っていく。
「お前だからやる気が出るんだよ」
「……そうだな、お前の俺への愛情は狂ってる」
「いい加減、愛される事に慣れろ」
「なら、もっとサラーっと愛してくんねぇかな、わからないくらいに」
「わからないと不安になるくせに」
「あぁ…お前の溺愛って俺のせい?」
「それもある」
俺がこんな疑心暗鬼だから、こいつまでも不安にさせるんだろうな。
こいつは俺にわかりやすい愛情表現を連発するしかないんだ。
つくづく、ほんと、なんで俺なんかを好きになったんだろう…
…俺じゃなければ…
「おい」
「……なんだよ」
「俺はお前がいないと幸せになれない」
「……まだ何も言ってねぇよ」
「お前はすぐ変な事を考える」
「……そうとは限らねぇじゃん……」
「だいたいわかるんだよ、人生の半分以上お前と付き合ってきてるんだぞ」
「……」
特に返す言葉がなく黙っていると、洗い物を終えたシュラは汚れた鍛錬着を脱ぎ、椅子に掛けていたシャツへと着替えた。
気配を感じて自然と隣の席を空ける。
「フッ、俺もやればできるだろ」
「あぁ、こんだけできりゃぁ店持てるよ」
さすがに本を見て作ったんだろうが、緑の葉物添えてたり盛り付けまでお店の料理みたいでちょっと引く。
はぁ…一見不器用そうなのにやれば意外と何でもできる男なんだよなぁ…
シュラと付き合うまでは絶対に俺の方が器用で何でもできる男だと思っていた。
こいつの良いところなんて体力と健康って感じだったし、頭もそんなに良くないと思っていたが…
こいつの事を知れば知るほど、悔しいが思っていた以上に平均能力が高い。
ーできもしないのにデカい口を叩く奴が嫌いー
だったらお前はできるのかよと言い返しても、コイツなら出来てしまう実力がちゃんとある。
はぁ…その言葉通りならさ、お前何で俺なんかを…
「おい!」
「……なに」
じっと見つめていた料理からシュラへと視線を移そうとした時、俺の体がギュッと圧迫された。
「……」
馬鹿力かと思いきや心地良い力加減でいつも抱き締めてくる。
お前ほんと優しいよな。
「……お前が好きだよ」
「……うん」
「俺がやりたかっただけなんだ、無理に喜んでくれなくていいが…」
「不安にならないでほしい…」
最後の言葉はシュラにしては弱々しく響いた。
俺に押し付けたくない想いが、シュラの本音を霞ませる。
あぁ、本当に俺にはもったいない男だ。
愛されるほど不安になる自分が嫌になる。
こいつ俺様にぞっこんなんだぜ!って自慢げに言いふらしながら聖域を歩き回るくらいが「デスマスク」なんだろうに。
こいつの事が好きで、好きで、好きで…大切に隠しておきたい、なんて。
俺から離れないように、誰にも会わないように。
だって俺なんかより良い奴は世の中にいっぱいいるんだ。
いつかもっと良い奴に出会ってしまったら…
シュラが俺から離れるなんて、耐えられなくて、絶対に殺してしまう。
「好きだよ、デスマスク」
右手が頭に添えられて、そっと撫でられる。
気付いたのだろうか、少し震えてしまった事に。
「好きだから、大丈夫、俺は離れない」
耳元で告げられるシュラの一言一言が体の芯へ染み込んでいく。
あぁ、心地良い…
手放したくない、ずっと、このままで…
お前がいなくなったら、俺はもう生きていけない。
生きていく理由がない。
お前のためだけに復活してきたんだから。
シュラの背中を抱き返して、頬を擦り合わせる。
「なあ、俺さ」
「お前と同じくらいか、それ以上にお前のこと好きだから…」
シュラの腕に力がこもる。
「好きだから、ちゃんと…」
「……」
「だから…絶対に、離さないでくれっ…」
少し、声が震えてしまったが、シュラが強く俺を抱き込んだせいかもしれない。
「大丈夫、俺が死ぬ時はお前も殺すし、お前が死ぬ時は俺も死ぬ」
「……プ、なんだよそれ、物騒過ぎるぜ……」
「お前がいなくなったら俺はもう生きていけない、生きていく理由が無い、それくらいお前が大切なんだ」
「それ、わかる」
ふ、と顔を見合わせてから、キスを交わした。
この時のキスはまるで契約を交わしたような、少し特別なキスに感じた。
ーーー
恋人が大量に作った料理をダラダラ食べながら誕生日が過ぎていく。
「少し素直になって驚いたが、明日からまた元に戻るんだろうな」
「どうせ俺様は面倒くさい男ですよ」
「お前、俺がそんなにモテると思っているのか?」
「モテねぇの?」
「モテるぞ」
「チッ!」
「お前、俺が"出来もしないのに口にする奴が嫌い"って事知ってるだろ」
「有名なやつね」
「その俺がお前の事を"好き"で"絶対に離さない"って言ってるんだぞ」
「そっか」
「まぁ何を言ってもお前の不安は根深いんだろうが」
「すみません」
「面倒くさくてもお前を捨てるような事はしない。お前の不安は俺への愛情からきているものなんだしな」
「うん」
不意にシュラが俺にもたれかかってくる。
「そんなところも俺にとっては可愛いんだって」
「……お前だって参って不安になる事あるくせに」
「お互い様だ」
チュッと頬にキスをしてシュラは座り直した。
愛情が深すぎる故の苦悩。
恋人の手料理、これ何日分あるんだろうかと考えながら、特別な事を「俺は」何もしない誕生日が過ぎていく。
ーおわりー
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